ふりーと・すくーる   作:蒼樹物書

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【10】

 口は災いの元。

 

 そんな言葉が頭に浮かぶ。

 どうして。

 私が一体何をしたというのか。

 

 梅雨明けを間近に控え、夏らしく蝉も鳴き始めた今日この頃。

 空調により適度に室温が整えられた教室、長閑な昼下がり。私は自身のクラスで座学の授業をしていたのに。

 

 どうして。

 

 「……部外者はお帰り下さい」

 「校長に許可は取った。そして授業参観に来た保護者は部外者ではなかろう?」

 

 教室の異物、それに震える声で告げたにも関わらず『奴』は堂々と返す。

 突っ込みが追いつかない。

 どうして校長は許可した。そも授業参観とは一体誰のだ。もしかして私のか。

 授業参観は生徒の保護者が参加するもので、決して教師の保護者がするものではない。更にもう一つ、お前は私の保護者のつもりか。

 

 「帰っていただけますか提督」

 「授業終わったらな」

 「帰れ」

 

 その異物は提督だった。提督であってしまった。

 先の体育祭、足柄と話していたその人物が何故か今この平和な教室にいる。なんでだ。

 白の上下。白の軍帽。濡れたように艶やかな黒髪。徹底した無表情の鉄面皮に、淀みきった瞳は底が見えない程暗い。軍服に身を包んでいなければ完全に不審者だ。堂々とし過ぎているが。

 

 「……あの、この方って」

 

 私がそれを提督と呼んだことに大和が反応する。

 クラスの子達は突然、当たり前のように教室へ乱入してきた人物に先ほどから視線を集中させている。

 異物へ差し向けられる複数の目に、普通は気まずさを覚えて然るべきはずなのだがこいつはそんなことでうろたえる奴じゃない。あまりにも剛毅、埒外の価値観。教師たる私が言うべき言葉ではないが既知の外。

 そして天性の無駄に優れた能力を私達……私はもう『元』が付くが指揮下の艦娘達への嫌がらせに費やすのだ。

 

 提督曰く愛情表現らしい。子供か。年齢不詳だけど。

 

 その嫌がらせは私達を本気で怒らせる限度ぎりぎり、そして外面に影響しないぎりぎりを攻めてくる。

 今回のこれも多忙の中、元部下の様子を見に来た思いやりのある指揮官として周囲に思わせるよう手配してのことだろう。

 

 「私のことは空気だと思ってくれ給え。気にせず授業を」

 

 教室の後方、生徒達の後ろの壁側に立ちながら腕組みし言ってのける提督。

 それはもうにやにやしながら。

 ……ああ、久々だ。この理不尽、この怒り。思い出したくもなかった。

 

 とにかくまずは校長への確認、と思い携帯を取り出してみたところ死刑宣告はメールで私の元に届いていた。

 提督の授業参観を許可した、との連絡だ。なんで……?

 あの校長も時々アレだ。

 

 「……皆さん、そこの白いのは空気とのことですので一切無視するように。では授業を続けます」

 

 白いの、白の軍服に身を包んだ奴を極力視界に入れないようにしながら授業を再開する。

 この時間は授業といっても訓練の座学だ。艤装の扱い方についてや、艦隊運動について。交戦規定といった内容にも及ぶ。ドロップ組の艦娘はこの世に生まれた時点でそれらについて一定の知識を持っているが、戦術や艤装は日々進歩しているし新種の深海棲艦も確認され続けている。

 

 と、言ってもあくまで予習。

 

 この学園で艦娘が在籍するのはたった一年。その中で一般教養や情緒育成という学園本来の目的を達成しつつも、訓練学校としての一部役割を負担する以上どうしても時間が足りなくなる。

 開設から日が浅い状況で手探り、未だ最適解に遠い状況だがこういった座学はあくまで予習という位置づけに抑えざるを得ないのが現状だ。

 

 「さて。こうして陸軍により地上から、艦娘を介さずに出撃可能な攻撃機が開発された訳ですが」

 

 今回の座学は陸軍の攻撃機について。

 最近開発されたばかりの技術。対深海棲艦戦に置いて海軍に主役の座を譲り続けた陸軍がその執念で創り上げた力。これまでの通常兵器であっても深海棲艦には威力を発揮するが、真に効果的な力を彼らは持つことがなかった。

 対深海棲艦に効果的な妖精さんの運用する飛行機は艦娘、空母や軽空母といった存在なしに発現することすらままならないからだ。艦娘を擁する海軍のみに許された、力。

 

 それを、彼ら陸軍は発現せしめた。

 

 一教師でしかない私には多くを知る由もないが、陸と海は伝統的に仲が悪い。かつての大戦時に比べれば遥かにマシだろうが、限られた予算を取り合うのはどの時代どの国であっても世の常だ。

 そうした中で対深海棲艦にいて脇役を強要されてきた陸がこうした技術を手にしたというのは、歴史上大きな意味を持つかもしれないが……いや、今は座学の授業。これは脇道だ。

 

 「艦娘を介さない、陸から出撃する攻撃機。これによる対空母でのメリット、デメリットの最大は何と思いますか? 磯風」

 「はい。まずは、メリット」

 

 編成における自由度の向上。

 きびきびと起立して回答する彼女に頷く。空母との航空戦は制空の取り合いに始まり航空機、その足の速さから先手の取り合いとなる。しかし攻撃力を重視すれば制空力は落ちる。その逆も然り。

 そうした視点で見れば艦娘の艦載能力に頼らず、展開・攻撃可能な陸軍攻撃機はその枷の外にある。

 

 艦隊編成の自由。

 航空戦力運用可能な艦娘を外し、火力や対潜能力の向上。選択肢を増やすという贅沢。

 陸軍の新型がなければ為しえないことだった。

 

 「デメリットは陸からの航続距離に縛られること、です」

 

 大きく頷いて、磯風を着席させる。

 妖精の運用する超上の存在とはいえ、飛べる距離は限られる。陸上から出撃する以上、行動半径は限定され本来海上を自由に駆けられる艦娘はその範囲に束縛される。

 もちろん攻撃目標の設定の仕方や、そも攻撃機を頼らないという選択もあるが航空戦力はあまりにも強力で魅力的だ。指揮官の考え方次第ではあるが、陸軍攻撃機在りき。艦娘在りきという思考によってその比重は大きく変わる。

 

 どちらが正解か、という点では議論の余地がある。私自身は航空戦の重要さに重きを置くべきと思っているが――。

 

 「空母が怖いなら潜水艦で叩けばいいじゃない」

 

 うるせぇ。

 空気が喋るな。

 

 「……空母には護衛となる軽巡級、駆逐級が対潜警戒を行っており」

 「配置の問題だ。仕掛ける側ならどうとでもなる」

 

 脱線。空転。キリがない。

 この授業は座学、あくまでその予習。現場の指揮官、更に変態扱いされている提督の意見は求めていない。

 制空の話をしているのに、制空をぶん投げて戦う話をするんじゃない。

 授業参観に訪れた保護者というのを、億万歩譲って認めるのなら黙っていてくれお願いします。

 

 「こほん。では実際に状況を仮定して、その場合の選択について協議しましょう」

 

 つい応じてしまったが空気は無視して次だ次。

 

 設問はこうだ。

 足の遅いタンカーを護衛する艦娘部隊、敵空母艦隊をこちらが先に発見した場合の状況設定。

 陸の発進基地は僅かに航続の届かない位置にあるという状況だ。

 通常は指揮官が判断することだが、通信が通らず自身らで判断するということになっている。深海棲艦による通信妨害はままあることである為、こういった状況判断は外洋に出る際に必要となる。

 

 「それぞれ意見を上げ、艦隊として採るべき行動を考えて下さい」

 

 五人の生徒達が各々、意見を上げていく。

 艦隊の目的は護衛するタンカーを無事目的地まで送り届ける事だ。

 生徒達の意見は敵から気づかれない内にその手が届かないところまで離脱することだとか、基地の援護を受けられる所まで移動し先制をかけることだとか。

 どれもが正解ではある。

 しかし、この質問の意図は――。

 

 「艦隊編成は? 弾薬・燃料は十全なのか?」

 

 しゃらっぷ。

 黙ってろ空気。

 

 「……あっ」

 

 気づいたように磯風。

 そう、それが正解。

 与えた問題、ただし前提が揃っていない。敢えて、揃えていない。

 艦隊の規模はどうか。編成に空母はいるのか、自艦隊は低速合わせなのか高速合わせなのか。護衛艦隊ならば、往き帰りによって残存燃料にも差が発生する。

 

 艦隊として採るべき行動という設問。

 しかし、本当はまず知っていて然るべき状況の確認を私にしなければならない。

 何時敵に発見され行動を強いられるか分からない状況の中、どう行動するかを先に選びたいのは前線に立つ兵の性だが。

 まずは状況を正確に把握しなければならない。

 本来ならば指揮官がそれを判断し行動させる。それを代行するのは少なくとも軽巡以上の艦娘が恒例だが、護衛艦隊ならば駆逐艦が旗艦という状況はままある。

 

 「……えーと。その。私が言いたかったのはですね……」

 「質問に答え給え小町先生」

 

 めっちゃやりにくい。

 現状を把握する。手持ちのカードを見つめ直すこと。

 切れる手が何かを把握することが『次』に繋がる。それを教えたかったのだが、奴のせいでやり難くなってしまった。

 

 「あー!! あー!!!!」

 「どうした、落ち着け小町先生」

 

 発狂させた相手が当然のように宥めてくる。うるせー!!

 地獄。

 その後も度々、というより常にちょっかいをかけて授業妨害する提督の顔は満面の笑顔だった。それはもう楽しそうだった。殺したい。

 

 ◇

 

 「ありがとうございました!」

 「はい。気をつけて帰って下さいね」

 

 放課後の、大和との訓練。

 大きく頭を下げて礼を言う大和に手を振り、訓練用プールで別れる。

 日が長くなった。

 夕刻となっても未だ陽は高い。一人、プールの縁に腰を下ろし、脚を浸ける。

 高揚で、火照った熱を冷ます。

 

 「うん」

 

 確かめるように、一人呟く。

 徐々に、僅かではあるが大和は前に進んでいる。

 最初は水の上に立つことすらままならなかった彼女。しかし今は水上を歩くこと、そして駆けることにすら手を伸ばしつつある。これなら。

 

 「やっほー」

 「死んでいただけますか提督」

 

 僅かな一時、そこに冷水どころか液体窒素をぶち込む奴に答える。まだいたのかあんた。

 

 「あれかね。『未着任の大和』」

 

 振り返ることもなく、それを否定することもなく黙る。

 

 「まだ使える段にないようだな」

 「……それが、目当てですか」

 

 現役の提督である、後方の存在。

 未だ多忙を極める筈のこの人がわざわざ、かつての指揮下の艦娘を弄るという冗談の為にここに在る訳がない。

 興味を抱くとすれば大和であると分かっていた。どこかで、提督……軍側からの接触があるとは思っていてもまさかこの人が、と。

 

 「そう睨むな。私は授業参観に来ただけだ」

 

 けらけらと笑う提督。毒気が、抜かれる。

 

 「お前の心配は的中している。どこもかしこも欲しがっているぞ」

 

 戦艦。それも大和型という規格外。

 安定の兆しを見せる戦況とは言え、どこも強力な戦力を求めている。特に立ち上げたばかりの鎮守府の提督は。

 戦果を上げれば大本営からの資源供出は多くなり艦隊の運営は楽になるし、大和型というブランドは大きな意味を持つ。戦力的にも、政治的にも。

 

 大和型一番艦、大和。

 

 希少性の高いその存在、なのに未着任の彼女。

 例え、未だ出来損ないと評される状態であっても求める提督は多いはずだ。だからこそ、彼女の悲劇は起こされた。

 私は、彼女の教師だ。

 傷ついた彼女を、彼女自身を見ることなく大和という存在として利する者の元に――。

 

 「卒業後は、うちに寄越せ」

 「あなたも……ッ!」

 

 言ってから、気づく。

 卒業後。私の手を離れた、その後。

 この人は。

 

 「待つ。それまでは、誰にも手を出させん」

 

 ……この学園は非常に微妙な位置にある。

 軍に対して影響力を持ちながらも、軍からの命令には逆らえない。

 

 例えば、在学中の生徒の転向。未だトラウマと闘い訓練中の大和を、力尽くで鎮守府に着任させることも――。

 

 「だから、しっかり仕上げて見せろよ。『先生』」

 

 全く。

 何時まで経っても、この人には頭が上がらない。

 最強の戦艦、大和。彼女を欲する者を全て黙らせ、来年の卒業まで時間を稼ぐと言っている。既に鎮守府を離れ、ただの一教師の過ぎない私に、だ。

 一兵卒に過ぎない私には想像するしかできないが、その為にどれだけの力を注がねばならないか。片手間の物ではない。何時だってこの人はそうだった。だから、私は。

 

 「着任するかどうかは本人の意志です。ですが、あの子は」

 

 いい艦娘になります。あなたに……提督には、勿体無いくらい。

 そう、断言する。

 

 「お前さんが言うならそうなるだろうよ。おっと」

 

 「てーいーとーくー!!」

 

 『横須賀鎮守府』秘書艦、大淀さんの声。

 未だ私が振り返らずに語り合う提督を呼ぶ声だ。やはり、秘書艦には黙ってここに来ていたらしい。

 

 「時間切れだ。書類の山から敵前逃亡せねば」

 「……」

 

 黙って提督の足首を掴む。

 

 「……離してくれなければ逃げられないのだが」

 

 掴む手に力を込める。

 艤装を着けていないとはいえ、ロートルの私とはいえ艦娘だ。只人相手であれば振りほどけるものではない。

 

 「いだだだだだだ!!!!」

 「大淀さーん!! こっちでーす!!!!」

 

 私は声の限り大淀さんに呼びかけた。敵前逃亡は銃殺刑ですよ。

 一時提督の秘書艦を務めた私は、大淀さんの苦労を知っている。だからこの手は離さない。必要以上に力が入っているのは授業参観のちょっとした仕返しだ。なんかみしみしぴしッとか聞こえるけど。

 

 「おんどぅるるらぎったんですかー!?」

 「仕事しましょうね、提督」

 

 懐かしい、やりとり。

 駆けつけた大淀さんに提督を引き渡しながら、懐かしさを感じる。

 自身が鎮守府に在った頃。過ぎ去り、夢の為背にした昨日。

 それに僅かに触れる。しかしそれに乞わず。

 

 大和に、生徒達に選び得る明日を示す。それが私の仕事だ。

 どなどなされて行く提督に背を向け、仕事に取り掛かる。まずは、訓練に使った艤装の返却。

 それから教員室で日誌を作って提出して。担当する部活の様子を見て回って夕飯、寮の管理。

 

 「ふふっ」

 

 楽しい。忙しいことが、こんなにも嬉しい。

 そう思いながら、自身のと大和の艤装を抱えて明石先生の管理する倉庫を目指す。

 

 突然の襲撃に面食らったものだが、やはり提督というのは私達艦娘にとって特別だ。たまには、横須賀に顔を見せてみようか。足柄も連れて行って。昔馴染みと顔を合わせ、後輩達に自慢話をして。

 そんなことを思いながら進む足取りは、とても軽かった。

 

 

 軽かった、のに。

 

 「……明石先生?」

 

 がらり、と開けた倉庫の扉。陽が傾いているとはいえ採光が足りず薄暗い倉庫の中で、スポットライトのように一人照らされた姿へ咎めるように呼びかける。

 扉を開いた瞬間、そのままの姿勢で固まる明石先生。その手元には見覚えある、あり過ぎる艤装。

 

 足に着ける艤装、推進装置だ。ブーツと呼ぶには大き過ぎ、厳つい鋼鉄で形作られたそれ。艦娘を水上に立たせ、駆けさせ支える為のモノ。

 各艦種毎に出力・速度が違い燃費も形状も違うそれだが、明石先生が手元に置き弄っていたのは見間違うこともなく『私』のモノだ。

 訓練で私が使う、手元にある戦艦用のそれとは違い本来の艤装。

 

 『私』の艤装は鎮守府から離れる際、扱いについて一悶着あったが結局は私の手元に置かれることになった。

 だが実戦をすることのない学園、燃費の悪いそれは、今まで使われる機会がなかった。通常の訓練程度なら軽巡用、せいぜいが重巡用で事足りる。

 大和の特訓の為に戦艦用を使うことはあっても、本来の艤装は結局倉庫で惰眠を貪るくらいしかなかったのだ。

 

 「何を、しているんですか?」

 「え、ええと。その、先生が足の遅さを気にされているようでしたので」

 

 口は災いの元。

 

 足柄と話していた、私の遅さ。

 それが明石先生の耳に及んでいたらしい。元々、機械を弄るのを趣味としている彼女。

 早々手元にあることがない『私』の艤装へ手を加えるという大義名分。それを彼女は見逃さなかったらしい。やっていいなんて私は一度も口にしていないが。

 

 「そのですね! 最近技術開発された艦娘用のタービンが!」

 「元に、戻して置いて下さいね」

 

 不細工に付け加えられた最新の装備。タービンらしい部品が付け加えられた艤装に吐き捨てるような視線を向ける。何あれ。私の艤装に何してくれてんの。

 

 「……で、でも! これで鈍足から金剛型に並ぶ、いえそれ以上の速力に!!」

 

 誰が鈍足か。

 そもそも本来の艤装、今はとてつもなく不細工になってしまったそれを使う予定はない。だからこそ倉庫の奥に突っ込んで放置していたのだ。

 とは言え勝手に改造されていいものではない。

 

 「元に、戻して置いて下さいね」

 「ひゃい」

 

 重ねて言うと、明石先生は肩を狭めて了承してくれた。

 彼女からすれば好意からの改造かもしれないが、私にとっては大切な自分の、自分だけの艤装だ。

 使う予定のない物であっても、許可なく手を加えられるのは面白いものではない。足の遅さを前提としての戦い方。それに私は、誇りを持っている。

 かつてのモノであっても。だからこそ。

 

 「……島風より速い大火力戦艦って、浪漫ありません?」

 「ありません」

 

 一刀両断、即答する。

 ……しかし金剛さん達より早いのか。達したことのない、想像もできない程の速さ。それに微塵の魅力も感じないと言えば嘘になる。その速さがあれば。いや、私には必要ないものだ。只の一教師である私には。

 

 「はぁ……こちらお返しします。大和のも弄っちゃダメですからね?」

 

 溜息しつつ、本来の目的である艤装の返却。

 大和の使用しているのは本来のモノだ。こちらも燃費の悪いものだが、一番フィットすることから使用させている。それですら上手く扱い切れていないのだから、最低限の出費として認められているのだ。

 

 「あ、あはは……流石に生徒のに手は出しませんよう」

 

 どうだか。

 私に隠れて漣と共謀し艤装を弄っているのが、バレていないとでも思っているのか。

 あの子の資質であれば改造しても扱い切れるので、黙認していた。結果ピーキーな設定となっているようだが、漣の変態的……天才的な技巧を発揮できている。

 

 「……それにしても、また物が増えてませんか?」

 「色々と伝手から回ってきまして。このタービンとか、あっちのバルジも素敵ですよね!」

 

 目を輝かせながら聞いてもいない解説を始める明石先生。というかいいのかそれ。学園なのに新型装備が何故回ってくるんだ。流石に砲を始めとした火器はないようだが……え?

 

 「ふっふっふ、流石お眼が高い」

 

 倉庫の一角、『それ』に唖然とする。何あれ。

 

 「ぶっといでしょう、大きいでしょう!」

 

 砲。それも規格外の。

 

 「調整中ですが、完成した暁には是非大和さんに!!」

 「絶対ダメ」

 

 あんな鉄塊、載せられるか。

 水上に立った瞬間沈む。間違いなく沈む。砲の重みで沈む艦娘ってどんなギャグだ。

 重ねて絶対ダメと明石先生に告げて倉庫を後にする。あんなにも軽かった足取りはずしんと重くなってしまった。

 

 「絶対ダメですからね」

 「あっ、フリですね、分かります!!」

 

 にこり、と私は満面の笑顔を向けると明石先生は凍り付いてゴメンナサイを繰り返した。

 分かってくれて本当に良かった。

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