ふりーと・すくーる   作:蒼樹物書

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【2】

 「このように、大戦は結末を迎えました」

 

 三限目。

 D組にて自身の自己紹介を終え、歴史の授業を始める。毎年、最初の授業はあの大戦の結末から現在に至るまでの簡単な説明となる。まず概要を教えて後から詳細を教えていく形で、この辺は要綱として決まっている。

 

 正直言って、私はこの授業が憂鬱だった。

 

 敗戦。

 それが彼女達、艦の記憶が正義として信じた戦いの結末だ。今の時代ではあの戦いが間違いであったと教えられているのだ。彼女達からすれば、それは悲しいことだ。

 私はあの大戦について正義の有無を論じるつもりはない。するべきでないという考えだ。

 ただ、今この時代は先の時代の上に立っている。それは事実であると、無駄なことはないとだけ伝えることにしている。幾分か、それで彼女達が救われてくれることを願う。

 

 そして、現代史。

 一般的な中学校では早足に駆ける部分だが、この学園の設立目的からここはかなり重点的に教えることになる。今回は概要のみではあるが。黒板に年表を記した大きな資料をマグネットで貼り付けて、順番に示していく。

 大戦後の処理、東西対決やそれにより起こった戦争。この国の急速な発展。そして。

 

 「……そして、九年前。太平洋中心部にて初めて深海棲艦の存在が確認されました」

 

 その名の通り海の深く底から湧き出るように現れた謎の敵性群体、深海棲艦。

 詳細な目的は不明。意思疎通が未だ不可能だからだ。

 

 ただ海を、その上の空を進む人類のモノを破壊する。

 プログラミングされたような行動だ。自身が傷つくことを恐れる素振りはなく、ただただ領域に入ったモノへ攻撃を行う。

 その正体はどこかの国の秘密兵器だとか、新種の生物だとか。はたまた宇宙人だとか。結論は何時まで経っても出ていない。

 

 その確認当初……つまりは人類との初の接触と初の戦闘は同時だった。米海軍の艦が確認したのだ。

 領海内に現れ、突如艦に砲撃を開始した深海棲艦。現在は記録から駆逐イ級であると認識されているが、当時は自身らを襲っているのが何者なのか理解できなかったはずだ。

 混乱しつつも艦への被害が増し続け、ついには艦長が交戦規程を満たしているとして警告射撃の後に反撃。

 シャチ程の大きさであるイ級は機銃での攻撃で沈黙。回収をしようとしたがまるで霞のように、亡霊のように『消え去った』。

 

 それを皮切りとして、世界中の海に深海棲艦が出没。

 ありとあらゆる海に奴らは現れて船を、海の上を進む航空機を攻撃し始めた。

 

 性能自体は、そう恐ろしいものではない。駆逐級であれば機銃でも撃破可能、戦艦級であってもミサイル攻撃や雷撃で対応できる。奴らとの開戦当初、人類はそう大きな脅威とは捉えていなかった。

 

 しかし、いくら落としても湧いて出てくる。

 

 幾度撃退しようとも次から次へと。

 人類の資源は有限だ。機銃の弾もタダではないし、ミサイルや魚雷ともなれば高価。それらを湯水のように使おうと、奴らが尽きることはなかった。

 一体、どれだけ落とせば尽きるのか。

 

 絶望の色が見え始めた頃、彼女達が現れた。

 

 ――艦娘。

 

 南シナ海にて、深海棲艦の軽巡級を撃破した後に発見された少女。

 その少女を救出、保護したのはフィリピン海軍だが今現在はこの国にいるというのがもっぱらの噂だ。艦娘研究の第一人者がいる我が国が取引をしたと聞くが、定かではない。

 

 何にしろ、艦娘という人の姿を取りながら人外である存在が認められた。

 

 詳細については開示されていない。

 ただ、艦娘が無限の物量を持つ深海棲艦に対し有効であること。それだけだ。

 

 実際、艦娘の活躍によって制海の確保が成されている。未だ奴らの支配権は広いが、確かに輸送ルートの確保が成されているのだ。

 その理由について、私達教員が教えてあげられることが出来ないのは残念だがその事実だけは伝える。

 

 「そうして、人類と艦娘の歩みは始まりました」

 

 最初の艦娘、その確認から堰を切ったように次々と艦娘が現れ始めた。

 決まって深海棲艦の撃破後、海の中から浮かび上がる彼女達。

 深海棲艦を倒せば必ず発見されたわけではないが、発見される数は増していった。

 既に最初の艦娘、その研究と実戦投入による成果は示されていた為各国はその確保に躍起になった。

 確実なシーレーンの確保は、その頃には海洋国家を中心として悲願となっていたのだ。

 

 そうして艦娘の数が増えていった頃。

 悲劇が訪れた。

 某国の艦娘部隊が大規模な反乱を起こしたのだ。

 

 無理な出撃、総じて美しい女性の姿を持つ彼女達への不当な待遇。

 人権を確保されていなかった彼女達へ、その国が暴虐を強いた結果のことだった。

 最終的に国連軍によって鎮圧、保護の後裁判にかけられたがそれは人類にとって大きな罪となった。

 

 この事件を、私達は忘れてはならない。

 人外の身であっても彼女達は我々の友であること。彼女達と共にあらねば、未来はないということを。

 

 「この事件を以って、条約が結ばれることになりました」

 

 事件……その悲劇、艦娘による反乱は各国に衝撃を与えた。

 艦娘は総じて人類に友好的であり、傷つけることを良しとしない。だが、本気で反逆すれば人類に対し圧倒的優位であることを証明したからだ。

 その詳細についても知らされてはいない。ただ現状は憲兵というシステムによって、彼女達艦娘の待遇は守られていると知らされるのみだ。

 

 条約についても、また後ほど授業で教えることになるが基本的には艦娘の人権を保護する旨の物だ。

 人と全く同じとはならずとも、その待遇には注意を促し逸脱は全人類の生存に関わる事案であるということを確認している。

 艦娘を運用する大国はほぼ批准している。我が国もだ。

 

 それだけ、あの悲劇の衝撃は大きかった。

 各国は既にその対策を講じ始めているが、未だ不完全。

 今この世は混乱の時代だ。

 彼女達艦娘を、どう扱うべきか。深海棲艦にどう対抗するか。

 

 この国は艦娘を自国民として迎え、共に歩む隣人とした。

 時の首相が旧海軍に列なる家系であったことも作用したのかもしれない。

 

 そうして現在。今を、これからを共に歩む為の一助が為されている。それこそがこの学園で学ぶことの意味である。そう締めくくる。

 

 「さて、今後詳しく内容を教えていくことにはなりますが……質問はありますか?」

 

  おずおずと手を上げたのは黒髪の少女。綾波型の10番艦、漣や曙の姉妹艦潮だ。どうぞ、と促す……おっきいな。その胸部装甲に、浜風に続いて敗北感を感じる。いや真面目に授業しろ私。

 

 「……あの、反乱を起こした子達は……」

 「今現在も裁判は続いており、留置されています」

 

 そこから先は教えてはいけない事項に触発するのだが。

 反乱した艦娘部隊を国連軍が鎮圧、というのは嘘だ。実際には交戦はなく、投降している。そもそも反乱とはいえ殺傷は最低限で基地を制圧していたというのが現在の見識。

 精一杯我慢した上での、助けを求める叫び。あの事件を、私はそう感じている。取った手段はやはり間違っていたのかもしれないが、同じ女性としてその境遇を考えれば生温いくらいと思う。

 なお、その反乱を招いた基地の人間はほとんどがもうこの世にいない。

 急ぐかのような簡易裁判の後の銃殺か、不自然な突然死、一部は失踪など。恥部を覆い隠そうとするかのように。

 

 反乱を起こした艦娘達、こちらは裁判に協力的……というよりも罰を望んでいる者も多い。

 調査が重ねられ、彼女達はむしろ被害者であるという流れが生まれ保護団体が各国で声を上げている。

 だが、艦娘達の望み通り、とまではいかないが少なくとももうしばらくの留置、場合によっては収監か監視がつくことになるだろう。勇気ある彼女達に、これ以上の不幸が訪れないことを祈る。

 

 「彼女達の様子については、積極的に報道がされることになっています」

 

 気になるようなら、図書室に関連記事の載った新聞があるので読んでみるといい、と付け足す。

 私達が傷つけた彼女達を、私達は守る義務がある。ペンは剣より強し。その力も一助となっている。

 他に質問は……と促すと今度は潮と同じ型の制服を着た、栗色ショートカットの少女、朧が挙手。

 

 「せんせー、彼氏「いません」」

 

 天丼は二回までだからな。

 

 

 急げ急げ。

 四限目。次は訓練だ。

 不埒な質問をした朧に教材を教員室に戻しておくように命じた後、早足にその準備へ移る。

 まずはC組にプールへ移動するよう伝え、私は先回りして移動。

 

 海の近くにあるこの学園だが、プールを備えている。訓練や水泳で使用する為だ。

 訓練では今後海にも出るが、今回は初回。まずは艤装に慣れて貰う事が第一歩。

 

 艦娘の訓練についてだが、学園では初歩の初歩を完熟させることを目的としている。卒業試験では実包を用意するが、それもお守り程度の意味合いでしかない。あくまで水上航行や砲の稼動などの訓練が主体だ。

 彼女達は生まれながらの兵士であり、艤装の制御は教えずともある程度習得している。だが、ある程度というのが問題だ。得意な者、そうでない者がいる。大型の艦種程問題なく、初歩の訓練を必要としない傾向にあるのだが駆逐艦などは不得意な者が稀にいる。

 

 その最低限を画一させ、軍へ入った後の訓練を円滑に進めるというわけだ。

 訓練は基本的にクラス担任が行う。他の授業の兼ね合いで代わってもらうこともあるが、今回は私。

 

 「あ、お疲れ様です品野先生!」

 「お疲れ様です!!」

 

 競歩のように早歩きで辿り着いたプール、その傍にいた明石先生。

 明石先生は正確には教員ではなく艤装の管理をする技術者だ。生徒達の艤装や、私達教員の物も一人で整備してくれている。艤装はメンテンナンスフリーの部分が多いから何とかなっているとは言うが、管理する量を考えれば頭が上がらない。

 

 訓練で使用する艤装を確認。浜風、磯風、漣、曙、そして大和。全員分の艤装、砲は今回使わないので無し。

 重量バランスを取る為、次回以降で用意してもらうつもりだ。まずは全員が足の艤装で以って水上に浮いて立ち、歩けるかの確認が今回の目標。

 そう難しいことではないので、大丈夫だとは思うが……大和も通例通りなら大型艦だし問題ないはず。

 

 「品野先生は何時もので?」

 「はい、軽巡クラスのを」

 

 訓練を監督する以上、私も艤装でプールの水上に立つ。本来の艤装は使わず、汎用性の高い軽巡用艤装だ。

 実戦でもなければ私の艤装は使う必要がない。重い上に燃費も悪いからだ。そもそも私は艦娘の名を極力名乗らないようにしている。だから人間としての実名を使っているのだ。

 

 ……艦娘とは、二種類に分けられる。

 まずこの学園の生徒達のように、海洋で発見される艦娘。通称、ドロップ組。

 その艦娘達を研究し、彼女達が扱う艤装を装備することが出来るよう適合した人間。通称、建造組。私は後者だ。

 技術的なことには詳しくないが、人間が艦娘になるには適合する素養が必要となるらしい。また技術は不完全で、どんな艦娘にもなることが出来る訳ではない。性能もばらつきがあり、ほとんどの場合ドロップ組より性能が劣る。

 私は割りと出来がいい方らしく、それなりに働けたが……過去の話だ。だからこうして軽巡用艤装でひよっこの訓練の為にこの力を使っている。

 ちなみにこの学園の教師陣はほとんどがドロップ組。先輩や明石先生もだ。

 

 

 

 艤装の調子を確認しているとクラスの子達が揃ってやってきた。ほぼ同時に鐘の音、間に合った。

 一列に並んだ艦娘達に注意事項を説明する。潜水艦用の水深が深い部分には近づかないこと、転倒した場合速やかに重い艤装を強制解除することなどなど。

 説明後、艤装を装着して順番に一人ずつプールに入ってもらう……というより立ってもらう。私はそれを水上から見守り、即応出来るようにする。

 

 「まずは浜風……うん、大丈夫そうですね」

 

 危なげもなく水上に立つ浜風。バランスは取れているようだ。実は一番懸念していたのだが、過積載の胸部装甲であっても影響はないらしい。ヨカッタヨカッタ。

 

 「次、磯風……っ!?」

 「おっとっと」

 

 私の前に立とうとして、よろける磯風を慌てて抱き留める。

 危ない。軽い駆逐の体重は難なく受け止められるが、この訓練は簡単であっても気が抜けない。熟練していればともかく、一度転倒すれば起き上がるのは難しく最悪重い艤装によって水中に引きずり込まれる。

 潜水艦の艦娘ならともかく、人間と同じく呼吸を必要とする艦娘だ。細心の注意をしなければ。

 

 「大丈夫、磯風?」

 「……」

 

 胸元に顔を埋める形で私に抱きつく磯風。

 足が少し震えている、ゆっくりとバランスを保たせなければならない。落ち着かせるように声をかけて背を撫でる。呼気も荒いし、緊張で興奮状態にあるのかもしれない。

 

 「ゆっくりでいいから、ね?」

 「……ッ」

 

 ぽんぽん、と背を優しく叩く。胸元に感じる呼気がむしろ荒くなっている気がする……だ、大丈夫だろうか?

 しばらくそうしていると、意を決したように私から離れ水上に立つ磯風。顔が赤い、熱?

 

 「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 「どういたしまして……?」

 

 妙に気合を入れてお礼をされる。

 う、うん……何もなければいいのだけれど。

 

 続いて曙。

 こちらは危なげなくクリア。

 

 「ふん、こんな簡単なことをわざわざ訓練するの?」

 「……そうですね。曙には必要なかったかもしれませんが、必要な子がいるかもしれない以上付き合ってあげてください。ね?」

 

 しょ、しょうがないわね……とそっぽを向く曙。どうも反抗心が強い傾向にあるが、反抗心が強いということは自我が強いということだ。集団の中では敵を作りやすく、間違いを犯しかねない個性。

 だが同時に強い自我は行動力を生み、人を率いるのにも必要だ。正しく育ててあげたい。

 

 「漣、いっきまーす!」

 

 ってこら!

 大きくジャンプしてプールへ飛び込む漣。肝が凍りつく。

 しかし漣は着水の水飛沫をほとんど上げさせず、片足立ち。まるで突き刺さったかの如く微動だにしない。両手片足をぴん、と伸ばしバレリーナのようなポーズを取っている。何あれ……。

 器用過ぎる。艤装制御があまりにも天才的、あれを真似しろと言って出来る教員はいないだろう。私も、だ。

 だが。

 

 「――漣、危険なので勝手な行動はしないように」

 「ご、ごめんなさいっ!?」

 

 本気で叱る。その妙技に感心していた周囲の生徒達にも、絶対に真似しないよう注意。

 遊びは健全な心を育てるのに必要だ。だが、訓練中は命がかかっている。生徒達自身、そしてその周囲のも。それらを危険に晒すことを、私は許容しない。

 とりあえず漣は私が怒っていることを理解してくれたようなので、これ以上叱ることはしないが要注意かな。

 確かに才能はある。しかし大きな力は未成熟な心に害をなしやすい。

 

 「では大和。ゆっくり、ね?」

 「ひゃ、ひゃい!」

 

 大丈夫だろうか。

 恐る恐る、片足をプールの上に置く大和。その感触を確かめながら、中腰になってもう片足を水上に載せる。

 立っている、立っているのだが中腰のまま。両脚は生まれたての小鹿だ。

 

 「ゆ、ゆっくりでいいから、両足は肩幅。その後膝から力を抜いて、大和」

 「ふぁぁ、ぁ……ぃ……ッ」

 

 大丈夫じゃなさそう。

 戦艦の子の同じ訓練を見たこともあるが、これは初めてだ。駆逐の子ならともかく、重巡以上の艦種でここまでバランスが取れていないのは珍しい。

 大和が両脚を震えさせながら指示通り、両脚の位置を動かし力んだ膝から力を抜いていく。足元の飛沫が少しずつ勢いと量を減らしていっている。

 

 「そう、上手上手。腰を持ち上げて」

 「は、い……!」

 

 あっ。

 ぴん、と背筋を伸ばそうとしたのか、力が入りすぎている。直後、滑って後ろに倒れこむように大和のバランスが崩れる。即座に近づいて、その背に腕を回す。

 瞬間が弛緩し、全ての動作が遅くなる。

 間に合った。

 

 「す、すみません……ッ!」

 

 大丈夫、と返したいが無理。これ無理。

 大和の背に腕を回して一旦は踏み止まったが、めっちゃ重い。超重い。流石超弩級戦艦。

 軽巡用艤装を選んだことを後悔する。戦艦か、せめて重巡用にするべきだった。後悔先に立たず。

 

 「――大和、目と口を閉じて!!」

 

 悲鳴のような私の指示に従い、目口をぎゅう、と閉じる大和。よし、っと!

 大和の艤装、腰の辺りにある強制解除のボタンへ掌を叩きつけるように押す。ばしゅん、と排気音と共に大和の身体から全ての艤装が落ちる。外れた艤装は飛沫を上げてプールの中へ沈んでゆき、大和の身体が一気に軽くなった。

 しかし、一気に軽くなるということは一気にバランスが崩れるということ。

 元々私は器用な方ではなく、艤装制御も巧みではない。出力不足の軽巡用艤装も拍車がかかっている。

 

 つまり。

 先ほどまで踏ん張っていた力が跳ね返って世界が傾く。慌てて曙達が助けに入ろうとするのが視界の隅に写る、だが間に合わない。近づく水面、何とか自身の艤装解除のボタンを押す。

 外れた私の艤装、そして私と大和はプールに盛大な水飛沫を上げた。

 

 

 

 「ごめんなさい先生……」

 「いえ、私の方こそ支え切れずにごめんね」

 

 プールの更衣室に二人きり、お互いタオルで身体を拭く。他の子達には教室で自習するよう告げてある。

 艦娘用の服は完全防水だが、髪や肌は当然濡れてしまう。私の方はジャージだったから下着まで完全に濡れ、明石先生に着替えを頼んでいる。

 生徒の前で全裸というわけにもいかないので、濡れた下着姿のままとりあえず水気を拭いていく。眼鏡の方は、艤装をつけている間は必要ないので外していて無事だ。

 

 艤装の強制解除が互いに間に合った為、溺れることはなかったが大和なら今回の訓練は問題ないだろうと私の油断から起きた事故だ。次回以降は燃費なんて考えず、ちゃんと戦艦用艤装を使おう。

 

 「……私、おかしいですよね。戦艦なのに」

 

 落ち込む大和。

 ぽつぽつと、この学園に来た理由を話し始めた。

 本来なら発見例が少なく、強大な力を持つ大和型戦艦、その艦娘。

 当然、軍は即時の着任を求めた。

 

 しかし。

 

 あまりにも、大和は艤装の扱いが下手だったのだ。僅かな前例、他の大和型は安定して訓練無しでもその威力を発揮したというのに。他の戦艦型でも、ここまで制御に困るのはいなかった。

 だから彼女はこちらへ送られた。軍で訓練する以前の状態の改善をする為に。

 

 「わた、し……こんな……ごめんなさい……」

 「構いません」

 「ごめ……ふ、ぇ……?」

 

 俯いて嗚咽を漏らす大和に寄り添い、肩に手を置く。静かに、優しく。

 

 「私も、そうでしたから」

 

 ただの人間から、艦娘となった私。

 初めて艤装を身につけて水上に立てるようになるまで一ヶ月かかった。それもすぐ転んだけど。

 建造組みである私とドロップ組である彼女達とは感覚が違うのかもしれないけれど……その困難さは身に染みている。

 

 「歩けるようになったのは、三ヶ月目だったかな」

 

 座学で学びながらも、毎日の訓練。溺れかけて飲んだ水で毎日お腹が一杯になった。

 当時は今ほど余裕がある戦況ではなく、軍での訓練は効率性を重視した厳しいものだった。何度、諦めようとしたか。

 

 「できないことは、恥ずかしいことじゃありません」

 

 周囲の子達はもっと早く慣れた。砲や艦載機の扱いを学び始める周囲、その片隅でただ歩く練習をする私。

 絶望的な劣等感。向けられる視線がみんな、役立たずは早く脱落してしまえと言っているようだった。

 それでも。

 

 「できるようになることを諦めずにやれば、必ずできます。私が、保証します」

 

 諦めなかった。だからこそ、私は――。

 

 「放課後、練習しませんか? できるようになるまで、私がお手伝いしますから」

 

 それから、私と大和の個人練習の日々が始まった。

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