FAIRY TAIL ~魔導騎士と星の姫~ 作:ジャージ王子
アルトが評議院からの依頼で出かけた日の夜、ルーシィは自室のベッドで文字通り沈んでいた。
「はぁ…」
本日何度目か分からないため息をつく。と言ってもため息をつくようになったのは日も落ち始めた頃からで、それを考えると相当な頻度である。
思い返せばいつもと言っていいほど行動を共にしていたアルト。そんな彼に置いていかれたのが数時間たった今でも尾を引いてルーシィを悩ませていた。しかしこの悩みを解決する術などなく、その事が気分を更に落ち込ませていく。
「S級…か」
なんとはなしに呟いてみたその言葉が自分とアルトを隔てる見えない壁のように思える。S級の称号が与えられるのはギルドの中でも極数名、身近で見ていて化け物じみた戦闘能力を持っていると感じるナツやグレイですら届かないその
ガチャガチャ…
─あれ!?開かねぇぞ!
─鍵閉めちゃったのかなー?
例えばの話、自分がS級になったとしても彼の接し方は変わらないだろう。アルトが地位や評価で人を判断する人間でない事は分かっている。
─お、明かりはついてんな
─ルーシィの部屋こっちだよ
S級でなくてもアルトは自分を見てくれる。しかし、そういう事ではないのだ。それでもルーシィはアルトの見ている世界、景色を同じ立ち位置で見たいと思って止まない。
コンコンコンコン…!
同じものを同じように感じる事ができたら、それはとても幸福な事に違いない…
ガンガンガンガン…!ガンガンガンガン…!
─おーい!ルーシィー!
─寝てるのかな?
「って…。人が考えてる時にうるさすぎじゃない!?」
ベッドのすぐ横の窓から激しいノック音。訪ねてきた相手は大体予想がつく。ルーシィは帰ってきた時に無意識で鍵を閉めていたらしい。カーテンを勢いよく開けると窓の向こうには案の定ナツとハッピーがいた。どうやらハッピーの翼で飛んでいるようだ。
「あんた達ねぇ…!こんな時間に騒いだら近所迷惑でしょ!」
「ルーシィの声もかなりデカいけどな」
「あい」
「~~~!窓閉めてもいいかしら…」
「まぁまぁ、そう言うなって」
どこか上機嫌なナツはそのまま窓からルーシィの部屋に入ってきた。
「ずいぶんご機嫌みたいだけど…なんかあったの?」
ルーシィに背を向けていたナツはその問いを聞くと、よくぞ聞いてくれたというようにルーシィに詰め寄る。
「え!?ちょっと…!」
「ルーシィ…」
「な、何…?」
「俺決めたんだ」
「何を…?」
「“S級クエスト”行くぞ!」
「へ?えすきゅー?………S級!?」
「あい」
驚くルーシィの横でハッピーが1枚の依頼書を取り出す。“私達の島を救ってほしい”といった内容と共に右上にはしっかりとS級を示すSの印が押されている。
「どうしてアンタ達がS級の依頼書持ってるのよ!」
ギルドの酒場でミラに聞いた話では、S級の依頼書が貼ってある2階にはマカロフに認められたS級魔導士以外上がってはならない規則だった筈だ。
「オイラがこっそり取ってきたんだ」
「何してんのよ!」
それはもうざっくりと単純明快な答えが返ってきた。
「ていうか、依頼書持ってきたとしてもあたし達じゃS級クエストは受けちゃいけないルールでしょ?」
「心配ねぇって、成功させて帰ってくればじっちゃんも認めてくれるだろ」
つまりS級クエストを成功させる事で自分にはS級魔導士としての実力があるという事をマカロフに認めさせる、というのがナツの計画である。
「そう上手くいくの…?」
とは言ってもあのS級である。その事について考えていた矢先、まさかこんな形でS級に触れる機会がやってくるとは流石に思っていなかったルーシィ。ひょっとしたらこれはチャンスなのかもしれない。
(アルトが見ている景色…何か分かるかも)
魔導士としてアルトの背中に少しでも近付きたいのであればS級は避けては通れない道。そうであるのなら迷いは捨てるべきだ。
「…一緒に行くわ、S級」
「やったー!」
「そうと決まれば今から行くぞー!」
「無茶言わないでよ。明日の朝早くに行きましょ」
思い思いの目的の為、ナツとハッピーそしてルーシィは呪われた島ガルナ島へ向かう事となった。
ちなみに、ルーシィが依頼の報酬として700万Jの他にこの世に12個しか存在しない星霊魔法の黄道十二門の鍵の1つが貰えると知ったのはそれから少し後の事である。
†††††
ロウアーの街は思ったよりも遠かったようで、夕方にマグノリアを出発したアルト達が到着したのは次の日の昼頃だった。馬車から降りたアルトの目に映ったのは百以上のテント。ここはロウアーの街から1キロ程離れた地点にある避難民のキャンプ地である。
「長期戦になる事も考えここを拠点にすべきかと」
馬車の待機場所の確保をしてきた秘書官が後ろから声をかけてきた。
「ん?あぁ、そうしてもらえると助かる」
「現地の者に聞いてみましたが、
「そっか…んじゃ急いで行った方がいいな」
アルトの言い方に秘書官は疑問を感じる。まるでワイルを救出しに行くとでも言っているようだ。
「お言葉ですがアルトさん、キドニー氏は2週間もロウアーから戻ってきていません。生存している可能性は、その…絶望的なのでは」
その言葉を聞いて秘書官と目を合わせるアルト。怒りや責めるようなものではなく穏やかな表情が秘書官に向けられた。
「確かに絶望的かもしれないな…。でもさ、諦めたくないじゃん。もしかしたらワイルって人もまだ諦めてないかもしれないし」
「そうかもしれませんが…」
「まぁ、やるだけやってみるさ」
そう言うとアルトは秘書官に背を見せて歩き出して行った。
が、10歩も満たないくらいでピタリ足を止める。
「?」
何故止まったのか分からない秘書官。
「あー…ロウアーの入り口まで着いてきてくれない?」
「???…かまいませんが」
まさかあの
†††††
「思ってたよりでかいな」
ロウアーの防壁の前までやってきたアルトはその高さに空の方まで顔を上げた。
「防壁そのものの硬度に加えこの高さですからね。討伐対象、我々は“ホワイトマン”と呼んでいますが…。そのホワイトマンがロウアーから外に出たという報告はされていません」
事件以降、四方ある門には24時間体制で看守が付くようになったが、未だに化け物のような姿は目にしていない。彼らがこの職について確認した事と言えば最初と2回目に街に入った魔導士と叫び声くらいだった。
「取り敢えず日が落ちきる前には戻ってくるよ」
そう言って看守によって開かれた重い扉の前に立つアルト。
「了解しました。念のため救護班を待機させておきますがあまり無理はなさらないでください」
秘書官のその言葉を聞いたアルトは返事のつもりで手をひらひらと振るとロウアーの街の中へと走り出して行く。
「ご武運を…」
秘書官はそんなアルトの背を見て1人呟いたのだった。
†††††
走って街中へ入ったアルトはすぐさま剣を錬成した。
防壁の扉を閉めているのだろう、背後から重い音が聞こえてくる。
(まずは街の真ん中、あの塔を目指すか)
白い石造りの家が建ち並ぶロウアーの街、その中央には同じく白い塔が建っている。5階建てに見えるその塔は頂上に鐘が取り付けられており、おそらくこの街で1番高い建物だ。
まずは街を見下ろし状況を確認する。それがアルトの狙いだった。
「…っと!」
哀しいかな、その塔から目を離して移動すらと迷子になってしまうので塔を見ながら走っていたアルト。その為前に置かれていた樽にぶつかってしまった。
「あぶねー、よそ見しすぎたか」
そう独り言を言いながら樽を立て直すと、ある異変に気付いた。
「何だよ…これ」
樽から取り出したそれはリンゴ、なのだろうがそのリンゴは普通のリンゴとは違う鈍い銀色だった。しかも握りつぶせない程に固い。間違いなくそれは果実ではなく金属だった。
「ロウアーの商人がこれを売ってたのか…?」
オブジェとして販売しているなら分かる。だがアルトの目の前の店は見るからに青果店だ。店頭には果実の他に野菜も並んでいる。やはりそれらも銀色の光沢をした金属としか呼べないものだ。
他の店の様子も見ようと隣の店に移る。
「…?」
どうやら隣は時計屋だったようで店主がいなくなった後も針を動かしている。先ほどの青果店とは違い何の異変もない。
(どういう事だ…?全てが全て金属な訳ではない…)
確実にこれだと言える確証がないまま考えてみても、謎は深まるばかりだ。
「だーっ!ここで息詰まっててもしょうがねぇ!まずは塔に行く、考えるのはそれからだ」
†††††
「やっと着いた…」
青果店を後にして約1時間、アルトは街の中央にある塔に到着した。ちなみに普通に歩いても30分はかからない。
「まずは街の全体像だ。分かりやすい異変があればそこがビンゴなんだけど…」
そう言いながら扉を開けていたアルトの手が止まる。
塔の中は天井のない突き抜けでただの広い空間、壁際に取り付けられた階段を使えば鐘のある最上階まで行けるようだ。
が、今はそんな事はどうでもよかった。アルトの目の前の広間、普通だったら何もない筈のそこに人の3倍程の大きさの球体があった。その見た目は先ほど青果店で見たリンゴと同じく銀色。
「上まで行く必要もない…ここでビンゴだ…」
強がってなのか冷や汗とともに笑みをこぼしたアルトは剣を力強く握り直し球体に近付く。
「っ!?なんだこの魔力…!」
近付けば近付くほど感じる禍々しい魔力、悪意やそういったものではない。何もかもをごちゃ混ぜにしたように形状し難く、それでいて肌にまとわりついてくるような感触。この場に立っているだけで不安に駆り立てられる。
(コイツは危険だ!)
直感でそう悟ったアルトは全てを振り切り球体に刃を突き刺そうとする。
「────────ッ!!!」
ガキィンッ!
「ぐっ!?」
刃が球体に届く直前、それは突然真上から襲いかかってきた。
人体のようなフォルム、しかし全身の白さと口以外の部位がない顔、剣に変形している腕がそれは人間ではない事を証明している。
「お前がホワイトマンか…!」
「─────ッ!」
化け物に言葉が通じる事などなく、ホワイトマンと呼ばれたそれは金切り声を上げながら剣を振りかざしてきた。
キイィン!
「!?」
ガキィンッ!
「くっ…!」
ホワイトマンの剣と自分の剣をぶつけ合わせる度、何か悲鳴のようなものがアルトに流れ込んでくる。その反動からかアルトはホワイトマンの剣を防ぐのに精一杯で避ける事も反撃する事も出来ないでいた。
(何なんだよ一体!)
何度も自身を貫いていく悲鳴に頭を抱えながらアルトは内心毒づく。相手の方を見ても口しかないその顔からは表情を読み取る事が出来ない。
「──────────ッ!!!」
次の瞬間、急速に接近してきたホワイトマンの突きがアルトに迫る。
「なっ!?ぐあぁぁぁっ!!!」
胸部を狙っていた刃は剣で防ぐことが出来たが、勢いの付いた突きの衝撃にアルトは塔の外へ吹き飛ばされてしまう。
塔の前にある噴水まで吹き飛ばされたアルト。ぶつかった衝撃で噴水は粉々になり、あちらこちらから水が吹き出している。
「ハァッ…!ハァッ…!」
剣を支えにしてなんとか立ち上がる。目の前ではホワイトマンが独特の金属音を鳴らしながら塔の外まで出てきていた。
「何なんだよ…」
次は心の中ではなく、気付かない内に声に出していた。
「お前は一体何なんだよ!」
それでもやはりホワイトマンは返事をする事もなく、その口をニタァと吊り上げたのだった。
金髪秘書官はGODEATER2のオペレーター、フランがモデルです。しかし名前は一貫して“秘書官”←
そしてホワイトマン、こちらはエヴァ量産型をより人型にしたイメージです。保険で付けた残酷な描写のタグはコイツの為に付けたと言っても過言ではありません。
感想やご指摘、質問などお待ちしています。
以上、ジャージ王子でした。ではでは( ・_・)ノシ