残され困惑し、縋る者をなくしたラウラ……
「う、うぅ……きょ、教官……私はどうすれば……」
そうなると彼女が向くのは千冬の方である……!
「ラウラ……自分の心に従え……それが自由というものだ……!私はどちらを選んでも決して責めはしない……お前の意志を尊重するぞ……」
珍しく、にっこりとラウラに微笑みかける千冬……彼女はもう人形ではない……
だれかがその意志を奪ってはいけない……辛くても……選択の時はいつか迫るものだ……!
「教官、私は師匠を追います……!私の、意志で!」
「それでいい、行ってこい……!」
ラウラを見送ったあと、千冬は残った専用機持ちたちに向き直る……
「お前たちが参加する、そういう前提で話を進めてしまったな……だが、各国の専用機持ち、代表候補生であることを考えれば……場合によっては大破しかねないこの作戦……お前たちにその参加、不参加の判断は委ねられるべきであった……(せめてもで、これが私にできる反乱か……今回の上層部の決定には……各国の意志が絡んでいるだろう……最先端を行く両軍の軍事機密の塊との戦闘……本人たちが情報を漏らさずとも……コアにはその実戦データが蓄積される……たかだが代表候補生のことなど……どうなろうと構うことはないのだろうな……そもそも銀の福音のスペックなら……ISコアごと危機に晒される可能性があるが……慰謝料を請求するにはちょうどいい……っふ……私の思考まで伊藤に毒されたか……?いや、必要なことだ……)」
思考が止め処なく……裏を読み始めた千冬……深く考えていたわけでもない……
各国の思惑か……魑魅魍魎の汚れた思考が流れ込んでくるように感じた千冬……
カイジなしでは今のような……恐らく思考もせず……生徒たちに任せていた……
そう思うと寒気がする千冬であった……!
「(カイジさんはこの状況に何かを感じ取った……確かに言われてみれば納得もいかないことですわね。ですが、カイジさんがラウラさんを戦場から遠ざけるというのであれば、わたくしがその道を支えますわ!それに国の事を思えば実戦を行えるというのは、決してマイナスではありませんし)わたくしは参加しましてよ」
昨日の昼間の件もある……優しき道に行くのなら……カイジ、ラウラのためにも……
戦場へと臨む覚悟を決めたセシリア……!
「私もいくわよ。このまま進行を許したらどうなるか知れたものじゃないしね。それに私は軍属、市民を守るのも務めってね」
カイジは知らぬことであったが、鈴は中国の軍属であった……その誇りもないわけではない……!
「(いいなぁ、羨ましいや……僕も頑張るよ、助けてもらった命を役に立てないとね!)僕もいけます。パッケージのお陰で状況対応能力は高いですから」
あれが誰かを守るということか……と感じるデュノア、誰と比べたとは書かないが……
「私も無論だ、この紅椿の性能は伊達ではないことを証明して見せる」
箒は束よりもらった新しいおべべ……正しく世界最先端を行くファッションである……!
「俺もみんなを守る。やってやるさ」
それぞれ思いはあるが……残った専用機持ち全員で事に当たる……!
「そうか、ではここにいる5名で当作戦を遂行する……これが銀の福音の詳細スペックだ……さっき言った通りの最重要軍事機密で……取り扱いに関しては重々承知ではあると思うが……決して漏洩はしないように……!」
みなが頷くのを確認した後……広間のスクリーンへと福音のスペックが表示される……
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……オルコットのようにオールレンジ攻撃を行うことが出来る……攻撃と機動の両方に特化した機体……普通片方に偏るべきなのにチートだよくそが……そして、格闘性能に関してはデータがない……舐めてんのかくそが……」
千冬は渡されたデータにイラつきを隠せなかった……競技用のISとは……
比べ物にならないスペック……そして、情報を確実に隠している……!
それの公開を要求すれば……一々くだらない難癖を付けられることも想像に難くない……
「織斑先生……?」
普段はこのように愚痴……不平……不満……それらを並び立てることなどない千冬……
今日はどうにも気性が荒いようである……!
「どうしたんだ、山田君……?」
「なんでもありません……(ストレスたまってるんですね……)」
真耶自身も、先ほどのカイジの視線から逃げた自分を恥じていた……!
カイジが言うことは至極当然……指摘されるまで何の気なしに話を受け入れていた……
そのように暢気だった数分前の自身の呆けた頭……それを全力で叩き倒したい気分であった……!
「格闘性能についての偵察などは行えないのですか?このまま当たるにはデータ不足の感が否めません」
「偵察は無理だな……この機体は現在も超音速飛行を続けており……最高速度は2450キロ……アプローチは一回が限界だろう……」
「一回きりのチャンスということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
真耶がそう言うと……全員が一夏のほうを向く……!
「え?俺?」
「あんたの零落白夜が適任でしょ」
「それしかありませんわね。ただ、超高感度ハイパーセンサーを用いた戦闘が必要になりますわ。そこが不安ですけれど」
「あとは、一夏をどうやってそこまで運ぶのか。エネルギーは可能な限り攻撃に回さないと厳しいだろうから、移動をどうするのかが問題だね」
相手のSE量を考えるなら……当然零落白夜は最大出力……少しでもエネルギーを温存しておきたい……
「ちょっと待ってくれ!俺が決定打なのかよ!?」
「当然ですわね」「スペック的に僕も無理かな」「どうにもならないわ」「当然だ」
みんな一夏に対してある種の肯定をする……それだけの攻撃力はだれも持っていない……
「織斑……これは訓練ではなく、実戦だ……!もう一度いう……訓練ではない……もし覚悟がないなら、無理強いはしない……!」
「分かりました。俺がやります。やって見せます!」
「そうか……それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、最高速度が出せる機体はどれだ?」
「わたくしのブルー・ティアーズの強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』なら超高感度ハイパーセンサーもついておりますわ」
当然セシリアは自分から進言……一夏のサポートができる人間が必要なのだ……!
「超音速下での戦闘訓練時間は……?」
「20時間です」
「それならば適任だな……では」
そこへ突如として陽気な声が聞こえてくる……
「待った待った待ったー!その作戦は紅椿の出番なんだよ~!」
天井からは束が顔を覗かせている……いつの間にそんなところへ入ったのか……
「……出て行け」
「聞く前に断っちゃだめだよ~!紅椿ならパッケージなしで展開装甲だけでそのくらいのスペックは出せるんだからさ~!」
広間のスクリーンには紅椿のデータ……いつの間にか乗っ取られていた……!
「ん?あれ?ところでかーくんは?もう一度あの影が降りた顔を科学的に解明したかったんだけどな~!」
「それは、もしかしなくても伊藤のことか……?」
「そうそう、昨日のお昼にお友達になってね~。ま、いいや。この作戦は白式と紅椿で十分!今回はかーくんの出番はないからね~」
「(伊藤もまた面倒なのにからまれたものだ……伊藤になら束が興味を持っても不思議はないと……そう思えるのがまた自分自身で驚きだがな……)で、紅椿を調整するとしたらどれくらいの時間がかかる?」
「お、織斑先生!?」
専用機持ちの中で高機動パッケージを持っているのはセシリアだけ……!
この作戦に参加するのは当然……そして、その覚悟もある……
なにより、超高感度ハイパーセンサー……超高速戦闘……
いきなり箒にやらせるのには不安が大きすぎる……そもそもの腕前の問題……
専用機を持った当日……どう考えても問題だらけである……
機体スペックなんかよりも……安全性をとるべきなのだ……!
「パッケージの量子変換は終わっているのか……?」
「そ、それは……まだですが……」
「ちなみに紅椿の調整時間は七分あれば余裕だよ~!」
「よし、では本作戦は織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜だ。作戦開始は30分後。準備にかかれ(今ここで下手にオルコットを出せば……束がどう動くか予想がつかん……思うに今回の犯人は束……篠ノ之のための出来レースのようなものか……そんなところへ出せば……)」
到底容認できないような事態が起こる可能性がある……そして、相手が悪い……
束とは同条件でやりあったところで……勝てるか分からない……
「(たしかに、今から量子変換をすれば20分近くはかかりますわ。それでもあまりに危険性が高すぎるのではなくて……?わたくし自身の腕を過信するつもりはありませんが、それでも経験の有無は絶対的なものでしてよ。いまから模擬戦をやるのであれば、それこそご自由にと言ったところですが……せめてもで、織斑さんには超高感度ハイパーセンサーのレクチャーをしておかなくてはなりませんわ。箒さんはきっと、今のわたくしの声を聞いてくれないでしょうから……)」
セシリアの視線の先には紅椿を展開し身を預ける箒の姿……
その顔は不思議と自信に満ちている……その顔を不安そうに眺めるセシリアであった……
速度に関して、初めは最高速度450kmだったそうですが、後の修正で時速2450km、ちょうどマッハ2になったみたいでした。修正してあります。