ふりーと・すくーる   作:蒼樹物書

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【14】

 「さて」

 「……」

 

 秋の長雨。

 肌寒いくらいの季候の昨今、空調は役目を終えたとばかりに沈黙している。

 まだ夕方のはずだが、カーテンの隙間から覗く外は静かに降り注ぐ雨もあって暗く帳を下ろしている。

 

 「大和の射撃訓練直前、変調は見られなかったのだな?」

 

 はい。

 努めて事実だけを、口にする。それは私の義務だった。

 会議室。

 学園内全ての教員が収まる広さだが、今は私達三人だけを冷たい白色灯が照らしていた。

 

 「訓練開始、その直前に大和の様子がおかしいように見えたと磯風が証言している。君は、気づかなかったのだな?」

 「はい……」

 「宮元先生」

 

 断罪する裁判官。その役目を負ってくれている宮元先生を、矢矧先輩が咎めるように声をかける。

 必要ない。

 これは、私の罪。庇ってくれていると理解していても、無用だと叫びたくなる。

 

 あれから。

 起こったこと、その処置について詳しく覚えていない。

 恐怖に震える大和を抱え、とにかく陸の上へと引き摺りあげて。携帯で宮元先生に緊急を伝えた。

 

 私は、何もできなかった。

 肩を抱えられ、保健室へ向かう大和を見送り。

 担任するクラスの生徒達に、教室での自習を命じて。後は、宮元先生から状況を聞いた先輩がこちらに来たのが最後だ。気づけば、ここにいる。

 

 「あの、大和は」

 「保健室で眠っている」

 

 安心、などとは思えないがまずは落ち着いている。

 

 「……はぁ。何もかも、自分が悪いなどという顔をするな。授業や訓練内容については私が許可して行っているのだぞ」

 

 ごめんなさい。多くの知恵で以って、事に当たる。それぞれが背負いきれる責任を、分かち合う。それが組織だ。私一人で、大和たち生徒の全責任を負っている訳ではない。

 校医として、特に大和のことについて力を注いでくれているのが宮元先生だ。

 だが、私の油断が招いた事態には違いない。

 

 「宮元先生、今後については?」

 

 その話を遮るかのように、先輩が尋ねる。

 宮元先生は腕組みをして一瞬考えるように天を仰いで。

 

 「彼女の目が覚めてからだな。どちらにせよ海上での訓練は、しばらく禁止だ」

 

 そう結論付け、この場を解散する。

 大和を蝕むのは病や目に見える傷ではない。易々と手の届かない、心の傷。

 

 どうすればいいのか。

 

 一度は信じられた、大海原にある彼女の姿。それがこんなにも簡単に崩れてしまう。

 やはり艦娘として、戦うべき存在として生きることを諦めさせるべきなのだろうか。酷い戦いに身を置いた彼女にはもう、目指させるべきではないのだろうか。

 何時まで経っても、答えは出なかった。

 

 

 「……大和」

 

 こん、こん、こん。

 意を決して三度、ドアを控えめに叩く。

 大和が意識を失った翌日。彼女は無事目を覚まし、宮元先生の検診を受けた後に要経過観察を言い渡されていた。

 本人曰くなんともない、とのことだが今日一日は最低でも休ませることにしたのだ。

 

 大和のことが心配なのも確かだし、もう一つ必要があってのことだ。

 クラスの子達への説明。

 今までは航行が下手な、奇妙な艦娘程度の認識だったのが今回の件で異常が明白になった。

 

 大和のトラウマ。

 そのことについて、特に原因と思われる過去については本人にすら内密にしている。秘密が広がるのは最低限にすべきであり、生徒達にそれは重過ぎる荷だ。

 だから、原因については不明。学園で対応を協議、校医を交えて対策するという程度にしている。納得してくれたかは微妙なところだが、ここが説明できる一線だった。

 

 「あ、先生……ど、どうぞ!」

 

 ドアを開けて迎えてくれた大和は、何時も通りに見えた。私を認めた瞬間慌てたようだが、それは自室に教師を迎える緊張の為だろう。突然の来室は申し訳なく思う。

 

 「ごめんなさいね。すぐ帰るから」

 

 そう断ってお邪魔する。寮の一室、大和の部屋は適度に生活感がありながらも整っている。

 自習していたのだろうか、学習机の上には教本が開いたままだがそれ以外は収まるべき所に収まっている。女の子らしく可愛い小物が散らばめられていて、けれど落ち着いた印象。

 通常、寮の部屋は二人一室で与えられているのだが彼女の場合は一人部屋だ。成人女性の体躯であることと、戦艦の艦娘は鎮守府でもこういった待遇が多いことからだ。

 周囲から浮き易い存在である彼女に、落ち着ける空間をという寮長としての判断もある。

 

 「お茶、お茶淹れますね!」

 「お構いなく。ほら、座って下さい」

 

 ぱたぱたと忙しない大和を制して、ベッドの縁に座らせる。部屋には椅子は一つだし、板張りの床というにもいかない。私もベッドの縁、彼女の隣に座る。

 

 「……ふぁ」

 

 腰掛けると、大和が両手を頬に当てて眼を伏せている。緊張させてしまっているのだろうか。

 密室で教師と二人、並んで座るというのは気を使うのも仕方ない。しかし生徒指導室とかに呼び寄せるのもなぁ……出来るだけリラックスしてもらって話をしたいという意図で来室したのだが、失敗だったかも。

 並んで座る、というのは心理上話し易い位置関係である。教師という立場の人間と正面からというのは、どうしても背筋を伸ばさせてしまう。とはいえ寝床という彼女のプライベートスペース。ううん……緊張からか耳が赤いし。

 

 「大和」

 「ひゃい!」

 

 声をかけると上ずったような返事。ええい、ままよ。

 

 「――大和の、好きなことは何ですか?」

 

 ずっと考えていた。

 この子に、何をしてあげればいいのか。何を話せばいいのか。

 宮元先生の診察によると、相変わらずトラウマの原因については覚えていないようだった。

 しかし、確実に恐怖は根付いたままだ。

 プールの上で一部を克服したとはいえ、海に立ったことでそれは逆襲した。今度こそ、無理かもしれない。

 何よりあんな恐慌に陥った彼女にもう一度、と言う事は決して出来ない。

 だから。

 

 「好きな、こと……お料理とか」

 

 控えめに、けれど確かに。

 答える大和に微笑む。

 

 「どんどん上達していますものね。この前のレアチーズケーキ、間宮さんも太鼓判でしたよ」

 「そ、そんな」

 

 夏休み最後の日。料理部で大和が生地を担当したのだが、多めに作ったのでお裾分けしたのだ。

 料理部は学園の食堂を仕切る間宮さんに何かとお世話になる。食材を部活で使う為多めに手配してもらったり、足りない調理器具をお借りしたり。

 そのお礼に、ということでたまにお裾分けをするのだが大和が担当した物については特に評価してもらっている。料理の腕においてプロ並みであると。給糧艦の艦娘である間宮さんに、だ。

 

 「好きなこと、得意なことを仕事にするのも幸せなことですよ」

 「……ッ」

 

 大和の表情が、僅かに歪む。織り交ぜられた感情は様々だ。

 またか、という煩わしさ。幾度も、説得してきた。

 艦娘として、戦う艦としての責務を果たす。そればかりが道でないと囁き、惑わす甘言。

 中間試験で彼女の可能性を見たとはいえ、先の海上での姿を見れば幾度でも諦めさせたくなる。

 

 そしてそれに誘われる、縋りたくなる弱気。

 彼女の意思は尊重したい。だが、今この時の選択が彼女を幸せにするとは限らない。

 

 私は、この子より少し大人だ。

 

 「海が、怖いのでしょう? 恐怖と戦うことは立派なことです。けれど――」

 

 逃げることも、勇気です。

 戦う場所を選べないこともある。逃げることが出来ない時もある。

 けれど、今はその時ではない。

 大和には、選べるのだと――。

 

 「大丈夫です」

 

 しかし。

 

 「大和は、戦える艦です」

 

 彼女は、胸に手を置いて。

 打ち鳴る鼓動を隠すように、口端を引き上げてそう答えた。

 

 これまで、幾度もしてきたように。

 大和は頑なだった。

 

 

 「……本日は、宜しくお願いします」

 

 そして四日後。

 ついにこの日が来てしまった。

 

 社会科見学。

 在学中の生徒達に、鎮守府の見学をさせるという行事。

 これから先、就職……着任することになる鎮守府や警備府について実際に見て学ぶという大切な行事である。軍人となる場合以外、軍属となる場合でも鎮守府で働くことが多い。

 各クラスそれぞれ交代で、担任が引率して行うのだが当然お邪魔する鎮守府の長……提督への挨拶は当然の礼儀だ。しなければいけない。例え死ぬほど嫌でも。

 

 「では失礼します。各施設は把握しておりますのでご案内は結構です。速やかに予定の内容を終了しすぐさま発ちますのでお気を使われないようそれではさようなら」

 「大淀ー」

 

 頭を下げ挨拶の後。

 要件を怒涛の如くぶん投げて回れ右をした私の行く道を、秘書艦である大淀さんが遮る。

 命じられた大淀さんは私の前に立ちはだかりながらも、無言で超謝っている。彼女は悪くない、奴が悪い。全部悪い。

 

 「ツレないねぇ、せっかく帰ってきたんだ。ゆっくりしていくといい。ほら、茶でも」

 「結構です! 生徒達も待っていますので!!」

 

 提督、執務室。

 その外には生徒達を待たせてある。すぐに済みますので、と。違えるわけにはいかない。決して元職場、その上司との避けえない再会を厭ってのことではない。

 

 「例の子も来ているのだろう。彼女にも――そんなに睨むな」

 

 びきぃ。

 やはり諦めてないか。

 例の子……大和も、連れてきている。以前の授業参観……といっていいのか分からないが、大和の今後については軍が目をつけていることは理解している。そして、提督も彼女を欲しているということも。

 そんな中、彼女を連れることは虎の口に手を差し込むようなこととは思うのだが。

 本人たっての希望もあり、せざるを得なかった。

 

 「全く、過保護に過ぎるな君は。箱入りの取って置き、ますます欲しくなる」

 

 絶対あげませんからね。

 自分と同じ苦労を、生徒達にさせたくはない。

 

 横須賀鎮守府。

 

 首都絶対防衛線たる、東京湾を預かる鎮守府。

 艦娘運用最初の場所でもある。かつて私のいた頃は、物資不足から無茶無謀な運用もあったが昨今は優先的な補給、豊富な戦力と国内最高最強の鎮守府とされている。

 配備されている艦娘も精強揃い、我が国最強の艦隊と名高い。横須賀付きというのは現在の艦娘にとって栄誉あるものだ。

 

 しかし上司、提督が邪悪過ぎる。

 天才であるのだとは思う。劣悪な戦況、不足に過ぎる物資と戦力。

 運用実績もろくにない艦娘という兵力。

 それらを苦とせず、時には利用して。

 想像もつかないような手腕でここを立ち上げ、支えて見せた。

 

 提督の指揮下で、沈んだ艦娘はいない。

 何時誰が、沈んでもおかしくない戦況でも絶妙のタイミングで援軍を寄越して見せた。

 意味のないような配置や編成、なのに未来を見通すように噛み合わせて見せた。

 その手腕は疑うまでも無い。指揮の巧みさ、戦術眼において私も絶対の信頼を置いている。

 

 けれど、その趣味は下劣。

 嫌がらせ。

 完全な人間などいない。欠点というのは誰しも持ち合わせているものだ。

 とはいえアレは酷い。その指揮下で泣かされたことのない艦娘はいない。反旗を何度考えたことか。横須賀で三人集まればどう奴を倒すか必ず持ち上がる程だ。

 

 「あげませんよ?」

 「本人の意志だったら、しょーがないよなー」

 

 椅子毎くるくる回りながら言い放つ提督。ぶん殴りたい。

 ――はっ。

 

 「ちょ、ダメです、通せませ――」

 

 通せんぼする大淀さんを膂力でどすこい、跳ね飛ばす。ごめんなさい大淀さん。

 慌ててドアを開け、その先に待つ生徒……大和が。

 

 「へーい彼女ー。イイ身体してるねー?」

 「うちは給料ええでー! 保険完備、三食食べ放題昼寝付きや!」

 「い、今! 貴女だけにお勧めしているんです!! 絶対後悔しませんさせません!!」

 

 ナンパされていた。いや最後のは怪し過ぎる勧誘だ。

 隼鷹さん、龍驤さん、大鳳さんだった。旗艦の私を足止めして航空母艦三隻による狙い撃ちとは汚い、流石提督汚い。

 どうせ三人は提督による差配……報酬とか脅迫とかで動かされているのだろう。ええい。

 

 「……うちの生徒に手を出さないで下さいね」

 

 蜘蛛の子を散らす。私の姿を認めた途端、古参の隼鷹さんと龍驤さんはさっさと退散。比較的新顔の大鳳さんもそれを追うように去っていく。懸命だ。

 鎮守府内の風紀についても責任を持つ、元秘書艦の経歴が役立った。先の二人は、問題児筆頭として当時散々追い掛け回したものだ。

 

 「せ、先生……」

 「挨拶は終わりました。それでは、まずは工廠から見学しましょう」

 

 三人に囲まれていた大和をよしよししながら、生徒達の引率を始める。

 本来であればここに着任している艦娘に案内を頼む所だが勝手知ったる古巣、全施設は把握している。

 『あの人』が出てくる前にさっさと出発することにしよう。

 

 

 「明石の工廠にようこそ! 各兵装取り揃えてますよー!!」

 

 まずは工廠。

 広大な空間に所狭しと、その用途すら分からないような工作機械が置かれている。天井にはクレーンが四基、フォークリフトも大小三台。学園の倉庫のような、明石先生のそれと比べるべくもない。

 迎えてくれたのは明石の艦娘。聞いてもいない設備や装備の説明を怒涛の如く始める彼女を無視して、生徒を連れ工廠を回る。彼女はちょっと、多めに説明したがる癖がある。とりあえず聞いていようがいまいが、話していれば満足する人なのでこの対応で充分だ。

 

 「それでですね、砲と魚雷は最大限に改修済みでさらには電探や艦載機も」

 「このように大きな鎮守府ほど環境が整っています」

 

 早口な明石さんをスルーして、一通り見回って工廠見学を終える。次は入渠設備と食堂かなー。

 

 

 「わぁ……」

 「いらっしゃませ!」

 

 ちょっとしたスーパー銭湯くらいの規模がある入渠設備を見学した後。

 私達は食堂に来ていた。二百人以上の艦娘。そして彼女等を支える更に多数の人員を擁する横須賀、その腹を満たす食堂。ずらりと並ぶ長テーブル、その規模は学園の倍以上だ。

 迎えてくれたのは間宮さん……間宮主任だ。学園の食堂を預かる間宮さんとは別の人。

 日々見慣れた彼女とは同じでありながら別の存在。

 間宮という艦娘は建造組にとって適合しやすい艦種であり、必要充分に着任している。ここの間宮主任も建造組だ。

 とはいえ。

 

 「いらっしゃいませ」

 「いらっしゃいませ」

 「いらっしゃいませ」

 

 これは何とかならかったのかなぁ。

 始め、漂ういい匂いにテンションを上げていた浜風もドン引きだった。

 艦娘の容姿、そしてその声は元となる艦毎に同一となる。ある程度髪型や服装を、個人の趣味で変えたりはするのだが。

 ここは皆、ほとんど一緒。

 同じ容姿と同じ声。それが何人も集まっているというのは、ちょっとしたホラーだ。

 

 「では最後に演習場へ」

 

 私達を囲うように立つ間宮さん『達』から逃げるように次へ向かう。

 

 

 「あら、何時の間に出戻ったのよアンタ」

 「……ご無沙汰しております」

 

 いた。

 見つかってしまった。深々と頭を下げる。出戻りじゃないけれど。

 

 演習場、学園のそれとは桁違いに整えられたそこ。東京湾を臨む港湾施設、艦娘出撃用の波止場が何本も延びており外洋遠征用の艦船も数多く停泊している。その広大な港から少し離れた所にあるのが演習場だ。

 標的用の機動ブイやドローン射出施設も備えている。学園にはない設備に生徒達は目を輝かせているが、私は冷や汗で背筋を凍らせていた。

 そこにいたのは、二十人以上の駆逐艦の艦娘達を従えて演習を仕切っていた『あの人』だった。

 

 横須賀鎮守府、筆頭秘書艦叢雲。

 駆逐艦でありながらこの横須賀で、提督に次いで最大の権限を認められている艦娘だ。

 唯一あの提督の手綱を握り得る艦娘と目されており、直接補佐を担当する秘書艦達が頼りに出来る存在。

 

 何かあれば彼女を頼れ。

 

 歴代秘書艦の口癖だ。

 とはいえあの人、提督と初めて出会い戦い続けた古株中の古株。

 その手腕は疑うべくもないが、癖が強いのは事実だった。

 

 「丁度いいわ、戦艦の艦娘が欲しかったのよ」

 「あ、あの……今日は、社会科見学でお邪魔してまして」

 「浮いてるだけでいいから」

 

 私の言葉を容赦なく受け流して、無線で艤装の手配をする叢雲さん。

 既に決定事項のようだった。こういう問答無用、意思の強さ……というよりゴリ押し感久々だなぁと思いながら流されてしまう。

 本来は水雷戦隊同士の機動戦の演習をする予定だったが、丁度いい『的』が来たことで護衛艦隊に守られる大型艦を落とすという仮想の演習にするようだった。こういう臨機応変さ、利用できるモノは何でも使うという姿勢はあの提督の影響だと思う。

 

 「さて、ひよっこ共。今日はツイてるわ」

 

 居並ぶ、横須賀の駆逐艦達。

 駆逐とはいえここの所属に選ばれた彼女達だ、手練揃いである。

 

 編成は私を旗艦として三人の朝潮型駆逐艦。朝潮、大潮、荒潮。

 そして挑むは最大編成、六人の駆逐艦達である。型は混合だが。

 夕立、綾波、雪風、初霜、島風。

 旗艦、叢雲さん。

 え、ちょっと待って。

 横須賀所属の駆逐艦、上位六名じゃないのこれ。殺す気?

 

 「『要塞』殿がお相手を勤めてくれるそうよ。駆逐の本懐大物食い、願いたり叶ったりね」

 

 自身の指揮下、歴戦の駆逐艦達を煽るように告げる叢雲さん。

 『要塞』呼ばわりされていた……燃費の悪い私は、鎮守府内の演習にほとんど出ることはなかった。

 力ある駆逐艦達にとって、手合わせしてみたかったというのは理解できる。

 駆逐艦は大物食い、戦艦や空母といった格上の艦を落とすことに血脈を上げる子が多い。だが、いくらなんでもやる気過ぎないか。めっちゃ士気高い……というより目が血走っている。待って、お願い待って。

 明石さんが私の艤装を持ってくる。え、何であるの。砲もしっかり私本来の物だ。畜生、さすが横須賀装備は整っていやがる。

 

 「簡単に沈んでくれないでね?」

 「ぜ、善処します……」

 

 そう叢雲さんに答えて、あっという間に整えられ始まる演習。

 口を開いたままの生徒達にしっかり見学するよう伝える。

 

 やってやります。

 想定外だが最精鋭の横須賀、その演習を観れることは彼女達にも大きな収穫となるはずだ。

 そう気を取り直して私揮下の駆逐艦、朝潮型の三人と即興の作戦を組む。

 

 やるからには全力で。

 

 横須賀の明石さんが用意してくた艤装を装備しながら、直立不動で耳を傾ける三人に方針を伝える。四対六という数の不利、そして朝潮達三人の様子を見るに錬度でも不利だろう。

 傾けるにはある程度奇策という賭けが必要となる。

 それは、提督の得意だ。あの人の元にあったことで、影響されたのか。それに、愉快という感情が沸き上がる。

 

 「……わ、わかりました!」

 「敵は精強です。鼻っつら、叩き折ってやりましょう」

 

 作戦を伝えると朝潮型一番艦、長女たる朝潮が背筋を伸ばして了解する。その姿に少しの微笑ましさと、頼もしさを覚えながら答える。

 

 血沸き肉踊る。ほんの少し、今だけは。

 久しぶりに一人の艦娘として挑もう。

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