全員が相応の覚悟を決め、戦場に臨む……しかし、カイジとてみすみすやられる気はない……
なんとしてでも状況を打破する手立て……それを模索しながら戦っていたが……
「(箒とカイジ君のSEの減少が早い。具現維持限界まではもう少しある……でも後々のことを考えたら早めに下がってもらって、旅館の方でSEを回復してもらうのも手かな?)」
6人の中でも代表候補生ではない2人……隠しきれない操縦技術の差……
箒の展開装甲はまだ使える……そのうちにカイジを引き連れて下がってもらえれば……
旅館前で第二陣を展開することも可能……その充電時間を4人で稼ぐのは困難を極めるし……
そこまでの時間が稼げれば、教師陣の到着も可能であるが……
「っぐ、うぅ……やっぱ俺の腕じゃ正面切って回避はしきれねぇ……っ……!」
福音から四方八方にバラまかれる光弾……必死に回避をしているが……
どうにか回避し切ったその先、第二波……その光へと飲み込まれるカイジ……!
「カイジさん!?」
セシリアが悲鳴にも似た声をあげる……眩い明かりの中は何も見えない……
直前のSEからして具現維持限界を超えかねないダメージを負ったことは予想できる……
しかし遠距離機でもあり、相手の動きを抑える役割を担っているセシリア……
ここで動きを乱す訳にも行かず……飛び出して行きたいところを何とかして抑えきる……!
「箒、戦列を離れて!撃墜されたカイジを拾って先に帰るのよ!」
「っく、しかし私はまだ!」
「この中であんたとカイジだけが代表候補生じゃないわ。それに操縦技術の問題もある。あんたが適任よ」
鈴の指摘に箒は悔しそうに表情をゆがめる……鈴の指摘は事実だ……
自分が引き連れて下がるほかはない……しかし、ただでさえきついこの状況……
そこから自分とカイジの2機のISが撤退……残りの面子に弾幕はより集約されることになるが……
箒は展開装甲を使用して加速……落下中のカイジを受け止める……!
「篠ノ之の替わりに私が前衛に入る。師匠の事は頼んだぞ!」
もとより近距離が強い機体であるレーゲン……しかし、AICが福音相手に有効ではなく……
近距離型の紅椿、甲龍がいるが故に……後方支援、下がっていただけである……!
「これも立派な仕事だよ、箒!カイジ君のことよろしくね」
「なんとしてでも持ちこたえて見せますわ。ですので、後の事はお気になさらず」
仲間の声を聞きながら、後退する箒……彼女の心中に無力感が集う……
「(私には何もできないと言うのか……)」
悔しい……!
姉に最新鋭の機体をもらっておきながらこの様……カイジの撃墜により下がることになりはしたが……
彼女自身の機体ももうぼろぼろ……あの時カイジが飲まれた弾幕が自分に放たれていたら……
「(姉の七光りでISを手に入れて……誰よりも最新鋭の機体を使って……)」
悔しい……!
現行のどの機体よりもスペックが高い……そんな機体を自分は努力ではなく……
天才の妹だから手に入れた……この中の誰よりも技量が低かろうと……
「(それがこの様か……私は今まで一体なにをしていたというのだ……)」
悔しい……!
箒はカイジのことを正々堂々と戦えない……軟弱者と考えていたが……
しかし、それは違っていた……自らの意志でこの土壇場、鉄火場へ残り……
撃墜されたとしても……決して背を向けることはなかった……!
そして操縦の技量……カイジのほうが自分よりも技術が上であることに気付いた……!
「(すまないな、紅椿よ……操縦者がこんなことではお前も浮かばれまい……未熟なパイロットですまない……だが今この一時、一時だけでいい……私に力を貸してはくれまいか……?)」
だが、それでいい……!
「(あなたに、力を……)」
「……?」
頭の中に凛として、澄んだ声が響き渡る……箒は周囲を見渡すも当然誰もいない……
首をかしげて空耳かと首をかしげる……その直後、機体周辺に黄金の粒子が舞い始める……
「一体何が起きているというのだ、これは!?」
ハイパーセンサーの情報には絢爛舞踏という文字……そして自身の残り少ないSEが急激に回復していく……!
「(まだ、戦えるというのか紅椿よ?ならば……)」
箒は咄嗟に周辺海域のMAPを開く……確かこの近くには小さな無人島があったはず……
カイジを旅館へ連れ帰ることも当然重要である……しかし、その島で救難信号を出して千冬へ連絡……
そうしておけば救助はやって来る……カイジは一夏のように重傷を負ってはいない……
当然自分の判断だけで決められることではないため……ともかく、千冬へと連絡を取る箒……
そのことに気を取られた箒は紅椿からでる金粉……それがカイジの纏うヴァルトへと……
流れ込んでいたことに気付かなかった……そしてヴァルトの表面が波打っていることにも……
福音の弾幕に呑まれて気を失ったカイジ……またもや精神世界……!
「どうやら、やられちまったようだな……まだ生きてるとしたら俺は洋上で浮かんでるってとこか……そして、これはラウラの時みたいな精神世界か……?そうなるような要因はなかったはずだが……」
カイジとしてもあの事態はVTシステムが起こしたもの……そう捉えていたのだが……
「この機体もVTシステムによって作られたものだ。このような現象が起きても不思議ではあるまい。もっともISには普遍的な現象の一つのようだがな」
その疑問に答えるように背後から声が聞こえてくる……
「誰だお前は……?どうにも見たことがあるような……俺の知り合いを足して2で割ったような、そんな感じだが……」
声の聞こえてきた先……そこには千冬くらいに成長したようなラウラ……
「私の元人格が望んでいた、いつしかの姿だ。ラウラ・ボーデヴィッヒは織斑千冬になることを切望していたが故のこの姿だな」
「なるほどね……VTシステムの発動条件には搭乗者の願望……そして、会話ログを見れば織斑千冬の力……それに誘導するような傾向もみられたしな……」
「VTシステムには各部門のヴァルキリーのデータが用意されている。そして、搭乗者の願望に最も近いものが具現化したに過ぎない」
ヴァルキリートレースシステム……ヴァルキリーはなにも千冬一人ではない……
大概の人間がヴァルキリーと言われれば千冬……初代モンドグロッソチャンピオンを思い出すが……
本来ヴァルキリーはモンドグロッソの……部門優勝者をさす称号である……
「(ラウラの状況を知っているなら……いや、つまりあの事件を仕組んだ人間は、ラウラのことをよく知っている……そして、VTシステム発動後の完成度は搭乗者の状態次第によって……)その中から、ラウラの願望に適合していたのは……織斑千冬だった、と……だが、そうして作られたお前もラウラが決別したことで……」
「そうだ。お前のせいで行き場を無くした私は、打鉄の中に逃げ込むしかなかったという訳だ」
ヴァルトのコア人格、名前はまだない……VTシステムによって作られた彼女……
一時的にレーゲンのコア人格を押しのけることに成功したが……元人格たるラウラという支柱を失い……
レーゲンの人格部分から追い出されたわけである……そんな行く当てを失った彼女は……
人格部分が空のままである打鉄……そこへと入り込んだわけである……!
「恨み言は、受け付けてねぇぞ……」
「いや、私も無理やり形作られたようなものだ。自ら望んで発動しておいて、いらなくなったから捨てられたのでは、恨み言の一つも言いたくはなるが。それにここは居ご……まだお前を私のパイロットとして認めたわけではないからな、精進するように」
少し顔を赤らめ、目を背けて咳払いをしてみせる……
「ならなんで俺にしか……動かせねぇようにしてんだよ……」
「(元人格が私と決別すると決めた時の、その感情に引きずられているのだ。決して私がこの男を選んでいるのではない。断じてないんだからな!)それは、致し方ない事情があるんだ。で、いつまで寝ているつもりだ」
彼女は当然ラウラの思考を色濃く受け継いでいる……作られた瞬間のままならば……
千冬かラウラにしか起動できなくなっていただろうが……しかし、最後のカイジの説得……
そこでラウラがカイジの手を取った時……その瞬間が決別の時ではあるが……
その時のラウラの思考や感情が……彼女に大きく影響を与えていたのであった……!
「そう言われてもな……そうだ、外の状況は分からないのか……?」
「今は撃墜されたお前を紅椿が運んでいるところだが……む、これは?」
彼女とカイジの周囲に金色の粒子が舞い始める……現実世界での出来事が影響を与えていた……
「どうやら紅椿のワンオフアビリティーのようだな。それにしてもエネルギーの回復とは。ISの創造主は一体何を考えているのやら」
「ってことは、また戦えるようになったってわけか……?だが、直前のおれの機体状況は……」
機体は福音の攻撃によりぼろぼろ……SEが回復しても戦う術が削られていてはどうにもならないが……
「そこは案ずるな。私は特別製だからな!」
得意げに無い胸を張ってしたり顔……ラウラは豊満になるバストを想定しなかったようだ……