「僕も変身したいです?」
アローラを出てから、数ヶ月が経った。ご主人様が何かに向けて準備をしているのはわかる。だが、それが何に対してかは分からない。
「ん、どうしたヨワシ?」
一瞬戸惑ったご主人様だったが、そういえばと言って思い出したようだ。
「魚群の姿になれないんだったな。どうしようか……」
擬人化出来た後も何度か試してみたが、陸地では魚群の姿になれず、依然として能力は低いままなのだ。勿論、それが理由で何かあるというわけでもなく、水中に適応出来る自分がいることに対して、信頼を置いて貰っているのも理解しているが、この先なにが起こるかは分からない。
「僕も陸上で闘いたいです?」
しかし、幾度かスケッチをして貰っていたが、その度にフォルムチェンジに失敗している。発動しないわけではないのだが、ヨワシが群れることの出来ない場所ではできないし、元の魚群の姿になってしまう。
「まぁ、ヨワシが陸上でも闘えるのに越したことはないんだけど、やっぱり難しいんだよなぁ」
ご主人様はそう呟くと、頭を抱える。問題となっている点は二つ、群れを作れない環境ではフォルムチェンジ出来ないこと。もう一つは、フォルムチェンジをした姿で陸上に適応出来ないこと。
「う~ん、フォルムチェンジ以外の方法で考えた方が良いかもしれないな」
魚群の姿の種族値は確かに魅力的ではあるが、実現できないのであれば別の手段を考える必要がある。
そして部屋には、ご主人様と自分とリラさんがいる状態になった。ラフィとヒメは縁側でひなたぼっこをしていて、ハイリはお茶を入れる準備をしている。
「遊びに来ました!」
「あ、うん。どうぞ……」
態々明言しなくても、暇があればよくヒトミのアパートに出入りするようになったので、住人たちも慣れてしまっている。
「しかしまぁ、俺の家に来ても特に何もないぞ?」
ヒトミがげんなりとした口調で話す。放っておくと見境なしに出入りしようとし、この前居留守を使ったら鍵開けで侵入されたこともあるほど、彼女の関心は高い。
「そんなこと言わないでくださいよ。たった二人しかいない同じ境遇の人間なんですから、仲良くしましょう!」
そう、彼女は本当にその一心でヒトミと交流を深めたがる為、ヒトミも断りにくいのだ。同じ境遇の人間として、特別視しないことはないが、如何せん異文化感に戸惑っている様子だ。
「別に仲良くしてないつもりはないが……まぁいいや。どうするかな」
ヨワシと相談している最中に来た上、アポなしで来るので本当に何も出来ないのだが、リラ曰く、一緒にいられるだけでいい、とのことだ。
「ちなみに、今まで何を話してたんですか?」
ハイリが入れてくれた紅茶に口を付けながら、リラが問う。隠すこともないと思い、ヨワシの悩みの原因を打ち明ける。
「なるほど、それではいっその事、特性を変えてしまってはどうでしょうか?」
「特性を?」
これまで擬人化をすることは出来たが、特性が変わったものはいない。しかし、メタモンのへんしんから考えると特性を変えることも不可能ではないはずだ。
「しかし、この種族値で有効な特性かぁ」
まず上がるのは、神秘の守りや影踏みなどの固有の特性、次に加速やムラっけ等が考えられるが、ヨワシの覚えられる技を含めて考えると大幅な時間が必要になるだろう。
「そうなっちまうと、いっそへんしん覚えられる方が良いかもしれないな。もしくは、仲間と同じ形になるか」
擬人化をかけられるなら、へんしんをかけられる……かもしれないという発想だ。だが、それについてはヨワシの強みを活かすことが出来ず、誰でも良いと言うことになりかねない。
「あ~、でもそれじゃヨワシの意味がないしなぁ。なんとか、魚群の特性を活かしてやりたいんだが……」
「ご主人様、やっぱり難しいです」
困難である事は否定はしない。だが不可能ではないはずだとご主人様はそう話す。決して諦めている訳ではないのだ。
「魚群の姿、陸上バージョン! みたいな?」
突然リラが言葉を放つ。
「……今なんて言った?」
「あ、冗談ですよ?」
なんとなく言ってみただけです、と誤魔化す。どうやら思いつきで言ってみただけのようだ。
「特性、魚群、条件、陸上……何か、何かないか」
ご主人様がぶつぶつと呟きながら、今までの話の中からつなぎ合わせていく。集中してしまっていて回りが見えていないようだが、それをリラとヨワシと、遠巻きにハイリが見つめている。
「閃いた!」
「みずのはどう?」
リラに手伝って貰い、ルカリオからヨワシに技の特訓をして貰う。
「ヨワシだって、みずのはどうなら使う事が出来る。水をコントロールできれば、応用して体の維持に使う。イメージは中身が空洞の鎧、だな」
「なるほど、それで陸上でも対応出来るように、ということですか。確かに水なら、余程じゃない限りどこでもありそうですが」
魚群の姿のイメージとなると膨大な量になる。鎧を構成する物体は、水だけでは大きさが限定されてしまうのではないだろうか。
「周囲の鉱物や石なんかも混ぜ合わせて、圧縮、強化。って出来れば理想なんだけどなぁ。まぁ、その辺は波動のスペシャリストルカリオからどれだけ技術を学べるか、によるかな」
そういうと、二匹の特訓を見守る。
「ありがとうリラ、お前のおかげだよ」
「どういたしまして、私もルカリオも貴重な経験になります」
そうして、訓練の時間が過ぎ、波動についてヨワシが学んでいる間、ヒトミも行動していた。
「ふぇ~、分かりませんよますたぁ」
本を下敷きにして、机に突っ伏すラフィ。どうしてもヨワシの擬人化の時の特性についてイメージが出来ないと言うことなので、ラフィに学んで貰っているところだ。
「うん、どこがわからないんだ?」
ラフィは本を読むのは好きだが、慣れるまで時間がかかった。漫画や娯楽小説は楽しむのだが、学術書となるとやはり長続きしない。
「この辺から……この辺です」
「ほぼ全部じゃないか」
まぁ、全ての知識を取り込む必要はないが、それでも明確なイメージが掴める程、安定するようでヒトミは熱心に教えていた。自分も分からないことが多いが、幸いにも学べる環境はあったから。
(今度、漫画で分かる系のやつ探しとこ)
ホワイトボードに一つ一つ、図やグラフをかきながら、そんなことを考えていた。
「始めるです?」
訓練が終わったヨワシと、決して理解したとは言い難いが、イメージは掴めるようになったラフィと観戦のヒメでヨワシの特性変化を始める。場所は準備して貰ったトレーニングルームだ。
「ああ、始めてくれ!」
ヒトミがその言葉を発し、それに呼応するようにヨワシの体が輝き、光を放つ。水が幻想的にあわを作り、波動となって広がり、準備されていたあくのジュエルと反応する。やがてそれらを集め一つの鎧へと変化していく。
「ヨワシちゃん、凄い!」
「……いや、おかしい」
ヒトミの目には、違和感が映っていた。水の波動の中に、黒い靄がかかっているのだ。
「あれは、悪の波動でありんす」
そう呟いたヒメは、体を臨戦態勢にうつし、短刀を構える。
「オオッォォォオオ!」
群青色の鎧に、黒い靄がかかったいような怪物が、咆哮を上げた。
「ヨワシ! 聞こえるか!?」
「オオオォォォオオ!」
ヒトミが言葉を発すると、鎧はそれに反応し、鉱物を槍のように変えて投擲する。辛うじて避けるヒトミの横腹に、血の跡がつく。
「こっちに、気付いてないか」
「……自意識を失っているでありんす」
唯ひたすらに周囲にある物を破壊し、音や光に反応して攻撃する。まるで闘争本能の塊のような状態だ。
(僕は闘えるです?)
ヒトミは、それを知っていた。ヨワシの中に秘められている思いを。
(皆と一緒に、歩けるです?)
決して、周囲の誰からも責められてはいない。誰も彼を責める気などなかった。だが、許せなかった。
「オオォォォォオオ!」
闘う為に、仲間を守る為に身につけた力が、重要なときに発揮出来ないこと、仲間が苦しんでいるのを一人、ボールの中で見ている度に、真面目なヨワシは、自分を許せなかった。
「オオォッォォォォオオ!」
あれは、ヨワシの心だ。力のない己の不甲斐なさを悔やみ、力を求めるその心だ。
(悪の波動、か)
彼のその優しい心を、悪というのだろうか。そのドス黒いオーラは、あんなにも悲しみと優しさに満ちているというのに。
「……ヒメ!」
ヒトミはにやりと笑った。
「承知したでありんす」
会わせた両手は生命の循環を現し、
天に伸びゆく動きは、成長を現す。
やがて伸びきった生命は、花を開くように大きく開かれ
植物の力の根源へと至る。
Z技 ツヴァイ・シュベアトグラース
「行け、ヒメ!」
光を纏った短刀が鎧を襲う。一撃目は生み出された剣によって弾かれ、二撃目は避けられる。だが、避けた反動で体勢を崩すと追い打ちをかけるように、双刃が素早く三連撃を放たれる。
「オオォォ……オオオオオオ!」
悪タイプ しっぺ返し
鉱物から構成された棒に、黒いオーラを纏わせ、ヒメの胴をなぎ払われる。
「ぐっ……だがっ!」
その一撃に顔を顰める。たとえ強化されていたとしても、その一撃は十二分な威力を持っていた。
「吹き飛ばせっ!」
「ソーラーっ、ブレードォォ!」
双刃から集約された光の束が、鎧を襲い吹き飛ばしていく。その光にやがて、黒いオーラは消えていった。
目が覚めるとそこはポケモンセンターだった。どうやら、あの後治療して貰っていたらしい。スタッフが意識を取り戻したことを察知するとヒトミへと連絡しているようだ。やがて現れたヒトミは、申し訳なさそうにボールを受け取り、帰路を急ぐ。
「すまなかった、俺が浅はかだった」
「謝らないで欲しいです?」
小人の状態になったヨワシは、正面に座って深々と頭を下げるヒトミに困惑する。
「力を操りきれなかった事、想定するべきだった。今回はまだなんとかなったからいいが、解決策が出るまでは特性を使わないようにして欲しい」
未だに頭を上げずに、言葉を続けるヒトミ。
「もう少し、もう少しだけ、待ってくれないか、ヨワシ」
力を操りきれなかったのは、自分の不甲斐なさからだ。破壊衝動に取り込まれ、薄れいく意識の中で、力を求めたのはヨワシ自身だが、ヒトミはそれを謝罪する。
「……大丈夫です、ご主人様」
涙目の顔で、ヒトミに近づき、その手を伸ばす。ヒトミは顔をあげて、ヨワシを抱きしめる。己の力が足りないことに、二人ともが悔やんでいた。
「私が来た!」
「ハイリ、お茶淹れてやってくれ」
扉をバーンと開け、アメコミののりでリラが入ってくる。
「映像とデータ、見せて貰いました。凄い特性になりましたね」
「強力だが、力をコントロール出来ない。ヨワシ本人も自意識が薄れていくのを感じていたらしい」
つまり、自分の意思であの鎧を操作できないのである。
「しかし、何故操作できないのでしょうか」
「やっぱり、波動で形成された鎧に対応できていないんじゃないか?」
フォルムチェンジ自体に欠陥があるのではないか、そうヒトミが考えていた。
「いえ、波動のコントロールは上手くいっているように見えました。まぁ、悪の波動が混ざっていたのは想定外でしたが、それもコントロール出来ていないということはないと思います」
しっぺ返しを使えた事も含め、戦闘には適応している。
「つまり、ヨワシ自身に問題があると思うんですよ」
「なん……だと?」
ヒトミが驚愕する。その点に関しては訓練を行い、波動のコントロールについては十分だと思っていた。
「ヨワシの特性、魚群自体がそもそも多くの個体を統率する能力です。一つの意識の元で動くことによって強力な動きをする事が出来ますが、その時に統率が取れないと力が発揮できません」
成る程とヒトミは頷く。
「ヨワシの特性の中に、魚群に取り込まれる性質が含まれている、ってことか」
「はい、集団行動による連携が頻繁に行われているヨワシという種では、恐らく群れの主との連携を計る為の機能があるはずです。自意識が薄れた、というのはその症状ではないでしょうか」
ヨワシに確認するようにリラが促す。
「つまり、自分自身を群れの主と意識できていないから、制御が出来ない、ってことか」
「仮説の域を出ませんが、本来であれば意識の集合体に適応する特性ですので、可能性は十分あると思います。そして、改善することも難しいと思います」
「……どうして?」
リラが一息つき、ハイリの淹れた紅茶に口を付ける。
「波動をコントロールし、制御するという特性を加えたが為に、ヨワシさんの元々持っている特性からずれています。それを修正するには、そもそも魚群という特性の機能の解明から始めなければ難しいと思われます」
ヒトミは脱力し、ソファに体を預ける。
「特性が完成した時点で、制御できない状態だったわけだな。となると特性から見直さないといけない、か」
何をどうすれば意識を保ったままフォルムチェンジが出来るのか、それは検討もつかない、けどそれしかないか、とヒトミは呟く。
「いやいや、今日はそんな話をしに来たわけではなくてですね」
リラが別の方法を切り出した。
「本当に良いのか、ヨワシ」
「大丈夫です?」
新しくリラが提案したのは、ヨワシが魚群に取り込まれてしまう状態になってしまうのであれば、むしろ完全にその状態になってしまった方が良い、ということだ。無理に意識を引きだそうとすれば前回のように暴走してしまう。故に、主を別に知覚してしまえばいい。
「始める、です?」
そう言うと、光が集まり、水の波動と悪の波動が混ざり合い、鎧を形成していく。そして、波動を伝わり、ヒトミへリンクしていく。ヨワシの感情が伝わり、自分の動きと鎧の体が同期しているのを感じる。
(その代わり、ダメージや感覚も共有することになります。ヨワシさんが受けたダメージの何分の一にはなりますが、ヒトミさんにバックされるので、決して安全とは言えませんが)
リラの言葉を思い出す。そんなことは問題ない。ヨワシの意識が流れ込んで来るのを理解する。闘い、守りたい。自分の大切な物の為の力が、欲しい。
「一緒に闘おう、ヨワシ」
ヨワシの特性が、今完成した。
読了ありがとうございました。
今回は、今まであまり活躍できなかったヨワシの話です。
イメージはフェイトゼロの○○○ロットさんです、クラスはバーサーカーです(笑)
それでは、次もお付き合いいただければ幸いです。