カイジ、臨海……!
ここはバスの中……臨海学校でお世話になる花月荘へ向けて生徒を移送中……!
「見て見て、海!」
「おー。天気もいいし、綺麗な海が見えると一気にテンションあがるよねぇ!」
「そろそろつくってことだよね!長かったなぁ」
その声を聴きつつも、カイジ憂鬱……!当然、手袋を外すこともできなければ……
耳にかかった長髪もそう簡単に上げることはできない……!
そこには残る……生々しい傷跡の縫合痕……!海は鬼門である……!
「カイジさん、こちら、イギリスのスコーンですのよ。食べていただけませんこと?」
「あぁ……ありがとよ……」
サンドイッチ事件より……何くれとなく……お菓子や料理を作ってきているセシリア……!
しかし、今は別の焦り……というのも、急激にラウラが近くになった……
そして、シャルル改めシャルロットも……どこか気にしているように見えるのだ……!
今まで敵がいなかった分……セシリアの焦りは当然とも言えた……!
「ど、どうですの?うまく焼けるようになってきたのですけれど」
「(喉が渇いていく……このパサパサが口の中の水分……奪っていきやがる……熱気に包まれたバス……揺られること2時間の終わりに……これはきつい……)サクサクしてて……いいんじゃないか……」
「ほら、カイジ君。キンキンに冷えた泡立ち麦茶(ビール)いる?喉乾いてるんでしょ」
逆だ、逆……カイジの欲求を的確に判断……ナイスアシスト……
「お、デュノア……気が利くじゃねぇか……!ありがたく、頂くぜ……!」
「(や、やらかしましたわ!このタイミングで喉の乾くスコーン!最早嫌がらせの類でしたわ!そしてシャルロットさんのカイジさんの心情を的確に読んだサポート!やはり……!)す、すみませんでしたわ。喉が渇く食べ物でしたのに飲み物の用意もせず!」
「別にいいって……悪気はねーんだろ……?こんなことで怒ったりしねぇよ……」
許してやろうじゃねぇか、寛容な精神で……というほどのことでもない……
「セシリア、僕も一つもらってもいいかな?」
「わたしも欲しいな~。イギリスといえばスコーンだもんね~」
「え、えぇ、構いませんことよ。シャルロットさんも布仏さんもどうぞ」
「(デュノアは本当に気遣いがうまいもんだ……そして布仏は菓子があると……どこからともなく現われやがる……)」
デュノアもただ自分の好感度を上げるためだけではない……セシリアの事もフォロー……
周りが円滑に行くように……空気を読んで適切に行動できる……デュノアであった……!
そして数分の後……遠くの海辺に旅館が見える……目的地、花月荘……!
「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ!」
千冬の掛け声で即座に席に着く生徒……誰も逆らうものはいない……!
そして言葉通り、到着……今回の校外実習の地、花月荘……!
「ここが今日から三日間お世話になる花月荘……!全員、従業員に迷惑をかけないよう注意しろ……!」
「「よろしくお願いします!」」
みな、礼儀良くあいさつ……!基本故に教育は行き届いていた……!
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね。今年もみさなん元気があってよろしいですね」
椎名実心……花月荘の若女将を齢30で務めるしっかり者……!
「こちらが、噂の……?」
去年までは当然いなかった男子生徒へと目を向ける実心……!
「えぇ、今年は男子がいるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」
「いえいえ、旅館にとっては普通の事ですから」
とは言うものの女子200人越えに男子2人だけ……予定を組むのは骨が折れることである……!
「それではみなさん、お部屋の方にご案内します。海に行かれる方は別館で着替えられるようになっております。場所が分からなければいつでも従業員にお聞きください」
女子一同、お待ちかねの海……!バスに揺られ失われた体力も即座に回復……!
皆元気よく、旅館へ入っていくのであった……!
「そういえば~、かーくんの部屋ってどこなの~?おりむーと一緒だとは思うけど、一覧になかったんだよね~」
その質問に当然聞き耳……周囲の女生徒たちの気にする……目当ては織斑……一部カイジ……!
「(そういえばまるで気にしていなかった……織斑と同室は、雰囲気がよくねぇが……仕方ないだろうな……)さぁ、な……つい先週まで予定すら知らなかったんだ……部屋割りなんて気にしてねぇよ……」
現状わだかまりは抱えていないが……一人部屋のほうがありがたいカイジ……
「む~、行事はちゃんと把握しておかないとだめだよぉ~」
「そうですわ、対抗戦やトーナメントのことはちゃんとされているからまだいいですけれども」
「(正直研究所送りはあまり、心配はしていない……ドイツに取引ではあるが一応の恩は売った……フランスの弱みは握っている……こっちはあんま使えないが……だが、まだ……俺自身の体を直接狙ってくる人間がいる以上……成績云々だけでなく……自らの腕を、あげなくちゃならねぇ……!そいつらには言葉は、通じねぇからな……)まぁ別に俺が把握してなくても……困ることはないだろ……部屋がない……なんてことはないだろうしな……」
なければ床でもどこでも寝れる……地下暮らしで得た忍耐力とでもいうべきか……
厳しい環境に対する適応力は非常に高くなっていた……!
「む~そういうことじゃないんだけどなぁ」
「なぁ、織斑先生……俺の部屋って、どこなわけ……?書いてないらしいんだけど……」
しおりに書いていないのなら……把握しているのは千冬か真耶のみ……
布仏にしてもそれには気付いているのだろうが……流石に聞けないようだ……
「自ら書いてなかったと、どっちも聞きに来ないとはな……なぜそういう所は抜けているのだ……」
一夏にしてもカイジにしても……普通は気に掛ける自らの部屋……
それを全く確認することもなく……把握しようともしていない姿に呆れる千冬……
「織斑、伊藤。お前たちの部屋はこっちだ。ついてこい」
「先生自らご案内とはご苦労なこって……書いといてくれりゃいいものを……」
理由は分かっていながらも……嫌味ったらしく挑発するカイジ……!
「わざわざ言わなくても分かることを……説明させるつもりか……?」
千冬もカイジの煽り癖は把握……一々いらだつこともなく返す……!
「っはは、なんのことだか……」
「??」
一方一夏は分からない……なんのことだか……おろ……おろ……!
「ともかく、黙ってついてこい」
そうして案内された部屋……ドアには教員部屋とわざわざ張り紙……!
つまり、同室……教員と……!
「織斑はここで私と同室だ……最初は個室だったが、絶対に就寝時間を無視した女子が押し掛けるだろうからな……そして、伊藤はこの隣、お前は個室だ……!私の隣の部屋へ……押しかけるほど勇気のあるやつもいないだろう……」
これは千冬なりの配慮……自らの弟とでは居心地もよくないであろうという……
千冬としてはカイジから学んで欲しいことはなきにしもあらず……
しかし、ラウラ、デュノアの際の交渉や提案の内容……カイジとあまり関わらせすぎるのは……
一種の毒……危険な事ともいえ……見極める時間が必要とも感じていた……!
なにより、一夏があのような搦手……それを受け入れるかどうか……
「へぇ~、そいつはありがたいこって……一人でお気楽に楽しめるってわけだ……!」
1人部屋なら……飲むことも可能……備え付けの冷蔵庫からビール……!
早速下の売店で焼き鳥……ポテチ……柿ピー……購入を考えるカイジ……!
「……部屋に備え付けの冷蔵庫……その中の炭酸飲料は……外してあるからな……!残念ながら……!」
しかし、お見通し……!というよりはそもそも各生徒の部屋からも……
炭酸飲料はすでに取り外されている……!普段はまずしないことでも……
環境の変化……気の弛み……大勢の友達と過ごす夜……簡単にタガが外れるのである……!
「……っち、抜け目のないこって……ソーダとか好きなんだけどな、俺は……あの喉越しが……!」
「ふん、そいつは悪いことをしたな……下の売店で買えるといいな……買えるものならな……!」
当然のことだが、生徒に炭酸飲料を売ることはない……!売れば大問題……!
千冬としても自分と二人で飲む場合なら……誤魔化しがきかないこともない……
しかし、外でやられると流石に洒落にならないのである……二人でも洒落にならないが……
カイジの目論見は……藻屑の泡となった……カイジ、無念……!
カイジは一人部屋の中……窓から外を眺めていた……!
海に行くことはできない……出たとしても水着に着替えることすらなく……
ただ、暑い中パラソルの下にもぐることしかできないのである……!
「学園内じゃそうそう……一人にもなれなかったからな……寮の方も個室にしてくれたら、便利なんだがな……織斑と同室は……勘弁してほしいが……」
今はシャルロットが女生徒となったため……部屋の変更が考えられている……
そうなると自然、男性同士の部屋となる……はずだが、カイジの知る由はないが……
当然防衛上の観点から、これは危険……それぞれに個室を与えるか……
どのような形で落ち着かせるか……教職員で議論がなされていた……!
「隣が騒々しくなりやがった……織斑のところに押しかけてるのか……全くお忙しいこって……」
自分には関係の無いことと決め込み……再び外を眺めるカイジだが……
当然、ノック……自らの部屋にも無慈悲に……闖入者……!
「居留守、と決め込むか……そのうち諦めるだろ……」
カイジはすでに鍵をかけていた……居留守一択……!
「カイジさん、わざわざ鍵をかけてるのは着替えてらっしゃるんですの?」
「カイジ君、いるのは分かってるんだよ!」
「師匠、中から人の気配がするぞ!」
三者三様の言葉……だが、そのセリフから分かるのは……
カイジが中にいるということはバレバレ……分かっているということであった……
何度かノックして出ないことに諦めたのか……部屋の前から遠ざかる気配……しかし
「おい伊藤、私は防衛上の観点から……生徒達の部屋の鍵を預かっている……自分から開けるか……私に開けられるか選べ……!」
本来の千冬なら……このようなことに関わりにいくことはまずない……
しかし、ラウラの言葉……悲しみに染まった瞳……上目づかいで
「教官……師匠が部屋のドアを開けてくれないのです……嫌われてしまったのでしょうか……?」
千冬は激怒した……かの残虐非道なカイジに引きこもりを許してはならぬと決意した……!
提案したのはデュノア……計算ずくの女……!糸を引いていた……!
観念して、鍵を開けるカイジ……!そこに待つ2人の修羅……言葉には出さずとも……
態度からは怒りがにじみ出ていた……しかし、ラウラは安堵の様子……やはり、いい子……!
「師匠、ぜひ見て欲しいものがあるのだ!海へ行こう!」
「わたくしもカイジさんに選んでもらった水着をお披露目致しますわ」
「あ、いいなぁセシリア。今度はみんなで買い物に行こうよ!って、今は海!こんなに天気もいいんだし、部屋に閉じこもってなくてもいいんじゃない?浜辺も気持ちいいよ!」
あくまでも無邪気なラウラ……当然一緒に買った水着を見せたいセシリア……
浜辺の良さを訴えるデュノア……三者三様の性格が表れていた……!
「いや、俺は……そう、カナヅチ……泳げないから海は苦手でね……みんなで楽しんできてくれないか……?」
「(絶対に外さない手袋……思いついたような言い訳……とはいって、それなら海に入らなければ……問題はないだろう……)伊藤、ビーチパラソルくらいなら用意されているぞ……なに、無理に海に入れとは言わん……3人もこうして誘いに来てくれているのに……断ると言うのか、貴様は……?」
「……しょうがねぇな……海には入らねぇからな……?」
渋々ながらも……海へ向かうことにしたカイジであった……!