チフユ、救済……!
交渉のあった日……千冬は即座にデュノアを呼び出し……!
「デュノア、今から話がある。生徒指導室へ来るように。全てにおいて優先されることだ」
「は、はい。分かりました、織斑先生」
千冬の有無を言わせぬ態度……覚悟を決めるデュノアであった……!
生徒指導室内部
「さて、デュノア。何故呼ばれたのか、もし心当たりがあるなら自分から申し出ろ」
そう言われ、観念するデュノア……どうにせよ自分が助かる未来はない……
ここで素直に話そうとなんであろうと……彼女にはどうでもいいことであった……!
「は、はい。僕は、シャルル・デュノアとして男子として入学してきましたが、本名はシャルロット・デュノア、性別は女です」
「ふむ、それで?」
「僕はデュノア社社長、セドリック・デュノアの命令で、織斑一夏及びその第三世代機の情報を盗みに来た企業スパイです。入学してから数日後、織斑君にバレて、色々と話し合いました。そして、学園特記事項第二十一によって三年間は自分の身も安泰、その間にどうにかする手立てを見つけようと、そういう結果になりました」
「具体的には、その手立てというのは何も考えつかなかったのか?」
「はい、僕も結局その事項のことだけで安心してしまって、時間もあるという考えが気の弛みとなって、それ以上のことをしていません。新しく命令の変更が来た時に自分の危地を理解しました。もう週末には本国に帰らなければなりません。そして、もう帰って来れることがないということも、もう分かっています。一夏も案を出してくれていますが、もう手段が無いことも分かりました。僕も無理に助かるつもりはありません。今回の事が戦争すら起こしかねない、そう伊藤君に言われて恐怖しました。自分が助かるために戦争を起こそうとは考えません。一夏には自分の家の、フランスの醜い出来事に巻き込んだことを僕が謝っていたと、伝えてもらってもいいですか?」
シャルロットもすでに覚悟……というよりは諦めに近いものだが……
最早どうにもなくなり……諦めきった表情を浮かべていた……
「お前はそれでいいのか?助かる道を考えることをやめ、すべて諦めてもう死ぬことを、あるいは死ぬよりもつらい目にあうことを、受け入れられるというのか?」
「そんな、そんなことを言われたって、もう、どうしようもないじゃないですか!そもそも一個人がどうにかできる問題じゃない!自分が男として入学できた時点でフランス政府も関わっているんですよ!?どうやって、どうやって国の思惑を、その策謀から逃げ出せるっていうんですか!甘い蜜に縋ってしまった、それで貴重な時間をそのまま、失ってしまったことだってわかってます。でも、僕は、私はただ普通の女の子として過ごしたかった、それを受け入れてくれた人に縋って何が悪いんてすか!私はただお母さんと、一緒に暮らせてればそれでよかったんだ……!貧しくても、寂しくても、幸せだったんだ!ISのパイロットになりたかったわけでも、学園で、スパイ活動なんてしたかったわけでもない!でも、逃げられないじゃないですか!父もなく、たった一人の家族、母も死んで生きる術を失った小娘一人に、どうしろっていうんですか!こんなこと受け入れられるわけない!それでも受け入れるしかなかったんだ!もう、嫌だよ、誰か、誰か、私を助けてよ……!」
デュノアの心の叫び……若干15の少女が……権謀術数から逃れられるわけがない……
「助けられる、このまま学園にいられる、女の子として過ごせる、そんな道があったらお前はそれを選ぶか?」
「そんな、そんな夢みたいなこと、今更考えてなんかいられませんよ……」
自分自身が夢にまで見る生活……母との生活はもう実現しない……
それならば、ここでまた……幸せな生活を掴みたい……そう思うのであった……
しかし、そんなものへ逃げ込んでも仕方がない……未来はそう遠くない……
もう自身には妄想に逃げ込む猶予もないのだ……
「それを選ぶか?どうだ?」
「選ぶに決まってるじゃないですか……」
人生の圧倒的危地……五里霧中……四面楚歌……孤立無援……
もし、この窮地に救いの手……釈迦の垂らした蜘蛛の糸……
藁にも縋る思いのデュノアに……蜘蛛の糸に縋ることに何のためらいがあろうか……
「なら、助けてやる。デュノア自身の協力も必要だが、そう難しいことではない。数日の内にはお前は解放される。フランスからもデュノア社からも(全て伊藤の策、交渉、提案による結果。そのことをさも自分がやったかのように語るのは何とも胸糞が悪いな。しかし、伊藤からは自分は無関係、関与していないことにしろと言われてしまった。あいつ、私が無理やり酒を飲ませたことにして脅迫するなどなんて奴だ、逆だろうが!打ち上げの際に嫌というまで飲ませてやる!)」
「そんな、夢物語みたいなことって。一体なにが、なにをしたんですか?」
デュノアには信じられなかった……自分自身も必死に頭を回し続けた……
しかし、見つからない……打開策……全てを破滅に導く道を選んでも……
どうあがいても……自分の身は助かるすべがなかった……!
「お前は、フランスで薬物投与、洗脳されて、自分が男だと信じて入学してきたことになっている。だが、つい先日、自分が女であることをふと思い出し、今は一種の錯乱状態ということになった」
「へ?え?何を言っているんです?」
千冬の言っていることは自分の理解の外であった……!
「つまり、お前は入学してきたその時点で一種の心身喪失状態、自分の状態が正確に把握できていなかったということになるんだ。後日フランスよりそういった内容の発表がある。いまからその発表までは学校を休んでもらう。そして、お前が正式に女性ということになってから、学園に再入学させることになっている。それがお前の次の登校日、改め入学日となる」
「そんなこと、フランスが発表をするなんてあるわけないじゃないですか。僕を帰国させてその間に不幸な事故にあって消える。そうすれば私が女だったということも無くなる。それなのに、なんで」
デュノアとて自分がどうなるか……それくらいのことは分かっていた……
それによってしか、平和な結末が訪れないことも……だが
「戦争を回避しつつ、お前がこの学園にいられる唯一の策だそうだ。フランス政府と交渉して、こうなった。なので、今日から部屋を移ってもらい、私、山田先生以外との接触を禁止させてもらう」
「私の、知らないところで、そんなことが進んでいたなんて(唯一の策だそうだ?誰かから、教えてもらったってこと?織斑先生じゃなければ、今話に出てきた山田先生が考え付いたこと?いや、あの優しい山田先生が、こんな案を思いつくとは考え難い)」
デュノアも当然頭は回る……千冬の言葉尻を捉え……そこから推測……
誰がこの件に関わっているのであろうか……それを考えた……
「もう、安心しろ。お前はすでに助かっている。お前が協力してくれなければ、厄介な事にはなるがな……」
「それはもちろん協力します。できることは、なんでも。この件に関わっているのは先生方だけ、なんですか?それとも伊藤君がなにかをしてくれたんですか?」
デュノアとしては当然気にするところ……カイジに話をして数日の事だ……
「お前が一個人にはどうしようもないと言っただろう。一学生の伊藤に何が出来るというんだ?」
「いえ、それは……そう、ですね(でも、ここまで急に事が動いた、それは伊藤君に話してからのこと。伊藤君は前から先生が動いていることを知っていた。先生は気付いていて、色々してくれているという話みたいだった。でも、ここに来ていきなりここまで話が進むものなの?)」
疑問はあるものの……有無を言わせぬ千冬の口調には……流石に口を閉ざすデュノア……
デュノアはカイジの策に乗った……闇が晴れた
次の話にはラウラでるから、セシリアも。ようやく出番が回ってきた。
と、言いつつ一日一話、その話はまた明日。一夏君のところがなんか納得いかない。書いててモチベが上がらないのが一番の原因