ソードアート・オンライン -The Revenger- 作:こもれび
「キリト君っ‼」
消えて行くサクヤさんを前に、崩れるように前のめりに倒れ込んでいくキリト君に、自由になっていた私は駆け寄った。
震える彼の顔、怯えた瞳、そして、彼の懇願するような絶叫に、私の胸は張り裂ける。
彼が目にした光景……、それは、決して仲間を見捨てたくないと誓った彼の心を、ズタズタに引き裂くものだと分かったから。
抱きかかえた彼の全身は震え、顔面蒼白になってしまっている。
今すぐにも助けてあげたい、でも……。
私は彼を抱きながら、顔を上げた。
目の前には、手に小型の拳銃を構えたキリト君の姿をした男……、『デリンジャー』が顔を醜悪に歪めて笑っている。
そして、その向こうには、身長10mくらいはありそうな赤と青の2体の巨人……、これは、確か『デリンジャー』の仲間の『ササマル』と『テツオ』と言う名前だったはずだけど、彼らが姿を変えたもの。
プレイヤーがあんなボスモンスターの様に変身してしまうなんて、そんなの聞いたことない。
それに、さっき言っていたアミュスフィアのパルスの件……、あれもとても嘘だとは思えない。確信があるからこそ、あんなにはっきりと宣言したはずだし。
そうだとしたら、今この場にいるほとんどすべての人は、LIFEゼロ、イコール『死』という、SAOと同じ状況になってしまっているということに……。なら、サクヤさんは……
「くっ……」
自分の内から湧き上がるとある感情に全身が支配されていくのを感じる。
それは『怒り』。
さっきあの『テツオ』という人に腕を掴まれたときに感じたのは激しい嫌悪感と、どうしようもない絶望感の二つだけだった。この人達には勝てない。圧倒的な怪力で押さえつけられ、直観でそれを感じてしまっていたのだ。
けれど……。
「ユイちゃん……、キリト君……」
目の前で大切な人たちが傷つけられていく。私のことをどう言われたって、どんな風に見られたってそんなのは構わない、どうでもいい。でも……
大切な人たちの尊厳が
一度キリト君を縛り付けている拘束具に目を向けるも、腕の部分を完全に後ろ手で固定されてしまっていて手を抜こうにもそれは難しそうに見えた。そして、接触したその時に出たアラート、それは、【
今すぐに、彼を救い出すことはできないことは分かった。
そして、このまま彼らの好きにさせれば、少なくとも私たちはこの絶望感を抱いたままで、苦しんで死んでいくことになってしまう。
切り替えて……
切り替えるんだ……、私……
ここは、あの世界だ。
あの恐ろしい、死の恐怖にひたすら怯え続け、そして、生き残るためにもがき続けた場所なんだ。
このままじゃ、終われない……
終わっていいはずがない‼
私は……
『閃光のアスナ』だ!
沸き上がる怒りに自身を奮い立たせ、私は震えるキリト君を担ぎ上げ、そのまま一気にユージーン将軍の元に走った。ここに来てからの連戦でさらにレベルアップした私の身体は、かつてないほどに素早く動くことが出来る。
一瞬で移動した私を追う卑しい彼らの視線を確かに背後に感じたけど、今はそんなことには構っていられない。なんとしても、この状況で、みんなで『生き残らなければ』‼
「ユージーン、お願い、聞いて。このままじゃ、みんな殺されてしまう。一旦下がってすぐに態勢を整えて。良い?やることはレイドボスと同じ。敵は3体。一体ずつ戦力を集中させて
「し、しかし……、さ、サクヤが……」
目の前で起きてしまった事態にやはり彼も同様してしまっている。でも、そんな悠長なことは言っていられない。
私は彼の頬を平手で叩いた。そして言う。
「サクヤさんのことは忘れて!あなたの力が必要なの!みんなを纏めて!私は……時間を稼ぐ!」
ユージーン将軍に預けたキリト君と目が合った。そして、大きく目を見開いた彼が私に言う。
「やめろ……、やめるんだ、アスナ。行っちゃだめだ」
私は腰の愛剣『ランベントライト』を引き抜いて、『敵』を見据えた。
そして、私を気遣ってくれる彼に答える。
「ごめんキリト君。みんなを助けるためには今は行かなくちゃ。それにどうやら私は『商品』みたいだから、すぐに殺されることはないと思うし、だからお願い、キリト君」
お腹に力を入れる。そして、気持ちを剣に込める。そうしながら、彼へと言った。
「みんなを守って」
「アスナっ!」
今まで感じたことが無いほどの全能感に全身が満たされていく。自分の四肢が現実の身体をはるかに超えた領域までその神経を伸ばしているような感覚。今、この瞬間ならどんなことでも出来る、そんな思いが身体を駆ける。
きっと生身の身体は今も重症のままで身動き一つできないんだろう。それでも、今こうして与えてもらうことが出来たこの力に私は感謝した。
へへ……、アスナねーちゃん
ふと思い出すのは、眩しいあの娘の笑顔。
今の私と同じようにあの機械の中で身動き出来ずに、ただ自由に憧れ、自由を求めた無垢な存在。
あの娘もきっとこの世界を……、このなんでもできる身体をなによりも愛していたんだと思う。
お願い……、私を導いて……、ユウキ……
「はあああああああああああっ」
ランベントライトのソードスキルの輝きをそのままに、私は一気に駆けだした。
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