ふりーと・すくーる   作:蒼樹物書

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【7】

 「では、緊急職員会議を始めます」

 

 翌日、放課後。

 春雨の降る夕刻は暗く、本館会議室のここは蛍光灯の白がやけに眩しい。

 

 「まずは品野先生。これまでの経緯について、再度ご説明をお願いします」

 

 会議進行役の教頭先生に促され、起立。

 長方形の大きなテーブル、本来なら新人である私の席は後方なのだが今回は当事者として前方、教頭先生の隣に席を置いている。

 ずらりと居並ぶ先生方に緊張を覚えるが、丁寧にこれまでの経緯を説明する。

 

 初回の訓練で判明した大和の艤装制御、その不得手。水上に立つということへの恐怖。

 その原因が分からないまでも、何とか上達し艦娘の役目を果たそうとした彼女。

 放課後の特訓。同時に進めた原因の解明。

 宮元先生との会話で浮かび上がった、彼女の過去に解を求めること。

 そして。

 

 「……以上です。本人からは隠している、という印象は受けませんでした」

 

 教頭先生と私を挟む形で隣に席を置く矢矧先輩も、それに同意してくれた。

 彼女の感じている恐怖は本人にとって正体不明の物だ。具体的な内容は何一つ示していない。

 

 「彼女の入学時に軍から提出された資料にも、このようなことは一切記録されていませんでした」

 

 そして更に添えるように教頭先生が加える。

 つまり、どこかの段階で隠蔽がされていたということだ。

 

 「では、宮元先生。今回明らかになったことについてご説明を」

 「はい」

 

 続いて宮元先生の報告。

 軍のある人物……情報源については伏させて欲しいとのことだ。

 宮元先生は元々艦娘研究で軍とも当然関わりがあった。その伝手で大和についての情報を請求していると、ある人物から接触があったらしい。

 その人物は件の大和を保護した艦隊について捜査中であり、いずれ学園側にも接触するつもりであったそうだ。

 捜査もある程度追い込みの段階に入っていた為、今回この情報がこちらにも開示された。既に情報を伏せるより学園側にも開示する方がメリットがあったのと、憲兵側の後押しがあったようだ。

 

 艦娘達の為の憲兵。あの人達は正規軍における憲兵の在り方とは少し別の存在だ。

 軍隊における警察であり、軍紀維持を任とするということ以上に艦娘の味方。あらゆる脅威から艦娘達を守る存在だ。

 今回、学園側には謝罪を伝えられている。

 大和の入学までに情報開示が出来なかったのは、怠慢であったと。

 実際には容疑者の確保などとのタイミングの問題だったのだと思う。あの人達は、本当に善良だから。

 

 「彼女はドロップ直後、実際には十全に性能を発揮出来ていました」

 

 ある艦隊でドロップ……深海棲艦との戦闘後に保護された大和。

 その性能は錬度不足なれど大和型戦艦に恥じぬ性能、つまり水上に立つことに恐怖なんて感じることもなく何時でも実戦運用可能な状態だった。

 保護したのは最前線に位置し、本国から遠く離れた基地。

 様々な事情もあり、所有戦力に対し過剰な戦果が求められていたそうだ。

 その指揮官たる『彼』は早速彼女をある作戦に投入した。

 

 敵棲地への強襲作戦。

 

 錬度不足であっても大和型の力は強大だ。

 しかし。

 その編成と方針が最低最悪の、唾棄すべきモノだった。

 

 「……所謂、『捨て艦』を用いた大火力投入という作戦に組み込まれました」

 

 大火力艦、戦艦の大和や正規空母の艦娘。それらを目標へ全力でぶつける為、道中でかかる火の粉を随伴艦に防御させるという作戦。

 通常の艦隊でも随伴艦が護衛を務め、主力艦の盾となることはままあることだ。特に駆逐艦や軽巡洋艦はそのことに誇りを持っている。無論誰も傷つかないことの方がいいが、戦争だ、彼女達の誇りをどうこう言うつもりはない。

 

 だが、『捨て艦』は同じ行動でありながら違う意味を持つ。

 その戦法……戦法と言うのも憚れるが、それに組み込まれる艦娘はドロップしたばかりの駆逐艦達だ。しかも、装備は碌に持たされない。むしろ砲すら取り上げられている場合がある。不要だからだ。

 

 彼女達の役目はただひたすらの盾。その身を以って主力艦を守り続ける。最後まで、だ。

 艦娘の最後、轟沈まで。

 

 『捨て艦』とは、つまるところ特攻作戦だ。艦娘の死を前提としている。

 戦争である以上死とは隣り合わせだが、最初から死を前提とするのとは大違いだ。戦法とは、作戦とは勝利し生き残る為の物。だから、『捨て艦』なんてものは下の下である。

 

 艦娘参戦、その初期。

 次々と発見され戦力が充実し始めた頃にある提督が実施したことで、即座に憲兵によって禁じられた『捨て艦』。

 大火力艦を守る艦娘は装備を取り上げられた、ドロップしたての駆逐艦。

 弾薬は不要、燃料も片道分だ。駆逐艦はドロップ率が高く数が多い。その時既に、一部艦隊では余るほどだった。

 替えの効く、犠牲。

 実に、効率的だ。吐き気がする。

 

 「作戦は目標敵棲地を落とし切れず失敗。護衛の艦娘、駆逐艦四名の轟沈が確認されました」

 

 どより、と会議室がざわめく。

 艦娘の教育機関であり訓練機関でもあるここには、教師も艦娘がほとんどだ。

 しかし私や足柄のように軍隊経験者もいるが、宮元先生のように実戦を経験していない人が多い。轟沈、艦娘の死を身近で耳にして落ち着けるものではないだろう。

 

 「帰還は大和を含む二名。もう一名、正規空母の艦娘はそのままその基地で運用されていたそうですが、既に保護済みとのことです」

 

 ……帰還後、大和は心を壊した。

 

 ドロップから着任、その作戦への参加。それらに関する記憶を封印したのだ。

 実際には性能を、水上に立つことに問題がなかったこと。それすらも忘れて。

 

 「作戦を指揮した提督は記録を改竄。大和はドロップ後、性能不十分につき学園への編入と処置されたようです」

 

 ……どこまで。

 ぎしり、と歯が鳴る。原因と結果は、入れ替えられていた。

 恐らく『捨て艦』を行ってまで成果が得られなかったことから、そんな手段に走ったのだろう。

 希少性の高い強力な大和型戦艦。それを編成、さらには犠牲を出して尚敵棲地制圧の失敗。

 それを、なかったことにしようとした。

 

 「彼は力のある派閥、その末席にあったようです。醜聞隠しには軍上層部も一部が関わっているというのが、憲兵隊の見込みです」

 

 軍の記録改竄ともなれば、一提督が容易に行えるものではない。

 

 「提督は既に逮捕、協力者もほぼ特定しており現在追い込みにかかっているそうです」

 

 願わくば。

 全ての責任者が責任を取ることを。

 次が、起こらないことを願う。

 

 「……今後の大和の扱いについては?」

 「現在協議中ですが、しばらくはこのまま学園に在籍させたいと言ってきています」

 

 教頭先生の質問に宮元先生が答える。

 

 「……」

 

 思う所があるのか、矢矧先輩は言葉にこそしないが苛ついているようだ。

 強力な大和型とはいえ現状、水上に立つことすらできない大和。その上、軍上層部まで絡むスキャンダルの種だ。その扱いには向こうも困っているというところか。

 だが私は、怒りを覚えるより先に安心してしまった。

 

 まだ、大和の先生で在れる。

 

 「品野先生。その、先にお聞きしたいのですが、このまま学園に在籍となった場合」

 

 教頭先生が少し気まずそうに尋ねてくれる。

 このまま、大和が学園に残る場合。誰が面倒を見るのか。それも、問題だ。

 初めてのクラス担任、新人の私では不安だというのもあるのだろう。

 けれど、私は。

 

 「もう、大和は私の生徒です」

 

 そう簡潔に答えた。

 彼女の来歴はショッキングだった。あまりにも重い。新人の私には、荷が勝ち過ぎる。

 だが同時に、こう思えた。

 辛いことに蓋をして尚、前を進もうとする大和。

 あんなにも強い子を支え、導けることを誇りに思う。

 そんな子が、私の初めてのクラスにいたことを幸運に思う。

 

 「それに、私は――ですから」

 

 加えた言葉が、最後の一押しとなったのか。

 教頭先生は大和が在籍を続ける場合、現状を保持することを約束してくれた。

 サポートはこれまで以上を約束するとも。何かお願いできることがあればどんどん頼ることにしよう。

 

 

 

 それから、いくつかの確認事項や今後の方針について決めて緊急の職員会議を終えた。

 退室していく先生方に宜しくお願いします、と頭を下げつつ見送る。先生方は快く応援してくれた。頼もしい限りだ。

 

 最後まで見送り、私一人残った会議室。

 すっかり陽も落ちて尚、雨はしとしとと降り続けている。

 地面を静かに鳴らす雨の音だけが響く。スポットライトのように眩しい蛍光灯の白。

 

 「……大丈夫、一人じゃない。大丈夫」

 

 椅子やホワイトボードを片付けながら、そう自分に言い聞かせる。

 情けないことに、私の脚は震えている。

 

 この事実を、大和の過去を知ってからずっと考えていること。

 私は、彼女に何をしてあげられるだろうか。

 教頭先生を始め先生方に大見得を切ったものの、何かプランがあるわけではない。

 勿論そのことに後悔はなく全力で当たるつもりだが、失敗は許されない。大和のこれからの人生、その重みが肩に圧し掛かる。

 

 それに。

 

 ……これは、今後に対する現実逃避だ。

 この怒りに、意味がないとは言わない。

 けれど、手の届かない所に対する怒り。

 

 「――ッ!!」

 

 力の限り、でも出来るだけ頑丈そうな壁に拳を打ち付ける。艤装をつけていない今、その威力は壁に小さな亀裂を生む程度だ。

 『捨て艦』。

 大和と正規空母の子は知っていたのだろうか。盾となって死んでいった子達は知っていたのだろうか。

 自身を、自身の火力を敵に届ける為に目の前で沈んでいくことになる彼女達のことを。

 自身が、火力艦の盾となって敵の砲火を沈むまで受け続けることを。

 

 どちらにしても、酷いことだ。あまりにも酷いことだ。

 何より既に沈んだ子達に、私の手はもう届くことはない。

 無力感。せめて、その原因を作った『彼』にこの拳をぶつけることが出来れば――。

 

 「小町」

 

 もう一度振りかざした拳、その腕を後ろから掴まれる。

 

 「……足柄」

 「ばか。血、出てる」

 

 何時の間に、会議室へ戻ってきていたのか。

 そのままそっと手を取られ、薄皮が破れ血の滲むのを白いハンカチで押さえられる。白が汚れるのを躊躇する様子もなく真剣に、じっと私の手を見つめている。

 

 「あ、足柄、ハンカチ、汚れ……」

 「ばか」

 

 既に遅いとわかっていながら、足柄の手を放そうとするのだが許してくれない。

 しかしその手は、私と同じように震えていた。

 

 「……悔しいわよね。ふざけるなって話よね」

 

 彼女は、私の同僚であり戦友だ。

 苦しく厳しい戦線ではあった。足りない戦力、僅かな資材。

 だが、上官には恵まれた。私達の『提督』は信用に値する人だった。

 そんな私達だから、『彼』のような提督がいたことに怒りを覚える。許すことが出来ない。

 

 「うん……」

 「でも、だめよ。小町」

 

 優しく傷跡をハンカチで撫でられる。痛みには耐性があっても、ぴりぴりとむず痒い。

 赤はうっすら残る程度に拭われる。

 

 「私達はもう、敵を倒すのが仕事じゃない。自分を傷つける必要もない」

 

 真正面から、そう告げられる。

 私は彼女のこういう所が大好きだ。あまりにも真っ直ぐで、自分の信じるべき物を信じている。

 それを、気を使わずにぶつけてくれる。

 

 「……うん」

 

 分かっているのだ。

 もう拳を振りかざす必要はないことを。

 

 『彼』はもう捕らえられ、これから処罰を受けることになる。

 その処罰を決めるのは私の仕事ではない。

 私がしてはならない。可愛い教え子に酷い事をした『彼』に拳を振りかざすことがあってはならない。私がすべきことは他にある。

 

 なんて、歯がゆい。

 

 「――ほら、分かったら呑みに行くわよ!」

 「えっ」

 

 えっ。

 ばん、と私の肩を勢い良く叩くと足柄は再び会議室を後にしようとする。

 八重歯の愛らしい、太陽のような笑顔。春の夜雨に咲く向日葵。滅茶苦茶だ。

 

 「大人がお酒を呑めるのは、世の理不尽と闘う為よ。だから、今日は呑むの。勝利の為に!」

 

 ……全く。足柄はばかだ。

 何時もこういう慰め方しか出来ない。何時もこうして慰めてくれる。

 これでは同僚や戦友というより悪友だ。まだ結構仕事残ってるのに。

 明日は早出して仕事しないと。

 そう溜息しながら、行きつけの店に予約の電話を入れる足柄を追いかけた。

 

 

 それから、一週間。

 大和の処遇はこのまま学園に在籍という所に落ち着いた。

 本人が事件を覚えていないこと、そして軍の思惑とこちらからの要望が噛み合った結果だった。

 あくまで要観察、一時的な処置としてだ。軍は大和を諦めていないということだろう。

 数少ない戦艦型で火力と装甲という点では最強格にある大和型。欲する前線の提督は多いはずだ。

 

 「うぅん……」

 

 休日の自室。

 穏やかな陽気の朝、食事を済ませた私は珈琲片手に専門書を読み込んでいた。

 記憶の封印。専門的な言葉で言うと、抑圧された記憶。

 辛い記憶を自己防衛の為に抑圧するということがあるという仮説である。実際に、私は大和という事例に向き合っている。

 

 大和の先生で在り続ける為に、とにもかくにも知ろうと思ったのだ。

 この専門書のように資料を集めたり、宮元先生にご教授頂いたり。

 

 大和本人を専門の先生に診察してもらうことも考えたが、記憶の回復を軍はまだ許さなかった。

 上層部の処分を含め未だ捜査は続いていることと、今回の件がどう公表されるかも決まっていないことからだろう。

 この学園はあくまで軍の管轄下であり、その命令は絶対だ。当然、私達にも大和へ事件のことを教えて思い出させることも禁じられている。

 

 だから、私は彼女にしてあげられる何かを知る為に勉強をすることにした。

 私が治療に類することが出来るとは思っていない、所詮付け焼刃なのは理解している。その上、集められる資料も人間の物ばかり。ドロップ組の艦娘に適用できるかも分からない。

 

 しかし彼女と向き合うに当たって、何かヒントがあれば。

 放課後の特訓も未だ続けている。出来る限り予定を調整し、毎回私が見れるようにしている。

 その調整には他の先生方にも協力いただけるのが本当にありがたい。

 成果は、未だないけれど。

 

 「……ゆっくりで、いい」

 

 以前大和に告げた言葉を思い出す。

 私も焦ってはいけない。大和が水上に立てるように、戦場に立てるようになることが本当に良いことなのかは未だ迷ってはいる。だが、彼女がしたいということ。それを支えたい。

 

 「品野先生、いらっしゃいますか?」

 

 こんこんこん、と控えめなノックの音。

 はい、と返事をしつつ玄関へ。軽く髪を整えつつドアを開ける。キャミソールにショートパンツという寝間着のままだが、学園には女性しかいない。この時間だし構わないだろう。

 

 「はーい。あら、大和」

 「おッ……おはよう、ございます。あ、あ、朝早くにすみません……」

 

 ドアを開けた瞬間、びくり、と跳ねてから申し訳なさそうに顔を伏せる大和におはよう、と返す……ちょっとみっともない姿見せちゃったかな。

 

 「いえいえ、構いません。どうしました?」

 

 聞けば、何やら相談事のようだ。

 頼ってくれたことが嬉しくなって、そのまま自室に迎え入れる。本当なら教師が自室に生徒を入れるというのは問題なのだが、彼女の場合は事情が特殊だ。

 クッションを差し出して、飲み物を用意する。

 

 「大和も珈琲でいい?」

 

 縮こまる大和に座ってもらって、まだ淹れたばかりの珈琲の残りをカップへ注ぐ。

 私の部屋は先輩や足柄を招くことが多いので、食器類は多めに置いてある……私物を勝手に置いていく足柄には困っているが。主に酒器とか。

 

 「どうぞ」

 

 カップを大和に渡して、自身もクッションに腰を下ろす。

 両手でカップを持って大和が一口。あ。

 

 「……ごめんなさい、気が利かなかったわね」

 「す、すみません……」

 

 シュガーポットと小分けのミルク、マドラーを台所から持ってくる。苦いのは苦手、か。

 飲んだ瞬間凄い顔してたな……砂糖とミルクをたっぷり入れてから再度口にすると、今度は大丈夫だったようだ、目尻が下がっている。大和型らしく女性としては長身の彼女だが、こういう所は小動物っぽく愛らしい。

 

 「それで、相談というのは?」

 

 落ち着いたのを見計らって、こちらから切り出してみる。

 ことり、とカップを置いた大和はぽつぽつと放し始めた。

 

 「ふむ」

 

 丁度勉強していた所だったので、抑圧された記憶に関することかと身構えていたのだが。

 大和の相談とは、別のことだった。

 

 「クラスに馴染めていないのでは、ということですか」

 「……はい」

 

 自身の異物感。腫れ物になっていないか。

 うちのクラスを始め、生徒は大体が駆逐艦や軽巡洋艦の艦娘達だ。過去に事例がないわけではないが、今年の入学者で戦艦の艦娘は大和ただ一人。

 ドロップ、生まれてからの期間は他の子達と変わらずとも、幼い容姿の駆逐艦達に混ざってただ一人成熟した女性の姿である自身が浮いていると思ってしまうのは当然だろう。

 

 今日までクラスの子達を見ていた私からすれば、磯風達には大和を特別視やまして排除しようとするような様子は見受けられない。むしろ積極的に関わろうとしている。

 

 「周囲から、何かされているとかいったことはないのね?」

 「は、はい! 仲良くして頂いています! け、けど……私……」

 

 恐らく。

 これは彼女自身の負い目から来るものだろう。

 

 身長差がある以上立ち話をしていれば見下ろす、見上げられる位置関係になる。大和の性格からすれば、恐れ多いとまで言わずとも後ろめたさを感じてしまうのかもしれない。かといって屈んだりするのも、相手を子ども扱いしているようで困ってしまう。

 

 その上、大和は水上にまともに立てないこともある。クラスの訓練も少しずつ進んでいるが、大和は個別に最初の訓練を繰り返している状況だ。

 クラスメイトに漣という天性の才能を持つ子がいることも大きい。最初の訓練でもそうだったが、訓練についての漣の成績は抜群だ。その分、授業の方は下から数えたほうが早いが……いや、あれは手を抜いている可能性が高い。

 それはともかく。

 

 「うん、つまりもっと歩み合いたい。もっと、仲良くしたい。そういうことでいいかな」

 「……は、はい」

 

 少し恥ずかしそうな大和。可愛いなぁ。

 

 「では、料理部に入りませんか?」

 

 というわけで勧誘。部長の磯風には後で話す事になるが、一度は誘っていたらしいし問題ないだろう。顧問のヘッドハンティングということで。

 

 「で、でも私、特訓……」

 「そちらを止める必要もありません。半分半分でもいいですし、部活は週一回くらいでもいいんです」

 

 気分転換も大切ですよ、と加える。

 真面目な彼女だ、早く一人前になりたいと特訓を優先してきた。それを否定するつもりはないが、それ以外も是非学んで欲しい。

 何より周囲ともっと仲良くしたいのならば、経験の共有というのは有効な一手だ。同じ物を見て、同じ物を感じる。共同作業で料理を作り、一緒に食べる。そういう意味では料理部は丁度いい。顧問も私だし。

 

 「美味しい物を作ったり食べたり。興味はありませんか?」

 「……その、あります」

 

 大和も食には興味があると見ていた。給食の際、凄く美味しそうに食べるし。

 ブラックの珈琲が苦手というのも舌が敏感なのだろう。

 

 「では、月曜日早速入部しましょう。今回は自分達で夕飯を作るんですよ」

 

 そう、簡単なお菓子作りから始まった料理部。

 いくつかの一品を作りつつ、月曜日の部活動では夕飯を作る予定だ。

 ご飯、汁物、副菜、主菜。いくつかの料理を同時並行で作っていく。

 部員も少し増えたので、その歓迎も含めて食事会を企画したのだ。

 丁度いい、とどんどん話を進めてしまう。押しが弱めの大和だから、少し強引気味に押してあげるのも必要だ。

 

 そうとなれば食事会が楽しみだ。

 メニューはある程度固まっているが、何か一品ご馳走しちゃうのもありかな。

 

 方針が決まった後は折角なので雑談。

 勉強のこととか、寮のこととか。私の現役時代の話に興味を持たれたのには少し困った。やはり戦いに関することは艦娘の興味ごとらしい。

 

 ……その話から恋愛話に発展したのには更に困った。すごく困った。

 男社会の軍である以上、周囲には若い男性が多い。だが私はちょっと、少し評判が厳つく。更に当時ほんのり荒んでいたこともあり、そういったものに縁がなかった。私は悪くない。男共が悪い。全部悪い。

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