オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ヒトミが目を覚ますと、無機質な岩壁に囲まれている空間に自分が倒れている事に気付く。
「これが……ウルトラホールの中か?」
周りを見渡し、ウツロイドの存在を探す。どうやら、ゲームでルザミーネが向かったウルトラホールと違う場所のようだ。岩壁の端々に小さな植物が生えている事が分かるが、それ以外に目新しいものはない。ところどころにある鉱石が光を放っている事で、歩く事については特に問題なさそうだ。
「ヒメ、ラフィ、ヨワシ、頼む」
手持ちのポケモン全て出す。ポケモンの姿で現れ、ラフィが手慣れた様子で擬人化の技をかける。
「……草木を感じはしはりますが、異様でありんす」
「そうだね……ちょっと怖い感じ」
「初めてくる感じです? ちょっと寒気を感じるです?」
あまりポケモン達は良くない印象を持っているらしい。その辺りはヒトミよりも敏感だろう。ヒトミは岸壁と植物を少量採取して、小瓶に詰める。
「これから、探索するんだけど……充分に気を付けて進むぞ」
周囲を警戒しながら進む、幸いにも一本道ではないので、特に問題なく進む事が出来る。
「何もないでありんすね」
「……マスター、大丈夫でしょうか」
とりあえずで飛びこんでみたものの、ここまで何もなければ、なにも起きない事に不安を覚える。時計は機能しているので、此処に来てから30分程度歩いた事は分かる。だが、同じ景色ばかり何も発見はない。ちなみに電話も試してみたが、反応はない。当然の様に圏外になっている。
「帰る方法はあるです?」
「やっべぇ」
ウルトラホールから出る方法がないことに今さら気付く。ゲームであれば、ルナアーラかソルガレオがウルトラホールを開く能力があるが、ヒトミ達に開ける手段はない。手探りで探していく事になる。
「はぁ、ここで生き倒れは勘弁でありんす」
ヒメが思いっきり溜め息をつく。
「無計画で悪かったな」
「ま、マスター! 何か来ます!」
ひらり、ひらりと紙が空を舞う様にそれが現れた。
「……カミツルギ」
UB No.04 SLASH
それはひらりひらりと揺れていて、ヒトミ達を認識しているかどうかすら、定かではない。ただ、ヒメは短刀を取り出し、ラフィも構える。
「ヨワシ、群れは呼べるか?」
「……ここでは呼べないみたいです?」
実質戦力はヒメだけになりそうだ。草・鋼の混合タイプなので、ラフィの技構成ではきのこのほうしも、効かない。ニードルガードはまだ使えるかもしれないが、あとはへんしんぐらいか。カミツルギにへんしんしたところで有効打が増える訳ではなさそうだが。
「わっちも……有効打はなさそうでありんすね」
頼みのソーラーブレードも4分の1じゃあ期待薄だ。どくづきは無効だし、あとはしっぺがえしぐらいだ。とはいえ、カミツルギはBが高いタイプだ。半減とはいえヨワシが闘えれば特殊で押せるかもしれなかったが、群れの姿にフォルムチェンジが出来ないのであれば、種族値が足りない。
「……敵じゃなかったら、助かるんだけどな」
今のところ、ひらりひらりと舞っているだけだ。特に攻撃する意思も敵意も感じはしないが、下手に刺激するのは逆効果かもしれない。
「逃げる準備は皆しておけよ、倒すのはちょっと厳しそうだ」
捕獲用のボールもなく、ウルトラボールなしでは捕獲確率が低すぎる。何もかも準備不足だった、迂闊と言うほかない。
「来るでありんす!」
それはまさに風の様なスピードで此方に突っ込んでくる。
ノーマルタイプ いあいぎり
草タイプ リーフブレード
それは目に止まるスピードではなく、火花と残像だけが虚空に残る。
「ヒメ!」
ヒメの和服が一部切り裂かれている。打ち合いで合わせたはずなのだが、スピードが違いすぎる。
「一発落とせなかっただけでありんす、物理ならそう簡単には……落ちないでありんすよ」
強がりはするが、ダメージはそこまで浅くはない。何より、ヒトミには捉えられない速度で少なくともカミツルギは二発以上打ち出しているのだ。
「ヒメは、見えたか?」
「いあいぎりなら軌道は読めるでありんす。まぁ……二発目は見えなかったでありんすが」
一撃目の交錯で、カミツルギにもダメージはあるはず、なのだろうが、その手に当たる部分の刃には、欠けた跡すら見えない。
「……引くぞ。不利すぎる」
せめて、デンジュモクなら闘えたかもしれないのに、なんでこんなに相性の悪い相手が出てくるのか、自分の運の無さに愚痴をこぼすがヒトミはそれでも諦めてはいない。
「殿はわっちが、するでありんす……」
「先頭はラフィだ、ヨワシは……ボールに戻ってくれ」
「……わかったです、どうかご無事でです?」
ヨワシがボールに収まり、カミツルギは変わらずゆらりゆらりと揺れている。
「……いくぞ!」
カミツルギと反対方向、今まで来た道を逆走する。それにどう反応するかは分からなかったが、全速力で駆け抜ける。足の遅いヒメはカミツルギを警戒しながら、ラフィは前方の安全を確認しながら、少しずつ距離が離れていく。どうやら、積極的に攻撃をしてはこないのかもしれない。縄張りの様なものがあるのだろうか。
「ラフィ、あぶないでありんす!」
一瞬の油断が、命取りになる。ヒトミたちのスピードなどあざ笑うかのような速度で一番前のラフィの後ろに追いつく。どうやらカミツルギは一番早い相手を目標にしたらしい。
「……えっ」
ノーマルタイプ いあいぎり
目にもとまらぬスピードで、横一線の軌跡がはしる。その刃はするどく、肉を裂き、骨まで達する。
「離れるでありんす!」
ヒメが全力のソーラーブレードを横薙ぎに放つ。一応当たりはしたものの大したダメージもなく、ひらひらと元いた方向へ飛んでいってしまった。
「マスター、マスター! しっかりしてください、しっかり……マスター!」
カミツルギのいあいぎりは、咄嗟に反応したヒトミの背中を切り裂いていた。ラフィをかばう様に、その一撃を受けた背中は、一部白い骨が見え、横一線にばっくりと開いてしまっている。血がとめどなく流れ、一刻の猶予もないことは明らかだ、顔色は青ざめ、最早時間の問題だろう。
「……主」
ラフィは苦虫を噛み潰した顔をする。殿を務めておきながらこの体たらくだ。悔やんでも悔やみきれないのだろう。
「嫌です、マスター! どうして、どうして……」
錯乱するラフィとは裏腹に、ヒトミは冷静に頭が回っている事を意識する。これ以上の出血は命に関わる、止血をしなければ出血多量でじきに心臓も止まるだろう。
「ヒメ、傷口を焼けるか?」
「ラフィ、布を主の口に挟むでありんす。舌を噛み切らないように」
ヒメの短刀の片方が光り輝き始める。熱量が高まり、周囲が歪む程高温になる。
「……ヒメちゃん、本気なの?」
「一秒でも惜しいでありんす、早く」
普段はのほほんと、柔らかく安穏とした声色が、今は冷酷そのもので、ひんやりと寒気すら覚える程である。
「ラフィ、気絶したら……叩いて起こしてくれ。意識を失ったら、まずい」
「……はい、マスター」
当然だがヒトミは背中を切られた事も、傷口を焼くのも初めてだ。あくまで止血の知識だが、確証なんてない、もしかしたら、死なずに済むかもしれない、と言う程度だ。
「躊躇う時間もないでありんす、御覚悟を」
「う……ぐぅあああああああああ」
絶叫が響き渡る。ジュウと皮膚を焼く音と悲鳴が轟き、幾度も気を失いかける。その度にラフィの掛け声で、意識を繋ぎとめる。それは、地獄の責苦の様に、時間にして数十秒。体感としては、何時間にも感じた。皮膚を焼く痛みと、切り裂かれた痛みで頭がおかしくなりそうだ。ただひたすらに脳が警鐘を鳴らす、痛みで目玉が飛び出して、頭がい骨が破裂したのではないかと勘違いする程、思考をようやく取り戻した頃には、傷口を塞いで数分経ってからだった。
「とりあえず、出血は止めたでありんす。ただ、傷を治した訳ではないし、出血量も酷い……いつまで持つかは、分からないでありんす」
「マスター、マスター! 死なないで、しなな……いで」
ぼろぼろとラフィが涙を流す。幾つもの大粒の涙が、落ちる度に彼女達を悲しませている事が耐えられないと、なんとか体を起き上がらせようとする。ヒメも今冷静でいるのは、恐らく天邪鬼な気質の所為だろう。はらわたが煮えくりかえっている時ほど、冷静に物事をクリアに見れるようになる。
「あ……うぐぅ。これはちょっと、不味いかな」
痛みは相変わらず引きはしないし、動こうとする度に、激痛が走る。背中は熱を持ち、いつ意識が飛んでもおかしくない。
「……下半身の感覚がねぇ」
そして足が全く動かない。おそらく居合切りが脊髄を掠ったのだろう。こんな時に体が動かない、情けない自分に苛立ちながらそれでも、ヒトミは前を向く。
「一刻も早く治療を受ける必要がありんす」
だが、それを実行する手段がない。そもそもアローラに戻る方法すら、分からないのだ。
「ヒメ、ラフィ……」
「わっちは、主から離れないでありんす。何があっても、でありんす」
「……マスターと一緒です。ずっと、ずっとです」
(ああ、くそ。こいつらこんな時までそんな事言うのか。俺の事なんかほっといて、此処を出る方法を探してくれればいいのに)
極限状態で死にかけの人間なんて、荷物でしかない。それなのに、ポケモンたちは主を心配し、諦めることはない。
「……はっ、死ぬわけにはいかなくなっちまったな」
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになります。
UB No.04 SLASH
カミツルギ
ばっとうポケモン
アローラ図鑑No.298
草・鋼タイプ
特性:ビーストブースト