ある人々の話をしよう 作:締切り3秒前
久しぶりに書いてみたので、どこか違和感があるかもしれません
――ある夫妻の話をしよう
2人は日本のある都市に住む老夫婦だった。
その土地の朝日を、海を気に入り、そこに移住してきた外国人だった。
移住する際、息子夫婦とは仲違いをし、彼らは故郷へと帰ってしまった。それ以来、孫の顔も見ていない。
年々、暗い雰囲気を纏っていく妻に、夫はどうしようかと、悩む日々だった。
――そんなある日、孫を名乗る少年がやってきた
最初は何の疑いもせず、久しぶりにやってきた――と思っていた――彼を歓待し、楽しく過ごした。彼の友人だという大柄な男も、孫も、とても気さくで明るく。2人だけ、穏やかでありながらもどこか陰のあった生活が一変した。
特に妻はそれが顕著に表れていた。影を背負っていた顔は徐々に輝きを取り戻し、甲斐甲斐しく孫たちの世話を焼く日々。夫はそれを、ほほえましく見守っていた。
――おや、と夫が思ったのはいつだっただろうか
いつの間にか、ふと当たり前の日常の中に感じた違和感。
仲違いしてしまった息子達の孫が、こんなに自分に優しくしてくれるのだろうか?
そもそも、どうやって息子達から自分たちの居住地を聞き出したのだろうか?
最初は些細な違和感だったが、それは日に日に大きくなっていく。彼は、本当に自分の孫なのだろうか。
――だが、そんな疑問を抱きながらも、夫は誰にも言わず、静かに彼らを見守っていた
本来なら、詐欺師だと、うそつきだと罵るべきなのかもしれない。だが、それはできなかった。彼らはそれを抜きにすれば、心優しい人間だとわかっていたからだ。
もし、だましてここに住み着くだけなら、付き合いはほどほどにし、最低限にしておけばいいだろう。こちらの言葉に一々耳を傾けず、ただ流していればいいだろう。優しすぎたから、夫は違和感を感じたのだ、そうしていればきっと、何もバレずに済んだに違いない。
――だが、彼はそれをしなかった
彼自身に、どんな目的があって、夫妻をだまし、この家に住み着いたかは分からない。だが、その言動、そして日に日に明るさを取り戻す妻を見て、悪意を持って騙していたとは到底思えなかったのだ。
――そして、夫はある1つの策に出る
それは、月がきれいな夜だった。
久しぶりに明け方に目が覚めた夫は、屋根に上り、遅くまで何かをしている孫――を名乗る少年を待っていた。
傍らにはコーヒーなどを入れたクーラーボックス。彼は来てくれるだろうか。
帰ってきた少年を誘い、屋根に上ってくれるよう促す。ぶつぶつと何かを言いながらも上ってきてくれる辺り、やはり彼は優しい人だ。
毛布とコーヒーを差し出し、夜空を眺める。そして、他愛のないように、昔話を少年に振った。
「明け方に目が覚めてみたらまだお前が帰っていないもんだから、久々に空でも眺めようと思ってな。お前が小さい頃は、何度もこうして一緒に星を眺めたなあ
――覚えとるか」
無論、それは嘘だ。息子夫婦が来てくれたこともなければ、孫がきてくれたことももちろんない。彼が本当の孫ならば、そこで「そんなことしたことないぞ」と返してくれるが――
「うん、まぁね」
返ってきたのは、肯定の返事。
――そうか、君は、孫ではなかったか
偽りの事実を確信し、それでもなお、夫の心は凪いでいた。
穏やかな気持ちのまま、少年に嘘を指摘する。その言葉に驚きながらも、少年は怒らないのか、と疑問を投げかける。
それに対し、夫はただ、微笑みを浮かべたまま穏やかに述べる。
確かに、ここは怒るべきなのだろう。だが、彼らがやってきてからは、妻はよく笑うようになった。そして、その言動から、悪さをしに来たとも思えない。寧ろ、これからも妻のために、騙してほしいくらいだ。
それは多分、妻にしてみたら、酷い提案なのかもしれない。いつか息子たちと和解したとき、彼が偽りの孫だと知ることになるのだから。その場しのぎのもの。それでも――夫にとって、そして多分、妻にとっても、彼は本当の孫同然の存在だったのだ。
夫の言葉に、少年は涙を流した。そして誓いを立てた。彼らを裏切らない、孫と呼び、愛してくれた2人に報いると。
――そして、少年の口から告げられる、大きな戦いの話
世の中、長生きしていても知らぬことが山ほどあるのだなと、夫は思う。
その戦いに、目の前の自分の半分にもならない齢の少年が挑んでいる。とても不思議なことだった。
それがどれほど、目の前の少年、そして友人だという男にとって大事か、それを夫が測ることはできない。だから、彼にできたのは、少年に告げることだけだった。
「人生長生きした後で振り返って見ればな、命と秤にかけられるほどの事柄なんて、結局のところ一つもありはせんもんじゃよ」
年を食った老人としてのアドバイスと。
「――そして、何時でも帰ってきなさい、わしらはお前さん等が無事に帰ってくるのを待っておる」
――帰る場所がここにあるという、宣言を
「あらあら、ウェイバーちゃん10年前とは大違いに様変わりしたわねぇ」
「どれどれ……なんと、これはすごいな!あの幼顔がここまで大人びるとは、年月と言うのは残酷なものだ……」
「もう、あなたってば。そういうことは言うものじゃないわよ……にしてもイケメンになったわねぇ」
「――惚れるなよ?」
「あら、孫の成長を喜ばなくて何がお祖母ちゃんよ」
「…………」
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