海辺を離れたカイジ……当てもなくふら……ふら……と道路をふらついていた……
自分がいるべき場所との違い……お日様の当たっていい体なのか、どうか……
自分自身の断ち切れない過去……人は過去から逃れることはできない……!
ふと、道路に見慣れない何か……不審な物体に気付く……
「……?なんだありゃ。忘れ物か……?」
道端に落ちている……人参……だが、巨大……!人間サイズ……!
不審に思いつつも近づくカイジ……その背後から突如陽気な声がかかる……!
「やっほやっほ~、天才束さんだよ~ん!」
「うわぁ……!なんだ、あんた。どっから出てきた……!」
「細かいことはドンウォーリー、気にしな~い!」
くる……くる……と回りながら陽気に笑う女性……
「(うさ耳のいい歳したコスプレ女、いくらなんでも痛すぎるだろ。布仏でもギリギリなライン……)」
どうみても不審人物……カイジや黒服たちとはまた違った……異様な人物であった……!
歳の事を考えていない……痛々しいコスプレ女……!
「む~、その顔は失礼なことを考えてるね!制裁……!」
「おわぁあぁぁぁ……!」
その時、カイジに電流走る……!
「い、いきなり何しやがるてめぇ……!」
「むっふっふ~、束さんは~かーくんに聞きたいことがあって来たので~す」
まったくこちらのことを意にも介さず……マイペースに話を進めていく女性……
そして、こちらのこと……自分のことを知っていて来たようである……!
「……!」
「そう警戒しないでほしいな~!私の事を知らない人間もこの世界にはいないけど、かーくんもおんなじようなものなんだしぃ~」
「(天才束……IS開発の博士がこんな破天荒なやつなのかよ……!?)」
当然映像として見たことはあるが……実物のインパクトは強烈……!
「よ~やく私がだれだかわかったみたいだねぇ~。存外頭の回転鈍いのかなぁ~、期待外れかも~?」
「そりゃ、だれでも期待外れ……あんたみたいな規格外とくらべちゃ……!」
世の中を逆転させたとも言える超兵器……ISを一人で開発したなど規格外もいいところ……
常識から外れた……バグのような存在とすら言えた……!
「ふふーん、それがそうでもないんだなぁ。天才だから観測できない、凡人だから観測できる世界ってのもあるもんでねぇ!」
「何が言いたい……?」
最早束は狂人と言われる類……言葉の端々だけではまるで意味がつかめない……
「たくさんの亡者の群れに絡まれてるってどんな感じだった?多くの仲間の死体を乗り越えて、見えた世界ってのはさ!」
「……!」
抽象的な表現にされているが……カイジには束が何のことを言っているか……
理解できない訳がなかった……自分自身が歩んできた道……多くの仲間の骸……!
「感じなかった?今いる世界とのずれ、本来自分がいちゃいけない世界にいる気分ってどんな感じ?」
束にもあった……天才が……天才ゆえに……周囲とのずれ……!
理解できなくなっていく……凡庸な者たちを……認識できなくなっていく……!
感じていた……自分がいるべき世界は……違うのだと……!
束からすればカイジは凡庸……その過去を調べて率直にそう思った……
しかし、ある時を契機に……凡庸から自分とは違った種の……天才になったと感じたのだ……!
今いるIS学園に……天才としての違い……なによりも血生臭い世界から……
学園生活の落差……違和感を感じないはずがない……そう踏んだ束であった……!
「ほらほら、思い出して……!船の中で地の底へ送り込まれていく人たちの顔を……!命綱もなしで落下していく人達の断末魔の叫びを……!自らの耳を指を切り落とした時の痛みを……!」
「やめろ……やめろ……!」
カイジのトラウマを抉っていく束……カイジが変貌する一番のきっかけになった……
そう考えている鉄骨渡り……そのことを深く思い出させていく……!
「正に、今……!死に行く人たちは、どんな顔をしてた……!ほら、あの時のことを鮮明に思い出して……!落ちていく仲間にどんな言葉をかけていた……!?」
「あ、あぁ……石田さん……佐原……中山……太田……!俺は……俺は……」
9人の名前、それは今でも覚えている……彼らが絶望の淵に立ち……
自らに救いを求めてきていた時の声を……錯乱して自ら死に行く者を……!
助け合おうとしたのか組み合い……ともに落ちていく者を……!
カイジを思い、声もなく……恐怖に抗って落ちていった者を……!
助かったと安堵して……そこから絶望を叩きつけられた者を……!
「さぁさぁ、そこで何を見たの……!みんな、見たものがあるんでしょう……!生き残りはかーくんだけ……!私に教えて、何を見たのか!」
そこで見たもの……それこそが束の追い求めるもの……
恐らくあの時あの場にいた者たちが一様に見たもの……得たもの……!
死を受け入れた先で……カイジが手に入れたと思われるもの……
死から逃れることのできる……そんな力の源泉……それがどこにあるのか……!
「そこまでにしてくださいまし!どこのどなたかは存知あげませんが、あまりにも悪趣味でしてよ!」
カイジのことを追っていたセシリア……途中見失って時間はかかったが……
ついに追いついた先……そこにはうずくまり咽び泣くカイジ……!
そして、その近くには楽しそうに話しかけ……歪んだ笑みを浮かべる女性……!
何が原因か分からないが……容易ならざることなのは一目でわかった……!
「む、有象無象が入りこんでいい場所じゃないんだよ~!出てった出てった!」
「セ、セシリア……?」
「カイジさんから離れてくださいまし!警告は一度きりでしてよ!」
現状は分からぬ……分からぬが、最早違反は承知の上でISを展開……
生身の人間にも構わず武器を向けるセシリアであった……!
「あっはははは。わたしが天才束さんと知っての狼藉かなぁ?IS開発者の私にISで敵うと思ってるのかなぁ!」
「やめろ、セシリア……!こいつには無駄……逆らうな……」
「そーそー、君のISなんて私にかかればちょちょいのちょいなんだから~!」
言うや否や何やら空中にディスプレイを投影……操作をし始める束……!
10秒も経たぬ間にセシリアのブルーティアーズが強制的に解除される……
それにセシリアは驚くも……それでも引きはしなかった……!
「ISが使えなくても、ISが相手でも引く気はなくってよ……!」
それがセシリアの本音であった……敵わぬと知っても、引けぬ時であった……!
「そこまでする相手じゃない、俺は……違うんだ、お前たちと住んでる世界……本来光が当たる世界にいちゃいけない……俺は……」
「カイジさんの過去に何があったかは存じ上げませんわ。教えてくれないんですもの。でもあなたのことですわ、どうしようもなかったのでしょう?逃げ場がなかったんでしょう?あなたはどんな状況でもその優しき心に従ったはずですわ」
「違う……!初めはどうしようもなかったさ、逃げられなかった……!でも、この指だけは……俺が、進むことを選んだ……!自ら裏の世界へ、足を踏み込んだ……!その代償として、指を失った……金と引き換えに……!引けたんだ……!引くことができたのに、引かなかった……!だから、これが境界線……俺とお前たちの……!」
本当に倒すべき相手のために……前に進んだカイジではあったが……
金への欲望が一切なかったかと言われれば……それは嘘である……
復讐とも欲望ともつかぬ感情……自らに言い訳はできなかった……!
カイジは初めて手袋を……セシリアの前で外した……!
それを見たセシリアは痛ましい表情を見せたものの……構わずに言う……
「……戻って来られますわ。人はミスをするもの、でもやりなおせますわ。あなたがわたくしやラウラさんにチャンスをくれたように」
ラウラとの間になにがあったか分からなくても……セシリアはいまのラウラの変化……
それをプラスと捉えていた……以前のラウラが悪い……とは言わないが……
それでも今のラウラは楽しそうに……年齢相応の少女のように楽しんでいるのだ……
「蹴落としてきたんだ……救いきれない者は地下へ……今生きてるかもわからねぇ……俺が進むことを決めたせいで……死んだ者たちがいる……あの時俺は……誰一人救えなかった……」
あの9人は死んだ……間違いなく……もうこの世にはいないのだ……
多くの者が躊躇っていた中……先陣を切ったのはカイジだった……!
カイジが先陣を切らなくても……だれかが切っていたかもしれない……
それでも、先陣を切ったのはカイジ……人が死んでしまった以上……
仮に、などという話は何の意味も持たない……人は仮には死ねないからだ……!
「それでも救える限り、救ってきたのではありませんこと?三好さんが言っておりましたわ。カイジさんには返しても返しきれない恩がある。どうかよろしくお願いしますと。あなたが救った方もいるはずです」
レゾナンスで出会った三好……セシリアはすこしだけ三好と会話する機会を得た……
その時大袈裟な物言いとは思いながらも……三好の言葉に嘘はないとも感じていた……
そして、いまここに来て……自分の計り知れない何かがあったことを知った……!
「裁いたんだ、俺は利根川を……死んだ仲間たちのためとはいえ……俺はただ謝らせたかった、ただそれだけだったのに……受けた、制裁……地獄のような永遠の十秒間……俺は無性に気になってあいつの行方を追った……病院で、一人きり、狂ってた……!俺や看護師を、部下と間違えて……海老谷、お前は焦りすぎ、自分のペースでいいから、できることをやれって……いい上司……悪魔のようなやつだったけど……それでも……人間だったんだ……そんな人間を壊したんだ……俺が……!」
利根川は正しく……悪魔のような奴であった……それは否定できないが……
それでも……人間性を持った人間であったのだ……
到底割り切れるものではない……すくなくとも、人間性を失っていないなら……
自らが壊してしまった人間を見て……何とも思わない訳がないのだ……!
「キリストの言葉にこんなものがありましてよ。裁く者は裁かれる、裁かない者は裁かれない、許す者は許される、許さない者は許されない。カイジさんは仲間を葬った者を裁いた、そしてその姿に裁かれた。目を背けず自ら自身を裁いたのです。カイジさんは許してくださいました。わたくしを、そしてきっとデュノアさんやラウラさんのことも、許しました。あなたも許されてよいのです。自らを裁き、許す者よ。例えあなたを許さない者がいたとしても、わたくしがあなたを許します。ですから、どうか、この手をお取りになって」
「お、おれは……俺は……許されて……いいのか……?こんな傷だらけの……血に塗れた手で……憎念の纏わりつく体で……光の当たる世界へ……!」
「わたくしが受け止めます。あなたの優しき心はこちらにあるべきですわ。光と共に」
「う、うぅ……セ、セシリア……俺は、おれは……」
手を取るカイジ……ぼろぼろに傷ついたその手で……
カイジの闇は晴れた
実はこれがこの作品の一話。すべての話に先駆けて書かれたという意味での第一話だったりします。ここに来るまで62話、ずいぶん使ったものである。これを書くにはもうすこしセシリアを掘り下げとかんとあかんかったかなぁ、でもまぁようやく第一目標クリアってことで。