ハノハノリゾートホテルの一室そこにヨウは一週間借り続けていた。
「そう、ジガルデにはコアがあった。素早さで上回っているキュウコンは、そこに攻撃することが必要だった」
そうして、両手を広げ一拍おいて演説を続ける。
「お前が提案した『こおりのいぶき』それこそが解決の鍵だったんだ。熟練されたその技は、ジガルデの防護をかいくぐり、五つのコア氷付かせることが出来たんだ!」
「おお! すげぇ! それで、そのキュウコンは!?」
落ち着け、そう慌てるなとじらしながらモンスターボールを取り出す。操作して起動音と共に薄紫色のリージョンフォルムのキュウコンが現れた。
「アローラキュウコン! しかも、色違い!」
しかし、臆病な性格なため、初めて見るヒトミに警戒心を抱いていた。ヨウが首元をなでながらキュウコンに伝える。
「大丈夫だ、こいつは悪いやつじゃない」
「さ、触ってもいいかな?」
構わないよ、とヨウが言うとヒトミはキュウコンの頭を撫でる。
「冷たくて、雪みたいにサクサクした触感だけど、毛が重なってふわふわしている!?」
くすぐったそうに喜ぶキュウコンをみて更にテンションが上がるヒトミ。
「なぁ、他のポケモンも見たいんだが!」
「勿論だよ、だけど、最近慌ただしいからちょっと待って欲しいんだ」
そうヨウが呟くと、小さな揺れを感じる。
「……最近多いな、地震」
地震だけでなく、ポケモンの異常発生、豪雨が襲ったり等、その為チャンピオンであるヨウや島キング、島クイーン、はてはキャプテンのメンツも対応に追われている。
「こんな時期じゃければ、観光につれて回るんだけどな」
その点に関しては、ヒトミも言葉に詰まる。ポケモンの世界に来た歓びはあるが、あまりポケモンと触れ合える機会がない。外に出ようと思えば出れなくはないが、それはそれでヨウに迷惑をかけるかもしれない。この異常気象が治まるまでは、と考えていたが、それも中々治まる様子がない。
プルルルル
ヨウの携帯に着信が入る。
「ジーナからだ、もしもし」
なにやらいろいろと話し込んでいる。数分間話し終えた後、ヒトミに告げる。
「あと少ししたら、ジーナとデクシオがここに来る」
「えっ、俺が聞いてもいい内容なのか?」
少しヨウが悩んではいたが、答えをだす。
「ああ、お前の知識を借りたい、事情はジーナ達にも伝えてあるからな」
そうして、二人の到着を待つことになった。
一時間後
「アローラ諸島のジガルデの反応がゼロになりましたのよ」
「と言うわけで、僕らがその原因を探っているんだけど、心当たりが……チャンピオンの君だったんだが」
それに対して、ヨウが返答する。
「ああ、ジガルデが俺を『秩序を破壊する者』と認識したんだ。それに対抗する為に、反撃した」
そうして、デクシオが頭を抱える。
「まさか、伝説のポケモンすら退けてしまうなんて、美しい私でも予想できませんでしたわ」
「それで、最近の異常気象はジガルデが原因なのか?」
ヒトミが話に加わる。
「原因というのは正確ではないかな。元々多種多様なポケモンが存在して、特殊な環境のアローラ諸島だ。異常気象が起きてもおかしくない」
それを抑えていたのが、ジガルデという存在だったとデクシオが話す。
「あくまで、仮説ではありますが、各所にジガルデセルを配置することにより、異常を未然に防いでいたのではないか、というあまり美しくない結論になっていますわ」
ヨウは、手元にあるジガルデキューブに視線を落とす。今では、それにジガルデセルの反応はない。
「……俺がジガルデを倒したから、か」
デクシオもジーナも、ヨウを責める事は出来ない。最早一個人で判断出来る事ではない上に、すでに起こってしまったことだ。
「そうだ、ジガルデを倒した場所に行ってみよう。もしかしたら、一匹くらい生き残っているかもしれない」
「……そうだね、何をしないよりかは良いかもしれない」
「美しくありませんが、仕方ありませんわね」
そう言って、デクシオ、ジーナ、ヨウ、ヒトミの四人でラナキラマウンテンのポケモンリーグがある場所へ向かった。
そこには、見張りを含めて誰もいなかった。
「緊急事態だからな、島巡りもポケモンリーグも一時的にストップしている。ライドポケモンで直接向かおう」
ヒトミはヨウと、ジーナはデクシオと共にライドポケモンのリザードンに乗り、チャンピオンの間に到着する。
「少し、冷えるね」
デクシオが周りを見渡しながら呟く。
「ここでジガルデを倒し、氷漬けにした。バラバラに砕け散って下に落ちていったんだが……」
ヨウが説明していると、ジーナが叫ぶ。
「微弱ですが、ジガルデセルの反応ですわ!」
チャンピオンの間、その端から一匹のジガルデセルが現れた。
「……生き残っていたのか」
『その表現は正しくはないな。我とてポケモンだ、たとえ瀕死となってもいずれ復活する。今は我一匹だけのようだがな』
「……この状況は、ジガルデを倒したから起きているのですか?」
デクシオの疑問にジガルデが答える。
『貴様達の推測はおおよそ的を得ている。勿論、我のみの力で制御している訳ではないが、環境を安定させる為に制御すること、それが秩序というものだ』
秩序がなくなった世界であれば、異常が起こることも道理だと言う。
「その秩序を復活させる方法はないんですの?」
ジーナが更にジガルデに問いかける。
『無論、時をかければ我々が復活し、環境を安定するに至るであろう』
ヒトミが疑問を上げる。
「具体的には……どれくらい?」
『人間の基準で言えば、何十年か、数百年か、その程度で完全に復活することになるだろうな』
その言葉に絶句する。肩をおとすヒトミを余所に、ヨウが尋ねる。
「今すぐに復活させる方法はないのか?」
『倒した貴様がそれを言うか。まぁいい、不可能だ。元より百のジガルデセルによってアローラの環境を制御していたのだ、秩序を取り戻すには数が足りなさすぎる』
「数が……足りない?」
『制御するには、細胞の数が足りていない。それが復活するまでに時間はかかる』
ヒトミが額に皺を寄せながら、ジガルデに尋ねる。
「もし……数が九十%になったら、今と同じ状況になるのか?」
『いや、多少不安定にはなるだろうが、おおよそ元に戻るな。数字がそのまま制御出来るパーセンテージと言っても良い』
ヨウがヒトミに尋ねる。
「何か、策があるのか?」
マーマネとマーレインに協力を依頼し、フェスサークルのマウントディスプレイを二つ準備して貰った。そして、専用の研究室でヒトミとヨウがそれをセットしている。
「いいか、アローラ地方にいないポケモンをGTSで出して、ジガルデを交換して貰う」
「そして、十%ジガルデを十体集める、だな」
GTSが原因で引き起こした状況をGTSで解決しようとするのも違和感が残るが、この際言ってはいられないだろう。ヒトミとヨウで手分けして、フェスサークルに入り、それを行う。
「他の世界には、多少迷惑をかける事になるけど、それは異常事態が解決したらまた考えよう」
そう言っている今の間にも、傷つき倒れていくポケモンと人間達がいるのだ。二人は覚悟を決め、フェスサークルへと意識を移していった。
チャンピオンの間、そこには二人の男が佇んでいた。両の手に合計十個のモンスターボールが抱えられている。全てを操作し、中から緑と黒の犬型のポケモンが出現した。
『平行世界からの……同種か』
ジガルデセルが、感情の読み取れない言葉で呟く。
『同じ罪を重ねるのか?』
ジガルデキューブを持つヨウに、ジガルデ達が傅く。
「……これで、ジガルデが復活するのか?」
ヒトミが提案したにも関わらず、不安で仕方がないと言ったようすだ。
『不可能だ。このジガルデ達には、この世界を知らない。これまでのアローラ諸島を知らぬ者達に、秩序を取り戻すことは出来ない』
それでは、ヒトミ達のしてきたことは、無駄だったのか。
『だが、新しく作り上げることは出来る。このジガルデ達を統率する存在さえあれば』
「統率って、お前がするんじゃないのか?」
ヒトミの言葉に熱がこもっていく。
『仮にこのまま合体したとすれば、九十九%が別世界の情報で形成されたジガルデが新たに誕生することになる。それでは、この災害を止める事は出来ない』
そんな馬鹿な、とヒトミが肩を落とす。
「ジガルデを統率する存在がいれば、アローラを守れるんだな?」
ヨウがジガルデセルに語りかける。
『ああ、災害を止めるだけの『力』は存在する。あとは、それを統率し新しい『秩序』があれば、その通りにアローラが再生されるだろう』
ヨウが、笑顔を浮かべる。ゆっくりとジガルデセルへと近づいていく。
「待て! それなら俺が――」
『アローラを知らず、信念を持たぬ者に、統率する事は出来ない』
「……ヒトミ、お前のおかげでこの世界は救われた」
ヨウがジガルデキューブを胸に当て、ジガルデ達が一つ一つのセルに分かれ、ヨウを取り込んでいく。
「ラリオーナ!」
「マヒナペーア!」
ヒトミの背後に、ヨウと対極の位置に月と太陽のポケモンが現れ、ウルトラホールが開かれる。
「待ってくれ! 俺は、こんなことがしたかったわけじゃ……」
「少しの間でも、ヒトミと一緒にいれて楽しかったよ。俺をここまで導いてくれて」
その先の言葉は、聞き取れなかった。
目を覚ますと、また岩肌に囲まれた場所に放り出されていた。目の前にはウルトラホールが開いていた。きっと、ヨウの事だからこの先には元の世界があって、元の生活に戻って、ここに来る前の日常に戻るのだろう。
「……なんで、なんでなんだよ」
バッドエンドなんて、自分が望んだ世界じゃない、ましてや、主人公だけを残して自分一人が逃げ出すなんて、あり得ない。
「ラリオーナ!」
「!?」
そうして、太陽の鬣をもつソルガレオが目の前に現れた。
「お前は……?」
「ラリオーナ!」
その咆哮と共に、開いているウルトラホールの反対側にもう一つのウルトラホールが開いた。それがどこに繋がっているのか、問う必要すらない。
「……待ってろ、今度こそ助けるからな――」
今度こそ躊躇わずに足を踏み入れる。その先に訪れる運命をまだ知らずに。
読了ありがとうございました。
これで、前日譚は終了です。
なるべくヨウ君をイケメンに書きたかったけど、難しいですね。
それでは今回はここまで、次もお付き合い頂ければ幸いです。