だが奴は弾けた 作:宇宙飛行士
◇
━━クリアマインド!
レベル8のスターダストドラゴンに、レベル2のシンクロチューナー フォーミュラ・シンクロンをチューニング!
集いし夢の結晶が、新たな進化の扉を開く。光差す道となれ!!
━━アクセルシンクロォオオオオ!!!
生来せよ!シューティング・スター・ドラゴン!!!
ふっ、いつ声に出しても気持ちいい。これでどんなときでも口上を完璧にこなすことが出来るぜ。
起床して一番、俺は龍亞君と龍可ちゃん先輩の家の庭にでて、アクセルシンクロのイメージを固めていた。
無駄に広いこの庭、というより完全にプライベートなんちゃらだと思うのだが、まあ、そこで出した声は遠くまで澄んで広がり、とても気持ちがスッキリするのでした。
今回この家で泊めてもらったわけだけども、どうにも眠ることが出来なかった俺。一人になって考える時間が出来てしまうと、急に不安が襲ってきたりしたのだ。えー?これからどうすんのー?と思考が頭の中でぐるぐる回り、その答えは全くでない堂々巡り。モーメントかな?なんていう突っ込みをしていたりしたのです。つまるところ寝不足である。
そうして朝日がのぼってしまって空が白んだころ、こうして俺は庭にでて、自身の体のリズムを整えるためにアクセルシンクロの口上を確認していたわけである。
これはスポーツのプロ選手が最高のパフォーマンスを発揮するために、何か一つのことを習慣づけていることとよく似ている。ただその俺の習慣づいていたのがアクセルシンクロだったというだけで、別に変なわけではない。いいね?
そんな感じで紙のような理論武装を展開している俺の背から「……何してるの?」と、龍可ちゃん先輩がジト目でこちらを見ていらっしゃいました。
……グワァああああ!!!
相棒ォ!相棒ォオ!!何か俺の中からもう一人の人格よ、目覚めてくれぇえ!!!
そんな感じで一日が始まり、やっぱり夢ではないということを実感したのです。
◇
赤っ恥をさらしてから時間がたち、龍亞君と龍可ちゃん先輩はデュエルアカデミアへ。
俺は昨日の約束通り、セキュリティの牛尾さんの元を訪ねる。
勿論、徒歩で来た。俺のメカメカしたバイクはこの先の闘いについてこれそうにない。誰でも時限爆弾を懐に抱えたくないのである。学習しました。
そんなこんなで牛尾さんに「どうっすかね?」と見かけてからすぐ声をかける。すると「お前また来たのか?」とめんどくさそうな顔して言われました、まる。
……えぇ?(困惑)。なんでや!?明日来いって言ったのは貴方様やろ!そんなに前、俺が深影さんと仲良く話してたの気に入らなかったんすか!?どんな人にも平等に接してはくれないか!貴方の敵はジャック氏なんだ。俺ではない!
俺が開幕先制オウンゴールを決めてしまったような心持ちの中、牛尾さんとの会話は進んでいく。
すると一応牛尾さんも考えてくれてはいたらしく、俺に「これからは俺の知り合いのとこに住ませてくれるよう頼んでやる」と頼もしい言葉。おう!流石牛尾さんだぜ!現在の彼は心が浄化されてるからね。基本いい人なのだ。
牛尾さんの返事を聞き、イヤッホォ!となっていた俺だが、次の彼から出た言葉に愕然とする。
━━で、その俺の知り合いがあの不動遊星なんだが━
━━土下座である。
俺氏即座にその場で土下座して、それを拒否させてもらうんだ(^o^)!
何故かって?別に遊星先輩は全く問題ない。むしろDホイールの遊星号が間近で見られるなんて(見せてくれたらの話だが)興奮しますぜ。
だがしかし、遊星先輩のとこにはあの、元キング氏━━ジャック・アトラスも住んでいるのだ。
……ジャック氏は時々無駄に鋭いことがあるって俺は知ってるんだ。ヘルメットごしだったとは言え、俺の正体が昨日ライディングデュエルした相手だって一瞬で看破されるかもしれない。結果、
お前!あの時のゴーストヤロウ!→いや人違ry→問答無用!(怒りを込めた右フックからの無言の腹パン)→ぐわっぱ(俺氏気絶)
→牛尾さんこの人です(諸行無常)
となるに決まってる(白目)
何故俺は自分で自分の首をシメていくスタイルなのか。スタイルチャンジしてぇ、そんな泣きそうな気持ちを抱きます。
結局その後「遊星先輩以外で行けそうなとこはないでしょうか?」と超贅沢なお願いをしてみて、むむっと牛尾さんは少し間をおいて考えてくれたのだけども、案は出ず。
取り敢えず今回もまた次に持ち越しという形で別れることとなった。
とぼとぼと歩く俺の後ろ姿からは、哀愁が漂っていただろう。
◇
公園のベンチに座ってぼーっとしてる俺は、全くもって意気消沈。どんどんマイナス方向へのイメージが頭の中に浮かんでしまう。
アカン。こんなんじゃあ全然だめだぜ。ただでさえ何も出来ないのに、元気さえ無くしてしまうとは。
燃やせ俺のバイタリティ。感じろ俺のバーニングソウッ!!
まだだ、まだ諦めるわけにはいかない、と俺は魂を荒ぶらせ立ち上がる。そうだ、まだ双子たちに世話になるのだから、俺はその恩を返すことに全力でいかなくてはならない。彼らはデュエルアカデミアで昼食は食べてくるんだから、俺はそれよりも美味しいと言われるような夕食を作らなくては。
まだいける。そうだ。いけるんだ。諦めるんじゃない。どっちみち迷惑をかけてしまうなら、俺はこの場所で恩を返して満足するしかねぇだろ!!!
取り敢えずはコストを減らすために、どのスーパーが安いのか、俺自身のコミュ力をマックスモードまで上げなくては。いくぜ!培われた商店街でのおばちゃんと話す術を披露してやる!
うぉおおおおお!!アクセルシンクロォオオオオ!!!
俺は駆け出す。
━━まだ、俺の満足はこれからだ!!
◆
「ジャック、一体どうしたんだ?」
不動遊星は自分の仲間であるジャック・アトラスの事を心配していた。
昨夜遅くに帰ってからというもの、彼はいつもより口数が少ない。何かを考え込んでいるのは傍目からでも理解することが出来たが、ジャックがここまで様子がおかしいのは珍しいことだと遊星は思っていた。
「……別に、何でもない」
「だがジャック、昨日から少し様子が」
「何でもないと言っているだろう」
そう言いきり、ジャックは遊星の元を去っていく。遊星はそんな彼の後ろ姿を目で追った。すると、数歩ほど歩いた後ジャックは急に立ち止まり、振り返らず遊星に声のみで問いを投げかける。
「……遊星。カオス・ソルジャーというモンスターを知っているか?」
「━━なに?」
「いや、知らないならいい」
ジャックはそう言って今度こそ遊星の目の前から消えた。
遊星はジャックの言葉を思い出す。
━━カオス・ソルジャー。確か自分は何処かでそれを聞いたことがある。
だが、思い出せない。そのモンスターの姿、形は知らない。その名だけは確かに聞いた覚えがあったはずだ。
━━調べてみるか。
遊星は一人心の中で呟く。
ジャックの様子がおかしい原因。それがそのモンスターが関係していることだとしたら、その価値は十分にあるはずだと静かに思う。
WRGPに向けての新エンジン開発とともに、遊星は一つの調べ事が増えたのだった。
◇
おばあちゃんは言っていた。「ここから少し遠いけど、今日は特別あそこのスーパーが安いよ」と。
その聞いた場所を、龍可ちゃん先輩から「一応持っておいた方がいい」と渡された地図で確認し、確かに徒歩はキツいなぁとうむむと唸る俺。でも、背に腹は代えられない。今回だけ!今回だけメカメカしたバイクの封印を限定解除するしかない!そう苦渋の決断をする。
一度双子たちの家に戻り、ヘルメットを被って準備はオールオッケー。
大丈夫、大丈夫だよ今回だけだし。Dホイールを見かけたら即座に退☆散すれば何とかなるのではないだろうか?なんていう安易な考えを持ちつつ、エンジンをかけてレディーゴー!風を身で感じながらスーパーへ向かう。
俺の身体が……スピードの世界に溶けていく……風と一つに……クリアマインド!!
運転している内に本来の余裕を取り戻した俺は、そんなふうに調子に乗り始めていた。
━━だがそんな俺の背後に、ヘッドライトをこちらに点滅させてくるDホイールがいることをミラーごしに発見する。
やっべ、もしかしてデュエル挑まれてる?そう思った俺はこれはマズイと後ろのDホイールをふりきるため、距離がある内にスピードを上げる。
見せてやるよ!俺が教官から授かったドライブテクニックを!一子相伝(嘘)だぜ!!
そう技術を駆使して頑張る俺だが、相手が余程の実力の持ち主なのか、中々ふりきることが出来ない。
し、しつけえ!!
なんでこんなに着いてくるんや!やめてくれないか!俺のドライブテクニック(笑)に抗ってくるのは!というかどんどん追いつかれて来てるんですけどぉ!!おい!やめろ!それ以上近づいたry
『DUEL mode Stand by』
ああ^~。
◆
シェリー・ルブランは苛立ちを感じていた。
自身の両親を殺した、『イリアステル』という善と悪を超越した謎の組織。そしてその情報についての進展の無さ。ライディングデュエルの世界大会『WRGP』の裏でその組織が糸を引いていることは理解することが出来たが、逆に言えば、それ以上の事を知ることは出来なかった。
一体自分達が知ろうとしている組織は何の目的で、何を隠しているのか。
━━何故、自分の両親は殺されなくてはならなかったのか。
シェリーはこれまで、復讐のために身を捧げてきた。だからこそ自分の力の無さを思い知らされた。
それに苛立ち、現在彼女は一人、自身のDホイールで道を走っていた。
━━そんな時である。自身の前を行く一台のDホイールを見つけたのは。
不思議なDホイールだった。全体を銀で染めたボディ、だが多くのオプションとしてのパーツを後付けしたのか、元はただのバイクだったものがただ肥大化しただけのように見える。あの形では流線形を描く通常のDホイールとは違い、空気抵抗をまともに受けてしまうだろう。だが、それでもあのシルバーのDホイールはかなりの速度を保ち、走行している。元のエンジンが特別なのか、馬力は通常のものよりも格段に違った。
それにしても、あんなアンバランスなDホイールを操作している者はどれほどの技術を持っているのだろう。コーナーを曲がる時の減少速度。最小のルートを描く軌跡。全てがとても高いレベルで完成されている。
━━面白い。
シェリーはそのDホイーラーに興味が湧いた。
自身が苛立つ気持ちの解消も兼ねて、彼女はライディングデュエルを挑むことにした。あのDホイーラーならば、自身の今の暇潰し程度にはなるかもしれない。そう思い、ライディングデュエルに挑むためヘッドライトを点滅させ、相手に意志を伝える。
だが、そのDホイーラーはちらりとミラー越しにそれを確認した後、スピードを上げて遠ざかっていく。
━━やりたかったら着いてこいってこと?舐められたものね!
それがあの謎のDホイーラーの挑戦だと受け取り、彼女はそのあとを追う。
限界ギリギリのバイクレース。中々縮まらない距離。互いの技術は拮抗していた。なんて相手、と感心しつつも必死にシェリーは目の前の相手に追いつこうとする。
長い時間をかけ少しずつ、少しずつ間を詰めて、そして━━ようやく追い付いた。
━━捉えた!
シェリーは確信する。これでこのDホイーラーとライディングデュエルが出来る、と少しの達成感を抱いた瞬間、
『DUEL mode Stand by』
━━なッ!強制的に!!
自身のDホイールからの機械音声とディスプレイに表示されている文字から現状を把握する。
もしかすると目の前にいるDホイーラーは普通の、ただのデュエリストではないのかもしれないと、疑惑を深めながらシェリーはデュエルを開始した。
誤字報告して下さった方々ありがとうございます。これからも「これなんかおかしくね?」と思ったら教えてください。
作者は自分の頭の中を参照して書いてる節があり、間違いにあまり気づけません。だから感謝してます。うっす。