FAIRY TAIL ~魔導騎士と星の姫~ 作:ジャージ王子
ロウアーの街。高い隔壁に囲まれたその街の真ん中でアルトは選択を迫られていた。
「俺は…」
過去を知るために目の前の青年について行くか。
幽鬼の支配者に侵攻されている妖精の尻尾へ行くか。
青年について行った場合、記憶と引き換えにアルトはギルドの皆より自分を優先させて事を悔いて妖精の尻尾に戻れなくなるかもしれない。
妖精の尻尾へ向かった場合、青年との接点は無くなり記憶を取り戻す機会はもう二度と訪れないかしれない。
ずっと考えてきてずっと答えを出せず誤魔化してきた問題、自分の記憶と妖精の尻尾。今、その答えを出さなければならない。
「…やっぱり、アンタには付いていけない」
「…何だと?」
予想外だったのか、それまで感情を覗かせなかった青年の表情が初めて崩れた。
「過去がどうであれ、今の俺は妖精の尻尾のアルトだ。仲間の…家族のピンチには必ず駆け付ける」
「もう二度とお前の記憶に近付く機会は無いのかもしれないのだぞ!」
「そんなの関係ないさ。俺は自分の手で記憶を見つける…!」
「…っ」
「それに、
誰かを思い出しているのか、静かに微笑みを浮かべるアルトの言葉に対して、青年も何か反論のようなものを口にしようとする素振りを見せたが言葉にはせず自身の中に呑み込んだようだ。
「…7年という時間はそう易々と捨てられるモノではないか」
代わりにアルトにも聞こえない程の小さな言葉を吐き出すと時計塔の出口を目指して歩き出す。
「お前自身で記憶を見つけると言ったな。なら見つけてみるがいい、過程は違えど結果は変わらない…お前は妖精の尻尾を去ることになる。それだけは覚えておけ」
「……」
アルトの横を過ぎる瞬間そう言い残し、青年は消えていった。
†††††
青年が去った後、アルトもまた気絶しているワイルを肩に背負いながらホワイトマンに荒らされ果てたロウアーの街を出た。
「!」
門を抜けた先で立っていたのはアルトの予想していない人物だった。
顔を布で覆い隠しているアルトと同じS級魔導士の1人。
「ミストガン…妖精の尻尾の事か?」
「…!知っていたのか」
少し驚きはしたものの、ならば前置きは不要とミストガンが話を進める。それによるとどうやらミストガンはこのロウアーに来る以前に幽鬼の支配者の支部のいくつかに攻め込んでいたようだ。その中の1つでミストガンはある情報を入手した。
「今現在、妖精の尻尾は幽鬼の支配者にマグノリアにまで攻め込まれていて非常に危険な状況にある」
「くそっ…!」
拳を硬く握るアルト。しかし、この場所からマグノリアへ戻るには早くても半日かかる。とてもではないが間に合わない。
「そこでだアルト。私がお前をマグノリアへ“転送”する」
「転送…?」
聞き慣れない言葉にアルトはつい聞き返してしまう。それに対して肯定しながらミストガンは背負っている無数の杖の中から一本を取り出すと地面に刺した。すると杖を中心として地面に魔方陣が浮かび上がる。
「この魔方陣は“ゲート”…。対象者を事前にマーキングしてある場所へと跳ばす事が出来る」
「跳ばす、って…空間魔法の一種か!?」
驚くアルトを余所にミストガンは話を続ける。
「ギルドの酒場にマーキングを施していたが、あそこも崩壊している為マーキングの影響力が弱まって多少着地点がズレるかもしれない」
「それでも、コイツを使えばすぐマグノリアに戻れるんだろ?すぐに始めてくれ!」
「あぁ、元よりそのつもりでここに来た。しかしその前にだ…」
話を途中で切りミストガンはもう一本杖を取り出す。
「お前も魔力の消耗が激しい。マスターマカロフに渡す予定のものだが、少しわけておこう」
そう言って杖をアルトの前に向けると、魔力がアルトの方へ流れ込んでいく。
「マスターは無事なのか…?」
「話によると魔力を完全にゼロにされたそうだ。だが、今のところ命に別状はない」
「そうか…」
最悪の事態にはならなかったと安堵の息を吐く。
それと同時に魔力の回復も終わったようだ。
「では行くぞ」
「あぁ。その前にミストガン、後でこの人…ワイルさんを近くのキャンプ地まで連れて行ってやってくれないか?」
「了解した」
「色々と悪いな、助かった」
「問題ない。
そう言うと2人の雰囲気が少し重くなったような気がした。
「アイツが…ラクサスがどう思ってるかは知らないけど、俺はあの時の事でお前が負い目を感じる事はないと思ってる」
「長話が過ぎたな…始めるぞ」
アルトの言葉に対して返答をしないまま、ミストガンは転送の為の魔力を魔方陣に送り込む。
「!!!」
魔方陣が発光したと同時にアルトの身体を薄緑色に光り出した。
「武運を祈る」
ミストガンの短い言葉と共に魔方陣に包まれたアルトはその場から姿を消したのだった。
†††††
(アルト…!)
(ルーシィ?)
次の瞬間にはアルトの身体はロウアーを移り、確かにマグノリアにいた。しかし、そこは見知ったマグノリアの地ではなく、ファントムMkⅡの中。更に目の前にはルーシィが立っており、眼前にジョゼの放ったエネルギー波が向かってきていた。
「……!!」
すかさずアルトはルーシィを抱きかかえると、剣に魔力を注ぎジョゼのエネルギー波を相殺した。
「アルト!」
「大丈夫だったか?ルーシィ」
アルトの声を聞いて安心したのかルーシィはその場にへたり込む。
「アルト!どうやってここまで!?」
ルーシィをかかえて立ち上がらせると、エルザ達も近くまでやって来た。
「ミストガンが手助けしてくれたんだ」
詳しく話している時間も無いため手短にそう答えたアルトは近づくエルザ達やルーシィとは逆の方向、ジョゼの方へ向かい合う。
「アル…ト…?」
その背中を見て何かを察したのか、ルーシィがアルトへ寄ろうとする。
「みんなはここから出てくれ。アイツとは俺がやる」
「なっ!?無茶よ!」
「やるっつってもお前もボロボロじゃねぇか!」
「まぁ、見た目はな。でももう充分動けるし、魔力も補給済みだ」
ミストガンの支援もあり、ホワイトマン戦の疲れなどはほとんど無いと言える状態になっていた。
「俺と違ってみんなは傷も癒えてないし魔力も限界に近い。だからここは俺1人に任せてくれないか?」
それは言い方を変えれば、“今から戦うのに邪魔だ”と言われているようなものだ。全員がそれをすぐに察し、いつものアルトでは言わないだろうという違和感を感じながらも、事実であるため言い返えせる者は誰もいなかった。
「…わかった」
「ありがとう、エルザ。みんなを頼む」
「あぁ。行くぞ、お前たち」
共に戦う事が出来ないからか、それともアルトに頼られる事がなかったからか、エルザは悲しげな表情を見せながらアルトに背中を向けた。
「アルト…」
エルザに続いてグレイやエルフマン、ミラがそれぞれやるせなさや自分の無力さを感じながらアルトにこの場を託す中、ルーシィは振り返らずアルトの背中をただ見つめていた。
「ルーシィ」
「な、なに?」
「必ず戻るって約束、絶対守るから」
ルーシィにそれだけ伝えアルトはジョゼの方へ走り出した。
「オォォォォ!」
躊躇せず、全力で剣を振り抜く。対するジョゼは怯む事無くエネルギー波を展開しその一撃を防ぎ、2人は鍔迫り合いのような状態になった。
「ルーシィ!何をしている!」
アルトの姿を目で追いかけていたルーシィはエルザによってこの一室から連れられて行った。
それを確認し、部屋に自分とジョゼしかいなくなったと判断したアルトは後ろへ下がり再びジョゼと距離を作った。
「お仲間を逃がしても時間の問題だと思いますがね…それに貴方一人で私に勝つつもりで?」
笑みを浮かべるジョゼ。冷静さを取り戻したのかその口調は元に戻っている。
「別に…勝てるとは思っちゃいない」
勝ちに拘る必要はない。アルトはジョゼを足止めしマカロフが回復するまでの時間を作ることが出来ればいいのだ。しかし今のアルトにその選択肢はなかった。
「だけど…」
「?」
もし、自分がいれば。どこかで妖精の尻尾への侵攻を食い止められたかもしれない。そんな自責の念からかそれともやられていった仲間達の為か。
「お前は俺がぶっ倒す…!」
前回のラストでアルトが来たのはこういう事があったのさ、という話。とてつもないご都合主義…
感想やご指摘、質問などお待ちしています。
以上、ジャージ王子でした。ではでは( ・_・)ノシ