「ぶー、ぶー。この天才束さんを置物にするなんて、神をも恐れない所業なんだよぉ~!」
途中から完全に置物と化した束……当然不満、しかし空気を読んだ……
カイジ自身にあまり干渉はしたくないためである……
「うっ……そういや、まだいたんだったな……あんた……」
「まだいた!?あんた!?ほんとーにびっくりなんだよ、かーくんは!でもまぁいいや。わたしが単純に聞きたかったのはぁ、死神を見たかってことなんだよねぇ」
とはいえ、自身の目的……それは達成しなければならない……
今回わざわざ自分が出てきた理由は二つ……箒に専用機を渡すこと……
そして、カイジの持つ力の源泉……それを探ることである……!
「死神……?」
「そ、死神!みんな見たんでしょ~?生き残ってるのはかーくんだけだけどね~!」
束の読み……カイジの持つ力はあの時全員が発現したが……
だれも生き残れなかった……つまり死が発現のトリガーのはず……
だが、カイジだけはその死に抗った……ゴーレム戦ではその力を利用した……!
カイジ自体はそれを意識してないようだったが……
「見たさ……俺にも現れた、死神……!」
「おぉ~!どんなのだった?気になるんだよねぇ、この束さんでも存在証明できないしぃ!」
「百聞は一見に如かず……あんたも見てくればいい……きっとあんたのところにも姿を現すさ……」
きっと、あれは経験しなければ……決して分からないことであろう……
あの時に見た死神はただの幻覚であったはずだが……それを見たいというのなら……
自分の身を賭して……あの鉄骨を渡り切る以外に方法はなかった……
「おぉ!灯台元暗しってやつだねぇ!自分で見に行くことは考えなかったなぁ。でも、うぅーん、魅力的な提案なんだけどぉ、無駄だと思うんだよねぇ」
「……?」
「だってぇ、束さんったら脳みそだけじゃなくて、体も細胞単位でオーバースペックだしぃ、あの程度じゃ駄目かなぁ」
束にはあの鉄骨を渡り切るなど……全く造作もないことである……
ISなど用いなくてもいい……生身で鼻歌交じりに渡る自信がある……!
「じゃ、あんたは死神とは無縁だよ……一生見れねぇって……」
束はどう見ても鉄骨渡りのことを知っている……それも人の話に聞いた、とかではない……
恐らくあの光景は録画でもされていたのだろう……そうでなければ説明がつかない……
そして、あれを見てもあの程度……カイジには目の前の女に死が訪れる……
死神がその首を狩りに行く姿が……寿命以外ではまるで見えなかった……!
「それは残念だなぁ!かーくんの脳みそのHDDに残ってないかなぁ、調べたいんだけど!」
「そいつはごめん被る……!」
慣れない学園生活をしながら……どうにか研究所送りを回避してきたカイジ……
こんな興味本位……死神が見たいなどという理由で捕まっては堪らない……!
「ま、かーくんはこの束さんをしても興味の沸く観察対象、重要人物だからさ!手を加えない、天然のままにしときたいんだよねぇ。だから、手は出さないよん!」
そうであるならそもそも目の前に出てくること……それもご法度であるはずだが……
科学者故の興味……探求心……それらには抗えなかったようである……!
「そりゃ、よかった……しかし、俺なんか観察しても……何も面白くねーだろ……」
「うふふふふふ、いまのところかーくんくらいかな、この世の真実にたどり着けそうなのは!」
「この世の真実……?何意味分かんねぇことを口走ってんだよ……」
この世の真実だの真理だの真相だの……それらは全て言葉遊び……
科学者として何らかの探求の末……それらに辿り着きたいのか……
「いずれ辿り着いてもらわないとね、この束さんでは辿り着けない真実に!そして、かーくんには大事なお役目があるのです!」
だが、束が辿り着けない……つまり科学的なことではない……
カイジが辿り着ける……今のところカイジしかいないとは……?
「俺があんたのために……なにかをするって……?」
「私のため、全人類のために……そう、この無限の成層を破戒するんだよ!」
束はとびっきりの笑顔で青空を眺めていた……それは狂人の笑顔にしか見えなかった……
しかし、彼女の目には誰にも気づかない……涙が溜まっていた……
束が青空を見つめていたのは数秒か……その場の三人は誰も動かなかった……
そして、束はおもむろにカイジの方へと向き直る……
その時には笑顔も涙もその顔からは消えていた……
「さてさて、かーくんのISをちょっとだけ見せてもらうよん。いじったりはしないから安心してね~!」
「俺が、それを信用すると思ってんのか……?」
この女に渡せばどんな細工をされるやら……
安心してねなどと言われても……安心できるものではない……!
「さっきも言った通り、かーくんには天然のままでいてもらいたいのです。有利になることも不利になることもしないよん。ただ……」
「ただ……?」
「VTシステムだけは私にとって禁忌の存在なんだよねぇ。愛しのちーちゃんの真似事した不出来なシステム作っちゃってさ。だからそれの残滓がないか、私が直々にチェックしてあげる」
その時の笑顔だけは陰惨な……攻撃的な笑みであった……
「なんで、あんたがそのことを……って聞くだけ野暮ってもんか……」
世界中から指名手配されて尚逃げ回る能力……単独でISを開発する知能、才能……
カイジISの成り立ちを把握できないとは……到底思えないことである……
「私にISコアのことで把握できないことなどないので~す。コアネットワークを通じてすべてのコアにアクセスできるからね~」
「とはいえ、それをいったら俺のこの専用機……VTシステムによって作られたようなもんじゃねぇか……つまりあんたとしては解体するしか……ないんじゃねぇの……?」
カイジは束に渡しながらそう尋ねる……まぁ解体されてしまうなら仕方ない……
どう考えても逆らってどうにかなる相手ではない……
学園の教師では見つけられなかったVTシステムの残滓……
それを束なら見つけてしまう可能性もある……
「んふふ~、かーくんのISはVTシステムとあのお人形ちゃんの意志から作られた人格が、避難先としてかーくんのところへ逃げ込んだだけだからね~。かーくんのコアがそれを受け入れて、発展したものならそれをどうこうする気はないんだよ~!」
カイジには最早束の言っていることはさっぱり……何が何だか分からない……
が、しかし推察は可能……自身の持っている情報を整理する……
「(お人形ちゃんってのはラウラのことか……?VTシステムの発動条件にラウラの負の感情面とかなんとかあったな……発動条件にラウラの意志が関係するなら……なにがしか形成される……?強制発動ではあったが、ラウラ自身に……選ばせるように誘導はしていたしな……それによってできた意志……ラウラがそれを捨てることを決め……消えたくないために俺の乗っていた打鉄に……逃げ込んできた、と……理屈としては、理解できないこともない……まったく非常識だが……)まぁ言ってることは分からんでもないが、突拍子もなさすぎないか……?」
「お~、やっぱりかーくんは凡には似ても、凡に非ず!能ある鷹は爪を隠すってやつだね」
「そりゃ買いかぶりすぎ……俺はどこにでもいる債務者、ギャンブルでしか熱くなれない……そういうクズなんだって……」
「あっはははは!この世界の人類最強たるちーちゃんを怯えさせ、この人類の叡智たる束さんに認められて、それでもなおクズだなんてとんでもない!」
ある種世界でもっとも有名な二人……その二人からある種認められている……
一夏や箒ですら、実際のところその域には達してはいない……
そして、その言葉にムッとしたセシリア……今の今まで話についていけず……
茶々を入れられる雰囲気でもなかったので黙っていたが……
「カイジさん、今の物言いはわたくしの癇に障りましてよ。自分自身の事を卑下するのは自由ですけど、それは周りの人たちをも貶める行いということは自覚してくださいまし!」
セシリア、ラウラ、シャルロットにとって……カイジは自分を救ったもの……
その彼女たちが……カイジが自身を蔑むこと……それを止めることは出来ないが……
苦言を呈することはやめられないものである……
「え……?あ、あぁ、悪かったよ……それで、俺があの女を怯えさせただって……?寝言は寝てから言えっての……」
人類最強……霊長類最強……よもや余人を恐れるなどあるというのか……
「今はそう言うことにしておいてあげよう!さて、チェックは終わったよん。特にVTシステムが発動してしまうような残滓はなかったね、流石はちーちゃんだね~」
「(織斑千冬と篠ノ之束はずいぶんと仲がいいようだな……そして、ISのことについて認めるような発言……それは単純にブリュンヒルデとしての腕だけじゃねぇ……その開発についても深く知っているのか……?)ふーん、それは良かった……俺もあんな泥には飲み込まれたくないからな……」
「(カイジさんのISがVTシステムが関連して出来たものだったとは、なんとも驚きですわ。本当にISはこの束博士と言い、謎だらけですわね)」
「じゃあじゃあ私は箒ちゃんにプレゼントがあるので、これにてアディオ~ス!」
そう言い束はカイジを飛び越す……カイジが振り向いたとき束はすでに人参の中であった……
あくまでも重要人物であるが観察対象であるので、後ろ盾になってくれるわけではない。死ぬようであれば見込み違いということなので