お隣さんは幼馴染? ~俺と果南と時々ダイマリ~   作:グリーンやまこう

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作)さて、質問返信コーナーです! まず最初の質問はこちら

「ダイヤ姉さんの好きなものは何ですか?」

ダ)はぁ、本当にやるのですね……好きなものですか。そうですね、プリンとか抹茶味のお菓子とかはよく食べますわ。後、ルビィが大好きです。
作)真顔で最後のセリフを言えるダイヤ姉さん、マジぱないっす……。それじゃあ次の質問。μ’sの推しメンは?
ダ)KKE、エリーチカですわ!! クールでかっこよくて、しかも生徒会長で、可愛くて、凛々しくて――
作)はい、いただきました。
ダ)なぁっ!? ま、まだまだ全然いい足りませんわ!! エリーチカの魅力はあんなものでは――。
作)それじゃあ、第三話スタートです。
ダ)無視するんじゃありませーん!!

※分かったこと。ダイヤ姉さんにμ’sの話を振ってはいけない。


3話 ただの日常回(起承転結なんてありません)

 さて、俺にとってある意味悪夢でもあるようなぬいぐるみ事件から二週間ほどが経ち、今俺が何をしているのかというと、

 

「ふわぁーあ。ねみぃ……」

 

 大あくびを浮かべながら、退屈な授業を受けていた。

 

「おいおい、祥平。大あくびだなんて、昨日夜ふかしでもしたのか?」

 

 そんな俺を見て隣に座る友人、高橋順平(たかはしじゅんぺい)が笑いながらこちらを見てくる。親友というべきか、悪友というべきか……取り敢えず、大学初の友達だ。

 

 こいつとの出会いは、特に特別なものでも何でもない。

 俺が先週行われたオリエンテーションの教室で座っていたところ、やけにハイテンションで話しかけてきたのだ。しかも、気味の悪い笑顔で。

 この時点で犯罪者予備軍と言っても過言ではないだろう。しかし、心の優しい俺はあえて何も言わず、話に付き合ってあげたというわけだ。

 

 その結果、彼は極度のスクールアイドルオタクだということが判明。しかも、Aqoursの大ファンとまで来た。この学校に来たのもアクアの一員であった果南、ダイヤ姉さん、鞠莉がいるからと噂で聞いたかららしい。

 成績は全く足りなかったらしいのだが、気合で突破したと聞いた。愛のなせる技だろう。いやはや、愛の力ってすごい。

 

 そしてめでたく合格し、オリエンテーションを受けるために登校していたら、たまたまダイヤ姉さんと一緒に歩く俺を見かけ、こうして話しかけてきたというわけだった。

 

「いや、昨日の夜はダイヤ姉さんたちと遅くまで話してたから眠いんだよ」

 

「てめぇ、なに羨ましいこと言ってるんだよ!? 俺の推しがダイヤさんと知ってそんな事を言うのか!? というか、俺を呼べ!!」

 

 今みたいに自慢をすると大概、こうして情緒が不安定になる。取り敢えず面白い。

 最初こそ、ダイヤ姉さんたちを狙った不届きな輩かと思ったが、それは俺の思い違いだった。

 順平は面白くて、裏表がなくて、スクールアイドルが大好きで……そんでもってバカだ。そりゃもう、どうしてこの大学に受かったのだと思うほど。

 

 小テストをやれば毎回0点。ノートもあまりとらない。どの授業でも爆睡。これはもはや、確信犯だろう。

 しかし、これでも大切な友人の一人なのでごく稀に助けてあげていた。ただ、今のところ留年街道まっしぐらである。

 何度でも言おう。愛の力ってすごい。

 

 ちなみにこいつはダイヤ姉さん推しである。おかげでさっきの話を聞いていこう、目が血走っていた。

 

「お前、うるさい。今授業中。後、今後も俺のアパートにお前を呼ぶつもりはないから。お前みたいなのを呼ぶと、ダイヤ姉さんの貞操が危ない」

 

「ばばばば、バカ言え! 俺は確かにダイヤさんのファンだが、そ、そんな事はせん」

 

 だったらそのセリフを、しっかり目を見ていってほしいものだ。色々想像して顔が真っ赤になっている順平をニヤニヤと見つめる。

 

「そもそもだなぁ、お前がダイヤさんたちと幼馴染だって時点で、神様は不公平なんだよ」

 

「悪いな。だけど、俺だって最初から望んだわけじゃないし、人生ってのはそんなもんだ」

 

「畜生!! 神は、神は俺を見捨てたというのかぁああ!!」

 

「神にも見捨てられたし、髪にもそろそろ見捨てられるんじゃないのか?」

 

「髪の事は言うんじゃねぇ! 気にしてんだよ!!」

 

 まだ気にしなくて大丈夫だ、順平よ。あと5年は持つと思うから。

 

「二人ともうるさいですわよ? 今は授業中なのですから、もう少し静かにしてください」

 

「すすす、すみません。ダイヤさん」

 

 俺たちを叱責するダイヤ姉さんに、順平が顔を真っ青にしている。ほんとにファンなんだなぁ。改めて実感する。

 

「ダイヤ姉さんってほんと真面目ですね。ふわぁーあ……」

 

「また大あくび……」

 

 そう言いながら、もう一度大あくびを浮かべる俺。横でダイヤ姉さんが苦い顔をしているが、出てしまったものは仕方がない。

 ところでなぜダイヤ姉さんと一緒の授業を? と思った人がいるかもしれない。しかし、大学というものはそういうものなのだ。クソみたいな説明だが、これだけで理解してほしい。大学の友達がいる人は是非聞いていて見てくれ。

 あと、「ダイヤ姉さん、留年したんじゃね?」とか思った人。ダイヤ姉さんに踏まれてください。えっ? むしろご褒美です? どうしようもないじゃないか!

 

「いや、だってさ。あの人、さっきからクソつまんねぇんだもん」

 

 大学の授業は暇だ……と果南達から聞いていたのだが、これほど暇だとは。専門科目ならまだしも、教養科目なんてとる必要性が分からない。ほんと、卒業の為にとっているも同然である。

 ちなみに鞠莉は自分の好きな授業以外、全て寝てるらしい。なのに、成績は抜群。天才ってずるいな。

 

「そんな事を言うものではありませんわ! 仮にどんな授業でも、99%が必要ない知識かもしれません。しかし残りの1%が自分の為になる知識の場合だってあります。それを聞き逃さないよう、しっかり授業を受けないと!!」

 

 さすがダイヤ姉さん。こんな事、日本中の大学生をくまなく調査したって、誰も言えないだろう。まぁ、だからといって真似するわけないんだけど。

 

「ダイヤさん、流石です。尊敬します。憧れます!! これからは俺もダイヤさんを見習って授業を受けていきます」

 

 いやいや、お前は絶対無理だよ。今言ったセリフの直後に、寝ていてもおかしくないくらいだから。

 まぁ、彼の名誉のため、ここでは黙っておこう。

 

「ダイヤ姉さん、ちなみにこの授業はどのくらい為になるの?」

 

「うーん、2%ほどでしょうか?」

 

 要するに全く役に立たないらしい。ダイヤ姉さん、なかなか辛辣である。

 

「ほんと真面目だよ、ダイヤ姉さんは。それにしても……一つだけ聞いていい?」

 

「いいですけど、どうしたんですの?」

 

「ダイヤ姉さんって、友達いないの?」

 

「直球ですわね!?」「祥平てめぇ!! ダイヤさんを愚弄することは許さんぞ!!」

 

 大袈裟に驚くダイヤ姉さん。ほんと、今すぐにでもお笑い芸人に慣れそうだ。顔とかスタイルはモデルそのものだけど。

 あと、順平のキャラが分からない。というか、めんどくさい。

 

「と、友達くらいいますわ。……果南さんと鞠莉さんが」

 

「そんな事、分かってるよ。俺が聞いてるのは、大学での友達」

 

 俺の質問にダイヤ姉さんは冷や汗をダラダラと流す。うーん、本当に嘘が下手だなぁ。

 

「い、います。この授業をとっていないだけで」

 

「ダイヤ姉さん、俺の目を見て答えてください。お友達はいるんですか?」

 

 彼女の肩をガシッと掴み、視線を逸らせないようにする。そんな俺にダイヤ姉さんは涙目だ。

 

 おいおい、泣かないでくれよ。まるで俺がいじめてるみたいじゃん。……いや、実際にはいじめてるのか。

 

「……い、いません」

 

 肩を落とすダイヤ姉さん。もうちょっと強がるかなと思ったら、意外とあっさり折れてしまった。この人は、本当に年上なんだろうかとたまに疑問に思う。

 

「お前ェえええ! よくもダイヤさんを泣かせやがったな!! 今すぐ表に出ろ」

 

 俺の友達がめちゃくちゃうるさい。仕方がないので俺はある写真を取り出す。それを受け取った順平は、満足げな顔をして引き下がった。こいつも単純な奴だよ。

 ちなみに俺のあげたのは、ダイヤ姉さんが口一杯チョコを頬張ってモゴモゴしてる写真。

 あまりの可愛さに、俺を含めた三人がすぐにシャッターを切った。

 

「果南さんと鞠莉さんは、それなりにお友達がいらっしゃるんですけど……。私は、その……ごめんなさい」

 

「どうして謝るんですか? というか、泣かないで下さい、ダイヤ姉さん」

 

 俺はそっとハンカチを差し出す。それを受け取ったダイヤ姉さんは、静かに涙を拭った。哀愁が漂うぜ。まぁ、あの二人に比べてダイヤ姉さんはわりと人見知りするほうだからな。

 鞠莉は変だが明るいので友達は多いと予想できるし、果南は果南で人見知りしないから友達は多そうだ。あと、女子にモテそう。実際に女の子たちから良く声かけられてるし。俺が一緒に居ると、毎回睨まれるけど。

 たまに男子にも話しかけられている。それを見て瞬間、殺意を覚えたがダイヤ姉さんの説得により何とか立ち直った。ダイヤ姉さん、迷惑かけてごめんなさい。

 

「鞠莉さんや果南さんがいる時には話すのですけれど、自分一人だとどうも話せなくて」

 

 あー、何となく分かってしまう。友達の友達というのは、別に友達でも何でもないためすごく話しにくいのだ。

 特にその人と二人っきりになった時など最悪である。空気が重いのなんの。その為、ダイヤ姉さんの言っていることはよく分かる。

 

「私も話しかけようと努力したのですけれど……この有様ですわ」

 

 悲し気な笑みを浮かべるダイヤ姉さん。うーん、この顔はあんまり好きじゃないな。仕方がない、ちょっと恥ずかしいけど慰めてあげよう。

 

「まぁ、俺は今のままでもいいと思うけどね」

 

「……どういうことです?」「祥平、お前、ダイヤ姉さんがこのままボッチでもいいっていうのかよ!? 許さんぞ!!」

 

 俺の言葉にダイヤ姉さんが首をかしげる。そんでもって、順平さん。マジで黙っててください。今からいい話をしようと思ってるんで。

 

「そりゃ、友達が多いに越したことはないと思うけど、多いからってそんなに偉いものなのかな? 俺は偉いとは思えない」

 

「えっ?」 

 

「だってさ、そんなに多いと色々大変じゃん。もちろん、本当に好きならいいけど中にはきっと「こいつはちょっと……」って思うやつもいる。そうなった時大変だよ。空気を悪くしないために、上辺だけの付き合いで笑顔を見せなきゃいけないんだから。俺だったら、すごく面倒だって思う」

 

 友達は多い。しかし、その中で何人が胸を張って仲の良い友達だと言えるのか。多分だけど、そう言える人って実はかなり少ないと思う。

 

「……だから俺はたとえ友達が少なくても、お互い遠慮なく話せて、大切だと思える人が数人いるだけで十分な気がするんだよ。それならダイヤ姉さんにもいるでしょ? 大切だと思える人。だから心配いらないです」

 

 きっとダイヤ姉さんの頭には、二人の顔が浮かんでいるに違いない。欲を言えば、その中にもう一人だけ追加してほしいって気持ちがあるんだけど。まぁ、そのことはダイヤ姉さんのみ知るってところだ。

 

「そう、ですわね。私、友達が少ないからって悲観的になり過ぎていたのかもしれません。だけど、私には大切な人たちが……三人もいるんです。祥平の言う通り、何も心配する必要はなかったですわ」

 

 よかった。俺もダイヤ姉さんの大切な一人のうちに入れたらしい。

 いつも通り柔らかな笑みをダイヤ姉さんが浮かべる。うんうん、やっぱりダイヤ姉さんはこうじゃなきゃ。

 

「ありがとうございます、祥平。なんだか慰めてもらっちゃったみたいですわね。……こういうのは私ではなく、果南さんにやったほうが良かったのではないですか?」

 

「ダイヤ姉さん、あんたそれ本気で言ってます?」

 

 からかうような彼女に、俺は軽くデコピンをお見舞いする。

 

「い、痛いっ! な、なにするんですの!? パワハラですわよ!!」

 

 おでこの一部分を真っ赤にしたまま、ダイヤ姉さんが叫ぶ。なかなか間抜けな姿だ。どうでもいいけど、パワハラの使い方間違ってません?

 

「お前ェえええ!! ダイヤさんに傷がついたらどうしてくれるんだ!? 警察に突き出すぞ!!」

 

 順平は無視の方向で。

 

「変なことを言ったダイヤ姉さんが悪いんですよ」

 

「へ、変な事?」

 

「そう、変なことです。俺は周知のとおり果南が大好きですが、「お前ェえええ!! 果南さえまでも毒牙にかけようとしているのか!?」……話進まないから、ちょっとこれでも見といて」

 

 俺はスマホの秘蔵ファイル2【ダイヤ姉さん】を順平に見せる。それを見た順平は鼻血を吹き出していた。……別にエッチな写真は見せてないからね。

 

「仕切り直して、俺は果南が大好きですけど、だからといってダイヤ姉さんや鞠莉を見捨てる様なことはしません。だって、二人は大切な友達なんですから。というか、そんな事をすれば果南に叱られます」

 

 冗談じゃなく、本気で叱られるだろう。鉄拳制裁と称して、げんこつが飛んでくるはずだ。あれは本当に痛いので、是非とも回避したい。

 

「ダイヤ姉さんの事は女の子としてじゃないですけど、友達として大好きなんで困ってたら助ける。そんなの当たり前です」

 

 真面目な顔で、俺はダイヤ姉さんに思っていることを素直にぶつける。

 

「ふふっ、祥平って本当に優しくて、かっこいいですわね」

 

 優しい瞳に見つめられ、俺の鼓動が少しだけ早くなった。ダイヤ姉さん、これを天然でやってるから怖い。俺が普通の男だったら、とっくに惚れているところである。

 

「ダイヤ姉さん、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですよ」

 

「お世辞ではありませんよ。素直にそう思ったから言っただけです。祥平は本当にかっこよくて優しいですわ」

 

 はぁ、これだからこの人は……。ニッコリと微笑むダイヤ姉さんに、思わずため息が漏れる。

 変な男についていかないよう、俺がしっかり見張っておかないと。勘違いする人が続出してしまう。

 

「それじゃあ、褒め言葉として受け取っておきます。だけど、他の人、特に男の人にはそんな事を言わないで下さいね?」

 

「あらっ? 祥平ってば嫉妬ですの? 可愛いですわね!」

 

「……取り敢えず、それで納得してもらえればそれでいいです」

 自覚がないって怖い。まぁ、これがダイヤ姉さんのいいところでもあるんだけど。

 苦笑いを浮かべていると、そこまでダイヤ姉さんの写真を見つめていた順平が呑気に喋り出す。

 

「いやー、今の話といい、さっきの写真といい、お前やっぱりいいやつだな! 改めて惚れ直したぜ!」

 

「おまっ!? ば、バカ野郎」

 

 せっかくいい話で追われると思ったのに! この際、惚れ直したとかその言葉は聞こえなかったことにしよう。

 今はダイヤ姉さんを止めることに集中――。

 

「写真?」

 

 しかし、時すでに遅しというべきか。写真という言葉に反応を示すダイヤ姉さん。順平を咎めたのはまるで意味なかった。

 ダイヤ姉さんが順平を追求し、抗えるわけない順平が震えながら写真を提出。その写真を見たダイヤ姉さんはみるみる顔を真っ赤にし、

 

「祥平、それに順平! そこにならいなさーい!!」

 

 授業中の教室に、ダイヤ姉さんの怒声が響き渡ったのだった。この影響で、ダイヤ姉さんの友達作りがより大変になったのは言うまでもない。

 

「い、一応授業中なんだけどなぁ……」

 

 先生は泣いていた。俺が言える立場じゃないが、本当にごめんなさい。授業後謝ったら許してくれたので、本当に助かった。単位的な意味で。

 

 

● ○ ●

 

 

「ねぇ、二人とも。今からちょっとした遊びをしてみない?」

 

 大学生になって一か月ほどが経ち、学校にも慣れ始めた日の夜。

 俺たちはいつも通り、果南の部屋に集まって駄弁っている最中だった。ちなみにダイヤ姉さんは一時自室に戻っている。

 何やら明日提出のレポートがあるらしく、それを片付けてから来るらしい。そして、今元気よく何かを宣言したのは鞠莉。この人が関わるとろくなことが起こらないが、取り敢えず話を聞くだけ聞いてみよう。

 

「どしたの、鞠莉?」

 

「言ったでしょ? 遊びをするって!!」

 

「だから、その遊びが何なのかを聞いてるんです」

 

 この人ほんとに難しい。ダイヤ姉さんがどれほど分かりやすいか実感する。果南はこの二人の中間くらいかな。

 

「簡単に言えば、ダイヤをからかうの! ダイヤ、反応が大げさで面白いから!」

 

 どうやら遊びの標的はダイヤ姉さんらしい。ぶっちゃけ、遊びって言うから何かスポーツとか想像したんだけど。

 流石は鞠莉。いつも予想の斜め上を行く。迷惑この上ない。

 

「ダイヤをからかうって、いつもやってるじゃん……」

 

 果南が呆れたような視線を向ける。しかし、それだけで怯む鞠莉ではない。

 

「ノンノン! いつものじゃ生ぬるくて面白くもなんともありませーん!! もっとダイヤを追い込みつつ、こっちが全力で楽しめる様ないじりをしないと!」

 

 何と迷惑ないじりだろうか。ダイヤ姉さんが可哀想である。いつも散々からかわれて、これ以上からかわれたらダイヤ姉さんはストレスで寝込んでしまうはずだ。

 なので、今回ばかりは心を鬼にして断らないと。

 

「すいませんが、ちょっと今回はパスです。流石にダイヤ姉さんが「協力してくれたら、果南の秘蔵写真2を差し上げまーす!」……やりましょう!」

 

「前回と手口が全く一緒だよ!!」

 

 握手をする俺と鞠莉に、声を荒らげる果南。ギャグの再利用は良くないとかなんとか、果南がうるさい。

 しかし、人は時として欲望に忠実にならなければならないのだ。

 

「ごめんな果南。鞠莉の誘いを断るわけにはいかない。あの写真には、俺の全てがかかってるんだ。その秘蔵写真を手に入れる為なら、俺は修羅にも悪魔にもなる」

 

「最悪だよ! 祥平ってば、最悪の人間だよ!!」

 

「果南、祥平の言ってることは正しいんだから、その意見を尊重してあげないと」

 

「味方がいない!?」

 

 ツッコミ疲れたのか、果南がぜぇぜぇと荒い息を吐いている。

 果南は四人の中で唯一と言っていいほどまともだから、誰かがボケ始めるとツッコミ役にならざるを得ないのだ。

 ダイヤ姉さんもツッコミ役だけど、あの人は別次元である。本人に言うと「不本意ですわ!!」と言われるから、言わないけど。

 

「いい感じに果南も壊れたところで早速、作戦会議を始めるわよ!」

 

「何か無視されたんだけど!? というか、私は壊れてない!」

 

「そうだな。早く作戦会議をしないと、ダイヤ姉さんが帰ってきちゃうかもしれないし。ほらっ、果南も駄々こねてないで作戦会議、作戦会議!」

 

「……もういいや」

 

 果南の目が死んでいる。誰だ、果南にこんな顔をさせているのは!? いやまぁ、俺と鞠莉なんだけど。

 俺は多少気にしているつもりだけど、鞠莉は何も気にしている様子はない。ほんと、この人すごい神経してるな。

 

「それでね、ダイヤにやる事なんだけど」

 

 意気揚々と説明を始める鞠莉に、耳を傾ける俺たち。その内容とは――。

 

 

(・8・)

 

 

「ふぅ、やっとレポートが終わりましたわ。……あらっ? 鞠莉さんはどうしたのです?」

 

「宿題があるって、部屋に戻っていったよ」

 

「そうなんですか。全く、どうせレポート課題をやり忘れていたのでしょう。あれほどちゃんとやれと、口酸っぱく言っていたのに……」

 

 いつも通り、鞠莉の愚痴をもらすダイヤ姉さん。取り敢えず嘘を信じてくれて助かった。

 ちなみに、部屋に戻ったのは本当である。ただし、宿題をやりにではない。この部屋に仕掛けた監視カメラの映像を、部屋で見るためにである。そこから開始の指示を出すらしい。

 この際、どうして監視カメラを持っていたのかという野暮なツッコミはなしだ。とにかく、小原家が凄いということだけ覚えておいてください。

 

「まぁ、鞠莉の事だし宿題は問題ないでしょ? これまでもなんだかんだしっかり出してきたんだし」

 

「その出す過程までが問題なのですけど……」

 

「鞠莉ってそんなに適当なの?」

 

 俺の疑問にダイヤ姉山が再び噴火する。

 

「適当ですわ! 課題をギリギリまで溜めておいて、「手伝って♪」と泣きついてくるんですもの」

 

「それでいて、私たち二人より評価がいいんだもんね。ある意味、鞠莉は天才だから」

 

 苦笑いの果南に俺も「確かに……」と頷く。あの人、なにやらせても普通以上にこなしそうだからな。流石社長令嬢である。

 そもそも、泣きついていないような……。とそこで、

 

ピコンっ!

 

 俺のスマホに着信のメッセージが入った。差出人はもちろん鞠莉。メッセージの内容は「スタート♡」。

 俺は果南と視線を合わせ、静かに頷きあう。作戦開始だ。遊びの中身は終わった後教えます。まぁ、話を聞いてればすぐに分かると思うけど。

 

「鞠莉さんは天才なのですから、もっと普段から努力を続けるべきです。祥平もそう思うでしょう?」

 

「ダイヤ姉さんは可愛いなぁ」

 

「なぁっ!? ま、またそのようなことを口にして。というか、いきなりどうしたんです? ……果南さんに怒られますわよ?」

 

「それはないよ」

 

「へっ!? そ、そうですか……い、意外と冷静なんですね、果南さん」

 

「それはないよ」

 

「やっぱり冷静じゃないじゃないですか! 聞きましたか、祥平。果南さんは怒っているのですから、早く発言の撤回を――」

 

「ダイヤ姉さんは可愛いなぁ」

 

「話聞いてました!? あなたの軽率な発言で果南さんが怒ってるんですよ? 嫌われてしまいますわよ?」

 

「それはないよ」

 

「か、果南さん……そんなに強がらなくても大丈夫ですわ。言いたいことはきちんと言わない……」

 

「ダイヤ姉さんは可愛いなぁ」

 

「バカですか、祥平、あなたはバカなんですか!? せっかく果南さんが寛大な心を持ってくださっているというのに!! あなたは大バカ者です!!」

 

「それはないよ」

 

「な、なんと……果南さんの心の広さに涙が出そうですわ」

 

「それはないよ」

 

「裏切り!? まさかの裏切りですの!? 私、褒めたつもりだったのに……」

 

「ダイヤ姉さんは可愛いなぁ」

 

「ムキィいいいいいいい!! バカにしてるんですの!?」

 

「それはないよ」

 

「どうして果南さんが答えるんですの!? 私は今祥平と話をしているんです!」

 

「それはないよ」

 

「見てました!? 私たちこと見てました!? 今会話してたのはどう考えても私たちですよね!?」

 

「ダイヤ姉さんは可愛いなぁ」

 

「絶対、バカにしてますわよね!? もう怒りましたわ。激おこですわぁ!!」

 

「それはないよ」

 

「果南さん、あなた今日おかしいです! 今の私を見て怒っていないのなら、なんだっていうんです!?」

 

「ダイヤ姉さんは可愛いなぁ」

 

「どうして、いま、このタイミングで、そんな事を言えるんですの!! 祥平の神経、おかしいですわ!!」

 

「それはないよ」

 

「果南さん、どうしてこんな男をかばうんです!? 今おかしいのはどう考えても祥平でしょ!?」

 

「それはないよ」

 

「ダイヤ姉さんは可愛いなぁ」

 

「ぶっ、ぶっ、ぶーーーー!! ですわ!! 二人とも、そこに正座なさい!!」

 

 遂にダイヤ姉さんが噴火する。俺としてはかなり面白かったのでもう少し続けたいところだが、これ以上は流石にかわいそうだ。

 俺は素早くスマホを操作し、今頃自室で大笑いしてるであろう鞠莉に連絡をする。

 

「鞠莉~。ダイヤ姉さんが壊れたんでお終いにしましょう」

 

「分かったわ! それじゃあ、今から戻るね!」

 

 スマホを切ってから一分後、目に涙を浮かべた鞠莉が果南の部屋に帰ってきた。

 

「へっ!? ま、鞠莉さん、どうしたんですの? レポートは?」

 

「レポート? なにそれおいしいの?」

 

 不思議そうな顔でダイヤ姉さんを見つめる鞠莉。いや、レポートくらいは知っててください。ジョークだってわかるからいいけどさ。

 

「レポートなんてやってないわよ。それより、今祥平と果南。何か変じゃなかった?」

 

「た、確かに変ではありましたけど……それがどうかしたんですか?」

 

「あれねぇ~……全部私の指示なの!」

 

「はいっ!?」

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするダイヤ姉さん。面白かったので、取り敢えずカメラをパシャリ。

 

「果南には『それはないよ』って言葉だけを言ってもらって、祥平には『ダイヤ姉さんは可愛いなぁ』って言葉だけを言わせたら、ダイヤはどんな反応をするか。それを検証してたの!!」

 

 まるで悪戯を成功させた子供のような笑顔を、鞠莉が浮かべる。というか、遊びじゃなくて検証だったのね。

 

「……それで、検証の結果はどうだったんですの?」

 

「もっちろん、すごく面白かったよ! ダイヤって、ほんとシャイニーね!!」

 

 相変わらず、火に油を注ぐことに定評のある鞠莉。この人に火を触らせてはいけない。マンションがIHでよかった。あと、シャイニーって本当に便利。

 

「祥平、耳塞いでよっか?」

 

「そうだな」

 

 俺と果南はすべてを悟って耳を塞ぐ。下手すると鼓膜をやられるからな。飛んでくるのはさっきと同じくあのセリフだろう。そして耳を塞ぎ終えたところで、ダイヤ姉さんが顔をあげた。

 

「ぶっぶー!! ですわ!! 鞠莉さん、それと果南さんと祥平も、そこに正座なさい!!」

 

 鞠莉だけでいいはずなのに、なぜか俺たちまで巻き込まれる。まぁ、それも仕方がない。俺たちは仲良く三人でダイヤ姉さんのお説教を聞くはめになったのだった。

 

 

● ○ ●

 

 

 ダイヤ姉さんのお説教から数日が流れ、今はゴールデンウイークを目前に控えた週末となっていた。

 

「ねぇ~、ゴールデンウイーク。この四人でどこか遊びに行きましょうよ♪ それも泊まりで!」

 

 いつも通りまったりと果南の部屋でくつろいでいると、鞠莉が楽しそうに提案する。今回の提案はこの前と違って、わりとまともなものだ。ちょっと安心。

 

 ちなみに大学のゴールデンウイークというものは、高校と違ってある程度まとまった期間が休みとなる。

 ここを乗り越えると、大学生は土日以外ほぼ休みが無くなるので、束の間の長期休暇というわけだ。その期間、休むもよし、遊ぶもよし。とにかく自由である。

 補足しておくと、ゴールデンウイークを境に大学生の授業出席率がかなり落ちるとかなんとか。

 俺はダイヤ姉さんに怒られるだろうから、きっと足しげく大学には通うことになるんだけど。

 

「鞠莉さん、あなた宿題は終わったんですの?」

 

「そんなの帰ってきてからで大丈夫よ。むしろ、出さなくてもオッケー♪」

 

「何バカなことを言っているのです! 行くにしても行かないにしても、きっちりやってもらいますからね!」

 

 これも見慣れた光景になったな~。果南にもらったパピコを加えながら呑気にそう思う。

 それにしてもパピコを果南とシェアできるだなんて。夢が一つ叶ったな。おいっ、小さな夢だなとか笑うんじゃない。

 

「行くにしても、お金とか場所とかはどうするの?」

 

「確かにそうだよな。ゴールデンウイークってどこに行っても混むし、何よりしがない大学生には旅行に出かける様なお金なんてほとんどないぞ?」

 

 近場でも泊まりとなれば相当お金がかかる。そんなお金、大学生の俺たちの懐から簡単には出てこない。

 一応俺と果南はアルバイトをしてるけど、それもほとんど生活費やらに消えていってしまっている。だから、旅行に行くお金なんてどこにも――。

 

「お金と場所に関しては心配ナッシングよ! お父さんが「これ、貰ったけどいらないから上げる」っていった旅行のチケットがあるから!」

 

『……なんですと?』

 

 鞠莉以外の三人の声が重なる。この人、今なんて言った?

 

「行き先は京都。ホテルはよくわかんないけど多分いいところよ! 新幹線のチケットも入ってたから、旅行費用はほとんどかからないわ!」

 

 事態についていけない三人を放って、鞠莉が笑顔で話している。

 

「ちょ、ちょっと待って鞠莉! その話って本当なの? お父さんに無理やりとかじゃない?」

 

 我に返った果南が慌てた様子でツッコむも、鞠莉はニコニコと微笑むばかりだ。

 

「無理やりでも何でもありませーん! お父さんも本当は家族で行きたかったみたいだけど、予定がどうしても合わなくて。ただの紙切れになるくらいなら友達と行ってきなさいって言われたから、こうして誘ってるの」

 

 何というか、小原家はやっぱりすごい。スケールも次元も段違いだ。

 

「……それじゃあ、本当に行っても大丈夫ですの?」

 

「モチの、ロンよ!」

 

 ダイヤ姉さんの不安をウインクで一蹴する。いつ見て様になるウインクだ。俺が好きなどっかの誰かさんとは大違いである。

 以前、ウインクしてよとお願いしたら、それそれは下手くそなウインクが返ってきた。しかし、本人曰く「本番ではちゃんとできてるから!」らしい。

 嘘だぁと思って動画を確認したところ、ばっちり決まっていた。不思議である。

 

「ちなみに、日付は?」

 

「5月の2、3日よ! 果南と祥平はアルバイト休めるかしら?」

 

「俺は多分大丈夫だよ。休むことに関してはやけに寛大なバイトだし」

 

「私も二日くらいなら大丈夫。店長、優しいから」

 

「それは果南が可愛いからじゃ?」

 

 何気なく口から出た言葉に果南が少しだけ赤くなった。

 

「だ、だから、そういうことを軽く言わないでよ……」

 

「大丈夫。俺は何時だって本気だから! 可愛いよ、果南!」

 

ゴチンッ

 

「ぎゃああああああああ!! 頭が、頭が割れるぅうううう!!」

 

「自業自得だよ……ばか」

 

 脳天にものすごい衝撃が走り、俺は苦痛に悶える。今の衝撃はココナッツでも粉砕しそうなほどだ。

 全く、これじゃあ俺の頭にあるココナッツミルクが出てきてしまいそうだぜ。えっ? なにもうまくない? うるさいぞ!

 

「さて、いつもの夫婦漫才は済んだかしら?」

 

「夫婦じゃない!!」

 

「果南ってば、ベリーキュート!」「果南さん、可愛いですわ!」

 

「二人とも、バカにしてるでしょ!?」

 

 真っ赤な果南を二人がニヤニヤと見つめる。俺が原因だけど、旅行の話どこ行った?

 

 完全に拗ねる果南。床をのたうち回る俺。結局旅行の話がまとまったのは、それから二時間後だった。

 ゴールデンウイークは京都に行きます。




 タイトル通り何の変哲もない日常回です。そして、私の願いはただ一つ。どこでもいいんで一回でも笑っていただければ、それだけで十分です!
 あと、中盤に書いたダイヤ姉さんのいじりがありますが、もちろん元ネタがあります。恐らく知ってる人は「あぁ、あの作品か」と分かったはずです。とっても有名な作品ですからね。知らない人は色々調べてみて下さい!
 
 最後に、感想やお気に入り等ありがとうございます。これを励みに次回も頑張ります!

 すいません、最後と言いましたが一つだけ。

 果南、初のセンター曲おめでとう!!
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