フェルグスが行く先々で女性を口説くように、マスターはカルデアの至る所でトラブルに巻き込まれている。
そんなマスターである少女と、フェルグス・マック・ロイの話。
恋愛表現もなければ性的表現もないので、それだけはご留意ください。
ケルトに名高き大英雄・フェルグス・マック・ロイが眼鏡でおさげの二〇代女性を口説こうとしていると、その姦しい声が聞こえた。
「ふふふ。とりあえずその手を放して頂きましょうか。私の旦那様はこれから私と優雅にお茶の時間を過ごすのです」
「痛い。右手が痛いよ、清姫。あと、私は女だから旦那様はちょっと」
「あらあら、そんな約束が。ですが、私のマスターは、この母と共に昼寝をするのです。確かに予定も大事ですが、親子の仲が最も尊いものですから、諦めてください」
「痛い。左手が痛いよ、頼光。鳴っちゃいけない音が出てるよ。あと、流石にこれからお昼寝はちょっとねー、って私は思う」
「……私は、とりあえず一緒にいれればそれで……」
「静謐ちゃんは優しいなー。でもなー。気づいてるか分からないけどじわじわ毒が漏れてるから、マスターとしてちょっと不安かなー」
バーサーカー・源頼光。
バーサーカー・清姫。
アサシン・静謐のハサン。
見目麗しい三騎のサーヴァントがマスターの取り合いで騒いでいる。カルデアの中では比較的頻繁に見られる光景なのだが、その頻度に反してかなり厄介な場面だ。
なにせそれぞれの殺傷能力が高い。
源頼光は怪物狩りのエキスパート。清姫は執念深く相手を追い、伝承においてはその身を龍にまで変える。静謐のハサンはただ触れるだけで相手を殺しうる毒の壺だ。
マスターがなんとか抑えているから死者は出ていないが、顔のないどこぞの狩人とか、巻きぞいになってよく死ぬ弟子だか弟弟子とかは、それなりに大変な目に合っている。
なんとも困る三人衆だが、彼女たちに割って入ることができるのは盾の少女くらいだ。それ以外の者では命の保証がない。マスターでさえ、心底困った表情で流されることしかできていない。
そうフェルグスが考えていると、向こうのほうから大きな盾を持った少女が走ってくる。その顔を見てマスターもほっと安心したような顔をした。
さて、気を取り直して口説き文句をつむごうと振り返ると、女性はいつの間にか姿を消していた。
がくりと彼は肩を落とした。
また別の日のこと。
ちょっとふっくらしているけれど笑顔が可憐なオペレート補助の女性スタッフにフェルグスが声をかけようとすると、甲高い金属音が鳴り響いた。
振り向くと、数騎の英霊が各々自分の獲物を打ち合わせて睨み合っている。
「施しの英雄よ、その名に恥じぬ施しを私は望むのだが」
「あいにくだが湖の騎士よ。いくら俺とて譲れぬものの一つや二つはある。その要求には応えられない」
「すまないが、もう向かい合ってしまった。俺は背を見せるわけにはいかない。引いてはもらえないだろうか」
「あいにくだが、ここで引くのは拙者としても少々受け入れがたいものがあるのだ。引いてくれぬというのなら、引かせるまでよ」
円卓最強と言われた湖の騎士・ランスロット。
聖人とも称される施しの英雄・カルナ。
格別に硬い肉体を持つ竜殺し・ジークフリート。
宝具と並ぶ秘剣を誇る和の侍・佐々木小次郎。
一騎当千の実力を誇る英霊たちが、武器を打ち合い、間合いを取り、様子を窺いあっている。下手をすればカルデアなど形も残らないような争いになるのは間違いない。
戦いを好むフェルグスもそれを見て高ぶるものを感じたが、しかし一体何用で彼らは争っているのか。
首を傾げていると、マスターの少女がやってきた。
「うわわ、ちょっと何してんの皆。カルデア壊す気?」
割って入るように現れた主人に対し、四騎は毒気を抜かれたように武器を下した。しかし、その身からは闘気と魔力が漏れ出している。
「何も言わなきゃわかんないんだけど」
腕を組んで睨むマスター。
気まずそうに視線を泳がせる彼らだったが、代表して答えたのはカルナだった。
「今度の遠征で誰がマスターと同行するか、決めようとしていた」
「えええ、なにそれ、そんなの決めようとしてたの?」
「各々が『自分が同行するのが一番いい』と申しまして……」
言い訳するようにランスロットも言う。
「はあ、まぁ、よく分かんないけど分かった」
そう言って頷き、
「全員連れてかない」
「なっ、マスター! それは、」
「こんな状態で誰か一人でも連れて行ったら顰蹙ものでしょ。連れて行けるわけないじゃん。アルトリアとかヴラドを連れてく」
抗議するように口を開いたジークフリートをマスターは冷たくあしらう。
「しかしマスターよ。我らは主の刃として役に立たぬ。どうか考え直してはくださらんか」
小次郎の言葉に、マスターはきゅっと唇を結ぶ。
他の英霊たちも口々に「主よ」「マスターよ」と声をかける。そんな言葉を苦しそうに聞いていた少女だっだが、最後に口にしたのは、
「全員反省が見えるまで待機」
という一言だった。
足早に去る主の後ろ姿を、英霊たちは口惜しそうに見送った。
「ふむぅ」
事の成り行きを静観していたフェルグスだったが、ふと前を見るとオペレート補助の女性はどこぞへと去った後だった。
フェルグスはなんとも言えないように頭を掻いた。
また別の日のこと。
「け、けけけ、結構ですぅぅぅ!」
そう言って去ってゆく女性スタッフをフェルグスは悲しそう顔で見送っていた。
「はあ」
とため息も漏れる。
連戦連敗。自らの時代ではそれなりにならしたはずのフェルグス。現代にはなかなか通用しないらしいことに、わずかばかりのショックを受けているようだった。
まぁ、落ち込んでも仕方ないと持ち直したところで、ふと声が聞こえた。何事かと思い見てみるとカルデアにある厨房で、マスターを囲って何やらしているらしい。
「マスター、最近ビタミンが不足しているのではないかね? やはりここは私に任せたほうが良いと思うのだが……」
「えぇー。エミヤのはちょっと遊びが無さすぎると思うけど。私に任せない? お姉さんがとびきり美味しいご飯を振舞ってあげるよ?」
「あらぁ、二人ともマスターの味覚に合うものを出さなきゃダメよ? 私に任せてくれたらご期待に沿えると思うわぁ」
「えと、選ばなきゃダメなんだよね……」
三騎の英霊に囲まれてマスターは困り顔だ。今日の三騎は比較的穏やかな三騎だが、だからこそ少女は困っているのだろう。
聖杯戦争の経験値も家事も抜群のエミヤ。高い姉属性と母性を誇るブーディカ。大人の女の色香漂うマタ・ハリ。
いずれも高い料理スキルを持つ彼らだが、今回はどうやら夕食を誰が担当するか決めているらしい。
「おや、我らがマスターは我々では満足できないのかな?」
「いや、そんなことはないけど……嫌な言い方をしますね」
「優柔不断なのは感心しないなぁ。君の為に頑張ろうと思ってるんだけど、信用、できない?」
「いやいやいや、そういうわけではないですよブーディカ姉! ただね、こう、選べって言われるとですね、困るというか、」
「マスターのことを想っているのに、悲しいわね……」
「いや、マタ・ハリさん、そんなガチめなリアクションはしなくてもいいじゃないですか」
いつだかに英霊たちを叱りつけていた者と同一人物とは思えないほど狼狽している。実にマスターらしいことではあるが、毅然としているときと防御に回った時の落差が激しい。
「なに、君が早々に選んでくれればいいだけの話だ。なぁ、マスター」
「そうそう、ねっ、マスター」
「そうよ、マスター。早くえ・ら・ん・で?」
「ううう、ううううううう」
三騎に迫られ、呻く少女。思い切り拳を握りしめ、俯いてしまった。さすがの三騎も様子が変だと思ったのか、催促もせず首をかしげている。反して、少女は声も出さずじっとしている。
と思っていたら、突如少女は立ち上がり、厨房から逃げ出した。
「ごめん!」
「マスター!」
三者からの静止の声も届かずマスターは厨房を後にする。
「おっとと」
必然的に入り口近くにいたフェルグスの横を駆け抜けた少女をフェルグスは止めもせず見送る。
振り返った先には困惑顔の三騎の姿だ。
「はあ」
ため息をついてフェルグスは頭を掻いた。
魔術王に唯一対抗できうる機関、カルデア。人理修復を始めた頃は職員のほうが多かったものだが、いまやその数的偏りは逆転している。だからというわけではないが、カルデアにいる唯一のマスターの周りには常に厄介な者たちが集まる。
カルデア。人理焼却。そして最後のマスターの適性。
いくつかの要因が重なり、カルデアには少々厄介な者も少なくない。
人類最後のマスターは、冷や汗を垂らしながら日々を過ごすことも多々ある。
そして、そんな彼女が逃げ込む場所はいつも必ずそこだった。
「ああ、疲れた……」
「ふむぅ。しかし、毎回毎回俺のところに来られても困るのだが」
そこは、ケルトに名高き性欲魔人・フェルグス・マック・ロイの私室だった。簡素な部屋で、ベッドだけやたらと手入れされている。その部屋で、フェルグスは渋い顔で自分のマスターを見ていた。
「もちろん、閨を共にしたいというのならばっ! やぶさかではないのだが……っ!」
「却下」
「なんとつれない……」
「椅子から立ったら一切の性欲を令呪で禁じると覚悟して」
「そこまでかっ!」
勢いよく立ち上がろうとする間もなく、マスターから釘を刺される。令呪の強制力を体感しているフェルグスは、この脅しに素直に従わざるを得ない。条件によっては時空すら歪める令呪の力だ。歴戦の勇士がそれを軽んずることはないだろう。
「しかし、それならば何故俺のところに来る。マシュ嬢のところもあるだろう」
「先輩としてマシュに頼りすぎるのはちょっと」
「その自制心はあるのか」
そこでフェルグスはまた一つ唸る。納得はできないようだが、それ以上何か言うこともないようだ。
「ふふっ」
それを見てマスターは再び笑う。
「何かおかしいか?」
「いや、フェルグスはそういうとこがいいんだよ。他の人じゃ、こうはいかないから」
「む? そうか?」
「そうそう。皆気遣ってくれるのは嬉しいんだけどね。気にされないってのも楽でいいんだ」
「そんなものか。あれだけ慕われるというなら、むしろ俺としては代わってほしいくらいだが」
「あはは。代わってあげるのはちょっと無理かな」
そう言うと少女はベッドから体を起こす。何か考えているように思案顔だ。
「まぁ、人類最後のマスターだからな」
フェルグスがそう言うと、マスターの顔が少し強張る。
「む、何か気分を害したか?」
「いや、別に。ただ、別にマスターだからってあそこまでしなくていいのにね」
先ほどのエミヤ達のことを思い返し、マスターの乾いた笑いに言葉を返す。
「あの三人か。尽くされるのは嫌なのか。もしも俺ならば、どんとこいだったぞ?」
もちろん、性的な意味でも。そんなフェルグスの声が聞こえたのか、マスターの少女は半ば呆れたような、半ば感心したような、なんとも言い難い表情で言った。
「異性でも同性でもっていうのはフェルグスぐらいじゃないとなかなか言えないよ」
「ジェンダーフリーというやつか。そこに線引きがあるなど堅苦しい話だな」
「私もそうだと思うけどさ」
「まぁ、情欲が湧くのならば人でなくとも俺は良いがな!」
「ちょっと自由過ぎる……」
マスターは布団を引き寄せ、体育座りの体勢でそこに顔を埋める。そうすると匂いがついてこちらの情欲に働きかけることになるのだが、とフェルグスは内心考える。
しかしフェルグスは言わない。言うと、結構初心なマスターが止めてしまうからだ。
注意を逸らすためにも、フェルグスは話しかける。
「何が嫌なのだ? 目の前に見目麗しい者がいる。それも好意を持って。文句の言いようなど皆無だろう」
「でも、だって、だって……」
「だって?」
フェルグスが聞いても、マスターはベッドの隅を見てばかりで答えない。それに対してフェルグスはただただ相手を見るばかりだ。
沈黙に耐えられなくなったマスターはチラチラとフェルグスを見る。その目がブレずに真っ直ぐ自分を見ているのを見て、マスターは言葉を零す。
「だって、あの人たちは私じゃなくても良かったんだと思うんだもん」
「いや、流石にそんなことはあるまい」
「そんなことあるよ」
フェルグスの言葉にマスターは納得しなかった。強い意志で、強い確信で、フェルグスの言葉を否定する。
「だって、人類最後のマスターなら、あの人たちは誰でも良かった。毒に耐える体や、主と呼べる存在や、先輩でさえあれば、そういうポジションさえあれば、誰でも良かったんだ」
ゆっくりと穏やかに、ヒステリックではない分、それは少女の幼さが見えるような、そんな独白だった。
「私じゃなくても、ここに立てる人間なら、誰でもきっとよかったんだよ。ならなんで、私はマスターじゃなきゃいけないの? 魔術なんてろくに知らない私よりも適性の高い人は実際一杯いたのに……」
事実、カルデアで冷凍保存されている四七名のマスターは、きっと彼女より期待されていた。優秀と称される人材もいたことだろう。最初の転移の時に、それは強く感じていた。
少女は最低でもあの瞬間、カルデアにとっての『一番』望まれた人材ではなかった。
一般枠で、期待されていたわけでもない、マスター適性がたまたまあった、普通の少女は、苦しそうに言葉を続ける。
「きっと私は皆にとって『一番』じゃないのに、そう振舞わなきゃいけないなんて、そんなの、嫌だ。『一番』の『代わり』にされるくらいなら、選ばれないほうがずっといい」
「いやぁ、その理屈でいくと、俺もあまり人のことは言えんのだが……」
「そう? フェルグスは『誰でもいい』んじゃなくて『誰しもがいい』んだと思うよ。別に特別扱いじゃなくても、誰かの代わりになるくらいなら、そっちのほうがよっぽどいい」
そう言う少女の笑顔は、ひどく歪んでいた。誰かに認められたくて、認められたとしてもそれを素直に信じられない。それに対する諦念と、だからこその渇望が少女の笑顔の中にはあった。
それは、悲しい話だったのだろう。
少女の願いは半ばやけくそで、自分を軽んじている。その少女の独白を見て、他の英霊たちなら温かい言葉をかけることができたかもしれない。自らの主を一番だと言うことができたかもしれない。
しかし、少女の前にいるのはフェルグスだ。そんなことを言っても寒々しい。信用されない。それがかの英霊にはよく分かり、だからこそ少女はフェルグスに漏らしたのだ。
助けてもらえないから、安心して助けを求められる。
それは、悲しい話だったのだろう。
「やれやれ」
ただし、少女にとっては。
「……なんで今立ったの?」
少女の鋭い眼光がフェルグスを射抜く。フェルグスは先ほどまで座っていた椅子から立ち上がり、ただ少女を見やっていた。
そして、少女のほうへ歩みを進める。
「え、来ないでよ……ちょっと、そのまま来るなら令呪を使うよ。いいの?」
少女の脅しに、しかしフェルグスは動じない。ゆっくりと一歩一歩少女に向かって近づいてゆく。
「止まってよ。近寄らないで。それ以上、近づかないでったら!」
寄るフェルグスに、後退する少女。少女の必死な叫びに、フェルグスはしかし、少しも止まらない。
フェルグスが一歩歩みを進めるたびに、少女の顔は恐怖に歪む。そして、フェルグスがベッドに足を置いた瞬間、少女の限界はきた。
「う、うううう。あああああ、もうっ! 三画の令呪を以て命じる! フェルグス、性欲を抱くことを禁止する!」
少女の言葉に呼応するように彼女の右手が、そこに宿る令呪が赤く赤く輝いた。そして、膨大な魔力を放つそれはフェルグスの中に確かな枷を作った。
精神を縛る、強い強い戒め。
それを感じるのか、しばし自分の体を見ていたフェルグスだったが、やがてマスターに近寄り始めた。
「なんで、なんで止まんないの。ちょっと、ねぇ、止まってよ!」
止まると思っていた少女はフェルグスの前進に驚く。令呪は使ってしまった。もう目の前の猛威に対抗する術はない。その事実に、恐怖に、少女は青ざめる。
「来ないでっ!」
そしてフェルグスはゆっくりと手を伸ばし、
「ひっ!」
少女の頭を撫でた。
しばし、少女はされるがままに頭を撫でられた。対する勇士は渋い表情のまま、ただ少女の頭を撫でる。
「なんで?」
つぶやいた少女の言葉に、フェルグスは頬を掻き、照れ臭そうに、
「んー、まぁ、あれだな。俺にも性欲以外のものがあるということだろうよ」
「……どういう意味? まさか、フェルグスもなの?」
少女の剣呑とした空気はともすれば刃のよう鋭さで、ともすれば割れる寸前の風船のような危うさだった。
少女の問いは、憐憫故の、同情からの慈愛なのかと、そういうものだ。
だからこそ、否とフェルグスは首を横に振る。
「あのなぁ。俺はこれでもアルスターに名高いフェルグス・マック・ロイだぞ?」
「うん、それが?」
「英霊が人を救って何が悪い」
その言葉に少女の目が見開かれる。
言葉を継げない少女の代わりに、かの勇士は話を続ける。
「俺は相手がいかな女であろうと、滾る女を前にすれば止まらん。そして、いくらお前が人類最後のマスターであろうが、俺からすればただの可愛らしい少女の一人だ」
そこでフェルグス・マック・ロイは少女の手を確かに握る。
「俺は俺の欲のままに振る舞う。それが俺の流儀だ」
普段は開かれない目をしっかりと見開き、少女の目を真っすぐ見て、フェルグスは言う。少女はそれに反射的に抗う。
「助けてなんて言った?」
「はっはっは。俺はマスター曰く自由すぎる男だからなっ! 俺が助けたい人間を助けるのだ。それでお近づきになれば儲けものというものよ!」
フェルグスの言葉にマスターである少女は言葉を失う。何かを言おうと口を開き、思い直したのか口をつぐむ。それを数度繰り返す。
フェルグスはマスターの少女が何か言うまで何も言わなかった。
「もし、私以外の優秀なマスターが現れたら?」
やっと漏らした一言はひどく弱弱しいものだった。
「どちらともお近づきになるチャンスではないか。できれば、マスターくらい麗しければ有難いな」
「もし、私がマスター辞めたいって言ったら?」
「大チャンスではないか。もう令呪で止められることはなくなるのだろう?」
「ちょっと節操無さ過ぎるよ……」
呆れたように言う少女はしかし、笑っていた。
そうなのだ。フェルグスにとって大事なのは、マスターかどうかではないのだ。自分が気に入るか否か。もちろん後進の者の未来が閉ざされたというのだから力を貸すのはやぶさかではないが、相手を気に入るか、尊重するかは別の話だ。
故に、少女がマスターになろうとなるまいと、フェルグスが少女の関心を失うということはない。
もちろん、良くも悪くも。
「ふむ。まぁ、そうだな。マスターでいるのが、俺からの自衛という意味では『一番』安全かもしれん。俺が耐えられなくなって襲うということを危惧するならな」
「あはは、そうだね。フェルグスに襲われないなら、マスターって思ったよりも良いものなのかもしれないね」
フェルグスが冗談めかしてそう言うと、マスターである少女は笑った。その笑顔を見てフェルグスも意図せず笑顔になる。
その時だった。
「先輩、大丈夫ですか!」
そう言って盾の少女がフェルグスの部屋に乱入してきた。
マスターと本契約しているマシュは、多少なりともマスターのことを窺い知ることができる。まして令呪など使えば、仮契約の者でもそれをある程度察知できるだろう。カルデアの中にあっても、というかカルデアの中だからこそ時に危険に巻き込まれるマスターの異常に対して、マシュは適切な対応を取ったといえるだろう。
しかし、状況が状況である。
マスターの少女とフェルグスは体勢をそのままにマシュのほうを見る。
マシュのほうもただ茫然とフェルグスと自らの先輩の姿を見る。
フェルグスの部屋のベッドで、マスターの少女の手を握るフェルグス。泣いている、己が主。
マシュの状況判断は早かった。
「殺します」
「待て待て待て! 落ち着け、マシュ嬢!」
「この状況を見て、何か言い逃れできるとでも?」
「いや、まぁ、気持ちはわからんでもないが……うおおおお!」
マシュの振るう巨大な盾をなんとか避けるフェルグス。それに更に怒ったようにフェルグスを追い回すマシュ。
そんな光景を見て、人類最後のマスターは少女らしい笑みで笑うのだった。
ちなみに。
誤解を解いたフェルグスだったが、マスターの匂いがついた布団は良くないというマシュの判断によって新品の布団を与えられ、少し落ち込んでいたらしい。
ごくごく個人的な主張としては、フェルグス・マック・ロイはカッコいいんですよ。
しかし、理解も共感も全然されない。
何故だ。
ってところから書きました。
ちょっとでもフェルグスが魅力的に思っていただけたなら、幸いです。