学園寮……部屋の前で話し合う二人……そこへ迫る、二つの影……!
「お取込み中悪いけれど、よろしいかしら?セシリアさん、それに伊藤さん?」
「だれだ……あんた?」
「わたくしはイギリス代表候補生サラ・ウェルキン、こちらも同じく候補生のアビー・ミールですわ。以後、お見知りおきを」
来たる……サラ・ウェルキン、アビー・ミール……!
「う、ウェルキンさん。どう、なされましたの?」
「あなたの代表候補の資格のことで話があって参りましたの」
「……!」
愕然……だが、考えていなかったわけではない……可能性……!
「謝罪はされましたけど、国家への侮辱、男性操縦者への誹謗中傷、女尊男卑の思想、および、今回の試合の結果、それらを考慮しあなたの代表候補としての資格、専用機を持つに値するかどうか、学園に在籍すべきかどうか、本国から疑いがかかっておりますの」
「ごめんね……セシリア……!わたしからもそこまでしなくていいんじゃないかって言ったんだけど……本国から突き上げがあって……」
そう冷静に告げるサラ・ウェルキン……泣きながらセシリアを擁護するアビー・ミール……!
「そう、ですの。当然ですわね。あれだけの大口を叩いてあの結果では、イギリスの候補生の質が疑われてしまいますものね」
「恐らく、この流れは止められないでしょう。あなたには目をかけていただけに残念ですわ」
「わたしじゃ力になれなかったの……」
だが、そこに割り込む一人の男……カイジ……!
「ちょ、ちょっと待てって……!そこまでする必要……ないんじゃね……?もう俺たちのわだかまり、織斑とも俺とも、なくなったわけだし……!織斑との試合には勝ってるじゃん……俺の試合だって、実質セシリアの降伏……勝ってたんだし……!」
「部外者のあなたには関係ないこと、これはイギリスの問題なのよ」
「そ、そうよ、千冬様の弟ならいざ知らず、あんたは黙ってなさいよ!」
……あ?なんだ、このガキ……?やっぱり、なんか違う……さっき感じた違和感……なんだ……?
それに、どこだ……どこで見た……こいつ……初対面だが、知ってるぞ……
「いやいや、部外者っていうか当事者……!その男性操縦従者への誹謗中傷、思いっきり俺……!それはもう解決……!教室での言動だって、面白がって俺たちを推薦した奴らにもあるって、問題……!それになにより、止めなかった、あの女!教師のくせして、オルコットの言動……!止めるべき……クラスメイトとの衝突……不和……そういうのを考えたら……言わせない……!」
「あんたねぇ……!前から思ってたけど千冬様に向かってなんて口の利き方してんのよ……!身の程をわきまえなさいよ……!」
やっぱりだ、こいつ……普通に女尊男卑主義者だ……間違いなく……!
ってことは男性操縦者への誹謗中傷とか、女尊男卑とか些末……関係ねぇ……!
なら、あとはなんだ……?
「それがどうした……!あんな先公、あの女で十分だ……!それにオルコットはまだ、学生だろ……!学生の特権ってのは、許される……ミス……やり直せる……ってことじゃねぇのかよ……!」
「学生、そうですわね。ですが専用機持ちという肩書も持っていましてよ?この世界に数百人しかいない。そこいらの社長だとか有名人だとか、そんなものよりも圧倒的に少ない……それを背負うということの意味を考えたことありまして?」
「っは……!何百人もいるじゃねぇか……!こちとら、二人……!そのうちの一人がイギリスを侮辱してたぜ……?それについては、イギリスからなんか言うことはねーのかよ……!20億分の1の男性代表があんたの国を侮辱したんだぜ……?」
「それとこれとは話が別よ!いまはセシリアの話をしてるのよ……!」
「変わんねぇだろ……!同じこと……!発端はオルコットだが、互いに侮辱しあったんだ……そしてその結末は決闘でつけた……水に流せよ、んなこと……!」
「どうにもわたくし、疑問に思うのですけれど、なぜそこまでしてかばいたてするんですの?あなたは巻き込まれただけ。クラスメイトやセシリアには侮辱されながら、あのような場に引きずり出されて。無茶苦茶な試合を吹っ掛けられたというのに」
疑問……純粋に、なぜかばいだてするのか……普通に敵、自分を罵った敵……!
「撃たなかったからだ……」
「……はい?」
「オルコットは撃たなかったんだ……俺の事を……!最後……撃ってもよかったんだ……!あの空気なら許された……!相手を攻撃できない軟弱者を撃っただけ……!でも、そうしなかった……!撃たなかったんだよ……!」
オルコットは、自分の行為に……誇りを持って……答えた……!
それなら俺は……見捨てない……引き上げる……!
「だから、かばうと?元々の原因を作り出した発端だというのに」
「さっきも言っただろ……!悪いのはオルコットだけじゃねぇって……!確かにオルコットも悪い……!でもそれを反省した……じゃあほかの奴らはどうだ……?織斑は?あの先公は?クラスメイトは?言っとくが、あいつらは自分が悪いだなんて露ほどにも思ってない……!それが許せねぇ……!ただ一人、オルコットが悪いってのは、許せねぇ……!」
「話になりませんよ、こんな男!時間の無駄ですよ、ウェルキン先輩!」
「さえずるな、小物が……!お前とは話してないんだよ……!入れるな、茶々を……!」
「っな!?」
「では、我々には何もするなと?あなたは言いましたね、オルコットも悪い、と。つまり、オルコットさんには求められるべきですわね、責任。それに伴う罰が」
正論……行為には責任が伴い……責任には罰が伴うのだ……!
「それは当然だ。何もなし、無罪放免ってわけにもいかないだろうが……だが、専用機とりあげて本国送還なんて、そこまでされるほどのことじゃねぇ。っていっても俺の意見なんか大した価値はないんだったか……?」
「……」
「当たり前でしょ!千冬様の弟ならいざしらず……!」
「へぇ、千冬様の弟ならいざ知らず……ねぇ。ずいぶんと舐められたもんだな、俺も……まぁしょうがないか、こんなどこの馬の骨とも知れない、後ろ盾もない男じゃ……あーぁ、ところで明日織斑と昼飯食べる約束してるんだけど、何話すかなー。なんかいい話題とかない?こう盛り上がりそうなやつ……!」
露骨……隠す気ゼロ……!この男、見え見え、その意図……!
「あと、織斑の奴、名前なんていったっけな。ほら、あのIS開発した人の妹、仲よさそうなんだよな、なんか幼馴染とか……あれ?ってことは織斑のやつ、知り合い?その博士と……!」
卑劣……下劣……使う……ネームバリュー……他人のものを……容赦なく……!
だが、強力……そしてカイジ、見切る……今回の問題の本質……策謀の糸……!
「卑怯よ……ていうか、あんた千冬様の弟とは犬猿の仲……嘘でしょ……一緒に昼食なんて……!嘘つき……みっともないと思わないの……!?」
やっぱり……こいつ、知ってやがる……俺たちの関係……!
俺が織斑千冬に対して取った態度……それは学園中の知るところ……!
でも、弟との関係……あれは放課後の一時……そこまでは広まっていないはず……!
それに……古いぜ……その情報……!
「っへ……!俺と織斑との不和の原因……それは俺の後ろにいるぜ……!」
「うぇっ……!?なに~……?」
背中に張り付き、流れを見守っていた布仏……前へ持ち出す……!
借りてきた猫のように……大人しく吊り下げられる……猫吊るし……!
「この通り、もう仲直り……!その様子をみて織斑、ご満悦……大満足……!自分の言ったことを俺が聞き入れたって……!単純だよな……!だから、もう解決してる……!残念ながら……!」
「(その手に持っているフォークはなんなのかしら……)」
「っう……!でも、どうにしろ卑怯者よ、あんたは……!他人の力、虎の威を借る狐……!」
「てめぇにだけは言われたくねぇよ、アビー・ミール……!俺が狐なら、あんたは狸……!イギリス代表候補生、BT適性はA-ランクだったか……?」
「……!」
「セシリアを追い落とせば、BT適性からいけば、その専用機が来るのはお前だもんな……!そりゃ、遠いわけだ……さっきの泣き真似……!よくできてたけど通じねぇよ……俺には……!その涙を信じて、地の底に葬られかけた俺には……!」
感じた……遠く感じた……!ガラス越し……助けるから……助けますから……!
「確かに序列からいけば、ブルー・ティアーズの次の操縦者はアビーになるでしょうね。よくご存じなのね、イギリスの内情を」
「そりゃあ、穴が開くほど見たからな、試合の動画……だからなんとなく見覚えがあったし、名前も思い出した……!本国に情報流したのはてめぇか……?大方、織斑のことを侮辱したのを大きく報告した……織斑がブリュンヒルデの弟であることはまぁ周知として、そしてなにより篠ノ之箒、束博士の妹と仲がいいってことも添えてな……!」
「……っ!」
不自然……違和感……絶品の魚料理を食べたが……刺さった……小骨……!
飲み込みやすい、すんなりと喉を通りそうだったが……駄目……!
わざわざ出てきたアビー・ミール……!出てこなければ分からなかった……!
あの泣きの演技……!あれが取っ掛かり……!晒さなければよかった……カイジの前で……!
「それは事実ですか、アビー?」
「で、でたらめ、そんなの出鱈目に決まってます……!」
「確認すれば分かることでしてよ?どのような報告が誰からあったのかは……」
「っうぅ……」
「まぁ俺も確信がある、言い切れるってわけでもないんだがな……」
そう、いわば勘……疑わしいと感じた、その直感に従い……
細く細く……編み上げた論理の糸……!
「……。あなたは今回の落としどころをどう考えて?参考までに聞かせてもらえると嬉しいわね」
そう、問いかけるサラ・ウェルキン……穏やかな微笑を湛えて……
「ウェルキン先輩……!?」
「候補生になるときの試験の再試やそれに関するレポートとか……BT兵器の稼働率を一定期間内にあげるっていう課題とか……色々あんだろ……!でも、いいのかよ、前言翻しても……」
「わたくしは公明正大でいたいのですわ。もし本国への報告に意図されたものがあったのであれば、それは正さなければなりません。あなたからの言葉も添えて、ね。そして、その上で処断を仰ぎます」
「そうか……ありがとよ、恩に着るぜ、大将……!」
こともあろうか、女性に向けて……大将……!
この男……やはり、ずれている……!
「ふふ、面白いお方。あなたから、あなたのお名前、お伺いしてもよろしいかしら?」
「俺は伊藤開司だ……!」
「わたくしはサラ・ウェルキン。あなたのお話、とても興味がありますわ。いずれお茶会にご招待させてもらいますわね。それでは、今後ともよしなに」
去りゆく、サラ・ウェルキン……アビー・ミールを連れて……!決着……!