インフィニット・ストラトス ~鴉は再び羽を広げる~   作:外道野郎

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3話

 編入学当日。彼はいそいそと着替えていた。自身が通うIS学園の制服に。男として2人目の適合者として転入する彼だが、報道陣の前ではまだ発表されていない。これは織斑千冬初めとする教職員と校長による話し合いの結果によって決定されたのもである。理由は1つ。彼の存在である。本来ならば存在しない筈の彼だ。戸籍はある筈もない……しかし、この点は記憶喪失という点で補われており、千冬とレイヴンが話し合った格納庫と談話室の会話は監視カメラが無かった為に彼の秘密は誰も知らず、織斑千冬のみが秘密を知ってることになった。

 この為に戸籍が不明の記憶喪失の男。だが、しかしながら粗悪品ながら男ながらにしてISの適性があるというだけの男となった。怪しい男ではあるが男性適合者、しかも織斑千冬の押しもあった為に校長も入学を受け入れた。彼の突き付けたちょっとした条件も含めて。

 その為に、今、夏が終わりそうな9月の1日の朝に彼は着替えていたのだ。平和な1日、こんな普通の生活をした事もない彼にとっては新鮮味があり、悪くはなかった…のだが、不服な点は1つだけあった。

「制服ってこんなに白いものなのか…?」

 

 

 

 朝のHRの前の時間。1人目の男性適合者である織斑一夏は欠伸をしながら席に座っていた。

「夏休みボケが治ってないなぁ」

 そう言って彼はこれから始まる夏休み明けの学校を少し疎ましく思いながらHRを待っていた。そんな彼に近付く5人の少女達。人種が多彩、オマケに容姿も申し分ないという少女達。この5人のせいで織斑一夏が近寄りづらくなったという話もあったりするが、今は関係ないだろう。そんな少女達の1人、大和撫子のような容姿を持つ少女が真っ先に彼に注意した。

「まったく、たるんでいるぞ一夏。男なら男らしくしっかりとせんか!」

 そう言った少女は篠ノ之箒。織斑一夏のファースト幼なじみにして、IS開発者の篠ノ之束の妹である。

「いや、でもなぁ……みんなはどうなんだ?」

 その言葉に頭をかきながら苦笑をした彼は他の4人の少女に聴く。その少女達は直ぐにそれには返した。

「イギリスの淑女たる私は切り替えが出来なければならないと言われて育ってきたので問題ありませんわ。一夏さん」

 まずはトップバッターに来たのは胸を張ってドヤ顔をしている。縦ロールの入った長い金髪が特徴的なイギリスの貴族にして代表候補生のセシリア・オルコット。

「まあ、一夏のいう事はアタシも分かるんだけどね…もうちょっと夏休みは多くても良いぐらいよ」

 と一夏同様にダルそうにしているのはツインテールに小柄の体型が特徴的な一夏のセカンド幼馴染みの凰鈴音。リンと皆からは言われてる中国の代表候補生。

「でも、リンも一夏も夏休みは終わったんだからしっかりしなきゃダメだよ?…ボクも名残惜しいけど」

 そして、2人注意しながらも少しばかり寂しそうな顔をした少女はセミロングぐらいの金髪を持つフランスの代表候補生のシャルロット・デュノアである。

「だが、終わることを悔いても仕方ないぞ?一夏。終わった事は終わった事だ。切り替えなければならない」

 腕組みをしながら少し小柄な長い銀髪に眼帯をした少女、ドイツ軍人にしてドイツの代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 そんな5人に言われた青年。織斑一夏は降参だと言わんばかりの溜息をついた。その溜息を見ると他の5人のうちの1人がツッコミそこから雑談は広がる。そんな雑談を続けているとふとラウラの目に1つの席が目に止まった。窓際の1番後ろの席、夏休み前にはなかった席である。その席に目をやった後に隣のシャルに彼女は話しかけた。

「おい、あそこの席に席はあったか?」

「え?…あ、あの窓際の?」

「ああ、見覚えがない席なんだ。転校生の話などは…あったか?」

 覚えてる限りはそんな話はなかった。そもそもIS学園は特殊な学校だ。転入という形こそがかなりしにくい場所だし、まずは有り得ないとは思われるが。

「うーん…ないなぁ。まあ、HRの時にわかるんじゃないかな?」

 少し考えたが結局は後々にわかるのだ。待っていれば良い。そのように彼女は判断を下すとラウラも仕方ないと思いながらその答えに頷く。

 そんな2人を他所に4人は話しているとふと一夏は壁に立て掛けてある時計に目をやる。その時計の針が指してる時刻は8時半より少し前。HRがもうすぐに始まる時間であった。

「おっと、こんな時間か。リン、そろそろ2組に戻ったらどうだ?流石に千冬姉の出席簿の攻撃をまた受けたくないだろ?」

「え?あ、やっば!早く戻らないと、じゃあね一夏!またお昼に〜」

 一夏からの言葉を受けて彼女も時計を見ると直ぐに1組の教室を出て行き2組の教室に急いだ。流石にあの痛さは2度は経験したくないようである。

「じゃ、ボク達も席に戻ろうか。居眠りだけはダメだよ?一夏」

 彼女を見た残る女性4人は自分の席に戻って行く。もう直ぐHRということもあり少し名残惜しそうにしながらも席へと戻っていった。それぞれが己の席に座る。そんな彼女達は知らなかった。この後、思いもよらない事が起きようとは…。

 少し経つと担任の織斑一夏の姉にして世界最強の称号を勝ち取った女性である織斑千冬が入ってくる。1部の生徒達はこの織斑千冬を目的にIS学園に入った者達もいるという一種のカリスマを持つ担任教師。その教師と共に入ってきたのは堂々としている千冬とは裏腹に困ったような顔をした少し小柄で童顔のメガネが特徴的な副担任の山田摩耶だ。親しみやすく、頼りやすい教師として生徒達から好かれてる教師のうちの1人…なのだが、今は本当に困り果てた顔をしている。本来ならば千冬から小突かれるような状態ではあるが理由を知っている千冬は今回ばかりは見兼ねたのか、彼女が口を開き彼女が困った原因の元を発表する為にHRを始めた。

「おはよう諸君。夏休みで十二分に休めただろうな?まだ夏休みの雰囲気を残していないということを思って私はここにいる。

……さて、お前達のうちの数人はあの窓際の席が気になってると思うが」

 彼女が言うと生徒全員がその席を見る。気付いていた者達を除き、皆がそう言えば…という感じで見ていると生徒の内の1人が手を挙げながら千冬に質問する。

「あの席って何なんですか?」

 よく質問してくれたと言わんばかりに全員が千冬の方に注目すると千冬はその質問に答えを出す。

「あの席は今から来る転入生の席だ」

 その言葉に皆は驚愕する。また、このクラスかと。今度は誰が来るんだ?とどんな人なのかな?とクラス全体はざわめく。それを予想していたのか千冬は教卓を叩き注意をした後にドアの方を見て言った。

「おい、入ってきて良いぞ!」

 彼女のその言葉と共にクラス全員の視線がその扉の方に向く。そして、その扉が開かれるとクラス全員が驚愕する。転入生と言う事もあり覚悟をしていた筈なのだがそれでもクラス全員が言葉を失う程に。

 何故なら、その転入生が男だったからだ。制服の外から見てもしっかりと筋肉がついた肉体に、西洋人らしく少しほりの深い顔ではあるが容姿は良く、ハンサムな顔をしており、それとマッチしているカラスのように黒い髪、制服を少し緩く着ているのが妙に様になっている青年だ。妙な雰囲気を出しており、適当そうと第一印象は感じられる。

 そんな青年は皆からの視線はなんとも言わせぬマイペースさで教壇に立つとみんなの事を見ながら隣に来る自身の名前が書かれたホログラムを確認してから、口を開き自己紹介を始めた。

「本日付けでこのIS学園に転入したレイヴンだ。2週間程前に記憶喪失でさまよっていた時にISを起動してしまい、それがわかると直ぐにこの学園に…って奴だな。これからよろしく」

 その自己紹介を聞くと反応は3つ。1つは驚いで言葉を失った者、もう1つはただ、単純に嬉しい者、もう1つは…

「「「「お、男の転入生〜!?」」」」

 その両方の感情を持って声を上げてしまった者達である。

 そんな少女達を見るとレイヴンは少し笑う。こんな反応をしてもらえるのなんて前の世界ではなかったし、何より中年のオッサンだと言うのにこんなに若い女の子たちに囲まれるというのだ。普通に嬉しかったということである。

「まあ、聞きたいことがあるならこの後で頼むわ。長引かせ過ぎると織斑先生が怖いからな」

 その言葉に言われた本人は少し溜息を付きながら窓際の席を見て彼に言った。

「レイヴン。お前の席はあそこだ」

「はいよっと」

 それを確認した彼は皆からのざわざわとした声を耳にしながらも気にせずにその席にドガッと座り、千冬の方を見た。それを確認した千冬はざわめく教室に注意するようにもう一度、教卓を叩いてから言葉を出した。

「レイヴンの事は一切口外するなよ?奴は記憶喪失という事もあり、マスメディアにはあまり出したくもないし、出した瞬間にパニックに陥られる可能性もあるしな。一旦、様子を見てから…という事になる。わかったか?」

 彼を見る限りパニックになる事はあるのだろうかというツッコミはあれど千冬の言葉に全員が言葉を大にして返す。

「はい!」

 と

 そんな彼女らを見て、千冬はこの時だけはこのような奴等で良かったと少しばかり安堵しながらHRを続けた。連絡事項や今日用意する事を彼女は言っていたが目の前の少女達の前にはそんな事よりも窓際の男のことを気にしていた。いくら彼女に言われたとて、急に転入してきたハンサム顔の男となると少女達の興味も湧き上がるというわけであり、HRの間はずっとそわそわとしていた。無論、彼女も気付いてたが彼の事だから何とかするだろうと思い、気にせずにHRを進行していた。言う事を殆ど言い終えると千冬は麻耶を連れて教室を後にする。あと少し…あと少しと少女達は思いながら2人が教室の扉を閉めるのを待っていた。刹那的とも言えるその時間は興味津々の10代の少女達には長いとすら感じられる。

 …そして、時が来る。ようやく、ようやくである。扉が少し高い金属音をたてながら閉まると女子達は一斉に窓際に座る薄ら笑いをした青年を見た。女子達は我先にとレイヴンの元に集まり質問攻めが始まった。

「出身は?」

「彼女はいるの?」

「この後、食事しない?」

 等々と続け様に質問が来たが彼はそのハツラツとしたティーンの少女達を勇ましいとすら感じながら1つ1つ丁寧に質問を返す。焦る事はなく、ゆっくりと余裕を持ち。立ち振る舞いはまるで中年男性が質問攻めを食らってるようにも見えた。それがあまりにも似合い過ぎていた為に質問攻めの中に入っていない一夏と先程までに話していた少女達は不思議だと思いながら眺めていた。

「しっかし、ようやく2人目か。俺以外にも現れて助かったよ… 」

 眺めていた1人の一夏は遠目に見ながら安堵したような顔をしながら口に出していた。過去にもそんな事、シャルが性別を偽ってをして編入したのは覚えているがこちらは正真正銘の男だと思われる為に安堵しかない。

 そんな彼を見ていた性別を偽り、編入した張本人であるシャルは少し苦笑しながら窓際の集団に目をやりながら彼に話しかける。

「良かったね、一夏。これで少しはやりやすくなったんじゃないかな?」

「おう。今は質問攻めをくらってるが少し合間が出来たら話しかけたりしてみるさ」

 今はダメだと確信が持てるようなところに突っ込めるわけもなく、今は遠目に見ているという状態の彼等。

「だが一夏よ。少しは警戒はしておいて損はないぞ?お前は貴重な1人なのだ。もしかすればと言うことがあるのかもしれない」

「流石に警戒し過ぎじゃないかな…?ラウラ」

「そうですわよ?あんな気だるそうにしているお方がそんな風になる訳がありませんわ」

 箒も右に同じくという感じの顔でいるとラウラは少しばかり蟠りを残したような顔となりながらも頷く。

「…そうだと、良いんだが」

 何故かその蟠りは彼女の中からは消えない。雰囲気も視覚情報からもどう考えても少し年上じみたような雰囲気を持つ青年だ。だが、しかしながら私を含めてを見るというよりも、見定めるような目を向けているような…そんな感じがしたのだ。特に一夏ではなく、彼女自身に対してそんな感覚で見られていた。そのように感じられた彼女である。言うなれば軍人だからこそのものなのかもしれない。

 そんな感情になってる彼女はなんのそので他のメンバーはレイヴンがどういう奴なんだろうかと言いながら雑談が広がっており、ラウラもそれに入り会話を続けている。記憶喪失なんだから、なんで苗字もないんだろうなとかの会話が続き、質問する内容を決めていく。だが、レイヴンの周りは引く気配がなく、今回の休み時間では無理だと彼等は判断した。

 その判断は間違いではなく、今回の休み時間ではあの人混みの中は行けず、ようやく彼等が彼の元に行けるようになったのは4時間目の授業の前の時間であった。彼の元に行くと待ってましたと言わんばかりの顔でいる。あんなに質問攻めにされたというのに疲れた顔は1つも見せていない…わけなく、実際は疲れてはいるが彼がなんとか顔の表情を固めてるだけである。体は若いが精神はオッサン、いくら伝説の傭兵でもティーンの押しの強さには参ったの声が出る。

 そんな事はつゆ知らずに体力あるなぁと思いながら一夏は声をかけた。

「おはよう。俺は織斑 一夏。気軽に一夏って呼んでくれ。よろしくな!」

 彼は笑みを見せながら右手を出してそう名乗る。

「ああ、どうも。オレはレイヴンだ。…っと、そっちの3人は噂の代表候補生に、もう1人は今さっき話された篠ノ之束の妹…って、あんま好きじゃないようだな、悪い悪い」

 少しばかり顎をさすりながら4人の少女達をレイヴンは見ながら言う。その言葉に反応したのは真っ先にセシリアであった。余程嬉しかったのか胸を張って、嬉しそうな顔をしている。

「知ってもらえて光栄ですわ。このイギリス代表候補生の私の事を」

 実は調べていたなんて言ったら相手に警戒を与える事を知っている。そんな風に判断したレイヴンは咄嗟に嘘をつく。

「おうさ。さっきの奴らから聞いてな。なんでも肝っ玉が座ってる貴族っ娘、オマケになんだか可愛らしいと来たんだ。覚えなきゃ男としたら失格さ。まあ、上手く頑張れとしか俺にゃ言えんが」

 含みがあるかのように一夏を少し見た後にニヤニヤとしながら言う。バレていたかと彼女は思ったが正直にいえば傍から見ればバレバレだ。鈍感過ぎると言っても過言ではない彼でなければ直ぐに相手にもバレるほどに

「な、何を言ってますの!く、口が軽い殿方のようですわね!」

 貴族の態度はどこへやら。かなり動揺しながら彼女は真っ赤なトマトのように顔を真っ赤にして、彼に言った。そんな態度に目の前の男は笑うだけである。

「悪い悪い。まあまあ、若気の至り…というよりも若い時ぐらいしかこんな経験はないんだ。セシリアだけじゃあなくて、お前達も頑張った方が良いとオレは思うのだがねぇ」

 しみじみとしながら腕を組み、椅子にふんぞり返りながら他の3人の方にも目をやりながら言った。惚れられた張本人である一夏はなんの事だ?と疑問を浮かべてはいるがそれでも言われた本人達は動揺し始める。1人は顔を赤くして目を背け、1人はドヤ顔をしてそうだろうと言わんばかりの顔、1人は慌てふためく。

「ふっふっふ、分かってるではないか。一夏は私の嫁だ!」

「そ、それを言うなら夫じゃ…ないかな?」

「む、クラリッサの情報が間違ってるというのか…?」

 その会話を見ているレイヴンはなんとも面白そうに見ていたのは言うまでもない。

「まあ、なんだ。しっかし、ここまで無自覚だと怖いとしか思えんねぇ……まさか、姉ちゃんの事が頭から離れないパターンか?」

 と無自覚気味に彼は言うとその言葉に4人は反応する。そう、あれは夏休み前の林間学校。海に行った時に一夏は一番反応したのは姉である千冬であった事を思い出す。元教官であるのだからとラウラは反応はしないが残り3人は嫉妬に駆られる。

 絶対にある筈ないというのに。

 その後、レイヴンはそっちのけで話しは進み、休み時間は終わる。これが彼等のファーストコンタクトであった。

 

 

 1日は意外にも早いもので滞りなく授業は進み、学校が終わる。無論、遊ぼう等の誘いがありそうであるためにレイヴンはその持ち前の経験値を利用して、それらを掻い潜り直ぐに帰路へ入った。

「アレに捕まっちゃオッサン疲れるからねぇ…」

 そんな事を口にしながら寮へと帰ってゆく。今は部活動の時間の為に上手く逃げ仰せた形で、レイヴンはゆったりとイヤホンをつけながら歩いているが実際のところは警戒しかしていない。理由はたった一つ、気配があるからだ。敵からの気配ではないが見られてるという気配。それこそ戦場の気配よりかはマシではあるがこんなハイスクールにあって良い気配ではない。

「(取り敢えずは観察って形か。1人…だな。それなりに手馴れてるみたいだが)」

 寮の方から見られてるのはわかるが下手な動きを取れない彼はそのまま自室へ。最初から個室を用意されている彼はさっさとその部屋に戻れば流石に無くなると思ったのだ。

 だが

「なんで部屋の前に堂々といるのやら…」

 そこにいたのは自室の前に佇む扇子を持った1人の水色の髪をした少女であった。丁度良い肉質に制服の下にはそれなりに鍛えられた筋肉もあるだろう。誰もが見ても可愛らしい少女…なのだが、その少女の正体は彼は知っていた。

「(生徒会長の更識楯無か)」

 学園最強の称号を得てる彼女ではあるがハッキリといえば堂々としすぎなのだ。流石に彼も気が抜けた。そんなところで最強の称号を得ている彼女はつかつかと歩いてくると笑みを浮かべながら口を開く。

「意外と早かったねレイヴン君」

「いやー、流石にあの大軍を捌けるほどじゃないのよね…おっと、一応名乗っておこう。俺はレイヴンだ」

「レイヴン君…うん、ありがとう。じゃ、お姉さんも名乗っておかないとね。私は更識楯無。この学園の最強の名を保持している生徒会長よ。困ったことがあったらいつでもお姉さんを頼ってね!」

 それを見れば大半の男が可愛いと思うだけであった。しかし、それはよく出来た仮面。本性を上手く隠す為の仮面だ。そんなのは伝説のレイヴンと言われた彼ならば1発で見抜ける。だが、彼は

「おう、まっ立ち話もなんだ。コーヒーぐらいは奢ってやろうか?まっ、ドリップタイプだが」

 中に案内する。

「あら?少し関心しないけど、でもそんなに熱い目線をもらっちゃお姉さんも受けないといけないわね」

 もちろん、彼女はこれには乗っかった。確実に情報を得れるのだ。当たり前の行動だろう。

 二人はそのまま彼の部屋へと入る。殺風景な部屋でその部屋は必要最低限のものとコーヒーぐらいしかない部屋である。そんな部屋に案内した彼は約束通りにコーヒーを作り始めた。

「しっかしまあ、嬉しいもんさ。可愛らしいお嬢さんが俺とコーヒー飲んでくれるなんて」

「うふふっ、褒め言葉が上手いわね。冗談でもお姉さん嬉しいわよ」

「いやいや、作り言葉は苦手な方さ。可愛らしいお嬢さんと思うのは至極当たり前だと思うがね」

「それは嬉しい限りよ」

 と彼女はありがとうという文字が入った扇子を広げると、すぐに閉じて彼に向き始めた。

 彼女が今回レイヴンに近寄ったのは一つ、レイヴンの素性を知るためである。経歴はあれはせど、あそこまでの不確定情報揃い、しかも男性適合者となれば自分自身が出張るしかない。彼の心を読み、危険か危険じゃないかを判断する…というものであったが彼女は予想外にも未だ読めずにいる。

「(普通に年上らしさを持つ…いえ、それにしては落ち着きが凄いわ。それに彼を読む事が出来ない)」

 危険ならばその臭いはする。しかし、あれはそんな気配はない。しかし、落ち着きっぷりは高校生のそれではない。

「(危険じゃないと思うし、仮面を被ってないと思えるけど…この胸騒ぎは何かしら?…もう少し見るべきだったのかし「おーい、ミルクここに置いとくからなー」…え?あっ、ありがとレイヴン君」

 それ以上の思考はさせない為にわざとタイミングよくコーヒーを置いたレイヴンは楯無の前に座りコーヒーを飲み始めた。それに続いた彼女は同様を悟られないようにとミルクを少し入れた後に彼に続くようにとコーヒーを飲む。

 互いに腹を読み合い、互いに思惑を悟られないようにするこの席は素を出せば負けとなるものである。本来であればこれは楯無の勝利ではあるだろう。しかし相手が悪い。彼はそのぐらいは承知の上で自室にあげてる。しかもそういうのは彼も得意分野だ。ベテランらしさを見せつけてこの点は彼女には勝っている。

 だが、これでまずいのは楯無の方だ。直ぐに作戦を変えて揺さぶりをかけ始める。

「しかし、お姉さんを部屋にあげるなんて…もしかして、私の体に興味あるのかしら?」

 と妖艶な笑みを浮かべながら彼女は彼に言い寄る。

「おやおや、その気もないのに誘いなさんな。別に俺は良いがお前さんはここで花を散らしたくないだろう?」

 すると彼は言い寄った彼女の腰を抱き寄せて言う。その距離は少し顔を近付けばキスをするような距離だ。彼女もここまで攻めてくるとは思わなかったのか思わず少し顔を赤らめてしまう。何か言おうとしてもその予想外の行動のせいで言い出せないでいた。それを見た彼は思わず笑い出し、腰に回した手を引っ込める。

「冗談さ冗談。

だが、からかうのは良くないさ。お姉さん」

「…ッ…今回はお姉さんの負けかな。流石に獣になるのが早すぎだよ?」

「ははっ、すまんすまん。妖艶に来るのが悪いのさ」

「むー、お姉さんをからかうなんて少し意地悪じゃない?」

「俺は別に良いんだぜ?まあ、学園なんだ。ハレンチとやらは程々にな」

 そう言った彼はむくれた彼女の肩をポンポンと叩くと机に置いた携帯を取り出す。

「まあ、連絡先ぐらいは交換しないか?何か埋め合わせの一つはしてやるからよ」

「…じゃ、お礼期待しているわお姉さん」

「おう、期待しておきな」

「(…本当に何者なのかしらこの人……不思議な人…でも、悪い人じゃないと思うけど)」

 そんな事を思いながら目の前の男と彼女は連絡先を交換した。本当にどんな人なのかと考えながら楯無は悪くない気分で自分の携帯電話の中に登録されたレイヴンという名を見て少し笑みを浮かべながら彼がいれたコーヒーを再び飲み込む。

 

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