成層破戒録カイジ   作:URIERU

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カイジ、虎視……!

楯無はとある屋敷の一室にいた。その目の前にはゆったりと椅子に腰かける男。そして、その斜め後ろには付き人と思しき黒服の男が控えていた。

 

「最近伊藤開司の動向を調査しているようだが、それは君の仕事ではない。元々の職分に戻りたまえ」

 

「私はIS学園の生徒会長として生徒のことを把握し、安全を保たなければなりません。特に男子生徒二人は各国家、女性権利団体など色々な組織の注目の的です。その身柄を確保しようと様々な策謀が蠢いています」

 

入国管理局にも目を光らせている更識家の情報部。不審な入国者はISの発表後増加傾向にあり、今年が最も多くなっている。

 

「君が気に掛けるべきは一人目の男子生徒なのだよ。そしてもっと言ってしまえば男子生徒そのものというより、その関係者の心情に目をむけるべきなのだ」

 

男性操縦者というものは非常に重要な存在ではあるが、その後ろ盾が非常に重要である。一人目の影には開発者の束にブリュヒルデの千冬がいる。一方二人目のカイジにはなにもないのである。

 

「織斑千冬と篠ノ之束に、ということですか」

 

「ISが幅を利かせているこの世界において最も重要な二人だ。特に博士のほうはどのような行動をするか予測もつかん。彼女の心証を悪くするようなことは避けたい」

 

現状篠ノ之束に連絡が取れる人間は表向き存在していないことにされている。しかし、どの国家機関においても織斑千冬と妹の篠ノ之箒は彼女への連絡網を持っていると踏んでいる。また、表の世界の人間は一夏の専用機である白式に、束が関係していることを知らない。そのため一夏のことは箒の幼馴染で束の知り合いか?程度の知識しかないものである。しかし、裏の世界の人間はそのことを知っている。そうなると話は全く違ってくる。他人に興味を抱かないという人格破綻者の束がわざわざ専用機に関わっている。それは無視できないことである。

 

「……」

 

「ともかく、君が自ら二人目のことについて動く必要はない。彼の事は布仏の家のものが見ておるのだろう?それだけで充分だ」

 

「彼女はISを持っているわけではありません。男性操縦者が二人とも専用機持ちになった以上、相手もISを出してきます。その時に彼女だけで対抗し切れると?」

 

ISにはISでしか対抗できない、というのが現在の世界の常識である。

 

「そうなったときはそうなったときだ。ISコア反応を辿れる以上、各国家ではISは出して来れまい」

 

「問題は亡国機業です。かの組織は複数のISを所持していると思われます。現状確定できるのはアラクネのみですが……」

 

「彼の周りには他国家の代表候補生、専用機持ちがいるではないか。特にドイツの専用機持ちはレーゲン型で1vs1に強い特殊兵装もある」

 

「(そうまでして私を伊藤開司に近づけたくない理由があるとでもいうの?ドイツの候補生は確かに軍人で、例え3年生でも彼女に敵わない人間はいるけれど……本当に何か裏があって、その腹を探られたくない何者かがいる。でも対外的に警護をまったくしないというわけにもいかない。そのパフォーマンスのために布仏が選ばれた、と。ならもう本音に調べさせるしかないわね。彼女も色々と感じ取っている部分はあるようだし、なにより仲良くやれている。布仏の家は要人警護が専門で調査は不得手だけど……)分かりました、では織斑一夏のほうのIS操縦技術の鍛錬を行います」

 

何故本音や虚のような少女が、と思われるかもしれないが、IS登場以降の世界ではとかくお偉方、要人となる人間には女性が多い。そしてそこに来て女尊男卑ともなれば、女性VIPの警護には女性を、となるわけである。

 

「そう、それでいいのだ。今の学園の状況、伊藤開司が花を持っている状況を、織斑千冬も篠ノ之束も快く思っておるまい。大切なのはバランスだ。どちらかに偏りすぎるのは良くない」

 

「(せめてもでイーブンには持っていきたいってこと?とはいえ一般学生たちの評価、どちらが人気かと言われれば織斑一夏の方。伊藤開司の関わって来た事件である所属不明機、VT事件、福音事件。それらの情報はすべて操作されている。物理防壁の降りたアリーナ内部の様子を知る生徒は私のようなごく一部しかいない。そんな状況だというのに、そうまでして二人のご機嫌を窺いたいのかしらね?全く狂ってるわ)それでは、失礼します」

 

一礼して部屋を後にした楯無。背を向けたあとの表情は苦り切っていた。

 

 

楯無が居なくなった後の部屋に残っていた黒服と上役、その会話。

 

「彼女はどう動くでしょうか?」

 

「表向きにはこちらの命令を守って、伊藤開司との接触は控えるようになるだろう。しかし、なにがしか更識ではないもの、となればもう決まっているようなものだが……布仏を動かすだろうな。だが布仏家と更識家が通通なのは把握しているし、両家の実力も知っている。更識の情報部さえ使えなければどうということもない。彼女たちにはおままごとをさせておけばよい。もとより、更識の情報部も改竄された情報しか所持してはいないがな」

 

「ならばなぜそこまでして、彼女を関わらせまいとしているのですか?伊藤開司の手と耳には傷跡が残っていますが、それも表の病院で事故によるものとして処理されています」

 

「物事は何事も慎重に、だよ。そして自分の領分を超えたことに興味を持たない方がいい。でないと……」

 

男はそう言いながら懐へと手を差し入れる。それが意味するところは……

 

「はい?」

 

「いや、なんでもない。ともかく黒服がお偉方の意向を知ろうとするなんて真似はしない方がいい。言われたことを忠実にこなしていれば良いのだ」

 

この男がなにがしかをしなかったのは、気まぐれ故か。しかし、男からはどこか剣呑な雰囲気が漂っていた。

 

「わ、わかりました」

 

その空気を感じ取ったか、慄きつつも頷く黒服であった。

 

 

 

「さて、簪ちゃんのほうはどうしてるかしらっと」

 

生徒会室の奥に設けられた仕事部屋へと戻り、モニターに電源を入れる楯無。そのモニターに映ったのは妹の簪が整備室で日課の専用機開発を行っている姿だった。

 

「まだこもりっきりなのね。私自身一人でISを組めた訳でもなし、実際のところアクア・ナノマシンの構想と基本骨子を組んだくらいなんだけど」

 

楯無自身が一人でISを組み上げたなど噂が独り歩きしているにすぎない。ISの技術系統は非常に多岐に渡る。それを一人で組み上げるなど束自身にしかできない芸当である。とはいえ、アクア・ナノマシンのほとんどを組み上げたというだけでも、十分に賞賛されることではあるのだが……

 

「簪ちゃんが伊藤君の方に近づいていく?苦手意識というか、どちらかと言えば嫌いなほうだったはず……」

 

簪が男性操縦者2名に良い思いを抱いていないことを楯無は知っている。一夏は自分の専用機開発を頓挫させた相手、カイジもまた男性操縦者ということで専用機を手に入れている。代表候補生ならば怒りの感情の一つも抱くなという方が難しい所ではある。実際のところカイジのほうは冤罪に近いのだが……

 

「しかし、これは厄介というかなんというか……簪ちゃんが自らの興味本位で彼に近づくのを止めることは出来ないし、どうしたものかしら」

 

楯無としてはカイジにある何かを突き止めたいという興味があった。しかし、上から釘を差されている以上この事は慎重を要するし、そのことに簪を近づけたくないという思いもあった。

 

「まぁ簪ちゃんの現在の状態は健全なものとも言えないし、彼と関わることで何かしらの変化があるのは悪くない、か」

 

楯無の中にはカイジが関わったセシリア、ラウラ、シャルロットの3人の事があった。セシリアとラウラは性格や思想的なもの、シャルロットは自らの境遇そのものが激変している。本音からの報告を勘案すれば、確定的にカイジがすべてのことに関わっていると見ていい。セシリア更迭、VT事件、そして男性操縦者偽装事件の3つ。所属不明機襲撃事件の折も渦中にいたのだが、その情報のほとんどは秘密裏に処理されていた。

 

「本音にうまいこと動いてもらうしかないわね。あの子なら簪ちゃんとカイジ君の間を取り持つこともできるし、なにより私の意向を汲んで危険からは遠ざけてくれる」

 

カイジが持つ背景というものはまだ皆目見当もつかないが、暗部の上のものが釘を差してくるほどのものとなれば一定のラインを超えないように注意しなければならない。それを本音に押し付けるのも酷な話ではあるのだが……

 

 

一方、整備室では……

 

「……?」

 

どこかから感じる敵意を含んだ視線……ISのハイパーセンサーを起動して周囲を窺う……

 

「(あれは確か4組のクラス代表で……日本代表候補生の更識簪とか……さらには姉貴が生徒会長でロシアの国家代表……血統からしてエリート姉妹ってのは違うのかねぇ……それにしてもあいつ自身に何かした記憶もないんだがな……いや、まさかな……)」

 

敵対的な視線を向けられる覚えもないカイジ……流石に昔と違って簪のことを刺客と勘違いはしない……!

 

「(しかしこの状況……人気のない格納庫……ここなら不慮の事故死を容易に演出できる……警戒しておくに越したことはない……!)」

 

内心では物騒なことを考えつつ……簪の出方を窺うカイジ……

それを知ってか知らずか近づく簪……そしてカイジへと話しかける……

 

「ねぇ、あなたはISを……専用機持ちになるっていうことをどう思っているの?」

 

「(いきなり話しかけてきてなんだ、その質問……?お互いに見知りはしてても自己紹介したこともねぇってのに……)別に……俺なんて所詮体のいいモルモット……それに対してどうもこうもねぇだろ……あんたらエリート女にとっては……かけがえのないステータスなんだろうけどよ……」

 

専用機持ち……それは最高ランクに位置するステータスの一つ……

 

「私は、エリートなんかじゃない……」

 

「……?俺の記憶に間違いがなければ日本の代表候補生で専用機持ちだろ、あんた……どこをどう見たってエリート様じゃねぇかよ……それともそのくらいは普通のことってか……?」

 

「そうじゃない、私は……私は認められないといけないの……あの人が、あの人こそがエリートなの……」

 

簪の中にあるのはただ一人……その相手から認められることだけが重要であった……

 

「(また厄介そうな奴……なんでこう一癖も二癖も抱えたような奴ばっかりなのかね、この学園は……とりあえず話題を逸らすか……)まぁあんたの事情に深入りするつもりはねぇ……そうだ、俺もあんたに一つ聞きたいことがある……」

 

「私に、聞きたい事……?」

 

「あんたの戦いの映像……それを見てると死角、ハイパーセンサーには死角はないが……人間なら反応のし辛い背後や上下……そこから来る攻撃にもあんたは正確に対応していた……」

 

クラス対抗戦に出てくる相手……その試合映像はもれなく見ていたカイジ……

特に代表候補生ともなれば専用機の有無に関わらず……相手になるべくもない……

元々の地力のある相手……さらに専用機のような癖のない訓練機……

これが実のところカイジにとって……最も勝ち目の無い相手とも言えた……

クラス対抗戦の折には特に鈴の甲龍の対策を練っていたカイジ……

だがその実、他のクラス代表相手には……対策の練り様がなかったのである……

 

「私の試合映像からそんなことまで分かったの……?それにしてもなんで私のことなんか……」

 

「俺にとってはクラス対抗戦に出てくる奴ら全員……正直相手にするのは厳しい状態だったが……その中でも厄介そうなのはあんただった……」

 

簪の情報並列処理能力の高さ……それは学園全体で見ても非常に優秀……

IS操縦者の多くはハイパーセンサーから来る情報……その多くを処理しきれない……

それ故に奇襲や奇策……付け入るスキというものも生まれてくる……

カイジからして、簪は隙の少ない相手……という分析であった……!

 

「そうやって、見てくれる人もいるんだね……」

 

「あんたにとっては自分の強みとするところかもしれねぇが……なんかコツとかってあんのか……?」

 

「さぁ、私も意識したことがあるわけじゃないからうまく言えないけど……ただ私がしているのは、インターフェイスやインプットされる雑多な情報を整理させてることくらいかな。不要な情報は入る前に遮断しているの」

 

いくら簪が情報処理に優れていようとも限界はある……

その意味で簪は自分の持つ能力……それが最大限発揮できるように工夫していると言えた……

 

「俺にはその情報の取捨選択ってのができねぇが……参考になったよ、ありがとな……それともう一つ気になってたこと……その打鉄みたいな機体はなんなんだ……?ずいぶん前からその機体を弄ってたと思うが……そいつを動かしてるところをみたことがねぇ……」

 

なんだかんだで訓練をしているカイジ……整備室への出入りも頻繁である……

 

「これは、この打鉄二式は私の専用機なの……開発が凍結されちゃって、途中から私が開発しているの……」

 

「(開発が凍結……?それを途中からとはいえ一人で開発って無謀……無茶もいいとこだろ……)開発してた会社が倒産か夜逃げでもしたわけ……?でもそれならあんたの手元に普通行かないよな……」

 

開発が凍結したならしかるべきところに保管……あるいは別の会社が開発を行うか……

いずれにせよ限りある貴重なコア……それを泳がせておくのは解せないことである……

 

「倉持技研、この子を開発してた会社は今も存続してるわ……」

 

「(くらもち、倉持……どっかで聞いたような……どこで聞いたのかね……あ、織斑の機体の会社だったな、そういえば……なるほどね、男性操縦者の機体を開発できるってなれば当然そっちへ行くよな……こいつにとっては不幸だが、相手が悪い……男性操縦者の情報を得るために、デュノアのような奴が来た……それだけ重い……その価値は……)悪いな、ISの開発会社なんてのには詳しくなくてよ……どっか別会社に依頼するってことはできないのか……?未完成のままじゃデータ集めもできないだろ……?」

 

シャルロットが来たのは第三世代機の情報もあるが……

黒幕が欲していたのは……男性操縦者の情報と見ているカイジであった……

 

「この機体のコアの所有権は倉持にあるの。だから私の勝手で他の会社に持ち込むなんてことは出来ないわ。それに倉持にはデータ収集にうってつけの人材がいるから……」

 

ISコアの数に限りがある以上、その数は厳密に管理されている……

IS委員会、各政府ともに管理下での開発・研究が行われるように法整備を行っている……

ISコアはブラックテクノロジーの塊……パンドラの箱でもあるのだ……!

 

「(またこれ以上話すと厄介なとこに入り込みそうな話題……そのうってつけの人材……それがいれば、コアの一つを泳がせていても痛くもないか……とはいえ、俺はその人材に興味はないぜ……)あんた自身の手で開発する以外ないってわけか……まぁ、頑張れよ……いずれ出来るときが来るさ……」

 

簪もまた無意識に救いを求めているのか……話題が自身の闇へと向いていく……

だがそれを躱しながら……背を向けて立ち去ったカイジであった……

 




話をはぐらかせて全然ストーリーが進んでない〇
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