成層破戒録カイジ   作:URIERU

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遅くなりまして申し訳ございません。



独逸3

「さて、会食について説明しておきましょう。明日、シュヴァルツバルトのホテルでブランク大臣との食事会があります」

 

黒兎隊の基地へと向かう車中、対面に座るクラリッサがカイジへと話しかける。先ほどカイジが質問した会食の事についての答えのようだ。

 

「そう、あのおじさん、テオドール・ブランク、だったっけ?あいつがラウラに俺の事を連れてくるよう頼んだわけか?」

 

「(ドイツの主柱でもある連邦大臣に対して、おじさん、あいつとは、なんともはや。ここは一応話を濁しておきましょうか、いえ、あのVTシステム事件の状況を打破し、彼と交渉したほどの人物。迂闊な発言で猜疑心を揺り起こすべきではありませんね)そうなります。警護の任務も彼から直接下されたものです」

 

「(いつか飲み交わしたいとか言ってたし……大臣という立場から誘いをかけるのも難しいから……ラウラを利用しただけ、か……?敵意がないなら問題はないか……まぁ俺としても後ろ盾とまではいかなくても……有事の際に頼れる人間……それもしかとした権力を持っている相手は欲しい……織斑先生は最近じゃ協力的だが……それでも俺のバックになってくれるわけじゃないからな……)そうかい、真意はわからねぇけど……ラウラも口止めされてるわけじゃなさそうだったし……裏はなさそうだな……」

 

結局のところ、千冬が協力的なのもラウラやデュノアの事があるからだとカイジは考えている。自分個人の危急の際に千冬がどれだけ動いてくれるか、それは定かではない。それを言えば国の大臣ともあろう人物が、個人のために動けるかは全く不明ではあるのだが……

 

「(ラウラ殿の口からすでに聞いていましたか。その上で私にそう問いかけるとは性質の悪い……はぐらかさなくて正解でしたね。それにしても彼女の口から聞いた、とは。なんとなくではありますが、彼女があそこまで不機嫌になったことにも関連がありそうですね。あのようないたいけな少女を惚れさせておいて罪なものです)大臣も色々とお考えの事はあるでしょうが、何らかの陰謀めいたような、そういった裏はないと思われます」

 

クラリッサとしては、VTシステム事件に男性操縦者偽装事件、更には福音暴走事件と何かと不穏当なこの時期、情勢の折に何を考えているのか、と思わないでもない。しかし、テオドールは黒兎部隊の創設にも深く関わっているし、切れ者でもあるため迂闊な疑問など口には出せないのであった。

 

「そうかい……で、あんたたちの基地とやらにはどれくらいで着くんだ?」

 

「もうさほど距離はありませんよ、大体2~30分くらいでしょうか。ところで、国外での専用機持ちに対する制限事項についてはご存知でしょうか?」

 

「そこのところは私から説明してある。装備にもテーザー銃は格納済みだし、国外でのIS展開に関する要項も……ちゃんと、覚えているな……?」

 

「緊急事態以外での無断展開は……厳罰に処される可能性があるってやつだろ……?」

 

こうなると酒蔵探訪録での行動に色々と問題が出てくるが……そこはそれ、ということにするか、バレなければ無問題ということにしておこう。また、IS学園内は治外法権とでもいうべき領域である。

 

「その緊急事態、というものの中身が私の問いたい問題なんだがな……まぁいい、念のため解説しておこう……攻撃ないしは自分の身に危険が迫る可能性がある場合は部分展開まで、明確な攻撃や危険がある場合には完全展開が許される……完全に不意の攻撃から身を守るための……防壁部分展開は常時可能、こんなところか……」

 

防壁部分展開とはISの絶対防御機構のみを発動させた状態の事を指す。ISの装甲が展開されていない分、なんらかの攻撃を受けた場合はほぼ確実に絶対防御が発動してSEをそれなりに消費はするが、それでも不意の一撃、例えば遠距離からの狙撃などの致命的な一撃から身を守ることが出来るようになるのである。そして、テーザー銃。これはISに搭載されている武器での攻撃は、対人間に使用するには余りにも強力すぎ確実に殺害してしまう上に、周囲へも甚大な被害を及ぼすために配備されたものである。いくらISが奪われそうになったり襲われたと言っても、実際のところ自らは絶対防御に守られ命の危険はまずない。その状態では最早私人による虐殺と変わりがなくなるのだ。

 

「防壁は当然展開してある……ほんとに便利な機能だよな、死をまるで意識しなくていいなんてな……」

 

「まぁこんな機能でもなければ専用機持ちなどそうそう外を歩けたものではないし……そもそも特定の施設外にISを個人で持ちだすなど、まずできないだろうがな……」

 

「(我々も特殊部隊として要人警護の数々はこなしてきましたが、これだけ替えのいない相手の護衛というのは初めてです。正直荷が重いと言いますか……しかし、絶対防御があるおかげで心持ちは楽になりますね。もちろん毛ほども油断する気はないのですが。)展開し忘れ、などということはない様にお願い致します。さて、間もなく基地が見えてきます。一旦お荷物など置かれてから外出するとしましょうか」

 

「(外出、そういえば行きたいところを一つだけ決めてあるんだが……果たしてこの教師が許してくれるものかどうか……目を盗んで抜け出すってのは俺につく監視の量や質から見ても厳しいだろう……どうしたもんやら……)自由行動は、ありなのか……?」

 

この男の行きたい場所で、かつ千冬が許してくれそうにない場所、といえば大方察しはつくであろう。賭博場、カジノである。そもそも今のカイジの年齢で入れるのかどうかが問題だが……

 

「目の届く範囲でなら、と言いたいところですが……できれば行先などは事前にお伝え願います。自由に動かれてはさすがにほころびが出ないとは言えません。いくらISの防壁部分展開があるとはいえ、何が起こるとも知れません」

 

「そ、そうか……まぁ考えとくよ」

 

「いえ、あの……考えておくとかではなく、絶対にお願いしますよ?」

 

カイジの返答に不安を覚えたクラリッサは念押しをする。考えておく、では困るのだ。

 

「ドイツでなら酒は16歳以降から飲めるぞ……?私も教師として大っぴらには言いたくはないが……ここでなら別に隠れてこそこそ飲みに行く必要もあるまい……?」

 

わざわざ秘密にしようとすることならば飲酒のことだろう、そう考えた千冬がカイジの説得にかかる。

 

「(教官殿、その言い方だとまるで日本では隠れて飲んでいるのをさも知っているような……っは!まさか実は二人で酒を飲みあうほどの間柄に!?これはいけません、あまりにも強力すぎるライバルですよ、ラウラ殿!)」

 

「(そっち側で読まれたか……まぁ突拍子もなく俺がギャンブルに行きたいと考えてるなんて思いつくわけもねーか……いや、併設されているバーに行けば……!)あ、あぁ……ちょっと調べてたら気になるところが見つかってよ……」

 

「お前にもプライバシーというものはある……無用な詮索はしない……が、一人で出歩かせるわけにはいかん……余人はあずかり知らぬところだろうが、各国の情報畑の人間たちは確実に今回の訪独については掴んでいる……ドイツ国内での細かい行動まで把握できているものは少ないだろうがな……」

 

動いただけで情報になり、価値がある……一躍時の人となったカイジ、一夏の動向は色々な立場の組織に監視されている。そのどれもが好意的と言えるものではないだろうことは想像に難くない。

 

「(ちょっと前までとは大違いだ……賭け事で命を落とそうとも……地下に送り込まれようとも……誰も気にかけない……そんな俺の動きがだれぞに監視されてるなんてな……いや、帝愛の奴らには監視されてたっけな……)俺みたいなクズの動きを把握するために……躍起になってる奴らがいるなんてご苦労なこった……」

 

「お前はやたらと自己評価が低い様だが……それを口にする際には気を付けるんだな……私自身はお前を育てたわけでもないし、そんなことに怒るほど青臭くもない……と、言いたいところだがやはり言っておこう……」

 

「どんなありがたいお言葉がいただけるっていうんだ……?」

 

「まったくその捻くれたところを……いいか?お前を評価している人間は少なからずいる……ラウラ、オルコット、デュノア……それに私自身も、だ……お前の過去に何があったのか……それは私の想像を超えたことなのだろう……その時にあったことがお前自身を決定付ける因子になっているのかもしれないが……精神世界でラウラに言ったことを覚えているか……?人生はいつだってやり直せる……素直にいい言葉だと思ったよ……だが、お前がそんなことでは……その言葉の重みも無くなるというものだ……」

 

「……」

 

「ラウラの精神状態は不安定だ……信奉するものが私という武力から、お前の……お前の……何かは知らぬが、信奉の対象が変わってすこしはましになったが……それでも未だに、安定している状態とは言えん……ラウラのためにも、お前自身も過去を振り払い……前進してみせろ……(これも試験管ベビー、強化人間たちの特徴なのか……信じるべきものがあるというのはいい……だがそれへの依存が強すぎるがゆえに危ういのだ……)」

 

千冬の言うことは最もである。ラウラが助かるために必要だったことだが、言った手前の責任もある。今回の事態ではラウラは国を捨て今までの生き方をも捨て去った。窮地は救ったからあとは自由に頑張れでは無責任にもほどがある。そこのところのフォローは本来なら千冬のような大人、教師の役目ではあるが、だからといって投げ出していいというものでもなかった。ラウラを取り巻く環境があまりにも特殊であったことが、そのことへさらに拍車をかけている。

 

「教官の言う通りですね。あなたはラウラ殿の大切なものを奪った男なのですから、その責任というものをとらなければいけません。そのためにも……」

 

「待て待て待て……おい伊藤……!大切なものを奪ったとはどういうことだ……!ラウラにはまだ早いだろう……!?私ですらまd……」

 

「おや、私の言ったのはラウラ殿のドイツ国籍のことですが……そうでした、教官殿も国籍を失ったことはありませんでしたね。えぇ、私たちの会話に齟齬はありません(語るに落ちるとはこのことですね、教官。かくいう私も童t、処女でね。英雄たるに必要な資質、史上においても処女性とは云々かんぬん……)」

 

したり顔をして腕組みをしながら頷くハルフォーフ、それと対照的にカイジに食って掛かっていた千冬は顔を赤らめて、俯いたまま震えている。

 

「……ハルフォーフ大尉、久しぶりに私自ら直々に特訓をつけてやろう。種目はそうだな……100本組手がいいだろう、ISなんて使わず体一つでかかってこい……!」

 

「いえ、あの、私には警護の任務がありますので、特訓はまた別の機会に……」

 

「わざわざドイツ軍基地にいる時を狙ってくることはあるまい……それに伊藤のことは他の隊員達に任せておけばいいさ……警護に支障は出ない程度に加減はしてやる、ふふふ……」

 

逃がすまじと肩をがっしりと掴んで笑いかける千冬。だがその目は全く笑っていない。

 

「(あぁ、地雷原でタップダンスしてしまいました。私は明日の朝陽を拝めるのでしょうか)オテヤワラカニオネガイシマス……」

 

自らの運命を悟ったハルフォーフは、虚ろな瞳で明後日の方向へ視線を向けるのであった。

 




公式外伝がまさかの地球外生命体だったので好きにやることに決めた。独逸編では現実世界の時事ネタを参考にしたストーリー展開でやっていきます。分かりにくい所は適度に補足を入れられたらなぁと思います。

独自設定として防壁部分展開、国外でのIS使用の規定を盛り込みました。

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