ふりーと・すくーる   作:蒼樹物書

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【12】

 「やあ、お疲れ様」

 「お疲れ様です、宮元先生」

 

 ――じいぃ、じいぃ。

 夏の声。蝉の鳴き声で支配された静寂が破られる。引き戸を開くと共に、私へ声をかけたのは宮元先生だった。

 

 学園、教員室。

 デスクの居並ぶそこで、私は一人書類仕事に励んでいた。

 

 夏季休暇。

 たった一週間とはいえ授業はなく、生徒たる艦娘達もあちこちに出かけている。普段慌しい教員室も、一時の静寂を得る隙間。他の先生方も交代での休暇だったり、この時期だからこそ行える業務の為席を外している。

 私はそこで一人、後期授業計画の修正にとりあえず一段落を得た直後だった。

 お茶でも淹れるかな、というタイミング。

 

 「どうぞ」

 「ありがとうございます」

 

 紅茶の注がれた、白磁のカップを受け取る。

 教員室備え付けのティーカップに注がれたそれであっても、手馴れた執事に差し出されたかのように自然で優美。こういった所作も、宮元先生がモてる由縁なのだろう。うっかり惚れてしまいそうな手管。いや惚れないけれど。

 

 一口。

 

 鼻腔に抜ける爽やかな香り、冷房が効いた部屋にいた身に染みる熱さ。

 ずるいなぁ、と茶淹れ一つとっても完璧なその人に視線を送る。彼女もカップに口付けて、ほう、と吐息した所だった。実に様になっている。

 

 「あの子も、合格したそうだな」

 

 ――おかげさまです。

 

 大和。

 水上に立つことに、トラウマを持つ艦娘。

 未だ完全に克服したとは言えない。先の試験の合格、それはあくまで最初の一歩だ。これから立ち向かう果てない大海原に比べ、あまりにも小さく短い一歩。

 

 「正直、私はそこまでに至るとは思っていなかった」

 「確かにあの子は迷い続けてきました。今も、迷っているかもしれません」

 

 これまでも、戦う以外にも道はあると。何度も転倒してプールの水に溺れかける大和に、辛そうな彼女に甘言を囁いてきた。苦しむ彼女に、私自身が耐え切れなかったこともある。

 

 宮元先生も大和を支えてくれている一人だ。

 艦娘研究、その先端にある彼女をしても例を見ないトラウマ持ちの艦娘。研究者としての興味もあるだろうが、それ以上に一教師として大和に接してくれた。

 その知識で以って、彼女により良い道を模索してくれた。

 

 「だが」

 「けれど」

 

 あの子はこの中間点まで走り切って見せた。

 大海原を、波頭を越える可能性を見せてくれた。

 

 これからも大和の恐怖は消え去ることはないかもしれない。海と、戦いに立つ以上は逃れられないかもしれない。それでも、彼女は駆けることができる。そう信じさせてくれた。

 

 それならば、私の。私達の仕事は。

 

 「最後まで付き合おう。何たって『身内』だからな」

 「……ありがとうございます」

 

 大和型二番艦、武蔵。建造組の艦娘として未完成であり、戦う力を持たずとはいえ。

 艦の記憶は根付いている。仮初のモノとはいえ、姉妹の記憶が。

 

 「お願いしますね、『武蔵』」

 

 そう茶目っ気を出しつつ宮元先生に、戦艦としての名で呼んでみる。

 

 「……きみは、ずるい」

 「?」

 

 一瞬、豆鉄砲を食らったかのように眉を上げた宮元先生はカップを口元に運びながら目を逸らしてしまった。気分を悪くしたようではないと思うけれど……もしかして、照れているのだろうか。

 

 「あら。お疲れ様です」

 「お疲れ様です、先輩」

 

 珍しく動揺している宮元先生、どうしたものかと考えたところで矢矧先輩。

 その手にはダンボールが抱えられている。側面にはマジックで大きく内容物が記されていた。

 

 「ああ、そういえば今日だったな」

 「早いものですねぇ」

 

 夏の風物詩。毎年恒例のあれ。

 

 「夏祭り、か」

 

 

 『こちら品野、所定位置……鳥居前に着きました』

 『こちら矢矧。了解です。こちらも巡回を開始します』

 

 ダンボールに詰められていた物、トランシーバーで連絡を取り合う。感度良好、と。

 陽は傾いて、日差しもいくらか和らいできた夕刻。学園近く、山上の神社で行われる夏祭り会場に私達はいた。

 毎年この時期に地元の自治会により催されているお祭りで、そう規模は大きくはないものの境内を埋める勢いで夜店が並んでいる。

 焼きそば、カキ氷に林檎飴。お祭りならではの様々な香りと喧騒。

 

 囃し立てられるのも無理はない。

 

 「はい走らない」

 「おうッ!?」

 

 鳥居を駆け抜けようとした、その小柄の首根っこを掴む。軽い体躯は片手で、その勢いままに跳ね上がり止る。

 

 「お祭りは逃げません。危ないですからゆっくり歩くこと!」

 

 はぁい、と。

 それでも早足に夜店の列へ向かう島風を見送る。それを皮切りに次々とやってきているようだ。

 一般客に混じり、学園の生徒達。

 外出許可は束となって出され、在籍の生徒はほとんど来る予定だ。近場での催しごと、非日常のお祭り。完全寮制で娯楽に飢えている彼女達が見逃すはずがない。

 夏の思い出作り、それはいい。

 イベントは大切だ。日常の外にあることから学ぶことはたくさんある。

 

 「へいらっしゃ……げぇッ!?」

 「――漣?」

 

 居並ぶ夜店の端、おじさんおばさん達に混ざり出店していたのは漣だった。何やってんのこいつ。

 お祭り法被に捻り鉢巻、空のビールケースに腰掛ていかにもな的屋。その前にはタライが置かれ妖精さん達が入れられている。涙目でこちらを見上げている兎やら、寝そべったり走り回ったりしている少女達。中には蟹も。兎は漣ので蟹は朧のか。他はどこから持ってきた。

 

 「妖精釣り」

 「こ、これはですね先生、ちょっとしたごっこ遊びというか何というか!」

 「一回五百円」

 「ごめんなさい」

 

 バイト禁止。

 たまにこういった校則違反が出てくる。流石に妖精さんを持ち出して利用したというのは聞いたことがないが。

 とりあえず片付けて妖精さん達を元に戻してくるよう命じる。

 お小遣いを増やそうとしたようだが、生徒の就労は認められていないし妖精さん達は学園管理の艤装に宿る存在。その扱いは学園の備品だ。

 学園の生徒達には、いくらか小遣い程度の給金が与えられている。あくまで子供の小遣い程度。大きく遊ぼうと思えば不足するかもしれないが。

 

 「はぁ……全く」

 

 見回りに戻る。待ちに待ったお祭りともあれば、羽目を外す子もこうして出てくる。彼女等の保護責任者として、私達教師はこのお祭りに出張っているのだ。

 

 『こちら矢矧です、喧嘩中の曙と涼風を確保。寮に連れ戻しますので、しばらくお願いします』

 『すみません……お願いします』

 

 曙も何やってるんだか……トランシーバーを通しての先輩の声に頭を下げる。事情はまた後で先輩に聴くとして、とりあえずは抜けた穴を埋めねばならない。

 先輩の担当区画はこっちの方――夜店、それも食べ物が多く並んでいる辺りだ。

 から揚げにお好み焼き、焼きとうもろこし。いずれも香ばしい匂いが立ち上っている。呼び込みの声も進むに連れて大きくなっていく。

 

 「ごくり」

 

 いけない。

 今は仕事中今は仕事中今は仕事中。

 焼きそばのソースが焦げる匂いだとか、ベビーカステラの甘い香りに誘われてはいけない。

 進路脇のベンチ。こちらに気づきもせず、磯風と並んで座る浜風。彼女がもりもりとお祭りグルメを楽しんでいるのに眼を奪われてはいけない。おいしそうにたべるなぁ……。

 

 食欲なんかに、絶対負けたりしない!

 

 

 「あ、いたいた。何食べてるの」

 「――ッぶ、ぁ、足柄、これはその!」

 

 ひぎぃ。

 食欲には勝てなかった。物陰でしゃがんでこそこそと、しかし慌てて掻き込んでいた焼きそばを噴き出しそうになる。よりにもよって足柄に見つかった。

 

 「何をこそこそしているのかと思えば……はい」

 「んぐっ……うぅ、ありがと……」

 

 何とか飲み下すと、足柄はその両手にあった片方を手渡してくれた。

 

 「ラムネ……」

 「本当はビールがよかったのだけれども、ね」

 

 かしゅん。

 揃って瓶にビー玉を落とす。しゅわしゅわと炭酸の泡が競り上がり、瓶から溢れそうになるのを口で向かえる。

 強い炭酸、しかしよく冷えていて喉をするすると通っていく。余韻に残る、爽快な香り。

 夏の、香り。

 

 「ぷはッ……久々に飲んだ」

 「そーねぇ。昔は良く飲んだものだけれど」

 

 昔、鎮守府時代は酒が許されることは少なかった。戦勝記念や大規模作戦前の景気づけなどの、極々稀に許されていた程度だ。自然、嗜好は甘いモノとなる。羊羹だとかラムネだとか。物資もその頃は不足していたから、質素な物ばかりだがそれでも私達には優先的に回されていたそうだ。

 

 「……そういえば足柄は何でここに? 見回り担当には入ってなかったでしょう?」

 「デート」

 「でッ!!!?」

 

 デートッ!? え、足柄が! あの私と同じく戦狂いで飢えた獣みたいな瞳で以って周囲の男を寄り付けないと言われていた足柄が!!??

 

 「あ、あああああ相手は!?」

 「……じょ、冗談よ。その反応はちょっと傷つくんだけれど」

 

 な、なんだ……先を越されたという焦りからつい食いついてしまった。

 

 「そろそろ時間でしょ? あんたのことだからクッソ真面目に見回りしてるだろうと思ってね」

 

 腕時計に目をやると既に八時前。祭りに訪れた人々の流れも一方向へと向かっている。

 神社の敷地、その隅にある広場だ。そう広くないそこは、埋め尽くされる勢いで人が集まっているようだ。

 ……一応、タイムスケジュールは確認していたがそちらに参加するという考えは確かになかった。

 

 「やってる最中はそっちに夢中で皆動かないわよ。ほら、こっちこっち」

 「え、ちょ……!」

 

 足柄が私の手を取りずんずんと進んでいく。道から外れ、茂みを踏み分けて。

 祭りの喧騒、灯火を背に暗がりの奥へと。

 小枝を頭に引っ掛けながらも二人進んでいく、すると。

 

 「わっ……こんな所、あったんだ」

 

 驚く私に、足柄が得意そうに笑う。

 そこは木々から開けた小さな丘だった。芝生に覆われていて、小さいながらも結構な高さがある。

 手を引かれるままに昇っていく。すると。

 

 「いい場所でしょ? ずっと前から目をつけてたの!」

 「うん……」

 

 山上、その高さ。そしてその中の丘にあって、見渡せる。

 騒がしい祭りの音は遠く、眩しいほどに灯された明かりも木々に遮られて仄かに周囲を照らす程度。天の星々は手を伸ばせば届きそう。だから、見渡せる。

 

 「……海」

 

 水平線すら夜に飲まれて、境界は曖昧だけれども。

 点々と、その上に浮かぶ光がその存在を教えてくれる。星が夜空から零れ落ちたかのように、海に浮かぶ光。船の灯かりと、恐らく艦娘のそれだ。

 

 「――始まるわよ!」

 

 自身の腕時計を睨んでいた足柄が、声を上げる。

 その声を合図にしたかのように、零れ落ちた星からそれは打ち上げられた。

 

 「……」

 

 言葉が、出ない。

 空を昇って大輪を咲かせた花火に圧倒される。海上からの、打ち上げ花火。

 

 元々、ここの地域で毎年夏祭りの日に行われていたそうだ。

 数はそう多くなく、観光客を集めるような規模でもない。船も地元の協力で出していたそうだが、深海棲艦によって海の安全が侵され戦時の自粛という大義名分で中止されていた。

 それが再開されたのは今年、今日この日だ。

 

 「良いモンでしょ」

 「うん」

 

 次々と花火が上がっていく。火花が夜空を切り裂いて、鮮やかな赤、白、黄が開いていく。

 

 ――輝く光が海を照らす。

 

 遠く、砲声にも似た音。けれど、とても優しい轟音が響く。

 打ち上げ花火を上げる船は、近海にある。国内の沿岸は各警備府で常に哨戒を行っており、今あそこでも艦娘が警備をしているはずだ。数年前までは、こんな陸から近い海でも安全とは言えなかった。こういった催し事の為に人が乗る船を出すだなんて、考えも出来なかった。

 

 それでも。

 心が昂ぶる。肩が勝手に震え、目頭に熱が溜まっていく。

 

 「……私達が、取り返した今日よ」

 

 ばか。

 そんなこと、言われたら。

 

 「泣き虫」

 「ごめ、ごめん……っ、でも、でも、私……!」

 

 今日、この日を忘れられない。

 私達が、艦娘達が取り返した今日という日。海が共にある日常。

 過ぎ去り、もう背にした今ではあるが艦娘として戦った日々が間違っていなかったのだと。

 確かにそう教えられたと感じた。

 

 「来年もそうやって泣くつもり?」

 「あ……」

 

 そうだ。来年も、きっと今日と同じ日が来る。

 今、あそこで警備にあたっている子達がいる限り。

 それを継いで行く限り。

 

 そこに、私の生徒達も加わる。今日という日を、護る為に。

 

 「……そう、だね。来年も、再来年も」

 

 きっと私は泣いてしまうのだろう。

 私達が、仲間達が。そして、卒業していく生徒達が護った今日に。

 

 だから。

 明日に繋がるように。一緒に、迎えられるように。

 私は。

 

 

 「霞、ここで隠し味に味噌はどうだろう」

 「いやダメでしょ。何でガトーショコラに味噌が入るのよ」

 

 生地を混ぜる霞にそう提案する磯風。あの子はたぶん、味覚が少し特徴的なのだと思う。

 例のポテトサラダと言い張ったアレも彼女自身は普通に食べていたことから、そっちが原因だ。

 

 料理の不得手というのは手先が不器用だったり、レシピを守っていないことに起因することが多い。磯風の場合は後者だ。自身の味覚に沿って調味料を足していくことが問題だ。

 だから、今回のように他の者がしっかりとレシピを守らせれば問題ない、はず。

 とはいえ不安になりながら横目で二人の様子を見守る。

 普通に美味しい物を普通に美味しいと感じているようだから、ただ単に美味しいと感じる味の幅が広いだけとは思うのだが……。

 

 「先生、ビスケットはこれくらいでいいですか?」

 

 そうこうしていると、浜風がビスケットの入ったビニール袋差し出してきた。中身は均一に、細かく砕かれている。

 うん、大丈夫です。

 続いて型とコップを出してきてくれるようお願いする。次は、と。

 

 「そちらはどうですか、大和」

 

 ボウルを片手に、手際よく生地を混ぜる大和に尋ねる。聞くまでもなく順調なようだ。

 真っ白でとろとろの生地、こちらはレアチーズケーキだ。

 

 夏休み最終日。

 私が顧問をしている、料理部の部活動だ。

 この間ちょっとした事故により断念したガトーショコラ。今回はそれにレアチーズケーキも加えてお茶会をしようということになったのだ。

 既に材料は全て混ぜ合わされて、後は漉してから冷やすのみだったらしい。指先に取って味見してみる。

 

 「ん、美味しい」

 「ありがとうございます!」

 

 甘酸っぱく、檸檬の香りが爽やかだ。夏という時期に合わせて果汁を少し多めに入れたらしい。

 

 「型とコップを持って来ました」

 「はい、それじゃあ型にビスケットを入れて」

 

 浜風が頼んだものを持ってきた。早速ビニール袋の中、砕いたビスケットを入れてもらう。

 タルト生地を焼いてもいいのだが、今回は手軽に作れる炊飯器でのガトーショコラに合わせてこちらも簡単な下地を選んだ。

 

 「そしてコップの底で均していきましょう」

 

 こうすることで型の底面にビスケットの下地が出来る。きっちりとコップで押し込んで固めたら冷蔵庫へ。

 冷えた後に生地を流し込んで、さらに冷やし固めれば完成だ。

 

 「先生、こちらも後は炊くだけだ」

 

 磯風と霞の方も終わったようだ。ガトーショコラは炊飯が終わるまで、チーズケーキも冷えて固まるまで。

 

 となると一、二時間ほど間がある。

 溜まった仕事もあるのだが、せっかくの生徒達との時間だ。夏休み最終日だというのに終わっていない浜風の課題を見たり、お喋りに費やす。

 

 「花火、凄かったですねぇ……」

 「大和ったら感動し過ぎだってば」

 「半泣きだったものな」

 

 な、ななな泣いてないですぅ! と否定する大和に苦笑する。私はボロ泣きだったなんて言えない。大和を弄くる霞、磯風の二人。皆、いい夏休みになったらしい。

 

 「海上花火……今年から、再開されたんですよね」

 「はい。近海の安全が確保されましたし、物資不足もだいぶ緩和されたのが理由とのことです」

 

 尋ねる大和に答える。

 勿論、今も何時まで続くか分からない深海棲艦との戦争中ではある。しかし、だからこそ。

 この近辺の担当警備府。提督は、地元の人だったらしい。

 

 ――必ず、安全を確保するからやって欲しいと。

 

 ささやかな地元のお祭り、その一番のイベントを再開して欲しいと快諾したそうだ。

 地方紙の紙面、彼へのインタビューでそう綴られていた。そして、こう締めくくられていた。

 

 これは、勝ち鬨であると。海を取り返し、連中の現れる『前』の日々を完全に得るという宣戦布告であると。

 あまりにも、軍人らしい。

 

 けれど、ただ地元の祭りを取り返したい。日常を、平和を続けていたい。純粋で、単純で。

 そしてあまりにも、戦う理由には充分だった。

 

 「……来年も、見たいです」

 

 ぽつり、と大和が零す。

 戦況が悪くなれば、地方の近海に手が回り切る状況でなくなれば小さな祭りの予定なんて簡単に吹き飛ぶ。平和ではないということはそういうことだ。

 

 それでも。

 

 「大丈夫。見れるようになりましょう。見せられるようになりましょう」

 

 大人になるということはそういうことだ。

 ただただ純粋に、夏の祭りを楽しみにして打ち上げ花火に目を輝かせる。大人だって同じだ、お祭りは楽しいし花火には心を泡だ立てられる。

 

 けれど、同時にそれを見せる側にも立つ。

 与える側に立つということ。与えられるように力をつけていくこと。

 その為に力を尽くして支えるのが、私たち教師の仕事だ。

 

 「先生。終わりませーん……」

 

 課題をやっていた浜風が泣きついてくる。短い夏休みに合わせてはいるが、毎日こつこつやって終わるよう量を調整している。遊びまくって進めていなかったようだ。おばか。

 

 「――はいはい。ほら、ここはね」

 

 詰まっていたらしい数学の問題を解説する。丁寧に、丁寧に。

 答えは出さず、あくまで自力で正解に辿り着けるように教えていく。歯がゆいが、教えるということはそういうことだ。そうしていれば、きっと。

 

 彼女達はいつか私達の場所に辿り着く。そして、追い越してくれる。

 私が、私達がいなくなったその後を、紡いでくれる。

 

 心撃たれた、花火のその日を。

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