ふりーと・すくーる   作:蒼樹物書

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【6】

 放課後。

 大和へ今日の訓練は矢矧先輩にお願いしていることを伝え、磯風と浜風を伴って家庭科室へ。

 家庭科室は本館の二階だ。階段を上りつつ、私の後をついてきている二人に声をかける。

 

 「料理の経験はありますか?」

 

 答えは二人とも経験無し。

 磯風と浜風は横須賀の艦隊により発見されたドロップ組だが、横須賀鎮守府は国内最初にして最大の鎮守府だ。当然、駆逐艦を始め戦力は充実している。だから二人は即座にこちらへの入学が決まったのだろう。

 

 ドロップ組……深海棲艦との戦闘後、稀に海中から浮かび上がる艦娘。発見した艦隊は彼女らの保護義務があり、鎮守府へと連れ帰った後は提督の意向や本人の意思など様々な事情の下に配属が決定される。

 その際人手、艦娘不足の鎮守府ではそのまま着任となることが多いのだが、そこは天下の横須賀。駆逐艦の艦娘は有り余っているだろう。その為こちらへの入学、その後の着任という猶予を得たようだ。

 

 何にせよ猶予があるということは良い事だ、こうして料理という戦争に直接繋がらないことにも時間を使うことが出来る。

 ちなみに艦娘の訓練に調理は含まれない。艦娘の戦場が海上に限られることが主な理由らしいけれど。しかしここは学園、授業という体で家庭科の授業は行っている。

 

 「はい、ここが家庭科室です」

 

 到着。教員室から持ってきた鍵で扉を開ける。

 中は教室二個分ほどの大きさとなっており、教壇と黒板、その前に四つのテーブルが並んでいる。それぞれに蛇口と流し台、白いテーブルの盤上は四人程が使っても余裕があるほどだ。

 後方にはオーブンが四台と食器棚、電子レンジや大容量の冷蔵庫。後は各テーブルにガスを引いてあるので大抵の料理は作れるようになっている。料理部が毎年設立される為、設備は充実している方だろう。一般的な学校より予算があるので設備の申請は通り易い。

 

 「わぁ……」

 

 二人が口を揃えて感嘆の声を上げる。気に入ってくれただろうか。

 設備の説明をしつつ、食材の在庫を確認する。戸棚に砂糖と薄力粉……卵とバターは食堂から貰ってくるかな。

 

 「では料理部創部初日の記念に、クッキーを作りましょうか」

 「クッキー! 作れるんですか!?」

 

 おおう。浜風が食い気味に尋ねてくる。

 

 「案外簡単なんですよ。浜風、食堂に行って卵一個とバターを一箱貰ってきてもらえますか?」

 「いってきます!!」

 

 廊下は走らないように。ダッシュで家庭科室を後にする浜風にこの言葉は届いただろうか。届いてないだろうな。

 

 「……はぁ」

 「すまない、先生」

 

 磯風は私を慰めるように声をかけると、二人が料理部を立ち上げるに至った理由を教えてくれた。

 横須賀の艦隊に拾われてすぐにこちらへ送られた彼女達。

 最低限の知識は持ちながらも、『生まれたて』の彼女達は情報に飢えていた。

 これも、ここの生徒達によくある状態だ。半世紀以上前の、艦の記憶を持つ彼女達からすれば、今ここに在るのはタイムスリップしてきたに等しい。

 

 本やテレビと、ありとあらゆる情報を求めた。

 

 深海棲艦との戦争中とはいえ、この国は永く平和にあった。故に、彼女等の識る時代とは比べ物にならないほど豊かだ。それは大きなカルチャーショックだっただろう。

 そんな数々の衝撃の中で、彼女等に特に大きなものは食に関することだった。

 

 駆逐艦、浜風と磯風。共に大戦末期まで戦い抜いた艦だ。

 大戦末期、食糧事情は現代と比べるべくもない。当時優先されていた軍であっても、だ。

 艦の記憶は船自体の記憶、そして乗り込んだ乗員の物が混ざっている。

 今こうして現代に蘇り二度目の生を受けた今、それを享受したいと思うことは道理だろう。

 色鮮やかな雑誌の写真や鮮明なテレビに写る未知の食べ物は輝いて見えたそうだ。

 菓子、それも洋菓子となれば尚更だろう。簡単で短い時間で仕上がる料理としてクッキーを提案してみたのだが、存外当たりだったらしい。

 

 「そういうわけだ……私も、恥ずかしながら少し高揚している」

 

 その言葉の通り、磯風もそわそわしている……うん。

 

 「何も恥ずかしいことはありません。それじゃあ浜風が戻るまでの間に準備をしましょうか」

 

 戦う者である艦娘でありながら、生を謳歌することに負い目を感じる。

 彼女達、ドロップ組の艦娘によくある情動だ。

 私は声を大にして否定する。彼女達はただの兵器ではない。感情があって、欲しい物があって。

 

 あまりにも、ただの人間だ。ただの少女達だ。

 在り方や力は、人のそれと大きく違っても心があって生きている。

 それを否定する奴は全力でぶん殴ってやる。まぁその前に憲兵にしょっ引かれているだろうけれど。憲兵というシステムは実に有効で、彼らは実に有能だ。

 

 さて、楽しむのなら全力で。

 何をするにもまずは形からだ、エプロンは画一ではなく色々と用意されている。

 彼女達の先輩達、卒業生が残していった物だ。エプロンや割烹着、色やデザインも様々。

 浜風が戻ったらお気に入りを決めて、それから調理開始としよう。

 

 

 「それでは計量からしていきましょう」

 

 家庭科室に戻った浜風、駆け足を嗜めた後に各々エプロン選び。

 女の子の服選び、その所要時間は無制限が基本だがあっさりと決まった。

 磯風は割烹着。長髪は白の髪留めでポニーテールにまとめている。

 浜風、こちらは黄色のエプロンと頭巾。頭巾の端が猫耳のようになっていて愛らしい。

 黒髪で正しく大和撫子然とした磯風と銀髪で異国風の浜風によく似合っている。

 私は頓着しない……というより軍隊生活と基本ジャージな教師生活でお洒落感覚は麻痺、むしろ息をしていないので適当に手にとったフリル付きの白いエプロンにしたが。

 

 「先生……何というか、凄くイイ、です」

 「あ、ありがとう」

 

 そうかなぁ……?

 磯風はそう褒めてくれたが、良く分からない。

 

 「他の料理でもそうですが、洋菓子は分量が命です」

 

 掻き混ぜ方やオーブンに入れる時間も大事だが、何より分量だ。

 クッキーのようなシンプルな菓子の場合はそこだけ押さえればまず失敗しない。きっちり計ってきっちり時間を守る。そうすれば初心者だろうと熟練者だろうと同じ物を作ることが出来る。

 

 「今回は卵一個分を基本として他の材料を合わせます」

 

 卵一個というと少ないように思えるかもしれないが、結構な量になる。この後夕食もあるし、おすそ分けしても充分だろう。

 

 「まずはバターを六十グラム」

 

 今回は初回ということで計量は手本として私がすることにする。小さな耐熱容器に大匙を使い四杯ちょっと。これで大体六十グラム。ラップをかけてレンジへ。二人にレンジの使い方も教えておく。

 

 「ここに砂糖大匙六、卵を一個。一旦掻き混ぜて……」

 

 菓子、特に洋菓子は砂糖を結構な量使うことが多い。

 この際躊躇してはならない。体重だとかを考えてはいけない。決してしてはいけない。

 溶かしたバターをボウルに入れて、全卵を割り入れた後砂糖を大匙でざばざば加えホイッパーで掻き混ぜる。

 混ざったら計量した薄力粉を二百四十グラム。ざっくりと混ぜたら後は手で掴むように揉んで生地をまとめていく。ラップで包んで冷凍庫で十分ほど休ませて、と。

 

 「それじゃあ形は好きに作っていきましょう」

 

 生地を三等分し、磯風と浜風に分ける。

 型抜きもいくつかあるのでそれも出しておく。料理、というより粘度遊びに近いかもしれないが包丁も触れたことがない二人の第一歩としては妥当だろう。

 

 「やはりハートだな」

 「……これは、魚雷型?」

 

 それぞれ気になる形の型抜きを手に取り、生地を切り分けている。

 魚雷型の型抜きなんて何時の間に置いてあったのだろうか……というよりどこで売ってたんだ。

 

 いや、市販品にしては手作り感があるしもしかしたら明石先生辺りの作品かもしれない。

 あの人は学園保有の艤装、その保守管理や整備に忙しいはずなのだが時々妙なモノを作ったりしている。

 今回のように魚雷型片抜きといった簡易なものから、チョーク粉を一瞬で吸い尽くす黒板消しクリーナーとか。後者は私もその恩恵を受けている。ただ『当たり』ばかりではなく失敗作をその辺に置いてあることもあるので要注意だ。

 

 「それじゃあ出来たのをこちらへ」

 

 クッキングシートを敷いたオーブンの天板に各々生地を並べていく。

 磯風は目がくらむほどにハート形を並べ、浜風は先の魚雷型を始め色々な型を試したようだ。

 私は生地を棒状にまとめて包丁で切っていく一番楽な方法。均一の円型が並んでいる。

 生地の並んだ天板をオーブンへ、百七十度で二十分ほどだ。後は待つだけ。

 

 さて、この空き時間にボウルやホイッパーといった道具類を洗ってしまう。時間の有効利用も調理を学ぶ上で必要なことだ。軍内では時間は貴重、結婚し家庭を持つようになって主婦となってもだ。

 

 「……先生、艦娘は結婚出来るのか?」

 「ええ、出来ますよ。ドロップ組、建造組それぞれ制限はありますが」

 

 そんなことを話していると磯風が興味を持ったのか質問。やっぱり女の子だなぁ。

 一方浜風は良い匂いがし始めたオーブンに夢中……色気より食い気か。

 

 艦娘の結婚についてだが、少なくともこの国では認められている。

 実際私の知り合いにも結婚した子がいる。

 

 制限についてだが建造組の場合は元々が人間である為、人間のそれに準じる。年齢十六歳以上であれば保護者の同意が必要だが結婚可能だ。ただ艦娘のままでは不可、つまり解体を受け除隊するまでは出来ないことになっている。

 建造組の現役期間は現在の技術で五年前後が最大とされる。今後、技術の発展で伸びた場合法律の改正が必要となるだろうけれど、今の所大きな問題とはなっていない。

 

 そして磯風達ドロップ組の制限だが、こちらは少し多い。

 除隊と解体の二つが必須という点に加えて相手の男性の身辺が白であること。

 さらに軽巡と駆逐艦の場合は艦娘自身のドロップ……この世に生まれてから三年以上が経過していることが必須となる。

 これは社会に馴染むための必要期間だとか言われているが、幼い容姿と思考の彼女達がある程度成熟する為なのだと思う。実際、ドロップから三年目となる駆逐艦のあの子はあまり幼さを感じさせなかった。一年目だという同じ艦種の子は随分子供だったというのに。

 

 「……そうか、三年もか……」

 「三年くらいあっという間ですよ。その、もしかして」

 

 話を聞いて落ち込む磯風。えっ、まさか既に相手が――!?

 

 「……その……秘密だ」

 「そ、そうですか……でも先生、応援しますよ。何かあったら相談して下さいね?」

 

 俯き気味に割烹着の袖を握り恥ずかしそうな磯風。無理に聞き出すつもりもないし恋愛は青春の華、応援したいのだが相手は気になる。身体目当てのロリコンなら誅する。

 

 「先生先生! 焼けました!」

 

 オーブンの前でじっと待っていた浜風が、待ちに待ったとばかりに知らせてくれる。

 キッチンミトンを着け、オーブンの扉を開ける。未だ残る熱気と共にクッキーの香ばしい香り。

 天板を引き出してテーブルに敷いたマットの上へと置く。

 

 「わぁ……!」

 「……できた」

 

 二人は初めてのお菓子作り、その成果に感無量の様子。

 

 「せっかくの焼きたてです、味見してみましょうか。熱いから気をつけてね」

 

 そう提案するとそれぞれのクッキーを手に取る。

 一口大のそれを口に運ぶと、温かいクッキーはさくり、と砕けバターの芳醇な香りが鼻に抜けていく。甘さも程よい。久々の料理で不安だったが上出来だ。

 

 「おいひい……も、もう一枚……」

 「こ、こら浜風、クラスメイトの連中にも残しておけよ!」

 「夕飯もあるので食べ過ぎないように、ね?」

 

 もう一枚、もう一枚と手が止まらない浜風を磯風と二人嗜める。

 三人で食べるにはちょっと大目の量、私は先輩に、二人はクラスメイトの子達にも配りたいようだ。

 それなら。

 

 「お土産にするならラッピングもしましょうか」

 

 棚からラッピング用品を取ってくる。

 小さめな透明の袋に、色とりどりのリボンとシール。こういったラッピング用品も一通り揃っている。

 それらを使って各々ラッピングを開始。

 料理もそうだが、こうした作業も渡す人への愛情を込めて。喜んでもらいたい一心で丁寧に。

 

 「できました!」

 「よし、いい感じだ」

 

 浜風は魚雷型を始め、星型など様々な形が詰まった袋を黄色のリボンで飾っている。

 ハート一色の磯風はピンク色のリボン、白い花のシールを散りばめていた。

 私の方はシンプルに、虹色のリボンに雲型のシール。生地は同じなので味は変わらないのだが、せっかくなので三人交換し合う。私の方は先輩の他にも先生方に配ろうかな。

 

 「先生、ありがとうございました!」

 「いえいえ」

 

 二人のお礼を頂戴しながら、今後の部活動について話しておく。

 大和の件もあるし毎回料理部を見れないかもしれないが、活動は放課後下校となる時間までならしてもいいこと。その際、この家庭科室を使うのなら職員室に鍵を取りに来ること。

 後は部員が増える場合は届けを出すこと。そんなところかな。

 説明し終えると片づけをして初日の料理部、部活動は終了。二人は寮へ、私は職員室へと戻る。

 そろそろ先輩も大和の訓練を終えて帰ってきている頃だろう。その様子も聞いておきたい。

 先輩、クッキー喜んでくれるといいな。

 

 

 「……お疲れ様です、その……」

 「お疲れ様です、品野先生」

 

 職員室に戻った私が、矢矧先輩の様子を見て全て悟る。大和、やはりまだ上手くいっていないようだ。

 先輩の着ているジャージは今朝着ていたそれとは別のモノ。艶かな長い黒髪は水気を未だ残していてより艶を増している。つまり。

 

 「今日は、少し冷えますね」

 「……本当にお疲れ様です」

 

 昨日一昨日の私と同じ目に遭ったわけだ。

 バランスを崩した大和を支えようとして、仲良く一緒に水没ということだろう。

 先輩は軽巡洋艦の艦娘だから当然艤装も軽巡用。艤装を身につけた大和を支えきるには出力不足だろう。戦艦用艤装であっても力加減を間違えれば、水上で誰かの体重を支えるというのは難しい。特に私のような建造組の場合は。

 

 「……大和の訓練ですが、方法を考えた方がいいかもしれません」

 

 現状、とにかく回数をこなして慣れる方向で行っている大和の訓練。

 水上に立つことに恐怖を覚える、それに対して何度も反芻することで恐怖に慣れてしまうようになることを目的としている。

 だが、今日の先輩との訓練でも進展はなし。回数の不足という可能性もあるが、平行しつつ恐怖の根源を何とかする方法も考えた方がいいというのが先輩の考えだ。

 

 しかし、恐怖の根源自体が大和本人すら分かっていない。

 対象が分からない以上対策のしようがない。

 

 「宮元先生に大和の記録を当たってもらっているのですよね?」

 

 そうだ、本人の記憶にヒントがないのならば。

 記録に何か残されているかもしれない。

 ドロップ時の状況や軍での運用テスト……もしかすれば。

 

 「今朝のことなのでまだかもですけれど……今からいってきます!」

 

 大和の記録について、宮元先生に今朝相談した際に軍への照会をお願いしている。

 仕事については本当に信用出来る人だから、もう記録を取り寄せてくれているかもしれない。性格と性癖はアレだけど。

 

 「あ、その前に。今日はありがとうございます」

 

 虹色のリボンで結んだ小袋を先輩に手渡す。中身は作ったばかりのクッキーだ。

 甘い物は嫌いではなかったはずだけれど。

 

 「本当に作ってきてくれたのですね……ふふ、可愛い」

 

 ラッピングは気に入ってくれたようだ。

 包装をひとしきり見た後、早速開封してクッキーを摘んで口に運ぶ先輩。

 

 「……うん、流石ね。ありがたく頂くわ」

 

 良かった、先輩は喜んでくれたようだ。作った物を喜んでもらえるのは、素直に嬉しい。

 先輩には作ってもらうことばかりだったから、今度の飲み会は私も何か作ろうかな。

 

 「では、いってきます!」

 

 書類仕事を片付ける先輩に告げて、職員室から保健室へ。

 

 既に夕暮れ時。今頃磯風達もクラスメイトの子達にクッキーを振舞っている頃だろうか。

 自然早足になるのを自制しながら、保健室を目指す。

 既に下校時間となった廊下に人気はなく、目的の場所まではすぐだった。

 

 「失礼します」

 

 ノックの後、保健室へ。

 宮元先生はデスクの椅子に座り、資料を睨んでいた。

 

 「……ああ、品野先生か。丁度いい、こちらから呼ぼうかと思っていた」

 

 丁度いい、ということはその手にある資料は軍から取り寄せた大和の資料だろうか。

 数枚の用紙にはびっしりと文字が詰まっている。

 今朝お願いした物がもう用意されているとは、流石というべきだろうか。

 ……しかし、その資料を睨む宮元先生の表情は険しい。背筋に嫌な汗が伝う。

 

 「軍から取り寄せた資料だ。信頼出来る筋からの物だが、本来なら非公開に属する内容だ。事実は確認中ということを前提に読んで欲しい」

 「……ありがとうございます」

 

 不穏を感じながらも差し出された資料を受け取り、読み込む。

 

 「……」

 「事実は確認中。既に本部と憲兵も動いている」

 

 両手に持った資料が軋む。じんわりと手の汗が濡らしている。

 何度も何度も、読み返す。間違っていて欲しいと、何かの冗談であると縋るように。

 宮元先生の私を落ち着かせようとする言葉も耳に入ってこない。

 

 「……落ち着け。君は教師だ。怒りと共に対処するのは、君の仕事ではない」

 

 暴風が心を泡立たせている。ふつふつと煮え滾る感情。

 

 「『彼』は既に拘束済み、指揮下の艦娘は既に保護されている」

 

 だから、許せというのか。

 だから、この矛を収めろというのか。

 

 「関係者も数名拘束、締め上げて吐かせているそうだ。明日にはもう少し情報が入る」

 

 全く、憲兵は優秀だ。だが、予防については手が回っていないらしい。

 増え続ける速成の提督。その選抜には細心の注意をしているというが、害虫の根絶はやはり不可能ということか。

 

 「……大和は、覚えていない。忘れるしか、なかった」

 「そうせねば耐えれなかったのだろう。彼女には何一つ責はない」

 

 ドロップ……海上で発見された戦艦、大和型一番艦大和。

 保護した艦隊が所属するのは最前線に位置する基地だった。

 

 『彼』はさぞかし喜んだだろう。

 

 その時点では戦艦の艦娘らしく艤装を問題なく運用、作戦参加には問題がなかった。名高き大和型、その名に恥じぬ性能を発揮出来た。それ故に、その作戦に組み込まれてしまった。

 

 本国から遠く離れた苛烈な最前線。

 一発逆転の、敵棲地への強襲作戦。

 成果を求める本部に焦った『彼』が執った作戦に。

 

 「……私は」

 「原因については本人にはまだ伏せるべきだ。少なくとも全てが明らかになるまでは」

 

 どうすればいい。

 私は彼女に何をしてあげればいい。

 

 「今日はもう休みたまえ。矢矧先生には私から話をしておく、残りの仕事も彼女と二人で片付けておく」

 「……」

 「休め、と言った。今の君に出来ることはない」

 

 何も応えられず、ただ頭を下げて保健室を後にする。

 私は、彼女に、何を。

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