カイジ、起動……!
カイジは新年を招かれた坂崎宅で過ごし、そのまま2か月もの間居候としてだらだらと暮らしていたのである。
坂崎もまだ若く仕事に就くこともできるカイジのことを思い住まわせてやっていたが、娘の美心がカイジの世話を何くれと焼くことに不安を覚えた。
そのため、300万の手切れ金を渡し、カイジを追い出したのであった。
「手切れ金は300万……どこかに部屋借りて生活を始めるのには充分な金だが……」
追い出され特にあてもなく町中をぶらつくカイジ……そこで目に留まる、男たちの行列……!
「なんだあの列は……?」
ぞろぞろと列をなし競馬場を思わせるようなでかいドームに入っていく男たち……その顔はどれも暗く、覇気のないという一種異様な光景……!
それに興味をそそられたカイジはその列へと寄っていき看板を見つける!
そこに書かれていたのは全国男性IS適正検査の文字!
そう……!ここは織斑一夏に端を発する男性適正者の検査会場……!
「っけ、面白くもねぇ。ゴキブリじゃねぇんだ。一匹いたら何匹もってわけねーだろ!」
そう言い看板に蹴りを入れ背を向けるカイジ……だが、立ち去る前に何者かによって腕を掴まれる……!
「ここまで来たんなら試験はちゃんと受けて帰りなさいよ。ま、どうせ無駄だろうけど」
振り向くカイジ、そこには片手を腰に当ていかにも偉そうに見下してくる係員の女……!
「いや……俺はぶらついてただけで試験を受けにきたんじゃ……」
「つべこべいってないでとっとと入んなさいよ。ったく、こんな冴えない風体の男に神聖なISを触らせないといけないなんて、最悪よ」
「わかったよ、受けるから無理やり引っ張んなって……!」
会場へと押し込まれるカイジ……この時カイジ意外に素直……!
それもそのはず、下手に抵抗すればあらぬ罪を被せられかねない……!
中の案内を見ながら進んでいくことにしたのであった……
「っけ、ISが使えるからってなにが偉いんだ。どいつもこいつも見下しやがって」
3年前の白騎士事件を皮切りにモンドグロッソの開催やIS以外の軍縮により女尊男卑の風潮は一気に加速した。それにより法律などの改訂もされ、女性が優遇された保証人制度の改訂もカイジが借金を作った原因の一旦を担っているともいえる。
ぶつくさと文句を言いながらも、列へと並ぶカイジ……!
検査は手をかざすだけの一瞬で済むため、長蛇の列はすぐにはける……!
そして、来たる……!運命の刻……!カイジの人生を変える、その瞬間……!
ISへと手をかざす……カイジ……!
「くそ、何だよ……!感じたのに……!圧倒的予兆……高波の予感……!人生が変わるっていう……そんな風……!追い風……」
が、駄目……!不発……!圧倒的無反応……!
それをみながら口角を吊り上げる女係員……!
「ところがどっこい……嘘じゃありません……!現実です……!これが現実……!」
係員の女性の非情な宣告を受けるカイジ……ここで終わってしまうのか、カイジ……!
「私何言ってるのかしら……それじゃあ次の……って、あなた手袋してるじゃない。ISを汚さないようにって配慮はえらいけど、外してもう一回よ」
そう言われ手袋を外すカイジ……当然カイジにISに対する配慮があったわけではない……!
会長との賭けに負けて落とした指……!
闇医者の縫合により幸運にも後遺症はないが傷跡は生々しく残っている……!
その指を見て係員の女は恐怖に顔をゆがめる……!
「手袋一枚でなにが変わるかって……!っ……!?」
ざわ……ざわ……っと頭の中に雑多な情報が流れ込む……!
そして周囲にはざわ……ざわ……っと粒子が舞い始める……!
そして纏う……!無骨なフォルムをした打鉄を……!カイジが……!
「そんな……!嘘よ、二人目の男なんて……!それは……千冬様の弟だから……許された特権……!あんたみたいな冴えないのが……動かしていいはずがないっ……!」
信じられないようなものを見る目の女係員……その目は絶望に染まっている……!
それもそのはず、女が築いた牙城たるIS……女性だから、女性しか扱えないというその特権が……!
いつのまにかじわり、じわりと侵されていくその感触……!
一人目はいい……千冬様、初代ブリュンヒルデ……!
人類最強の女性……女尊男卑の象徴……!
その弟ならば、逆に動かせて当然……!
他の男とは違う……世に並みいる有象無象とは違う……!
だからこそ、逆に女性の希望……!世の女性の希望の男……!
そうなるはずだった……男性操縦者など織斑一夏、ただ一人で……!
会場全体がざわ……ざわ……と賑わいだす……!
「おい、みろよあれ」
「もしかして二人目?二人目が現れたのか!?」
「希望だ!俺たちの、男の希望が現れたんだ!」
さきほどまでの陰鬱な空気は一変……盛り上がりだす会場……!
場内はたちまち盛りがり歓声が沸く……!
「あ、あれってカ、カイジさんじゃないか……!」
会場に訪れていた45組の面子……彼らはみな適正試験に落ちていた……!
とぼとぼと帰路につこうとしていた矢先……場内の沸きあがる空気……!
それにつられて戻ると、そこにはカイジ……!
ISを身に纏うカイジの姿……!当然、歓喜……!嗚咽……!
「や、やっぱりカイジさんは俺たちなんかとはちげぇ……!英雄……英雄なんだ……!」
「まただ……!カイジさんがまた奇跡をみせてくれたぞ……!」
「カーイジ!カーイジ!カーイジ!」
45組を中心として発したシュプレヒコール……!
それは会場を巻き込む渦となって、観衆を巻き込んだ……!
「おわっ……!なんだこれ……なんでみんな俺の名前……!?」
大勢の観衆の波に押されるカイジ……!
見つける、自分の名前を呼んだ相手……観衆をかき分けて進む三好の姿……!
「カイジさーーーん!」
「三好じゃねぇか、なんでこんなとこに……!」
「僕もIS適正試験を受けに来たんですよ。結果は当然駄目だったけど……!でも、さすがカイジさんです……!やっぱりカイジさんは違う……!」
「変わんねーよ、俺はみんなとなんにも……」
と、途中で言い淀む……そこで頭をよぎる、考え……!
今まではそう、自分は三好やここにいる男たちと変わらない……!
普通の平凡な男だったのに……!
変わってしまった、このISを動かしてしまったことを契機に……!
「俺、これからどうなっちまうんだ……?」
カイジに波乱の予感……!
この一年は本当に濃い人生を……体を……命すらもかけたギャンブルを乗り越えてきた……!
それとはまた一味違う波乱……その幕開けであった……!