前日の夜、千冬がフランスと交渉した日……
千冬はデュノアを寮の特別室へとその身柄を移していた……!
一夏には別室になると説明したのみ……それには千冬も考えがあった……
デュノアは錯乱、不安定な状態……現在はそういう扱い……!
外を歩かせるわけにはいかない……そして一夏を誘導する必要があった……!
が、一夏……千冬の予想を裏切り……面倒なことにカイジへ詰問……!
朝の授業が終わってすぐ……デュノアは1時限目を休んでいた……
故に不審……やはり昨日デュノアに何かがあった……!
千冬がデュノアの事を知って動いた……そしてデュノアのことを知っているのは……
「なぁ、カイジ!シャルのこと知らないか!?」
「……あ?今日休んでるけど、それがどうかしたのかよ……というかデュノアのことを知ってるのは……同室のお前だろうが……!俺に聞くんじゃねぇよ……」
こうなったのは当然カイジの指示……平然とニュースの流れる日……
その時に学校へ通っていたら不都合しかないのである……!
「カイジがシャルのこと千冬姉に喋ったんだろ……!?だから千冬ねぇがきn」
これ以上喋らせるのはまずい……そう判断したカイジは食い気味に返す……
「Fuck you……!ぶち殺すぞ、ゴミめが……俺は知らねぇっつってんだ……ごちゃごちゃ抜かすなよ……(弟の事を信じたのか知らんが……懇切丁寧に説明しとけよ……!)」
この場で一夏に不穏当な発言をされては……計画に狂いが生じかねない……
「っな、貴様一夏になんてこと言うんだ!」
「お前は外野もいいとこ……黙ってろ……!知らねぇ疑いかけられて……教室で大っぴらに……在らぬことを言われかねないんだぞ……!」
「でも、カイジ以外いないんd、っぐぅ!」
最早言葉では止まらないことを察知……顔に一発……!
ここは自分自身が泥を被るしかない……馬鹿げているが……
今回謀り、偽りをしている以上……下手なことになれば……
デュノアだけの身では済まない事態になりかねないのだ……!
「い、一夏!大丈夫か!?」
いきなり暴言、暴力に向かったその行動に皆の目が向いた……
実に単純だが効果的……デュノアのことよりも……
急に起こった一夏とカイジの喧嘩という形を演出……!
「いい加減にしろよ、てめぇ……物分かりが悪いにも程があるぞ……!戦争だろうが、疑っているうちはまだしも……それを口にしたら、戦争じゃねぇのかよっ……!」
呆然とするクラスメイトを背に教室を出ていくカイジ……
これで悪役は完全に自分になっている……
最早一々原因を探る、考えるのは布仏やセシリア、ラウラ……
そういった聡い者や、カイジに理解がある人間のみである……!
大衆はいきなり暴力を働いたカイジへの批難へ意識を向ける……!
あからさまな悪行があれば……その根底になど目を向けないものだ……!
教室から出ていき廊下を歩くカイジ……そこへ千冬が声をかける……
「おい、伊藤……もう授業の時間だぞ。どこへ行く……?」
声を聞いたカイジ……千冬へ掴みかからんばかりの勢いで……千冬へ歩み寄る……!
「飼い犬にはちゃんとしつけをしとくか……人に嚙みつくなら首輪をつけとけ……!教室でデュノアの事を平然と……騒ぎ立てようとしやがったぞ、あのぼんくら……!今回の事、まだ成功した訳じゃねぇ……下手こけばあんたも学園そのものも……危ういことを行ってんだぞ……!あんたにどんな意図があるかは知らねぇけど……明日までに躾けとけよ……!もう今日は俺は休む……気分が悪いからな……!」
一夏自身の言動が不穏当、不適切であったら……疑いをかけられかねない……
現状ほぼほぼ詰ませているが……それでも万が一がないわけではないのだ……
「(一夏よ、少しの間だけでも待てないのかお前は……教室で伊藤を糾弾してそれでどうなるというのだ……後先を考えなさすぎる……それも私に伊藤が迷惑をかけたと思って行ったのか……いや、だがこれはまずい……それで済む問題ではない……)すまない、私の思慮が浅かったようだ……今日の放課後には話をつけるつもりだったが……」
言いさして、何かを考えはじめ口を紡ぐ……そして次に出てきた言葉は……
「ほら、私の部屋の鍵だ……部屋にある酒は好きにして構わん……本当にすまない……」
そう言いながら一つの鍵を投げ渡す……まさかの千冬の部屋の鍵……
「……は?あんた、何言ってるか理解してるわけ……?」
「私に今できる……今見せられる誠意というやつだ……明日までには一夏のことは必ず話をつける……」
「あんたがいない時に部屋に入るの見られたら……殺されかねないっての……!まぁ、納得は出来ないが理解はしてやる……明日、織斑が噛みついて来たら……そうだな、何をしたもんやら……!」
投げ渡された鍵を再び投げ返す……その顔にはあくどい笑みが浮かぶ……
「……う。頼むから変な気は起こさないでくれ……では、授業の時間にもう差し掛かっている……うろちょろ出歩くのはやめろよ……」
「はいはい、俺も面倒ごとは避けますよ……じゃ、頑張ってな……」
そう言い呑気に……到底授業を休むとは思えない足取りで帰っていくカイジ……
それを見ながら千冬、溜息……なぜ、こんなことに……
そして、放課後の一件……それがより重大事となってしまった……
せめてもで、一夏がカイジに……噛みつかないようにしなければ……!
放課後、千冬によって呼び出された一夏……呼び出したものの話を始めない千冬……
それに痺れを切らしたのか一夏から口を開く……
「千冬ねぇ、一つ聞きたいんだ。シャルはどうしたんだよ、昨日夜連れて行ったきり、今日は一日学校休んでるし!」
当然、訝しむ一夏……彼とて流石に考えない訳ではない、最悪の事態……!
そして、それを引き起こしたのがカイジなのでは……という疑念……
とはいえこれは疑い……教室で殴られまでしたのだ……
カイジが本当に千冬に告げ口をしたのか……そう思い込むわけにもいかない……
ある意味デュノアがいなくなったのは……カイジのせいではあるが……
「織斑先生と呼べと何度言ったら分かる……で、それがどうかしたのか?デュノアにはデュノアの役目がある……それだけだ」
明言はしない……ぼかす……どうとでも意味が捉えられるように……
「な、シャルをフランスに帰したってのか!?」
疑念が確信に変わった……シャル、カイジの口ぶりからすれば助からないこと……
それは一夏ですら分かった……だが、まだ数日は猶予があったはずなのに……
「おかしなことを言う……デュノアはフランスの代表候補生だ……自国に帰ることのどこに問題があるんだ……?」
「いや、その別に……急すぎないかって」
一夏のセリフも最も……だが、千冬はあえてずらす……話の本題……
それを自分からあまり誘導していきたくはないからである……!
「確かに、代表候補生は一度夏休みの時期に戻るのが普通だな」
「だったらなんでシャルをフランスに帰したんだよ!」
「お前もおかしなことを言うな……確かに異例だが、問題はない……コア情報を持ち帰ることは代表候補生、専用機持ちの義務……いわば役目、仕事だ……何をそんなに気にしているんだ?」
そう、これは至極当然の流れ……デュノアがフランスに帰ること……
それは、役目を果たしに帰るだけなのだ……そのことへ他者が口を挟む権利はない……
「気にしているっていうか……その、いきなりルームメイトがいなくなって、帰ってこなかったら心配するだろ?」
「それだけか……?」
一夏には言うべきことが……千冬に話すべきことがあるはずなのだ……
千冬はあえてはぐらかしてきた……自分から恫喝……脅せば……一夏は口を割る……
それゆえ、その手は最終手段……自ら口を割ることに意味があるのだ……!
「え……」
「それだけなら、お前にデュノアのことを気にする資格はない……!」
一夏が今回絡んでいる問題は命に直結したこと……生半可に関わるべきではない……
それが解決できるかどうかはさておいても……一度関わったなら誠心誠意……
自らにできることを全力でやってこそ……その先を知る権利があるのだ……!
「な、何を言ってんだよ!シャルは友達なんだ、それを心配するのに資格だのなんだのって……」
「……一夏、私に話すことはないか……?」
千冬もそろそろ痺れを切らし始めた……流石に誘導してでも……喋らせる必要がある……
「話すことって、急にどうしたんだよ」
だが、一夏とぼける……それとも本当に分からないのか……おろ……おろ……!
「何でもいい……何か話すことはないか……?」
「な、何でもって言われても……」
「もしないなら、お前にはデュノアの事を知る権利はない……」
もし、ここで自らに何も話せないというのなら……最早デュノアの件に関わるべきではない……
元々の事態が重すぎたこともあるが……一夏は全力を尽くしたとは言い難い……
「そ、それは……」
「一夏!」
威喝……恫喝……威圧……萎縮が目的ではないが……真剣な時であることを知らせる……!
一夏には危機感……最早デュノアが手遅れとなった……今更ながらすぎることだが……
それでも、例えそうでも……いい加減、だんまりは許されない……!
「は、はい!」
「私に、話すべきことを話せ……お前にはその責任、義務がある……これ以上言わせるなよ……?」
さしもの千冬……我慢の限界……今回の事態はなあなあで済ませることはできない……
デュノアが助かったことを変に勘違い……そうなれば目も当てられない……
手遅れな事態に一夏がなることだけは避けたい千冬であった……!
「ち、千冬ねぇ……分かった、シャルのこと。シャルのことで話したいことがあるんだ」
ようやく、ようやく喋る気になった一夏……あまりに遅すぎるその決断……!
デュノアが謀殺され……その後千冬に散々に責め立てられたのち……ようやく……
遅すぎる、その決断……現実には千冬に相談していても……千冬自身既に動いていた……
そしてカイジがいなければ助からなかっただろう……それを考えれば話していても……
デュノアが助かったわけではない……だが、それはデュノアの話……一夏の事とは別なのだ……