破砕砲を撃つ直前……カイジの耳に届いた福音の機械音声……
「エネルギーウィング・モードチェンジ」
「……!?」
その声に嫌な予感を覚えたカイジ……しかし、トリガーはすでに引かれている……
破砕砲から出る衝撃により飛ばされる福音……だが、体勢をすぐさま整える……そして
「衝撃吸収、エネルギー充填完了。エネルギーウィング生成部欠損、再生不可能。スラスターの一部を代替」
その声と共に福音に変化……背部スラスターから小さなウィングを形成……
元々の1枚に新たに生成された2枚……3枚羽根となった福音が動き出す……!
「ちょっとカイジ!あんた、何してくれてんのよ!」
「いや、そんなこといったって予想外……!これは卑怯だろ……!」
そう言い合う間にも飛び交う弾幕……新たな羽根を得た福音……
前と変わらない……いや、むしろ増えている……圧倒的弾幕……!
「あの小さな羽根のほうはまた違うパターンみたいだね。振り出しに戻ったよ!」
「振り出しよりも悪化していますわ。これはあと5分すら厳しくなりましたわね!」
仲間たちの叫び声が聞こえてくる……自分たちのSEも削れている……初めより状況は悪い……
「(破砕砲の充填するものを変えてみるか……?海水を使って奴を海面に叩き込む……だがそれじゃもう駄目だ、吸収される恐れがある……吸収されなくても、それだけでどうにかなるわけがねぇ……空気より水の方が威力もでるだろうが……直撃も難しければ、SEが削りきれる保証もねぇ……!破砕砲の使い方……ワクチンの使いどころ……なにか奴の動きを止められる……っ……!)」
カイジに雷鳴が轟く……!即座に自らのISの機能へと目を走らせる……!
見つけた項目、今回に最適……賭けではあるが、これしか手はないと思われるもの……!
「(準備時間は……1分30秒……なげぇが、今思いつく限り最後の賭けだ……!俺にしても他の奴らにしても持たなくなっちまった……何かいい案が他に思いつく可能性はあるが……その時間は、もうない……!)ラウラ、どうにかして……ワイヤブレードで奴の足を少しでもいい、止めてくれ……!」
「っむ、師匠!?どうにかしてと言われても、奴の機動力にワイヤーブレードは厳しいぞ!」
福音は高機動を想定して作られた機体……軍用でありその速度は亜音速さえ出せる……
現在の戦闘機動でそこまでの速度はでないが……それでも驚異的なスピード……
レーゲンのワイヤーブレードに追いつかれるほど遅くはないのだ……!
「デュノア、何かいい案を……!1分30秒後その状況を作ってくれ……!それがラストチャンスだ……!」
「えぇ、僕!?」
「お前が一番周りを見れる……!他のISに対する知識も深い……頼む……!俺では無理……!その指示はできない……!」
カイジはデュノアの知識……IS戦における立ち回り……それを評価していた……!
当然ラウラもその部分の評価は高い……しかし、様々なISが集まり……全くばらばらな個々……
それをまとめる能力……人の得手不得手を見抜き適切に配置する能力は乏しい……
これが、単一のISで編成された……一定の練度を得た軍隊であったなら……
ラウラにその軍配が上がっていただろうが……
「僕が、一番……分かった、やってみる!そうは言っても元々の作戦でいく以外はなさそうだね。ラウラは下がって箒と鈴の二人で前衛をお願い!SEは出来るだけ削られないように動きを抑える方向で!」
「任された!行くぞ、鈴!」
「上等よ、やってやるわ!なにすんのか知んないけど、次は復活させるんじゃないわよカイジ!」
デュノアより指示を受けた二人……福音へと接近……動きを抑えにかかる……!
当然全方位の弾幕による迎撃、近づかせまいとするが……元より避けること……
時間稼ぎを重視しているため……絶妙な距離を取って福音の気を引きつける……
燃費と安定性を重視した甲龍……燃費は悪いものの機動力に長けた紅椿……
「僕はセシリアが射撃に集中できるように盾を張りながら、全体を見て指示を出す。攻撃にはほとんど加わらないよ」
「ともかく可能な限り小さな円内でワルツを踊ってもらわなければなりませんわね」
自分に迫る光弾をデュノアに任せて……全神経を集中させてBTを操るセシリア……!
デュノアの腕を信頼していなければできない行為……!
立ち止まり、集中できる前提ならば……高機動な福音相手でもその動きを……
どうにかコントロールすることが出来るまで成長したセシリア……
「カイジ君とラウラは前衛二人の援護をお願い!」
矢継ぎ早に指示を飛ばすデュノア……カイジの見立てに間違いはなかった……
ラウラはカノンを打ちつつ、時間を気に掛ける……
ワイヤーブレードで捕まえられたとしても……AICまではまず無理……
よしんば止めたとしても……エネルギーウィングが自身の方向を向いていたら……
確実にエネルギー弾を叩き込まれて落とされるのだ……!
つまり狙うはギリギリ……刹那の瞬間を狙わなくてはならない……!
「っぐ、長い!これほど90秒が長く感じるとは!」
「そろそろ限界よ、カイジ!まだなの!」
回避をメインにしている二人……しかし、更に進化した福音は圧倒的面制圧射撃……
絶対防御は発動させないようにどうにか回避はしていても……じりじりとSEが削られていた……
「もうじき、もうじき……あと5秒……!ラウラ頼む……!」
「任されたぞ、師匠!二人ともの背後からワイヤーを伸ばす!ぎりぎりで回避しろ!」
福音の機動力を見る限り不意を突かなければまず当たらない……
ぎりぎりまでその軌道を隠しておきたいラウラの指示……!
「難しいことを「言ってくれる!」「言うわね!」」
だが、二人とも接近戦のセンスはピカ一……光るものがある……
ギリギリ、刹那の時まで引き寄せ……回避……!
「……♪!」
福音もその動きに怪しいものを感じたのか……避けようとするも……
「あら、そちらは行き止まりでしてよ?」
しかし、セシリアのBTが雨あられと降り注ぎ……頭を抑えにかかる……
それにより動きを止められた福音……ワイヤブレードにその体を掴まれる……!
観念したかのようにラウラへ向き直る福音……当然エネルギーウィングが眩い光を蓄えた後……
雨あられと視界を埋める光弾を打ち込まれ……さしものラウラですら逃げたくなるが……
「させないよ!ガーデンカーテン、どうか耐えて見せて……!」
光弾がラウラへと迫る中……割って入るデュノア……防御機構をフルに使い耐える……!
足を止めたまま光弾を放った福音……ワイヤーブレードは解けず……隙を晒す……!
そして、その光弾を放ち終える前に……
「(奴は破砕砲を近距離で二回も打ち込まれている……俺が接近すれば確実にモードチェンジ……足を止められたことから、俺が何かをしてくる……ってことは勘付いているだろう……だから、遠距離から刺す……中身も特別製だ……そして、射撃の途中で変更は流石にできないだろ……?)両腕部破砕砲、発射……!」
福音の真上へと位置取ったカイジ……その両腕部のバレルが打ち込まれる……!
「あれは、水ですの……?海からいつのまにやら海水を回収していた、ということかしら」
「しかし、ハイドロカノンで削れるほど相手のSEは少なくないぞ!」
「待って、福音が凍っていく!どうなっているの!?」
「一体どうなっているのだ、これは」
「ほんと面白いこと考え付くわね、カイジって……」
カイジの取った策……カイジが準備時間がかかる……そう言った圧縮破砕砲の機構の一つ……
大気中から特定の気体を分離し圧縮ができるというもの……それによって大気中の窒素を分離……
冷却する機構と合わせてバレル内に圧力をかけて窒素を液体窒素へと変化させる……!
カイジは一見したとき、何に使えるのかと訝しんでいた機構……ここに来て光明……
凍結……文字通りの凍結による無力化……!充填した海水を叩きつけ……
そこへ同時に液体窒素……当然海水ごと凍る福音……!
「っぐ、師匠!私のワイヤーブレードごと固めているではないか……!私が逃げられんぞ!」
当然氷漬けとなった福音は海へ浮かぶも……それなりの大きさがある……
氷は海面に浮かぶとはいえ……運ぶうえでその重量は無視できない……!
「あ……いや、その……それは、牽引のためだから……引っ張るのに必要……だろ……?」
「さ、流石は師匠!その後の事まで考えておられたのですね!」
「嘘ですわね」「嘘だね」「嘘だな」「嘘つき」
純粋なラウラ以外誰も信じなかった……皆が穢れているわけでは、ない……!
「と、ともかく……ラウラにISを解除させるわけにもいかねぇ……(で、止めにこいつだ……!)」
皆が見つめる海に浮かぶ冷やし福音……一種の芸術品……氷の彫像のような……
特に福音のエネルギーウィングと相まって……非常に美しい様相である……!
その氷漬けとなった福音に近づくカイジ……自らのISと直通の回路を繋ぐ……
氷漬けとなったままでも……ここまで接近すれば回路を繋ぐことは可能……
そして束特製の暴走プログラム……それのワクチンを打ち込む……!
「自閉モード解除。機体具現維持に必要最低限のプログラム以外の停止、残りのエネルギーを操縦者生命維持機能に配分します」
福音の機械音声が終戦の鐘の音を鳴らす……
『っな……暴走した福音のワクチンだと!?師匠は一体どこでそんなものを!』
当然気付くラウラ……しかし、オープンチャンネルで言うことでもない……
即座にカイジへとプライベートチャンネルを繋げるのであった……
『それは、企業秘密だ……知るべきでないこと、だ……』
『っむ、むぅ……いくらなんでもやばい代物すぎるのではないか……?』
ウィルスとワクチンは表裏一体、ウィルスがあればワクチンが作れる……逆もまた然り……
今回のウィルスは世界トップの軍用ISのセキュリティすら突破……
それはこの世界のISで凡そ暴走させられない機体はないということ……!
『悪用する気はねぇって……それにその辺も抜かりはないさ……(そのために、あの天才に衛星のハッキング……事後処理としての改竄……氷漬けになったらなぜか暴走が収まった……そういうことで終焉だ……)』
本部へと通信を入れて迎えのタンカーを寄越してもらいつつ……
出来るだけ牽引して運んでいく6人であった……!
仲間の危機訪れず……寝たまま、一夏……!頑張れ一夏、目覚めろ一夏!
一夏の登場シーンは省かれました。旅館出発した一夏が現場に間に合うとしたら、先生たち間に合っちゃうかなって。当初はカイジがやられるシーンもなく絢爛舞踏の発動もなく、セカンドシフトした時点でこの話が組み込まれる予定でしたが、後のことを考えて2話ほど挿入。エネルギーウィングって凍るの?とかは突っ込まないでくれめんす……