カイジ、疑獄……!
夕刻……日も沈むかという頃合い……旅館の一室に集う専用機持ち……
スケジュールにはなかった予定……みな何故集められたのか訝しんでいた……
全員が集まったことを確認した千冬は話し始めた……
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働していたアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」
軍用ISの暴走……制御下を離れた……それが自分たちに知らされているこの状況……
本来一般人が知っていいことでは到底ないはずである……それをわざわざ話すということは……
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」
やはり、来た……ISにはISで対処せざるを得ない……そのISが無差別攻撃をするか……
それ自体は不明だが……自分たちがここでその福音とやらを止めなければならないのだろう……
町中へ入って軍用ISがデモンストレーションなどすればどのような惨事になることか……
カイジはそれに考えが至り心の中で溜息をついた……
「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
が、その次に聞こえてきた内容……カイジはそれを聞いて耳を疑った……
おかしい、なぜ自分たちが前線で……教員が後衛なのか……
せめてもで教員が前に出て……それの支援として自分達も前線に出るなら納得……
それならばまだ理解もできたが……これはいくらなんでもおかしい……!
「それでは作戦会議をはじめる。意見がある者は挙手するように」
「いやいや……前提が既におかしいだろ……何言ってんだよ、あんた……あまりの事態に頭おかしくなったか……?」
最早千冬が自分が何を言っているのか……それを理解出来ていないのではないか……
そうとすら考えたカイジの発言である……!
「カイジ、千冬ねぇになんて事言うんだよ!」
一夏のように激昂する者はいないが……周囲は当然驚く、カイジの暴言……!
傍から見たら、千冬の決定に対して……頭がおかしくなったかなど……
真正面から言う生徒など……カイジ以外いないのである……!
「どういう意味だ、伊藤」
「つまり、冗談じゃないってことだな……?自分たちの生徒を矢面に立たせて……あんたらは後ろで縮こまってるわけか……?」
作戦指令室伴っている宴会用の大座敷・風花の間……そこに集まる教師全員を見ながら言う……
持ってきたISには限りがある……だからこの場の全員が出られるわけではない……
出るとしたら千冬と真耶あたりか……他の教員の腕はよく知らないカイジであった……
「逆だろ、逆……俺たちがその海上封鎖……戦闘の無い場に回されるべきであって……あんたらの仕事じゃないだろ……!俺たちに任せられないにしても……国から自衛隊の奴ら派遣しろよ……!頭おかしいんじゃねーのか……?山田先生は訓練機でも専用機2体を相手にして勝ったし……あんたもそれくらい余裕だろ……それともなんだ……?実戦は怖いからやりたくありません!生徒を盾にします!ってか……?」
そう言い真耶へと顔を向けるカイジ……罰が悪そうにその視線から顔を背ける真耶……
「これは、学園上層部の決定事項だ……」
「ふーん、そう……命令されたらしょうがないよな……いいよな、命令されたっていえば……自分たちの心……少しでも楽にできるもんな……?何があったって、自分のせいじゃない……命令した奴らが悪いって……ほんと、卑怯だよな……!いいぜ、そういうことで話を進めようじゃんか……めんどくせぇから、もう俺もあんたらに……一々文句は言わねぇよ……安心してくれ……!茶々いれて悪かったな、話進めなよ……!」
呆れたような顔を見せ……カイジは席に座る……
ここで何を言ったところで上層部の決定を……千冬が覆せるとも思えない……
そうであるならこの言葉も無意味に相手を責め立てるだけだが……
どうにも教員たちの態度を見ていると……こちらに申し訳ない……
そう思っているようには全く見えなかったがゆえに……苦言を呈したカイジ……!
「(実際、私とて上層部が何を考えているのか分からん……伊藤の言うような配置が普通なのだ……ここにいる山田君や私、エドワースは訓練機であっても……学生に後れを取ることはない……何故教師を後方に下げるのかその意図は掴めていない……)他の者は、何か質問は?」
「目標ISの詳細なスペックデータの開示を要求します」
これは模擬戦ではなく実戦であり……相手は銀の福音と決まっている……
それなのに全く無策、情報も無しで出るなど……愚の骨頂……!
「わかった。ただし、これらは2か国の最重要軍事機密だ。決して口外するな。情報漏洩した場合、諸君らには査問委員会による裁判と最低でも二年の監視が付けられる」
「(あまりにもきな臭いっていうか、なにそれ……軍属でもなんでもない学生巻き込んで……その情報がトップクラスの軍事機密とか馬鹿馬鹿しくてやってらんねぇ……)俺は退席させてもらうぜ……そんな馬鹿馬鹿しいことに付き合ってられるか……」
言うやカイジはラウラの手を引いて立たせる……先ほどは文句を言わぬといったカイジ……
だが、状況が簡単に一変した……元から軍用ISの対処と聞いた時点で嫌な予感はあったが……
裁判だの監視だの……明らかに度を過ぎている事態であると判断したのであった……!
「伊藤……」
「……ラウラも連れていく……!こんなバカげたことに使うために……ラウラにISを持たせてるわけじゃねぇ……この専用機はせめてもの防衛、自衛……本来なら持たせたくもなかった……それにそんな機密情報を持たせられもしない……!折角戦場から遠ざけたんだ……どうみてもこれは模擬戦じゃない……!命がけでもなんでもない……ただの競技なら……俺も構うことはない……ラウラの好きにさせるが……これは認められない……!」
折角軍属から外し、自由国籍権まで持たせたのだ……それなのにどこかの国から監視されるような……
そんな面倒ごとは避けるべき……それがカイジの考えであった……!
「し、師匠!私は……」
「戦える、か……?それなら俺の事を師匠と呼ぶのはやめろ……!お前が自分の意志で武器を持つって言うんなら……俺も止めることはできない……それはお前の自由だからだ……!だが、忘れるな……お前に武器を捨てさせたいと思ったから……俺は今の関係を受け入れてる……!柄じゃないが、責任を持とうとしている……!お前が、決めろ……!」
無理やり引き連れていくべきでもない……カイジは繋いでいた手を離す……
ラウラに手を取らせたが……それはラウラから意志を奪うためではない……
呆然とするラウラを捨て置き……廊下へと出ていったカイジ……!
果たしてどうなる……!どうするラウラ……!