ソードアート・オンライン -The Revenger-    作:こもれび

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復讐者

「くそがぁ……」

 

 身体を石柱へと激しく叩きつけられたデリンジャーは、悪態を吐きながらも今目の前で起こった信じられない事態に思考を巡らせていた。

 つい先ほどまで自分たちの独壇場であったこのフィールドは、今やアスナにされるがままとなってしまっている。現時点においてキリトに次ぐ高レベルのプレイヤーであるとはいえ、そのLV(レベル)は100を超える程度。対して、デリンジャー達は全員LV999に変更されており、各種パラメーターは激増しているわけでそんな状態の彼らにたかだかLV100程度のプレイヤーがダメージを負わせることが出来る道理はなかった。

 しかし、現実に目の前で蹂躙されているのは高LVであるはずの彼らの方。

 一瞬で『テツオ』が切り殺され、自分もまたシステムアシスト越しに弾き飛ばされた。そして今まさに目の前で『ササマル』がその暴力を振るい殺しにかかっているというのに、彼女には攻撃が届く様子が全くなかった。

 事前の調査では、アスナにここまでの耐久性や攻撃力は備わっていなかったはずだ。

 突然に成長したのか、あるいは自分たちの様になにかドーピングを施したのか……。

 管理者権限を持ち合わせているデリンジャー達よりも強く設定する術など普通ならあるわけがない。ならば何が起こったのか……。

 そうこう考えているうちに、今度は『ササマル』が細切れにされて消滅した。

 

「なんなんだ、あいつは……」

 

 砂塵舞うその広場で、しばし佇んでいる彼女を見ながらデリンジャーは現状把握どころか全てを理解できず困惑のままポツリと呟いた。

 だが、答えは当然見つからない。

 変わった点と言えば、今彼女が使用している盾と剣くらいな物。いったいあの装備はなんなのか……。

 アスナの装備は細身剣(レイピア)のみだったはず。あのような騎士盾(カイトシールド)長剣(ロングソード)の装備の話を彼は聞いたことはなかった。

 だが、だからと言ってこのことが彼女の圧倒的な強さに繋がるとは考えなかった。

 

 彼は悶々としながらも、答えの出ない現状把握を諦めることにした。

 

 例えアスナがどんなに強くなろうとも、決してダメージを負うことのない自分には大した問題とはならない。

 死んだ『テツオ』と『ササマル』についても、簡単な操作で再び復活させることが出来るはずだ。そのように出来ると『彼』から聞いているのだから。

 なにも問題はない。

 予定とは違ってしまったが、プレイヤーは全員殺す。

 そしてこのゲームを自身でクリアーすることで今回のプロモーションも完了だ。

 後は政官財の顔役達に金と女をあてがい、今回のイレギュラー部分を全て揉み消してしまえばいい。そうすれば健全なキャンペーンのみが残って最高のプロモーションが完成する。

 そして邪魔なアスナだが……それこそ一番簡単だ。

 奴を黙らせるちょうどおあつらえ向きな『モノ』がそこに転がっているからな……くくく……。

 

 そう思いながらほくそ笑む彼の前に、二つの人影が立ちふさがった。

 

 一人はアスナ。

 厳しい表情の彼女が見つめるのはデリンジャーの足元……そこに手足をもがれ仰向けで転がったままになっている彼を、苦しそうに表情を歪めて見つめていた。

 そしてその隣で彼を睨み付ける存在、それは……

 

「てめえ……」

 

「年貢の納め時ですよ……『社長』」

 

 そう話すのは、青いローブを纏ったスプリガンの男。そのアバターの正体を彼は当然知っていた。

 

「てめえ、『田口』。よくも裏切りやがったな」

 

 その言葉に青いローブの男……『田口』は苦々しい表情で返事をした。

 

「裏切るもなにも、私は始めからあなたの側に立ったことなど一度もありませんよ。ただ、社長……あなたのお父上からあなたを監視するように申しつかりはしましたがね……」

 

「なんだとっ! てめえは親父のスパイだったのかよ」

 

 いきり立ってそう詰め寄るデリンジャーに田口は厳しい表情のまま口調穏やかに続けた。

 

「……それだけではありませんが、私は確かにあなたのことをずっと見続けてきました。今日この時、こうしてあなたと話す為に……」

 

 身体を震えさせたデリンジャーが額に血管を浮かび上がらせながら田口へと迫る。

 

「俺に歯向かって、どうなるか分かってんだろうな? ああっ!? てめえには……確か娘が一人いたよなあ。可愛い可愛い一人娘……たしか今年高校に入学するとかって話だったか……あーあ、こんなくそ親父のせいでもう二度と普通の生活送れなくなっちまったなあ。あーあ、可哀想になぁ」

 

「えっ!?」

 

 ニヤけたデリンジャーが言ったその言葉を聞いたアスナは慌てて田口の顔を見た。

 家族を襲うと明言したその言葉。普通であれば恐怖して取り乱して当然である。

 しかし、彼女が見つめた田口はまったく動じてはいない。影を落とした静謐なままの表情でデリンジャーへと視線を注いでいる。

 そんな彼はポツリとこぼす……。

 

「そんなことはもうどうでもいいのです」

 

「あっ?」

 

 動揺を見せない田口に対し、デリンジャーは激高した。

 

「マジでぶっ殺すぞ、てめえも、てめえのクソ不細工な娘も! このくそがぁっ! この俺に楯突くとどうなるか本当にやられねえと分かんねえみてえだな、ああっ‼」

 

 吠えるデリンジャーに田口は……

 

「構いませんよ。私の命など……もうどうでも……それに愛しい娘の命を奪うことも、もはやあなたには不可能ですから」

 

「た、たぐたぐさん……それって、どういう……まさか……」

 

 田口の言葉を拾ったアスナが、彼の穏やかな顔を見ながらハッと気が付き、みるみるその顔を青ざめさせていく。そんな彼女に視線を向け、田口は優しく微笑んで言った。

 

「娘は今年高校に入学する……はずでした。生きていればですけどね。そうです。私の娘は死にました。この目の前の(けだもの)達に嬲られ、彼らの目の前でその命を自ら絶ったのです」

 

 静かに……しかし、湧き上がるような怒り、憎悪、苦しみの籠ったその重たい声……田口のその言葉にデリンジャーはびくりとその身体を震わせる。そして、慌てて言葉を紡いだ。

 

「う、嘘だな……俺達は『田口』なんて奴を襲ったことはねえぞ。そうだ……あの目の前で自殺した女……あいつはそんな苗字じゃなかった……間違いねえぞ、へへ……てめえ、適当なことぬかしてんじゃねえぞ!」

 

 へらへらと笑いながらそう返すデリンジャー。

 そんな彼に向かって、田口は言葉を続けた。

 

「……簡単な話ですよ。私は妻と離婚しました。ですから娘は妻の旧姓になっていたというだけのことです。娘の死を知った時……私は必ず犯人に復讐すると誓いました。そして必死になって犯人を探しました。警察の捜査は遅々として進んではいませんでしたけどね、その理由は言うまでもないでしょうが……私は独自に調査してあなた方へと辿りつくことが出来ました。あなた方が犯人だと確信した時の私の心境をお分かりになりますか? その時私はすでにこの開発部の部長で、実行犯のほとんどは私の部下。そして、上司にはあなたがいた。歯を食い縛る思いとは正にこのことでしたよ。私は、あなた方を仕留める(・・・・)機会をただただずっと待ち続けていたのですよ」

 

「てめえ……」

 

 デリンジャーは手元にコンソールを呼び出して何かの操作を進める。だが、上手くいかないのか、何度も何度も指を滑らせていた。それを見ていた田口は憐れんだ眼差しを彼へと向けた。

 

「彼らを復活させようと思ってももう無駄ですよ。彼らはすでに死んでいます」

 

「な、に?」「え……」

 

 驚愕して目を見開くデリンジャー。そして、田口の隣に立つアスナもまた驚きにその身体をワナワナと震わせていた。

 田口はアスナに向かって穏やかに話す。

 

「大丈夫ですよアスナさん。彼らはアミュスフィアの電磁パルスで死に至った訳ではありません。ですからあなたが気に病む必要はまったくありません」

 

 アスナは彼の言葉を噛み締め、そして戦慄した。

 目の前に佇むこの穏やかな男性は、間違いなく人を手にかけたのだ。

 その事実を彼女は、言葉からだけではなく、彼が纏う『死の影』からも感じ、そして理解した。

 彼はすでに命を狩ってきたのだと……。

 

「お前……マジで殺しやがったのか……」

 

 デリンジャーのその言葉を聞くと、田口は世間話でもするかのように話を続けた。

 おぞましい言葉を用いて。

 

「ええ、そうです。彼らを『殺す』前に娘の話をしましたら、皆一様に謝罪してきましたよ。もっとも、どんなに謝ろうと決して許す気はありませんでしたがね」

 

 そのあまりに静かな雰囲気にアスナは思わず口を押さえた。恐怖に身の毛が弥立(よだ)つのを感じてしまったからだ。

 田口は淡々と話しながらも、デリンジャーに対しては鋭い視線を向けたまま、決して目を逸らそうとはしなかった。

 

「あなた方は狡猾でした。常に仲間全員でネットワークを共有し、例え一人きりになったとしてもすぐに連絡が回る態勢をとっていました。それが分かったからこそ、私はあなたの言いなりとなり、陰日向関係なく従ってきたのです。そんな苦渋を飲む日々も今日までのこと。あなたが『彼』の進言に乗り、このイベントを開催することが決まり、私はようやく解放されたのです。娘の仇に従い続ける日々からね」

 

 田口は一旦ほうっと大きく息を吐いてから続ける。 

 

「この日を待ったのには二つの理由があります。一つはあなた方が一堂に会しこの世界に来るだろうと予想できたこと。イベントならばあなた達全員ほぼ同じ行動を取ることは分かっていました。案の定こうしてあなた方は集まった。お陰で安心して全員始末できるというわけです」

 

 彼の言葉は理路整然としたもの。

 とても今、『殺人』を犯してきたなどとは一般の人には見えないことだろう。

 

「そしてもう一つは、あなた方から犯行の言質をとるため。残念ながら私にはあなた方が犯罪に関わったという確実な物的証拠を手にいれることは出来ませんでした。かなり周到に隠滅されていましたからね。別にそれを手に入れたと言って何も裁判をしようなどとは思っていませんでしたよ。あなた方の犯罪を如何に立証しようとも所詮数年から十数年の懲役刑しか日本の法律では科すことが出来ませんから。言質は被害に遭った全ての人に対してのささやかなお見舞いのようなものです。あなた方はこのSAO世界の報道を自分達が管理していたと思っているようですが、それは違います。私もきっちり見ていましたし、そしてしっかり記録もさせていただきました。まあ、これを放送しようなどとは思ってはいませんけどね。でも、これのお陰で私も遠慮なく彼らに刃を突き立てられましたよ」

 

 刃と言われ、隣のアスナはびくりと身体を跳ねた。

 まさに自分も現実の身体はナイフで刺されたのだ。

 もしかしたら、自分を刺したのはこの田口なのではないか……えもいわれぬ恐怖が彼女の頭を満たしていった。

 田口の言葉は終わらない。

 

「あなた方は私の予想していた以上に様々なことを暴露してくれました。これも全てアスナさんやキリト君のお陰……いや君たちには本当に辛い思いをさせてしまったと思っている。この償いは必ずしよう。約束する。君たちの奮戦のおかげで彼らが私に油断してくれて助かりました。簡単に殺すことが出来ましたからね。そして、その仇討ちもあと一人……」

 

 そこまで言ったその時、唐突に田口を包む雰囲気が一変した。

 

「『貴様』を殺して全てを終える」

 

 田口の目の色が変わった。もはやその殺意を隠そうともしなくなった。

 ギラリと光るその眼光に見据えられたデリンジャーもたじろぐ。

 

「ま、待て田口……まさかお前……『あいつ』と接触してやがるのか? まさか『あいつ』は最初からこの俺を嵌める為に……お、お前は最初ッから全部知ってたってことか? おい、答えろ」

 

 そう問い詰めるデリンジャーに田口はやはり静かに返す。

 

「『彼』の目的は『貴様』ではない。だが、『彼』は私と志を同じくする者だ。それがどういうことか……貴様には分かるだろう? 私は今まで何度も貴様を殺す機会を窺っていた。だが、お前は油断を決して見せなかった。今回もそうだ。貴様は仲間達のそばにはいない。大方海外かどこかに潜んでいるんだろう。だが、それは分かっていたことだ、わざわざ探そうなどとは思わない。貴様のことは現実世界ではなく、この仮想世界で『殺す』ことにしたのだからな」

 

「く、くそっ」

 

 慌てたデリンジャーは右手を伸ばすと直ちにその手の中に弾丸の装填の終わった拳銃を顕現させた。

 それを田口へと向けて構える。

 そんなデリンジャーへ田口が言い放った。

 

「無駄だ。私はすでに貴様よりも上位の管理者権限によりここにログインしている。そして、全プレイヤーのアミュスフィアの電磁パルスコントロールを掌握している。今貴様が誰を殺そうとも、もはや実際に死ぬことはない。貴様以外はな……」

 

 そこまで田口が言った時、デリンジャーは急にその顔から表情を失した。

 そして暗い瞳を、足元に転がる手足をもがれまるで芋虫のようになってしまった少年へと落とすと、その途端に銃を2発彼に向けて発射した。

 

 乾いた発射音が辺りにこだまする。

 一瞬呆けてしまったアスナと田口の二人……だが、次の瞬間、アスナが絶叫した。

 

「キリト君っ‼」

 

 彼女は即座に駆け寄り、胸に二つの銃創を空け、そこから鮮血のようなダメージエフェクトを噴き上げる彼を抱いた。

 彼の少ないLIFEゲージは毒ポーションが効いているためその減少速度は緩いが、確実にゼロに向かって減っていく。

 

「いや、いやだよ、キリトくん」

「アスナさん、彼は大丈夫だ。死にはしない……」

「はははははははははは、あーははっははははははははは」

「なっ……貴様……なぜ笑う!?」

 

 アスナにそっと声をかける田口は、突然けたたましく笑いだしたデリンジャーにその顔を向けた。

 彼は確かに全員の電磁パルスコントロールを掌握したのだ。何も異常が起こりようはずがない。しかし、突然の凶行に走ったデリンジャーに不安が募る。

 もはや自分の命が風前の灯火だと知って自棄となっての行為なのか、それとも他に何か理由があるのか……僅かな時間のなかで、田口はその答えにたどり着くことは出来なかった。

 しかし、デリンジャーはことも無げにその答えを言った。

 

「ばーーーーか。アミュスフィア? 電磁パルス? そんなもん関係あるか。キリトが被ってるのは『ナーヴギア』だぞ? それも純製品、初期型、既製品、無改造」

 

 くっくっくと笑うデリンジャー。それを見ながら田口は冷や汗を掻く。

 

「ばかなっ……開発室のナーヴギアは全てテスト用に調整されたものだったはずだ」

 

「だからお前はバカだって言ってんだよ。いいか? キリト達がオフィスまで来たのはあくまでイレギュラーだったが、全く可能性はゼロってわけでもなかった。もともとこのイベントが始まれば一番邪魔なのはキリトで、俺は最初(はな)っから殺すつもりだったからなぁ。だからさ、言っておいたんだよ、『ササマル』……じゃなかった『今井』の奴によ。キリトがもし来ることがあったらこのナーヴギアを被せろってな、くくく……確かにアミュスフィアのコントロールは俺やてめえが操作しているが、あのナーヴギアはデスゲーム開始直後からSAO状態になっちまってるのは確認済みだ。解除したけりゃ、このゲームを始めた『あいつ』か、SAOを作った『茅場晶彦』にでも頼むんだな。くく、どうせ助けたりなんかする気はねえだろうがなあ。いやあ、手は色々打っておくもんだぜ。これでお前らの大事な大事なキリト君はお陀仏だよ」

 

「な、なんてことを……許せないっ!」

 

 瞳に涙を(たた)えたアスナは、立ち上がると同時に盾に収まっていた長剣……『法の剣』をスラリと抜き放った。そして、ソードスキルのエフェクトを纏わせる。

 それを見ながら、デリンジャーは、再びくくっと卑屈な笑みを浮かべた。

 

「あーあ、アスナちゃん。大事なキリト君をちゃんと見てなきゃだめじゃないかぁ」

 

「うるさいっ! もうあなたの好きにはさせません。ここであなたを倒して、必ずキリト君を助けてみせます」

 

「おーおー、言うねー、熱いねー……流石にかなり強くなって勢いづいちゃったかな? でも、そういうのすっごいムカつくんだよ……ねっ……と」

 

「きゃっ」「うあっ」

 

 キリトを撃ち、再び余裕の表情に戻っていたデリンジャー。そんな相手に誘われる形で、アスナと田口は突然浴びせかけられたその液体を全身に被ってしまった。

 

「こ、これは……」

「か、身体が……う、動かな……い」

 

「あははははははははははは、あはははははははははははははははっは、ばーかばーかばーか。お前ら本当に学習しねえなあ。これは『麻痺毒』だよ。しかも俺たちが拷問用に改良した劇薬だ。ほんの少し被っただけでも動けなくなる代物だよ。確か、SAOの最後に茅場の野郎も麻痺を使ったらしいけど、『あいつ』は俺にはプレイヤーを強制的に麻痺させる能力はくれなかったからな。仕方ねえからこの麻痺毒をとっておきに仕込んでおいたんだが……くく……お前らがアホで本当に助かったよ」

 

 言いながら、膝を突いたアスナと田口に近寄っていくデリンジャー。彼は背中のエクスキャリバーを引き抜くとそれをだらんとぶら下げた。

 

「おい、田口。さんざん人をコケにしてくれたな、ああっ!? てめえは今すぐにもぶっ殺してやりてえが、残念俺の身体は今ロサンゼルスだ。仕方ねえからてめえは半殺しでもうしばらく生かしておいてやるよ。それからアスナ……ひひ……」

 

 デリンジャーは真っすぐにアスナへと迫る。

 そして、(おもむろ)に引きずる様に手に持っていたエクスキャリバーを振り上げると、それを彼女の右手の平に突きこんだ。

 

「きゃあああああっ‼」

 

「ひひひ……いい声で鳴くじゃねえかよ。よし、今から大サービスだ。この俺が直接お前を犯してやるよ。さあ、もうすぐお前の大事なキリト君も死んじまうからな。その前に、たっぷりお前の感じてる姿を見せてやろうぜ。きひひひひ……」

 

「や、やめて……」

 

 デリンジャーはアスナの上に覆いかぶさる。そして、何かのポーションを振りかけると同時に嬉々とした表情で彼女の衣服にナイフを突き立て始める。

 弾けるように消失していく彼女の装備。だが、刺されているはずの素肌には傷が何一つ残らない。

 その様子を楽しむように、デリンジャーは何度も何度も彼女の体にナイフを滑らせた。

 

「……やめろ」

 

「ひひ……ああ?」

 

 唐突に背後から声が聞こえ、デリンジャーは愉悦にその頬を緩ませる。

 その声の主が何者であるかは視線を向けるまでもなかった。

 彼はその身動きひとつ出来ず、ただ死を待つばかりの少年に、目の前の少女の恥態をなるべくたくさん見せつけてやろうと、作業の効率を上げていく。

 隣では、動けない田口がその唇を悔しそうに噛み締めている。

 恐怖し恥じらう少女の表情が彼の情欲を益々掻き立てていた。

 

 と、その時……

 

 全く動けないはずの瀕死の彼が……

 

 そこに立っていた。




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