ソードアート・オンライン -The Revenger-    作:こもれび

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2017/3/6:前話『開幕の悪夢』にて、圏内攻撃エフェクト、ノックバックなどの原作設定との齟齬の為、デリンジャー犯罪の舞台を変更いたしました。



デスゲーム再び

「キリト、大丈夫だったか?」

 

「エギルのほうこそ、なんともないか」

 

「キリト」「キリトさん」

 

 彼と直葉の二人が店内に入ると、そこにはカウンターの椅子に座る大柄な男性……エギルと、制服姿のままで彼らに走り寄ってくるシリカとシノンの二人。

 不安そうな表情ではあったが特に問題が無さそうなことを見てとって、彼はホッと安堵した。

 そんな彼にエギルが近づきながら声をかけた。

 

「アスナのことは大変だったな。で、彼女の様子は」

 

「取り敢えず手術は無事に終わった。先生が言うには見つかってからの処置が良かったとかで、命に別状はなかったよ。ただ、まだ意識が戻ってないんだ」

 

 その言葉にシリカ達が目を伏せる中、一人エギルだけがその筋肉質の拳をカウンターへと降り下ろし叩きつけていた。

 

「くそっ‼ いったい誰がこんなことを……」

 

 苦々しく唇を噛んだエギルを見ながら、彼はその場の全員に聞く。

 

「今はみんなに言わないといけない大事なことがあるんだ。なあ、クラインとリズの二人はどうした? どこにいるか、誰か聞いてないのか?」

 

 誰もが黙っているなかで、一人シリカだけがおずおずと手を上げる。そして、

 

「あのぅ、じ、実は私、昨日ログアウトする前にリズさんと話したんですけど、この前手に入れたレジェンダリアイテムの『ヒヒイロノカネ』で作った刀を、クラインさんに明日渡すとかなんとかって言ってました。でもそれっきりで全然連絡とれなくて、さっき自宅にも電話したんですけど家にも居ないって言われてしまって……」

 

「場所とか時間とかは聞かなかったのかっ!?」

 

「ひっ……」

 

 声を荒げて迫る彼にシリカは目を見開く。そして今にも泣きそうな顔になったシリカを、隣に座るシノンがそっと肩を抱いて彼を見た。

 

「ちょっと、キリト。そんな言い方しなくてもいいでしょ」

 

 そう言われ彼は後ずさり頭を掻いて、近くのテーブルに手をついた。

 

「す、すまない。ただ、少しやばいことになってきてるんだ」

 

「やばい? キリト……なにがあった?」

 

 そうエギルに声を掛けられ、彼は差し出された水を一気に飲んでから近くの椅子に腰を下ろした。直葉やシリカ、シノンもそれに続いて席に着くと、彼はすぐに話を切り出した。

 

「聞いてくれ、多分俺達全員の命が狙われている」

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 彼はアスナの事件と、その後の菊岡の話の全てを伝える。

 ここ最近発生したALO絡みの暴行事件と、さらに被害者に伝えられていたかつてキリトが全滅させてしまった仲間たちのギルド名。そしてそんな亡霊とも呼べる存在に昨日アスナと二人で遭遇した話。そのギルドのリーダー、ケイタが存命であることと、あのSAOにおいて最悪の猟奇集団とまで呼ばれたギルド『デリンジャー』が暗躍しているらしいこと。

 

 みんなは黙ってその話を聞いていた。

 全て話し終えた彼がコップの水を飲み干すと、水を打ったように静まり返っているその場で代表するようにエギルが口を開く。

 

「つまり、その『月夜の黒猫団』の絡みで今回アスナが狙われたってことか」

 

 その問いに彼は首を振る。

 

「それはまだ確定じゃない。警察の捜査は始まったばかりで、まだSAOとの関連での捜査は進んだ様子はない。そこに菊岡さんがさっきの話を持ってきたんだ。当然裏付けのとれた確証のある話ではないけど、推論を交えてあるにしても俺たちが狙われる動機としてはかなり的を射た話ではあると思う」

 

「全滅したギルドの生き残りと、押し込み暴行事件……キリトを恨んだその『ケイタ』って元SAOプレイヤーが、『デリンジャー』と手を組んだ……。それなら確かにアスナが襲われたこととなにか関係があるかもしれないな」

 

 エギルのその呟きに女性陣はぶるりと身体を震わせる。

 そして、怯えた様子で直葉が切り出した。

 

「じゃ、じゃあ、リズさんとクラインさんはもう……」

 

 泣きそうにそう言った彼女にエギルが冷静に諭した。

 

「まあ落ち着け。そもそもこの話はキリトの言う通りただの推論の可能性も高い」

 

 シュンと項垂れた直葉の隣で、今度はシノンが不思議に思っていたのだろうことを口にする。

 

「でもさ、それってちょっと勝手すぎないかな? だって、そのケイタって人とアスナさんは全然面識もないんでしょ? いくらSAOでキリトに恨みがあるからって、それで他人を傷つけるなんて……お互い様じゃないのかな……」

 

 そのシノンの発言に、キリト、エギル、シリカは目を伏せた。

 そんな3人の様子にシノンは慌てて口をつぐむ。それを見て、彼がそっと話した。

 

「悪いなシノン、あの世界のことはそう簡単には割り切れるものじゃないんだ。大勢のやつが簡単に目の前で死んでいく。自分もいつ死ぬかわからない。そんなギリギリの中に俺たちはいたんだ。だから、そのことで誰かを恨むことを責めることはできないよ」

 

「ご、ごめん、わたし……」

 

 それっきり口を開くことが出来なくなった彼女はその場で項垂れる。

 こうなることは仕方がない。あの世界でのことは経験した者にしか分からないことでもあったから。

 

 『これはゲームであっても、遊びではない』

 

 あのSAOが地獄のデスゲームへとその姿を変えた時の茅場の言葉。

 それは文字通りであった。

 彼ら1万人のプレイヤーは、その死を賭したゲームに突然巻き込まれた。そして、開始からたった一ヶ月で2,000人もの人命が失われることになった。

 茅場が提示したものはただひとつ。

 浮遊城アインクラッド100階層を攻略し、このゲームをクリアすること。

 だが、それはひたすらの殺戮を彼らに強いる脅迫でもあった。

 各層を攻略するためにはその階層のボスモンスターを倒さなくてはならず、その為には自らのレベル、スキル、装備を強化していかなくてはならない。そして、その強化には必ず戦うことが要求された。

 目の前で次々に死んでいく仲間達。それをどうしようもない気持ちで見送るしかなかった生還者(サヴァイバー)達。

 

 いずれにしても地獄でしかなかったのだ。

 

 沈黙が支配したその場で口を開いたのはやはり彼だった。

 

「とにかくだ。警察の捜査も追い付いてない状況だし、可能性の話であるにしても用心に越したことはない。しばらくはみんなで一緒にいる方がいいと思う。俺はその辺のことを菊岡さんと相談してみるよ。それと、クラインの家をこれから訪ねてみようと思ってる」

 

「あ、じゃ、じゃあ私がリズさんの家に行ってきます」

 

 と、急いで手をあげたシリカをキリトが手で制した。

 

「いや、一人は危険すぎるよ。エギル、シノン、一緒に行ってくれないか?」

 

「ま、そういうことなら仕方ないな。その話の通りなら、十中八九俺も標的に加えられていそうだしな。こいつらとは俺が一緒に居てやるよ。ま、店の方は嫁に頼んでおこう」

 

「助かる。よし、じゃあ、直葉、一緒に行こう……」

 

 ピーピーピー、ピーピーピー……

 

 行動を起こそうと立ち上がった彼であったが、すぐに胸ポケットに入れていたスマホが鳴り響き、慌ててそれを手に持った。

 このコールの主のことがすぐにわかった彼は、すぐに専用ブラウザを開いてそのままスピーカーに切り替えて話しかけた。

 

「どうした、ユイ?」

 

 彼のことを父親として慕う、『AI』の『ユイ』にはすでに昨日からの一連の出来事は伝えてある。

 彼女は自身が母と慕うアスナの安否を気遣いながらも、今回の事件に関してALOのメインフレーム内の様々なアーカイブの調査を行っているはずであった。

 犯人の行方に繋がる情報を求めて。

 そんな彼女は、通話越しで慌てた声で叫んでいた。

 

『パパ、パパ‼ 助けて……助け……』

 

「ユイ!? どうした……ユイッ‼」

 

 一同に緊張が走る。

 スマホの彼女の音声は突然途切れ、そしてその後はザーザーと、雑音のような音がひたすらに流れ続けている。

 異常としか思えないその状況に全員声も出ず、ただそのスマホを見つめ続けていた。そして、その『声』は突然に現れた。

 

『…………………ククク………“閃光”の容体ハドウカナ? “黒の剣士”…………ククク……』

 

「なっ……」

 

 いきなり発せられたそのおどろおどろしい低音の音声に、その場の全員が凍り付く。

 彼も全く声が出なくなっていた。

 だが、その『声』が語るそれは、まさしく彼女を指す言葉。

 かつてあのSAOにおいて最前線で戦い続け、次々に階層攻略を成し遂げた『血盟騎士団』の副団長、『閃光のアスナ』こそ彼の最愛の彼女のこと。

 そして、もう一つの言葉。

 全身を黒の装備で固め、漆黒のレアドロップアイテム『エリュシデータ』を武器に戦い続けたソロプレイヤー、『黒の剣士』とは彼を指す二つ名であった。

 

 そのSAO時代の名前で呼ぶその不気味な声に向かって、彼は叫んだ。

 

「お前がアスナを襲ったのか!? 答えろ! お前は誰だ!」

 

 端末からはふたたびザーザーと乱れた音が流れる。そして、その『声』が語った。

 

『ナカマヲ集めたノハケンメイダッタナ、ククク……オカゲデ、コチラは二人シカ確保デキナカッタ』

 

「二人? じゃあ、クラインとリズベッドは……」

 

 その『声』の内容に全員が息を飲む。

 怯えるシリカをシノンがそっと抱きしめていた。

 

『安心シロ、“黒の剣士”……マダナニモ手出しはシテイナイ、ダイジナヒトジチダカラナ。サテ“黒の剣士”、“ゲーム”ヲシヨウカ……』

 

「げ、ゲームだと!?」

 

『ソウダ……、コレカラ一時間後ノ午後18ジチョウドニワタシハALOヲ完全ニノットル。ソレイコウハログインモログアウトモデキナクナル。ワタシハアインクラッド75層ニテキサマヲマツ。期限ハ24ジカンダ。ソレ以内二ワタシヲコロシテミセロ。ククク……、貴様ガカテバ二人ヲカイホウシヨウ。ダガ、ワタシガ勝ったトキは……』

 

 『声』は低く低く、闇の底から吐き出されてくるかのような(おぞ)ましさを伴って宣言した。

 

『二人ヲコロス』

 

 突然の死を賭けたゲームの宣言に全員が戦慄する。そして誰もが息を飲む中、『声』に向かってエギルが叫んだ。

 

「待てよ! 新生アインクラッドはまだ59層までしか攻略されてないんだぞ。たったの1日で75層なんて不可能だ。それにそんなことして運営が放っておくわけないだろうが」

 

『ククク……』

 

 エギルのその言葉に『声』はただ嘲笑を続ける。一人彼だけは、この『声』の言わんとしていることを理解していた。

 

「そうか、『ザ・シード』か……」

 

「え?」

 

 エギルは突然のキリトの声に顔を上げる。

 

「多分だが、ALOのメインシステムをすでにほかにコピーしてあるんだ。今は『ザ・シード』を使えば、簡単にVRワールドを形成できるからな。それがどこのサーバーなのかそれともクラウド上なのか不明だが、乗っ取った直後に全てのアカウントドメインをそちらへ切り替えることが出来てしまえば、運営の使用しているサーバーは関係なくなる」

 

 そこまで言った時、『声』が応えた。

 

『貴様ガワタシノ元にタドリツケルコトヲタノシミニシテイルヨ“黒の剣士”。オット、ナルベクイソイダ方ガイイ。コチラニハオンナ二飢えた野獣ガタクサンイルノデネ……ククク……』

 

「貴様っ!?」

 

「やめろエギル、落ち着け」

 

 喚くエギルを押さえるキリト。彼はそうしながらも、ずっと(わだかま)っていたそれのことを『声』に向かって尋ねた。それは彼がずっと苦しんできた重荷の正体であり、彼の慚愧(ざんき)の念そのものだったから。

 

「お前は……『ケイタ』……なのか? もしそうならもうやめてくれ。お前が恨んでいるのは俺だけのはずだ。殺すなら俺を殺してくれ」

 

『…………』

 

 『声』はそれには何も答えなかった。

 ただ、雑音のみが辺りに流れ続ける。

 暫くそれが続いた後で、『声』は淡々と言葉を繰り返した。

 

『期限ハ24時間ダ。マニアワナケレバ二人ヲコロスダケダ』

 

「待て、お前は誰だ? お前の名前は……」

 

 そう尋ねた彼に、『声』は言う。

 

「ワタシハ…………『リヴェンジャー』……貴様ノスベテヲ奪うモノ……ククク……」

 

 それが、再び始まるデスゲームの戦線布告であった。




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