雨生さんちの事情
雨生家は現在父方の祖父母と父母、達人と弟の隼人、そして養子となった桜の家族構成となっている
家族仲は極めて良好だが本来の後継者であった達人が遠坂桜を引き取ったことにより、事実上独立が確定してしまい、現在は隼人を魔術師にするために家族総出で教育している
魔術回路数
凛≒桜>>達人>隼人>>龍之介≧士郎
聖杯戦争もはや5日目
明日はザイードさんの命日です
冬木市の今日の天気は一日中雲ひとつない快晴
春を予感させる爽やかな風を伴った絶好の洗濯日和だ
恋の病
「うー、あー」
冬木市は晴れですが、どっこい穂群原学園高等部1-2の一角だけは局所的に大雨がざぁざぁと無音なのに降り注いでおりました
「なぁなぁ、音子、大河どうしたのさ?」
大河、音子の友達でショートヘアの弓道部員、三鷹深雪が音子に聞く
「あんな、ぬとねの区別がつかなさそうな顔になっちゃってさぁ」
2人の目線の先にはぬぼーっと宙空を見つめる藤村大河の姿があった
音子はそれを見ながら頬をかき
「いやー、ほんと…恋って偉大っすね…」
と哀愁を漂わせた
「何いってんだよ」
バシンと音子の背に深雪の張り手が炸裂する
「イッタ、痛いって」
深雪が音子の肩に手をかける
「ほらさぁ、最近小さい子が行方不明になってたりして何かと物騒じゃん?この間なんか図書館のシャッターがぶち壊されてたらしいしさ。そんな中で友達があんな状態だと心配でさぁ」
「まぁ、心配になるのは分かるけどねぇ、恋煩いはどうしようもないんだよねぇ」
「そうかー」
「そうなんだよねー」
2人の話を横で聞いていながらそれでもぬとねの区別が付かなそうな顔をしたままの大河を眺めながら深雪が聞く
「これで反応しねーってのは随分と重症だな」
「しょうがないんじゃない?恋する乙女は一日千秋、もう6日経ってるから大河からすると6千年会ってないことになるからねぇ」
「そのガバガバ理論好きだよ」
「あっは、ありがと」
「なるほどー、乙女は恋するとああなるのかー、恋する気失せるな」
「大河は例外だと思うよ、あんなナリだけど大河もそこそこいい所のお嬢さんらしいからねぇ、意外と純情なのよ」
「純情って言うか単純バカ?」
「まぁね」
鋭い張り手が空を切る
「お前それでも友達か!」
「あんたが先に言ったんでしょ」
「そうだな!」
「んーでさ、その雨生先輩ってどんな人よ」
「あれ、深雪知らなかったっけ?」
「知らない知らない、相当な朴念仁ってことしか知らないよ」
音子は頭に指を当てて
「まぁ、それ知ってれば基本十分だけどねー」
たははっと笑う
雨生達人先輩
現在二年生
文武両道で成績優秀スポーツ万能、でも帰宅部のせいか、他の部活でエースを張っている人たちに比べて影は薄い
大河曰く、武術の心得もあってかなり強いらしい
あと、ここら辺の地主の遠坂とか、教会の人と面識があって、放課後は大抵そのどちらかに行ってるんだってさ
ミステリアスでそういう系が好きな子から結構好かれてるね
「へー…、つかさ、大河ナチュラルにストーキングしてね?」
「ストーキングじゃなくて、帰る方角が同じだからついて行ってるだけみたいだけどねぇ」
「ついて行ってるって…あいつ剣道部じゃなかったっけ?」
「大河強いからねぇ、3年の先輩がいない時にランニングにかこつけてついて行ってたり、先輩滅多打ちにして休みもぎ取ったりしてるのよー」
「はー、そいつぁ涙ぐましいねぇ」
何がいいのかわかんない と思いつつも深雪は本心から感心した様子で言う
「その様子だと結構アプローチしてんだろ」
「だいぶね」
「で、脈無しってのは諦めた方がいいんじゃないか?」
「脈無しっていうか、異性として見られていないって感じだね」
「それはそれで問題だろ」
「まぁ、脈無しよりはマシでしょ」
「無いよかマシってなんだかなぁ」
「そんなこと言ってたらFGOなんてできないよ」
「え?」
「あ、いやなんでもない」
「?、ま、いいけどさ」
予鈴が鳴り、動かされる物の音で校内が騒がしくなる
「そろそろ次の授業の授業の場所に移動しねーとな」
「そうだね、ほら大河、次英語だよー」
「うー、あー」
ゆらゆらと引き出しから英語の教材を取り出して大河が立ち上がる
その様子を見てなんとも言えない気持ちになった深雪
「あーっと…アタシもまぁ、家族に聞いといてやるよ」
「ありがと、達人先輩はだいたい大人の男の人といっしょにいるからそういうセットを見かけたら教えて、それだけでも大河は復活するから」
「なんかそう言うと如何わしい感じがするな」
にひっと笑うがさらりと流される
「そーゆうのいいから」
「はは、すまんすまん、取り敢えずまた明日あたりにな」
「うん、こっちも帰りに探すぐらいはしてみるからさ」
「おう」
冬木市の騒乱の気配はまだ薄く、ごく普通の高校生にはこの何気ない日常はいつまでも続くものだと思われていた
イート・イン・泰山/Zero
「達人…これはなんですか」
それは赤かった
「麻婆豆腐です」
白など何処にも見当たらなかった
絡んだ餡が豆腐の白を覆い隠しているのだ
「達人」
「はい」
極赤色と深い緑に彩られた濃い色のそれ
「これはなんですか?」
「麻婆豆腐です」
一目では尋常じゃない麻婆豆腐だと気付ける
「私が聖杯から受け取った情報では麻婆豆腐はこんな目が痛くなる程の刺激は無かったのですが」
喉を、目を焼きに来る強力な辛味
「それが泰山クオリティです」
それがここ泰山の激辛麻婆
「達人」
「ああ」
「君、コレ食べられないから呼びましたね?」
「…ああ」
彼はさらにその激辛を頼んでしまったのだ
泰山へ足繁く通う麻婆ラーたちも麻婆神父を除き、みな食しているのは普通の麻婆である
そんな中、泰山麻婆激辛を頼んだこの2人がどのようにこの麻婆を制覇するか固唾を飲んで見守り
泰山の中はにわかに沸き立っていた
フランケンがため息をつく
「まぁ、これを片付けるのは一先ず置いて
悪手!
常連たちから戦慄が走る
ドンッ
と水が溢れぬ絶妙な力加減でコップをテーブルに打ち付け最大限の音を出し、店主が自身がいることを主張する
「お客さん、うちの麻婆は熱いうちに食うのが美味いんだ。お喋りは食ってからにしてくれねぇか?」
放たれる料理人の覇気
自身の料理への情熱、愛情。そして客に最高の味を味わってもらいたいという『まごころ』
それらが合わさった泰山店主の気迫は
なんとも逆らえない様相を呈している
余談であるが、田舎特有のプチ不良が泰山で横暴を働くと何故か1週弱できちんと更正するらしい
何故だろう?
これは冬木市7不思議のうちに挙げられたり無かったりしている
決意の時は来たれり
「達人」
「わかってる」
目の前にそびゆるは辛なる赤い悪魔
神様のうっかりで誕生せし怪物
きっかけは己なればカタをつけるのも己
だが己には友がいる
友とならなんだって乗り越えられる
共に行こう
辛なる戦いは今ここから始まり
5秒で敗北という結果に終わった
フランケンシュタインは辛いなんて概念がろくに無い時代の人間であり、そんな友が役に立つはずがなかったのだ
友(フランケンシュタイン博士)は(口が)傷つき倒れた
己の身(口)も限界はほど近い
それでも進まなければならない
人々が観ている
声は無くともわかる
彼らの応援が!
力に!
なるはずもなくほどなくして2人の手は完全に止まった
辛い
辛すぎる
例えるならば爆発し続けるダイナマイト
いや辛いどころでは無い
まさしく口の中でダイナマイトが弾けているかのごとく痛いのだ
普通の泰山麻婆ならばまだ深奥の旨味を感ずる余裕も残ろう
だが、泰山激辛麻婆激辛はそんな余裕など残さない
その様相はまさしくマグマ、超激辛特有の餡というか、唐辛子のペーストの中に見える挽肉とネギはマグマに浮かぶ岩のごとく、豆腐は粘度の高い餡によって所々白が垣間見えるのみ
白米も牛乳も用意していた、しかし、そんなものは焼け石に水
2人のチャレンジャーを泰山激辛麻婆激辛は瞬く間に芯まで焼き尽くした
2人は尊い犠牲となり、もう誰も泰山激辛麻婆激辛を頼む人間はいないだろう
ただ一人を除いて
ガランガランと音を鳴らし扉が開かれる
武術を納めし者特有の優雅とも取れる歩み
二人の健闘を称えていた泰山の常連たちは目を見開く
その男はごく普通の格好をしていた
だが、泰山の常連の中では有名な男だった
常に十字架の首飾りをし、服の上からでもわかるその引き締まった肉体
そのような人間は泰山の常連には一人しかいない
その名は
言峰綺礼
オッス、オレ外道マーボー今後トモヨロシク
誰もがそのフレーズを幻視した
綺礼は撃沈した二人を見ると少し驚き
「達人くん、ここで何を?」
「あー、綺礼さん、いや、友達と泰山の麻婆を食っていたんだけどうっかり激辛を頼んじゃってね。少しやばい」
綺礼が根性で3分の1にまで減らされた麻婆を見る
「そうか」
綺礼が皿に手を当てる
「まだ温かいな」
「ああ、まだ来てから大して時間経ってないからね」
「ふむ、そうか」
綺礼は少し考えこむ仕草をすると
「ところで私は君の友達かね?」
「ん?まぁ、兄弟子だけど、友達には入ると思う」
「そうか」
皿を両手でガッシリと掴む
「なら戴こう、丁度いい腹ごなしだ」
そう言うや否や皿を持ち上げ、残り3分の1となり僅かな豆腐と山のような唐辛子の塊となった麻婆を一息に飲み尽くした
ゴトンとテーブルに置かれた皿に麻婆は影も形もなくなっていた
その光景に店主を除き唖然とする店内
そしてまるで最初に出される水を一口飲んだあとのような気色で言峰綺礼が告げる
「店主、先日頼んでおいた麻婆極辛を一つ」
これが泰山に辛王綺礼が誕生した瞬間である
とある暗殺者の日記
本日マスターからアーチャーのマスター暗殺を命ぜられた
数多いる百の貌のハサンの中で私を選んでいただき恐悦至極
決行は明日の深夜2時22分
草木も眠る丑満時なればアサシンがもっとも輝く刻
命を賭してこの任を全うする所存
そして叶うならばこの私が百の貌のハサンの主人格へと…!