それからのカイジは別室へと連れていかれ、肩へ押し付けられる焼き印……!
などということはなく、気づくと高級ホテルの一室……そこへと押し込まれていた……!
「なんだったっけ、説明じゃ俺の体を狙う女権団や研究所から守るためにひとまずはここに軟禁されるんだったか……くそっ、借金で黒服に追われた次はこれかよ……それから、読んどけって言われたこの分厚い本……駄目なんだよなぁ、こういうの……3分もせずに眠くなっちまう」
そうはいいつつも、参考書を手に取り開くカイジ……!
そこにはPICや相対制御だのと訳の分からない文字の羅列……!
電話帳みたいな分厚さのそれ……!パラパラとめくってみても、文字、文字、文字……!
一体どれだけの容量になるか、想像もできない……!
「やってられっかよ、こんなもん……馬鹿馬鹿しい……!」
ポイっと床に放り投げて高級なベッドへと身を沈める……!
「うわっ、久しぶりだなこんな柔らかいベッド。地下にいたときは畳の上に雑魚寝、おっちゃん家でもソファを借りてただけだもんなぁ」
疲れがたまっていたこともあり、たちまち睡魔へと誘われるカイジ……!
睡眠……!圧倒的爆睡……!来訪者の叩く扉の音にも気づかない……!
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扉の前では3度も扉を叩き、イライラとしている女性……!
「っち、扉は叩いたからな。開けさせてもらうぞ」
鍵を開けて入り、まず目につくのは床に投げ出された参考書……!
ベッドの上には大の字になっていびきをかくカイジ……!
「大物というかなんというか。命も狙われかねないこの状況で、こんな爆睡するやつがいるとはな……」
目の頭を揉みながらぼやく女性……ただでさえ弟のせいで大忙し……!
そこにきてもう一人の男性操縦者……!舞い込む仕事の量は今までの比ではない……!
「おい、起きないか。今後のことについて話がある」
が、駄目……!みじろぎすらしない……!圧倒的無反応……!カイジ、爆睡……!
女、加速するストレスゲージ……!不安であろうかと急いできたのに……貪っている、惰眠……!
一番寝たいのは自分……仕事に忙殺され、晩酌もままならない……!そのせいで部屋の片付けもできていない……!
この仕事を放棄して家に帰り、ビールをあおり寝ることが出来たら……!
至福……!許される、そのくらい……私にもそれくらいのこと許されて当然……!
「いかんな。何を考えておるか。とりあえずはストレスを発散して……」
参考書を拾い振りかぶる……逡巡、いつもの出席簿の速度で振り下ろせば……最悪殺人犯……!
流石に許されない、ブリュンヒルデでも……!
「っうわ……!?いってぇえええぇぇぇ……」
突如襲い来る衝撃……惰眠を貪るカイジへと振り下ろされた鉄槌……!
起き上がり辺りを見渡すカイジ……そこには先ほど投げ捨てた参考書を持ち、仁王立ちする女性……!
威圧……圧倒的威圧……!目の前の女性が出す、押しつぶされそうなほどの重圧……!
「一体だれなんだよ、あんた……!?」
ハッと気づく……先ほど言われた言葉……命を狙われかねないと……
なら目の前にいるのは殺し屋……!自分を殺しにきた刺客……!
この威圧……重圧……殺気……!そこいらにいる女が出せるものではない……!
「や、やめてくれ……ま、まず話し合おう……!いきなり、殺すなんてことから始めなくてもいいだろ……!?わ、分かり合えるはずだ……!」
刺客から逃げるように距離を取るカイジ……刺客の一挙手一投足を窺うが、動きは見られない……!
見張りには黒服もいたのに……それを掻い潜ってきたほどの相手……!
カイジを殺めるなど余裕ということ……!
「おい、お前はなにを言って……」
「く、黒服は……見張りの奴らはどうしたんだ……?もしかして、皆殺しに……!」
「……」
なにかを言いかけていたが、完全に黙り込む刺客……その顔には悲しみと怒り……!
それも当然……!疲労の中時間外の仕事に来れば、相手は爆睡……!
起きた相手からは殺し屋と間違われる……それも血も涙もないタイプの……!
そんな風にみえるのかと……!理不尽な扱い……当然、怒責……!
「き、貴様……そこになおれえええええ!」
爆発……!圧倒的噴火……!体から滲み出す憤怒……!
「ひ、ひいいいぃいぃ!」
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「と、いうわけでだ。貴様はIS学園へと通うことになる。普通の高校とは全く違うことを学ぶため、一年生からの入学にはなるが文句は言うな。拒否権はないと思え」
「拒否すれば、研究所行きか命を狙われるってんだろ。分かってるよ」
「それとこの参考書はちゃんと読んでおけ。ついていけなくなるぞ」
「こんな呪文書みたいなもん読めるかよ……めんどくせぇ」
「お前の命がかかっているといってもか」
「……出来が悪けりゃ研究所送りってか?」
「向上心が全く見られんことにはな。各国の動きにも少なからず二人目が出たのなら一人は研究所へという声がないわけでもない」
「じゃあ、もう一人を送っちまえばいい……ていうか、なんで一人目は研究所送りにはならなかったんだ?普通に考えて二人目がでることなんて考えず、一人目を研究すりゃいいだろうが……」
男にとっては研究して、なぜ操縦できるのか、その因子が分かれば今の世界をまるっとひっくり返すことができる。学園に通わせるなんて流れになるのがそもそも不思議だ……散々な扱いを受けてきたカイジに人権という概念は薄い!
「……それを私の前で臆面もなく言えるとはな」
「はぁ?なんであんたに一人目のことで気を使わなきゃなんねーんだよ。知るかっつーの」
「私がだれかは知らないのか……?」
「知るわけねーだろ。いきなり部屋に入ってきて自己紹介もせずに自分を知らないのかって、どこの有名人だっての……首相かよ、あんた」
「はぁ……そうだな、自己紹介を済ませていないのが悪かったな……私は織斑千冬だ」
「こりゃ、どうも。知ってるだろうけど、伊藤開司だ」
呑気に挨拶をし返すカイジ。その反応をみて考え込む千冬であった。
「(私の名を聞いても無反応か、こいつニュースというものを全く見ていないのか……?)」
「っあ!あーぁ、あー。なるほどね、そういうこと。そりゃ自分の弟を研究所送りにしないのかなんて目の前で言われたら気分悪いよな」
合点がいったかのように手を叩き、うなずくカイジ。織斑千冬ってことは、ブリュンヒルデ、それ相応の発言力はあるということになる。それだけで各国の思惑を無視して自分の弟を学園に、ということができるのかは些か疑問だが、考えて答えがでることでもなかった。
「そういうことではない。が、どうにせよIS学園に通うというのならそこの勉学にはついていかねばならん」
「ま、つまるところあんたの弟と俺とで出来が悪い方は研究所送りっていう命をかけたレースになるわけか。だったらやらねぇわけにもいかないか」
「……弟とは仲良くしてやってくれるとうれしいがな」
「後ろ手にナイフを隠しながら……か?難しいだろ、そりゃあ。表立って争うなんて馬鹿な真似はしないけどな」
「わざわざそんなことを言えば私の不興を買うという考えはないのか……?」
「どっちにしろ選択の時が来たら、あんたは俺じゃなくて弟を選ぶだろ?」
「ずいぶんとひねくれているな、何があった」
「別に、なんにも」
にらみ合うカイジと千冬。当然カイジの身元調査はすぐにも行われている。都内の高校に通う高校生。しかし、5月からいじめにあいずっと不登校、ということになっていた。信頼のおける楯無に依頼しての結果、特に疑う理由もない。単純に黒服の、ひいては帝愛の裏工作が上回っていただけのことである。
目に前にいるのはいじめにあって不登校になっていた可哀想な男子生徒。ひねくれているのもそのせいか。だが、千冬はこの男から別のにおいを感じ取っていた。この男がいじめられて不登校になっていたはずがない。異端者、変わり者、常人とは違う千冬だからこそ感じ取れる、些細な気配。それが何を意味するのかは、まだわからなかった。