成層破戒録カイジ   作:URIERU

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解答パート


カイジ、交渉……!

学園内特別通信施設……防諜設備が完備された部屋……!

各国の代表候補生や専用機持ち……彼女らが自国と秘密裏に通信するための場所……!

そこにカイジ・千冬の姿……肝心なのは通信している、その相手……!

 

「さて、ご用件はなにかな?今は忙しくてね、手短にお願いしたいものだ。貴重な男性操縦者、伊藤開司君だったかな」

 

「どうも、あんたの名前は……別にいいか、お偉いさんなら……だれでも……」

 

「そう言われては気分が良くないな。私は連邦国防省、国防担当連邦大臣テオドール・ブランクだ」

 

「ご丁寧にどうも……で、あんたが忙しい様に……こっちも忙しいんだ……その悩みの種は……同じだろうが……」

 

「その悩みの種でお話しがある、ということかな」

 

「お察しの通り……ドイツは今回の落とし前を……どうつけるつもりだ……?」

 

「あれは我々が意図して起こしたことではない。犯人は別にいる」

 

ドイツ側としては……自身が犯人であろうとなかろうと……そう答える以外なかった……

 

「各国が真犯人を求めている……なんて寝ぼけたこと……ぬかすつもりじゃないよな……?」

 

「……それは」

 

そう、真犯人など必要ない……ドイツ以外は……!

 

「あんたも分かってるんだろ……?各国が望んでるのは……分かりやすい犯人だ……責任を取ってくれる、そういう奴だ……」

 

「そこまで理解していて何がいいたいのかね?わざわざ皮肉を言いに来たのかな?」

 

「ははっ、言ったろ……忙しいって……そんな暇はないさ……で、俺が持ち掛けたいのは取引だ……!」

 

「聞かせてみたまえ」

 

本来なら失礼な若造を相手に……時間を取る道理などないのだが……

自分自身に連絡をつけることができたこと……そして、カイジは……

今回の事件に関わりのある人物である……一笑に付す訳にもいかなかった……

 

「俺が欲しているのは……ラウラ・ボーデヴィッヒの身柄だ……そうだな、軍属を抜けさせ……自由国籍権を与えろ……そして、ドイツの代表候補生として……シュヴァルツェア・レーゲンを専用機にさせる……当然だが、そちらからの干渉は……最低限にしてもらう……こんなところか……」

 

「ボーデヴィッヒの国籍をドイツから外して自由にさせるだと!?冗談も休み休み言え!」

 

ボーデヴィッヒの特性……人体実験……生体操作……その申し子ともいえた……!

そんな人物を自国から野放し……危険極まりないことである……!

 

「口の聞き方に……気をつけろよ……今ドイツがどんな状況か……分かっていない訳じゃねぇんだろ……?」

 

「な、貴様、この私に……」

 

相手は十代の小僧……大臣を務める人間としては……到底容認できる態度ではなかった……!

 

「まぁまぁ……こちらから、そちらに与えらえるもの……せめてそれを聞きなよ……」

 

「……我がドイツにそのようなリスクを犯す利益を与えらえれる、とでも?」

 

途中で通信を切りたくもなったが……カイジが初めに話していたこと……

各国が事件をどう処理をつけたいのか……そして言い様からして……

ドイツが事件を起こしたわけではない……それを知っているようであった……

 

「あえて説明しておくが……現状のまま進めば……あんたらの第三世代機は……凍結の可能性すらある……VTシステムなんてものを……積んでたからこれは当然だな……しかし、凍結されるのは……各国があんたらのAICを研究してからになり……あんたらは技術アドバンテージを失う……コアとともに……!そして条約で禁止されているものを積んで……あのような場でお披露目する国だ……その権威は地の底まで……失墜するだろうな……」

 

「……そうならないために、今我々は奔走している」

 

そんなことは言われずとも……百も承知である……!

現在ドイツの関係省庁は……蜂の巣をつついたような騒ぎ……!

当然トップに立つこの男も……就任以来の忙しさであった……!

 

「あんたらに発言権が……ないなんてことは分かってるだろ……?各国の担当官を危険に晒した……テロ国家には、な……!そして何より、あんたらのせいじゃない……真犯人……黒幕がいるってことは……当然今も暗躍中ってこと……!俺が説明したことだけでも……十分致命傷だが、さらに何かを……される恐れまである……!で、ここからが本題……今さっき俺の言ったことを……丸々防いでやる……!そもそもだ……ボーデヴィッヒがあんたらの手元に……帰ってこれるなんて、思ってねぇだろ……?当然今回の首謀者……そうなるわけだから、当然拘束……!色々調べられて……太陽の下に出ちまう……!ってことになる……そういえばこれも……ドイツにとっては致命傷だったな……!」

 

当然、生体操作は倫理的観点から禁止……つまり全世界に自分たちの暗部が知られるのだ……!

最早再起不能の傷を負いかねない……正しく致命傷といえた……!

 

「貴様どこまで知っておるのだ……?」

 

「おっと、下手な勘繰りはよせよ……ただ、VTシステムを発動させた……ラウラのISと接触した際、不思議な現象が起きてね……ISってのは何が起こるか……分からねぇな……?そこで偶然、知っちまったんだ……!いやぁ、驚いたよ……空いた口が塞がらなくなるくらいには……!ところで、取引を飲んでくれるかな……?」

 

「極秘事項の守秘義務は、守ってくれるんだろうな?」

 

それが守られなければ、いずれにせよ致命傷……

現状よりははるかに安泰だが……確認せずにはいられない事項である……!

 

「わざわざボーデヴィッヒの……身柄を確保したってのに……それを危険に晒す理由はない……!もっとも、ドイツが……ボーデヴィッヒになんらかの……アクションを起こしたなら……その時は容赦しないけどな……!」

 

「分かった、要求を呑もう。秘密が守られるなら我がドイツにとってこれ以上ない取引だ。しかし、どうやってこの窮地を救ってくれるというのかね?」

 

そこが今回の問題である……普通に考えれば自分たちが犯人など……

見え見えのブラフであるが……各国が自分達が疑心暗鬼に陥るよりは……

分かりやすい犯人を祭り上げ……ドイツを食い物にするだろう……

 

「真犯人がいる……ということを俺は知っている……!VTシステムを先に……解析したからな……!そしてここには初代モンドグロッソチャンピオン……織斑千冬もいる……!彼女も証言に協力する……!つまり、ドイツ以外に犯人がいると……俺たちが証言しよう……!真犯人がだれか、までは現状不明だが……あれがドイツの意図ではなく仕組まれたこと……それは証明できる」

 

「な、まだ事態は収拾していなかったはずでは!?そして、織斑千冬までいて、何故君が交渉役を……」

 

VTシステムはまだ収拾していないこと……対外的にはそうなっている……

そのためVTシステムが解析されている……そんなことは露にも思っていない……

そして交渉役……当然、懐疑……疑念……彼女ほどの人物がいて……

齢15、6の人間に交渉をさせるなど……正気の沙汰ではない……!

 

「それは、俺がこの交渉内容の首謀者……そして時間……時間こそが重要……!つまり、説明している暇がなかった……!事態が収拾していないと……そう思わせている間に済ませる必要があった、この交渉は……!IS委員会の奴らも……全然事態が収拾しないことに……そろそろ痺れを切らし始めている……状況が状況だからいくらIS学園とはいえ……いつまでもIS委員会の介入を拒否もできない……黒幕も今頃VTシステムが解析されて……手がかりを掴まれてるとは思うまい……!本来なら、事態が収拾したらすぐ……IS委員会が接収して……その情報を黒幕が抹消……!そして、IS委員会の調査で証拠がなかった……そういうことにされて……ことを進められたなら……俺たちがいくら証拠を持ち寄ったところで……握りつぶされていたろうからな……!」

 

「君には一体何が見えているんだね?私もこの地位に上り詰めるまでに色々な策謀と戦ってきた。口では言えない汚いこともやって来た。君のような人間は見たことがない。その年で、一体……」

 

彼はただの一般人の……青年だったはずである……!

それが何故智謀知略に長けた権謀術数の最中……魑魅魍魎の陰謀……

その動きをこうも読み取れたのか……謎としか言えなかった……!

 

「まぁ、俺の事はいいじゃねぇか……些末な事だろ……あんたが要求を呑んでくれてよかったよ……そして、俺を裏切ろうと思うなよ……?誠実に対応する相手には……俺は絶対に自分から裏切りはしない……が、裏切り、偽り、誠意を忘れた相手には……一切容赦しない……!念のため言っておく……」

 

「裏切るような真似はしないと誓うよ。今回の事に関係する省庁にも、厳命しておく。いつか、飲み交わしてみたいものだな、君のような者と。おっと、失礼。まだ未成年だったな。全く末恐ろしい」

 

「ドイツのビールは美味いっていうじゃねぇか……!そうだな、今回の取引の条件にもうひとつ……俺がドイツに遊びに行った時に……そうだな、豪勢な肉料理とビールを振舞う……!ってこと、追加しといてくれ……!」

 

「っははは!お安い御用だ。全くもって面白い。この件が無事に落着したらぜひ来てくれたまえ。その時には君は国の危急を救ってくれた英雄だ。当然VIP待遇にしよう。で、私からすることはあるかね?」

 

「ともかく、現状はVTシステムについては不明……調査中……その一点張りだ……!あと気の毒だが、ドイツの担当官は死んでいるだろう……恐らくあんたらも担当官とは……連絡が取れないんだろ……?ならそこは普通に事実を公開してくれ……!今回派遣した担当官は謀殺されたということをな……!あとは俺たちの動きは知らぬ存ぜぬ……この密約も今回のステージの外側……!脚本の変更は……内側のキャストは誰も知らない……そういう運びで頼む……!」

 

「了解した。Auf Wiedersehen!」

 

交渉というより……要求を飲まなければ犯人にするという……

最早脅迫というべきものであったが……ラウラの身柄を確保する……!

そしてラウラという切り札を手元に持つ……!取引が終わった後でも……

ドイツに対しての致命傷を握っている……それを匂わせた……!

そのため、自らの要求を反故にはさせない、という形を取れるのだ……!

救出対象であるラウラを……一種の人質にしている妙である……!

かくして、交渉は成功した……

 

 

しかし、まだ仕事は残っていた……!

 

「で、最早お前が交渉していた内容には……今の私では突っ込めない……流れは理解できているが……しかし、な……」

 

ラウラのことを頼む……と言ったが、国家間の大問題を抱えた事態……

そんなことにまで発展するとは……流石に想像もしていなかった千冬であった……!

 

「おいおい、まだ仕事は残ってる……詭弁を押し通さなくちゃならねぇ……IS委員会に……あんたがな……!」

 

そう言われ……気を引き締めなおす……千冬であった……!だが

 

「それにしても教師の前で酒盛りの約束をするとはな……私も連れて行け……お前を監視しなければならない……!だが、ドイツのビールは美味い……だから、きっと私も酔ってしまって……お前に無理やり飲ませてしまうかもしれん……そして、明日には何があったか覚えていないだろうな……」

 

ちゃっかりとしている……千冬であった……!

 

 

 とはいえ、これからの仕事はそう難しいことではなかった。さすがにIS委員会の会議にカイジが顔を出す訳にもいかず、カイジもまた表立って活躍、関与していることを知られたくないために、千冬に事情を説明して一任した。

 

 そして、事の顛末。千冬はIS委員会にはVTシステムが何故発動したのか、その原因を調査し終えて今回の事件が収拾したという認識で報告を行った。彼らとはそもそも認識の違いがあるという体で進め、IS委員会が行おうとしていたVTシステムが発動している最中の強制突入、あるいは発動終了後すぐの突入、VTシステム接収という思惑を砕いた。

 

 当然これには反発もでたが、無用な勘繰りをされることを避けて追及を避ける国がほとんどであった。カイジは黒幕があぶり出せないか、今回の件に関係している国はないか、千冬に観察を頼んでいた。あくまで、観察である。あぶり出しを行おうとすれば、自分達が多くの事を知っている、知ったうえで今回のように動いたことがばれかねない。

 

 そのため、あくまで従順な、草を呑気に食べる羊に千冬はなった。結局尻尾を掴ませるほどの間抜けな狸はいなかったようだ。当然追及していた国の名前はリストした千冬である。ある種非常に危険な、それこそパンドラの箱を開けかねない情報ではあるが、カイジに渡すことを拒むことは出来そうになかった。ずぶずぶとぬかるみに嵌っていくことを認識しながらも千冬に手立てはなかった。

 

 そして当然のようにドイツは失態、何故このような事態に陥ったかの説明を求められた。ドイツ側は掴んでいる現時点での情報、それは自国が派遣したドイツの担当官、並びにそのSPと連絡が一切取れなくなっていること、完全に謀殺されたということを説明した。さすがにそうあっては各国もこれ以上の追及はできない。むしろ、謀殺したのはどこか、今回の件で利益を得るのはどこか、それらの腹の探り合いとなった。本来ドイツをやり玉に挙げて魔女裁判よろしくの一方的な処刑場であったはずが、一転して参加国同士が疑心暗鬼に陥る場となったのである。会議は正しく、ざわ……ざわ……とざわついたまま、無益な争いを続けることになった。もはやドイツからは完全に視線が外されている。今頃、黒幕が臍を噛んでいるだろうということを想像すれば、千冬にせよカイジにせよスカッとする思いであっただろう。

 

 これで説明を終えることにする。あとの部分は、各国の、無駄な言い争いを書き記すだけの無駄な文章になるからだ。だがこれで今回のVTシステム事件が解決したわけではない。なぜなら、黒幕が誰かが分からない以上、これが事件の幹なのか、それとも根なのか、私にも分からないからである。

 




解答としてのカイジの言う犯人とは、ドイツのことで、カイジ自身は仕組まれていることを知っていると話して、要求を飲まないならお前たちをそのまま犯人にするぞという「脅迫という名の交渉」でした。正直交渉というよりは飲まざるを得ない脅迫ですね。これにより「ラウラの身柄」をあくまで謀略に巻き込まれた被害者として各国の手から逃しつつ、ドイツの軍属、ドイツ国籍をも外させています。そして、ラウラ自身の身柄がドイツへ取引を果たさせる一種の人質でもあります。これがなければ、ドイツが犯人でないとなってしまった後は、もう約束を反故にしても大丈夫ということになってしまうのです。

専用機や代表候補生の下りは後日譚があるので、それをお楽しみください。

色々なご解答が頂けましたが、ラウラの身柄、という部分が抜けている形が多かったですね。またどうしても真犯人がだれか、という部分につながってしまう形でした。現段階では真犯人を特定するための情報は足りないようにしてあります。あきらかに臭い国(お分かりだと思うけど)はありますが、その国を追い詰めることができない理由もあります。

「この問題を起こした奴とな……!」というカイジのセリフがミスリードとなっておりますが、その後の千冬のセリフをカイジが否定する形で正解へ導くようにしてあります。

ご納得いただけたらなぁ、と思います

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