「では、宜しくお願いします」
『はい!!』
穏やかな海上。
艤装をフル装備した状態でそこに立ち、通信機で遼艦達に通信する。
元気な朝潮の声、それに密かに微笑みながらどうしてこうなったという困惑を飲み下す。
……社会科見学の引率に着ただけのはずなんだけどなぁ。
筆頭秘書艦、叢雲さんのゴリ押しで一線を引いたはずの私は演習に参加させられていた。
最精鋭たる横須賀の演習を見学出来る事は、生徒達にとって貴重な経験になる。とはいえ、私が参加する意味とは一体……建造組の艦娘として、最盛を超した私は既に引退同然だ。
実際、背負う私本来の艤装が現役だった頃に比べ重く感じている。出力が落ちているし、砲塔の動きも少しぎこちない。
人から艦娘へと改造された建造組は、経年により劣化していく。それも理由の一つとして、ここ横須賀を辞し夢を叶える為に教師となった私だ。
そんなロートル相手に横須賀所属の駆逐艦、それも最精鋭揃い。私が率いる朝潮達三人も横須賀付きである以上腕は悪くないはずだが、質の差はいかんともしがたいだろう。
「……やるだけやってみますか」
そう、一人呟く。
何時だってそうだった。やれることを、やってみる。限界はそのもう少し先にあるのだから。
頭を切り替えて教師としての私から、久々に艦娘としての私に戻る。
――そろそろ演習開始。その合図があるまで静止だが、見るだけならば問題ない。
水平線、その遥か彼方。
『敵』は駆逐艦六隻。やはり、単縦陣での突撃を選んだようだ。
今回の演習、私を旗艦とし護衛駆逐艦三隻。合計四隻に対するは駆逐艦六隻の水雷戦隊だ。向こうの勝利条件は私から轟沈判定を勝ち取る事になる。
数でいえば向こうが有利だが、戦艦たる私がいることが勝利の鍵となる。
単純に戦艦と駆逐では戦闘スペックが段違いなのだ。それを見越して数の差を設定したのだろう。
『演習開始だ。楽しませてくれたまえ』
通信機に、演習開始の声が入った。提督のそれだった。
やっぱりあんたも噛んでたのか。
私の艤装がすぐさま用意されたことからもしかして、とは思っていたが元々仕組まれていたらしい。駆逐達の錬度を上げたい叢雲さんと、愉快ごとに目がない提督の利害が一致してのことかもしれない。おのれ。
「敵艦、捕捉――」
それはともかく、もう始まっている。
見るだけ。
背負った艤装、そこから伸びる全主砲は測定した位置目掛けてピタリと止まっている。
――もう、見えている。
主砲、斉射。
自身を爆心地として、大波が掻き立つ。六門の主砲が爆炎を吐き出す。
六発の模擬弾は。
六隻の駆逐艦へ『同時に』襲い掛かった。
◇
『ぽーいッ!?』
『ま、まだ……まだ、戦えるはずです!!』
夕立、撃沈判定。
綾波、中破判定。
他は小破……ん、叢雲さんと雪風は避けたかな。
上々だ。六隻の中で特に火力のある二隻に当てられたのは大きい。
多数の標的に対する同時砲撃。
当てられることを集中的に訓練した私が、次に目指したのはそれだった。一度に多くの敵を屠れるようになれば、味方が対する敵は少なくなる。当然の理屈だ。
今のように距離があり、狙い撃ちが許される状況下ならばどれだけ敵射程に接近されるまでに落とせるかの勝負になる。とはいえ、大口径砲は装填が遅い。
快速の駆逐艦相手ならば、一度かせいぜい二度までしか狙撃は許されないだろう。
しかしその狙撃も狙われることを覚悟されていれば、避けられる可能性が高い。集中すれば一隻叩ければ良い方だろう。
狙撃とは、奇襲であることに意味がある。
ならば、どうするか。
砲は六門あるのだ。一隻にそれを集中するのではなく、全てに標準を合わせればいい。
マルチロック。
誘導性がない砲弾を、動く複数の標的に対して当てる。それを使えるくらいに習得するのには難儀した。
今の私で、彼女達にどれほど通用するかは不安だったが……そう捨てたものじゃないらしい。六隻同時に狙い撃たれること、それを叢雲さんから聞いていても本当に当てられるとは思っていなかったようだ。
その油断、ありがたく頂戴しよう。
『足を止めない! 死んでも走りなさい!!』
叢雲さんの激が飛ぶ。
流石だ。
模擬弾のペイント塗れになってへたり込む夕立を背にし、真っ直ぐこちらに向かう五隻。先手で仕掛けられるのは織り込み済み、私の曲芸も彼女には肌で以って知られている。
遮蔽物がない、穏やかな海において距離は絶対的な壁だ。
この距離では私に一方的に砲撃され続け、駆逐艦の装備では反抗する手段はない。とにかく、距離を詰めなければカードを切ることすら許されない。
駆逐艦が戦艦を沈める唯一無二の手段は魚雷だ。
しかし魚雷は足が遅く、距離さえあれば鈍足の私ですら回避可能な代物だ。
ならば、当てるには接近するしかない。私に、砲撃されながら。それは絶望的な行軍だ。
ようやく装填が終わり、第二斉射を行う。今度は残った五隻の内二隻へ。中破で足の鈍った綾波と、雷撃能力が高く足の速い島風狙い。
結果、二隻撃沈判定。
これで半数、取らせて貰った。反撃を貰い始めるまでに二隻取れればいいと考えていたので、運がいい。
反撃することもできず、ただただ回避しながら前へ進む敵である駆逐艦達。仲間が降り注ぐ弾に脱落していくのを、振り向くことすら許されず前へ、前へ。悲鳴も全て、振り抜いて。
こちらへ駆ける三隻。叢雲さん、初霜、雪風。誰もが嗤いながら駆けている。どうも、歴戦の水雷屋というのは皆狂っているらしい。
「参ります」
既に、距離は互いに撃ち合える距離。
私の足元に何本もの水柱が上がる。駆逐艦の主砲によるものだ。小口径砲とはいえ、その衝撃に身が揺れる。爆音に恐怖を掻きたてられる。
『……危険ですッ!!』
「各自、作戦通りに」
攻撃が集中している私に、朝潮が悲痛な声を上げる。
向こうは私さえ落とせば勝ちだ、彼女等に構う必要はない。双方の駆逐艦、その錬度差は絶対的。相手からすれば適当にあしらいながら、優先目標の私を叩ける。
――だから、セオリー通りならばそんな僚艦を盾にして私の大火力で確実に潰す。
それが、正解だ。
守るべき旗艦の為に安い命の駆逐艦が盾となる。それが、効率的で易い方法だ。
しかし、私はあの人……提督に少しばかり、ちょっとばかり毒されてしまったのだろう。
正道に反逆してしまった。
「そおい!!」
「ちょッ……!!??」
機関全力、前へ。
襲い掛かる三隻の駆逐艦、その前へ『出る』。
渾身のラリアットが初霜の首を捉える。振り抜いた腕の後方で、縦に初霜が回転して跳ねる。
よし、後二隻。
守られるべき旗艦、後方にいるべき私に混乱しつつも叢雲さんと雪風が主砲で私を滅多撃ちにする。
無防備に前へ出た鈍足な戦艦、撃ち放題だろう。あちこちに模擬弾のペイントが塗りたくられていく。しかし、戦艦が。
「簡単にぃ……沈むかッ!!」
脚の艤装に出力を集中する。叢雲さん目掛け、駆ける。
流石脚の速い駆逐艦、早々追いつけるものではないが注意を引けている。一度組み付かれてしまえば、先の初霜のように必殺される。それを理解している。
雪風はそんな私の背を半泣きで撃ち続けている。衝撃が走るが、湧き出るアドレナリンで痒くも無い。それにまだ中破判定。この程度の小口径ならばまだまだ耐えられる。
『要塞』の渾名、その意味を発現する。
それに気づいたか、ようやく魚雷を用意したようだが―-。
「雪風さん、覚悟!」
「それ! どーん!!」
「そ・こ・ね?」
ここまで温存した、私の『護衛』たる駆逐艦達。
朝潮型駆逐艦、朝潮、大潮、荒潮。三隻が雪風に襲い掛かった。
作戦通り、私の吶喊で稼いだ隙を食ってくれた。錬度差があろうと、三対一。しかもこちらに攻撃を集中している状態だ。雪風、撃沈判定。
残るは叢雲さん一隻。
数の不利は覆した。叢雲さん一隻に対しこちらは四隻だ。囲んで、叩く。
朝潮達の展開は遅いがしっかり訓練されているのだろう、密な包囲を形成し始める。このままこの網に追い込んで――!!
「悪くないわ」
ぞ。
囲んで、追い込んだ。
後は袋に叩くだけ、そのはずなのに。彼女は、叢雲さんは嗤って見せた。
炸裂。炸裂。炸裂。さらに、炸裂。
誘われたのは、私の方だった。
四方からの衝撃に踊らされ、跳ねる。何故、どうして。
理解する暇もない内に、炸裂した模擬魚雷のペイントが全身を染め上げる。
旗艦、轟沈判定。
私達の敗北だった。
◇
錬度差があろうと、四対一であれば力押しに押し切れる。
甘かった。
相手はあの筆頭駆逐艦、叢雲さんであるということを理解し切っていなかった。国内最初の鎮守府、その最初の艦娘。錬度限界の先にある彼女のことを。
彼女はまさしく鬼札。回天の一手。
追い込んでいたつもりが、追い込まれたのは私の方だったのだ。
注意を引こうと、組み付こうとした追撃。それをかわしながら彼女は魚雷を『設置』していた。
まったく気づかなかった。
足で、反撃に見せかけた砲撃で。立たせた飛沫に、魚雷を次々と隠していったのだ。
その数、四。
それらが交差し確実に刺さる位置まで誘い込んで、同時発射。艦娘の魚雷は通常のそれと異なり、妖精さんを介することで埒外の動作を可能とする。
「それじゃ、各自入渠と補給後レポート十枚。日没までに提出しなさい」
あ、初撃で落とされた夕立は二十ね、と冷酷に告げる叢雲さんはペイントの染み一つない無傷。
「……あの、私もお風呂いただいていいですか」
「仕方ないわね、いってらっしゃいな。そこの子達も見といてあげるわ」
ありがとうございます。
後生っぽい……と泣きつく夕立を無視しながら許可をくれた叢雲さんにお礼をし、横須賀の駆逐艦達と入渠設備へ。私は全身、ペイント塗れだった。
しかも今頃あちこちに痛みがぶり返してきた。小口径の模擬弾とはいえ、あれだけ滅多撃ちにされれば堪える。私に弾が集まった為に、ほとんど無傷の朝潮達に労わられながら歩いていく。
相手方の駆逐艦達も同道しているがこちらはちょっと悲惨だった。私の砲を受けた子はペイントを全身に浴びて妖怪みたいな容貌になっているし、肉弾を受けた初霜は担架の上だ。ごめんなさい。
この感じが少し、懐かしい。
出撃の後、皆で揃って入渠へ。ぼろぼろになりながらも、笑いあえた。
……皆、帰ってこれていたから。
あの頃を思い出して、少し後ろ髪を引かれる思いになる。
しかし。
「では、いってきますね」
生徒達に振り返って、告げる。
私はもう艦娘ではない。一教師だ。
◇
想定外の事態になってしまった社会科見学から戻り、学園。既に日付を跨いでしまったが、未だ私は自室で目の前の書類と格闘していた。
……どう報告しよう。
社会科見学に行った鎮守府で引率の担任が軍事演習に参加しました、だなんて。
つい叢雲さんに乗せられてしまったが、懲罰モノじゃないのこれ。どうせあの提督のことだから手を回して大事にはならないとは思うが。いやしかし、嫌がらせの為に致命とならない程度のことが返ってくるかもしれない。
久々の懐かしさについやってしまったが本当どうしよう……私のばか。
「……先生」
控えめな声。
私が起きているか確信が持てない、そして就寝時間を疾うに過ぎていることに対する気後れからか。蚊の鳴くような声の主に叱るべきか諭すべきか、考えながらドアを開く。
「大和。どうしましたか?」
開いた先、桜色の寝間着に身を包み俯く大和へできるだけ優しい声音を意識して問いかける。
とりあえず中へ、と促す。こうして大和を自室に迎えたのは何時だかの休日以来だ。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
前のように、クッションを差し出して座らせる。
「……」
大和は座っても俯いたまま、何かを言い出そうとしながらも踏み切れないようだ。
重ねて問うこともせず、私も黙ったままお茶を用意する。夜も深い、今回は珈琲ではなくハーブティーを。といってもティーバックだが。
しん、と静まる深夜の部屋に茶器の音が響く。明日も授業だが、急かすことはない。彼女から言い出せるようになるまで、ただ待つ。
給湯器からお湯をポッドへ。器を温めたらそのお湯は流し、改めてティーバッグとお湯を入れる。香りと色が、ポッドの中に広がる。
「……すみません、こんな夜分に」
「そうしたいと思ったからでしょう? でしたら、いいんですよ」
申し訳なさそうに、謝る大和。優しくて、理知的な彼女だ。この時間に約束もなく訪れることが非常識だと、よくないことだと分かっている。けれども来ることを止められなかった。それをどうして、咎められようか。
ポッドの中身を二つのカップに注いでいく。カモミールの、蜜林檎のような香りが鼻腔を撫でていく。
「熱いから気をつけて下さいね」
「はい、いただきます……」
カップを両手で持ち、ゆっくりと口元に運ぶのを眺めながら私も腰を下ろす。自身もカップに口付けると温かいお茶が肌寒さを覚え始める秋の夜、いつの間にか冷えた身体に熱を与えてくれた。
ふう。
二人同時、息をついてしまう。それに二人して少し笑ってしまう。
「先生。私、その……」
緊張が解れたのか。大和がカップを置き、真っ直ぐにこちらを見つめる。
「――全部、思い出したんです」
……言葉が、出ない。
おもいだした。
それは。
「最初は混乱して、宮元先生にも本当のことが言えませんでした……」
ごめんなさい。
そう、謝罪してから大和はあの時のことから話し始めた。
初めての学園での海上訓練。
海に足先が触れた瞬間、破裂するように記憶が呼び起こされていったこと。
混乱し、困惑して。艤装の制御もできないままに沈みかけて、気を失って。
そして保健室で目が覚めた後も、どうしたらいいか分からずに。診察で宮元先生からそれとなく尋ねられた際も、正直に話せなかったそうだ。
大和が封印した忌わしい記憶。
……初めての出撃。
指揮官の命令によって次々と盾として
最後の記憶は、敵主力艦隊を撃滅したところまで。
それからのことは意識を失っている間に進んでいったようだ。記憶が再び繋がるのは、軍病院のベッド上で学園への編入が伝えられたところから。
これは、推測でしかないが。
宮元先生に記憶の回復を言えなかった理由。
彼女は、指揮官を無意識に庇おうとしたのかもしれない。私達学園側は既に大和の過去について調べていたが、そんなことを知らない大和にとって思い出したことを話すことは告発となる。
あのような戦術とも呼べない唾棄すべき方法を執ったとはいえ、艦娘にとって指揮官は特別な存在だ。何があっても、守りたい。そんな無垢をも利用されたことについて、怒りを覚えるがそちらは今はいい。
「……分かりました」
一通りことの経緯を聞き終わる。
どうするべきか。
心の傷の原因、それを大和自身が思い出してしまった以上宮元先生にまずは相談すべきか。
こんな時間ではあるが電話で……。
「先生。それでも、大和は戦艦でいたいです」
真っ直ぐ。
眼が、逸らせない。ダメだ、押し切られるな。彼女が本気で考えて本気で決めた想い。だが、それが彼女自身を食い殺してしまう可能性を考えろ。それが私の仕事だ。
「例えあの子達のように沈むことがあっても」
心が縛られる。違う、もう大和は傷つかなくてもいい。今、戦況が安定しつつある現在にこの子が戦わなければならない理由はないはずだ。
「……いえ、大和は」
沈みません。
「――ッ、戦場にいれば弾は平等に飛んできます。戦艦であろうと、不沈だなんて思わないで下さい」
言い切った大和に、強い口調で諭す。これまでも、彼女の周り以外でも数多くの艦娘が沈んでいる。しかし、彼女は重ねて言ってのける。
「沈みません。大和は、横須賀に行きます」
「これまでがそうだからと言って、これからもとは限りません。今の提督が異動することもあります」
……後で提督には厳重に抗議しよう。恐らく、私が入渠している間に『勧誘』していたのだろう。横須賀鎮守府、そこで轟沈者がいないことを囁かれたのだろう。
横須賀の艦娘は沈まない。そんな与太、信じさせるな。
確かにあの提督の手腕は本物だ。だが何があるか分からない。人である以上、ミスもある。それに人事異動や、それこそ提督自身の身に何かがあることも。
「保障なんて、どこにもありません」
「はい。分かってます」
なのに。
どうして、沈まないだなんて言い切れるのだろう。目の前で仲間達が沈んでいく姿を思い出したのだ。その理不尽を、容赦なんて存在しない戦場の記憶を蘇らせてしまったと言うのに。
「――でも、信じられる」
何、を……。
「戦艦の力を。可能性を。示してくれたのは、先生です」
「……ッ」
無垢なままの瞳を、真っ直ぐに向けられる。
自責の念で死にたくなる。
何が、ちょっと良い所を見せようだ。何が、演習を観戦できる事は良い経験になるだ。
私が彼女に勘違いをさせてしまったのだ。
違う違う違う。私は、そんな立派なものじゃない。私なんか――。
「先生! 私は先生みたいになりたいんです!!」
「……やめなさい! もうあんな所に戻る必要は――」
「今度は!! 先生みたいにッ」
――守れるようになりたいんです。
「もうあの子達みたいな被害が出ないように。先生は、あの演習で見せてくれたじゃないですか!!」
「あ……」
本来ならば。守られ、盾とすべき駆逐艦達を下げて自身が前へ出る。
その装甲と火力で以って注意を集め、駆逐艦に隙を突かせる。
「……でも」
「それでも、です」
あの演習は私の轟沈判定により敗北している。けれど、それでも。そう、大和は言ってみせた。
これ以上の問答は不要と言わんばかりに。
「本気なのですね?」
「はい。先生、教えてください」
横須賀に、私と同じようにあの提督の下で戦う方法を。
準備を、手続きを、すべき全てのことを。
……はぁ。
心中で溜息をつく。私の、負けだ。演習でも負けたばかりだというのに。
「……分かりました。ですが、いくつか約束して下さい」
まずは、宮元先生に全てを話して診察を受けること。
それでお墨付きを貰えなければ無理矢理にでも諦めてもらう。
訓練で成果を上げること。
横須賀鎮守府は国内において最高の錬度を誇る。そこへの着任を目指す以上、相応の実力をつけてもらう。提督が今すぐにでも欲しいと言おうが、私が納得できるレベルにならなければ行かせない。
そして。
「卒業まで、じっくりと考えること。他の可能性を、他の道を吟味して下さい」
「はい!」
まだ、時間はあるのだ。
少なくとも彼女が学園を、私の元を離れるまでは決めなくていい。初志を断念することは恥ではない。いくらでも選び得る道があることを知って、学んで。それから決めてもいいのだ。
「それでは、今日はもう休みなさい。明日は朝から宮元先生の所へ行くように」
「はい。夜分にすみませんでした……おやすみなさい」
「おやすみなさい」
はぁー……。
再び、溜息。閉じたドアを確認し、今度は深くついてしまう。
自業自得。
彼女にそれでも、と言わせてしまったのは私だ。彼女だからこそ、違う道を選んで欲しかったというのに。いや、これは贔屓かな。
「教えてください、かぁ……」
一人、呟く。
全く以って、戦艦の火力は埒外だ。反則だろう。一撃必殺だ。
「殺し文句にも程がある」
脱力する。そんなこと言われて、断れるわけがないだろう。
生徒に教えてくれと言われれば、断れるわけがないだろう。
――私は、教師なのだから。