陽の昇るのが早くなった。
目が覚める頃にはすっかり外は明るく、夏の訪れを予感させる。
朝方は涼しいが、昼頃には何時もの長袖ジャージでは暑いくらいだ。
「おはようございます。いつもので」
「はい、おはようございます」
早朝の食堂。
トレーを台に載せ、カウンター越しにここの主である間宮さんに朝の挨拶。
割烹着に身を包んだ彼女にトレーを差し出してから、カウンター脇の給水機を手繰って水をカップに注ぐ。
その間にも間宮さんの手でてきぱきと器が並べられていく。
ひじきの煮物に漬物の小鉢、味噌汁に鯵の干物。プラスチック製の黄色の飯椀は空。しかしおかずの並べられたトレーの横にはおひつが一つ、どんと置かれる。
『いつもの』
毎年入れ替わる生徒達でも好みや量を完全に把握する間宮さん。
教師であり、この学園常設であるこの食堂を愛用する私の『いつもの』を、把握してくれている。
さり気無く。気遣いさせず。
供する者として理想的な彼女。
給糧艦間宮。
建造組、人から艦娘となる場合に多く適合する艦娘。
戦闘面においてこそ力を持たない彼女達だが、食の提供者として特別の力を保有する。
彼女等の供する食事は特別であり、ドロップ組、建造組を問わず私達の舌を幸福へと導く。
端的に言うととても、ものすごく美味しい。
その効果は絶大であり艦娘の戦意高揚に必須、日々の激務の糧となる。同じ材料であっても彼女等が調理すれば何か不味いものを使用しているのではないか、と思うほどの差。
いや美味しいのだけれども。
何をどうやっているのか分からないけれども、未だ物資不足の昨今、ありきたりの食材でもとてもおいしい。
私も間宮の適正があったので、気になるところなのだけれども。
色々とあって間宮になれなかった私には知る由もない。
建造組が間宮に適正することは多い。だから軍施設ではあるが基地ではないここにも、数多くいる間宮さんの内一人が着任している。ありがたいことだ。
「いただきます」
人気の無い、静かな食堂。一人、手を合わせる。
生徒達の利用時間は決まっている。その時間内でそれぞれ摂ることになっているから、自然朝食の時間は集中する。今、食堂を利用するのは教師くらい。そしてそれも少し早い時間だ。この学園に置いて新人に分類される私はすることが多く、当然朝は早くなる。
百人以上を収容し得る食堂は私の独り占めだった。
「おいひい」
味噌汁を啜り、思わず一声。
今朝の実は大根と油揚げ。根菜の出汁と、適度な油分。ともすれば油の臭みが出る油揚げだが、絶妙に油抜きされた為か嫌味にならず食欲を増進させる。
そしておひつから盛ったご飯を掻き込む。
このご時勢、自給率の比較的高い米であっても上質な物は望めない。
量を作れることが優先、食味を優先される品種は生産が国によって止められる程だ。
なのに。
「おいひい」
一人、繰り返す。
美味しい。同じ米でも、これほど変わるものだろうか。
炊き方一つでこんなのに。コツを聞いても再現には至らない。間宮さんすごい。
「……相変わらず幸せそうな顔で飯を食うな、君は」
「んぎゅ……んく……あ、おはようございます」
お米の味に浸る私、その正面に現れたのは何時もの白衣に身を包んだ宮元先生だった。
自然に、すいと。
断りを得ることもせずに当然のように目の前に着席した彼女。当学園の保健医であり、『タラシ』の彼女。
「おはよう、品野先生。同席いいかね」
座ってからか……しかし嫌味になっていない。
知的な印象を持たせる整った顔に健康的な小麦色の肌、銀糸の艶やかな髪。
こうした押しの強さも彼女がモテる理由なのかもしれない。いや私はノーマルだけど。
「あの子の様子はどうかね」
不埒なことを考えていたところだったが、真面目な話だった。
あの子。
勿論、大和のことだ。
艦娘における、心理的外傷。それも、ドロップ組の。
その例外中の例外である彼女について、宮元先生は研究者としての興味以上に大きな心配を抱いてくれている。
あの緊急の職員会議以降、不自然にならない程度に大和との時間を取ってくれている。
本人曰くカウンセリングにも満たない対話ではあるが、乏しい資料を漁り色々調べてくれているようだ。
私自身もそちら方面の知識を蓄えてはいるが頭が上がらない。
この人も、やはり教師なのだと。
そう、思わせてくれる。
「訓練は継続中です。成果は、本当に少しずつですが確実に」
先生方の、学園の助力もあり日々の訓練は私が見ることが出来ている。
水上に立つことに、過去の封印した辛い記憶から恐怖を覚える大和。
しかし、徐々に慣れ始めている。
水上を歩く……航行することに挑戦し始めている。
一歩すら怪しい状態ではあるが、立つだけならばだいぶ安定してきた。毎日毎日、放課後の時間を使って訓練に励んだ結果はゆっくりではあるが確実に実を結んでいる。
同じクラスの子達はそろそろ艤装、砲制御に手を伸ばす頃合。
そんな中で初歩の初歩、航行の第一歩である水上に立つこと。
駆逐艦の彼女らに対する劣等感に負けず彼女は訓練を続けている。
私自身、訓練していた頃『できそこない』だったのだからその辛さを理解できるとまで言わずとも、共感はある。
周囲から期待される戦艦の艦娘。
なのに、艦娘としての性能を十全に発揮できない。期待に、応えられない辛さ。
消えて、無くなりたくなる。
それでも。
それでも、彼女は挑み続ける。
私がいくら他の道があると、逃げてもいいと囁こうと。
大和は、自身の定義した義務を果たそうとしている。
「彼女は、強い艦になります」
「うん」
短く、宮元先生は同意してくれた。
先達として、彼女と自身を重ねすぎてはいけない。だが、これは確信だった。
今はまだ。水上に立つことすら覚束ない大和だけれど。
私は、私達は信じる。
あの子は目指す場所に辿り着くと。
大和型戦艦。
最強の、代名詞へ。
◇
「せんせーい、私達は、Say,Say,Do,Doと!」
発音違わなくない?
ネタを挟まないと死ぬのかあいつは。
直立不動、右手を掲げテンプレート通りの宣誓を行う漣。宣誓を受ける校長先生はにこにことしているが、担任である私は冷や汗が止まらない。右手の角度とかが絶妙に例のあのポーズに寄せているのは気のせいだろうか。チョビヒゲに向ける例のあれに。
今日は体育祭。
毎年体育の最高成績を修めている生徒が宣誓を行うこととなっている。
それに自身の担任する生徒が選ばれたのは喜ばしいのだが……とりあえず漣は後で問い詰めよう。
艦娘学園、体育祭。
毎年この時期に行われる行事。学校のイベントとしてはメジャーだろう。
艦娘の一般教養や情緒育成、そして健全な心身を育む為こういったイベントは積極的に行われている。
入学式を始めとした式典や体育祭と共に文化祭も。
教師となった今の立場では準備など頭の痛い所だが、生徒達が勉強や訓練から離れ楽しそうにしている姿を見ることができるのは嬉しい。
ただでさえこの学園は通常のそれと違い、学ぶべきことが多い割りにたった一年しか在籍期間がない。今後艦娘が増え、戦局が更に安定していけばこの期間が延びる可能性はあるそうだが未だ未定だ。
たった一年。
普通の人間、女学生として過ごせる一年。
今年の体育祭も、彼女達が楽しめるよう頑張ろう。
◇
「おっそーい!」
「ひぃっ、ふぅッ、ひぃ……!」
野次の声にも答える余裕がない。
教師対抗リレー。
私はグラウンドのトラックを必死に走っていた。
「すっごくおっそーい!!」
島風、事実だけどやめて。
ちくしょう誰がこんなイベント考えたんだぶっころしてやる。教師対抗リレーとか考えたくそやろうもだ。
「はッ、はッ、はぁッ」
我がチームの第一走者、足柄の稼いだリードはごぼう抜きされる私によってあっさりと引っくり返された。
三人一チームで組まれた教師達によるリレー。一人一周でバトンを渡していく。一周辺り二百メートル。
その半ばで私はもう息が上がっていた。その上遅い。
体力はある。こんなのでも一応建造組の艦娘、一般女性に比べ遥かに体力に優れるだろう。
しかし、どうも陸上を走るということについて私は才能がない。何を言っているんだと思われそうだが、絶望的に走るのが遅い。
「……ドン亀」
「しっ、曙ちゃん、本当のこと言っちゃダメ!」
コースの外周、呆れ果てた顔の曙。その声が耳に入ってしまう。クソ教師呼ばわりより深く心に刺さる。
隣の潮もさり気なく酷い。どすどすと音を鳴らすように、不恰好な私の走り。しかし幾度、先輩に教えてもらってもこれだけはダメだったのだ。やめて、ダメな先生を見ないで。
「品野先生、もう少しです!!」
そんな罵倒を掻き消すように、よく通る声が届く。矢矧先輩が第三走者のスタートライン上、その腕を目いっぱい私に伸ばしていた。
ラストスパート、重い足を精一杯持ち上げてその元まで急ぐ。
他の走者である先生達はもうとっくにバトンを渡し、最後の一周に入っている。健脚の先輩だが、これほどリードを取られてしまっていては。
「はふッ、ぁ、はッ、ごめ、ごめんなさい、せんぱ……」
途切れる息、バトンを先輩に渡す。
「――任せなさい、小町」
たん。
バトンを受け取り小さく囁いた先輩。
しなやかな体躯、その足が地を短く叩く。それだけで先輩は伸びるように加速していく。肩で息をしながら、その姿に魅入る。
「……はやい」
それに、凄く。
「ほら小町、さっさと掃ける!」
見惚れていた私の腕を引っ張りコースの内側に私を入れる足柄。その間にも先輩は前を走る先生達との距離をぐんぐん縮めていった。
「相変わらずおっそいわねアンタ……他の低速艦でももうちょいマシよ?」
「す、水上ならちゃんと付いていけてたでしょ!?」
低速合わせだけど。
生まれつき足の遅い、天性の鈍足である私だが艤装さえつければちゃんと航行は出来る。ぎりぎりの速さだったけど。
「扶桑より遅かったじゃない」
ぐ。
そこを突かれると痛い。で、でも扶桑さんはドロップ組だったし……陸上だったら同じくらいあの人も足遅かったし……。
「ほら、そんなことよりそろそろ」
「先輩!!」
コーナーを抜け、走者達が架けられたゴールテープ目掛け最後の直線に入る。先輩もいつの間にか先頭の走者達に追いつき、一位が狙える位置まで来ていた。
まるで息を切らせた様子もなく、むしろ加速しているようにも見える。真っ直ぐに、貫くように駆ける先輩。
射られた矢のように、真っ直ぐ、真っ直ぐ。
眼を奪われる。
ゴールテープ目前。
息を呑む。
『――ゴール! 一位は矢矧先生ですッ』
テープを切る先輩。ああ、本当にこの人は……。
「お疲れ様です、先輩っ」
「ええ、お疲れ様でした品野先生」
「足早いわねー、ほんと」
労い合う。私は足引っ張っただけだけど。
次々と順位が発表され、次の競技者呼び出しを行うアナウンスを聞きながら撤収。
教師対抗リレーはこの体育祭の前座。これからが生徒達にとって本番だ。私も生徒達の待機スペースに行き、整列の指示に回る。
えーと次は騎馬戦か。四人一組のチームで各クラス対抗となる。うちのメンバーは漣を騎手に曙、浜風、磯風。
大和は体格が理由でこの競技はお休み。上でも下でも騎馬を組むのは難しい。その分別の競技に組み込ませてもらっている。
他のチームも駆逐艦の子達中心だ。八チームによる乱戦、最後まで生き残ったチームの勝利というデスマッチ。
競技内容はある程度、一般の学校のそれに寄せてはいるが軍学校としての面も持つここの体育祭は少し血の気が多い。
玉いれのように高い位置に設置された籠ならぬ的へ、対空機銃を模した水鉄砲で狙い打つ競技とか。後相撲とか。相撲て。海軍なら伝統だけど。
「あ、先生優勝おめー」
「なんであんなに足遅いの?」
祝福ありがとう漣。罵倒ありがとう曙。本気で分からないという顔は深く傷つくからご遠慮下さい。
「みなさん、事故のないよう気をつけて頑張りましょうね」
私は理想的な先生の仮面で曙の追及を無視した。
「なんであんなに足遅いの?」
「そろそろはじまりますヨ。並んでネー」
びき。
「なんであんなに足遅いの?」
ぱりん。
「……その、ごめんなさい」
ワカッテクレレバイイノ。
それはそれはとても申し訳なさそうに謝罪する曙を笑顔で許す。分かってくれればいいの。得意不得意は人それぞれだ、大切なのは補い合うことだ。
さて、気を取り直し騎馬戦だ。曙と浜風、磯風が組んだ騎馬に黄色の帽子を被った漣が乗り込む。騎手に誰がなるか、でひと悶着あったが結局一番小柄な漣が勝ち取った。
「すごい……五倍以上のパワーゲインがある!」
何のだ。
漣が先ほどから何事か呟いている。ぶ、武器は……? って無いから。デニムジーンズも一切関係ない。
『それではこれより騎馬戦を開始します』
そんな漣を他所に競技開始のアナウンス。
円形に散らばったスタートラインに立つ各チームが、一斉に相手を目指し駆け出していく。騎馬に配された島風が駆け過ぎて速攻で馬が崩れる。早過ぎたんだ。
◇
「こんなに嬉しいことはない」
帰還。漣はそろそろ青葉区から帰ってこい。
見事うちのクラスが生き残り、勝利を勝ち取った。しかし手にした帽子はたった一つ。最後まで残った相手からもぎ取ったものだ。
序盤、中盤と逃げに徹し。時には隠れ時には別チームを囮に。
体力の消耗を避け最後の一騎討ちまで生き残ることを最優先する。混戦、乱戦になるこのルールにおいて最適の立ち回りと言える。生き残る為に手段を選ばない、戦う者である艦娘として立派だ。先ほどから、自身の担任クラスが騙し討ちされたと足柄が喚いているが立派だ。ふっふっふ。
最後の一騎討ちは彼女の担任クラス。足柄の性格故か好戦的で序盤から無双、大量の帽子を取ってはいたが生き残ったものこそが勝者。汚いと笑わば笑え。
「……作戦立案はあんた?」
「ふっふっふ」
「提督みたい」
いやああああああああ!!
あの提督と似てるなんていやあああああ!!!!
「考え方とか影響されちゃったのね……」
ひっ。
『提督』。私と足柄の間でそう呼ぶのあの人。
私達の現役時代、上官として指揮を執っていたあの人物はとても優秀ではあったのだが色々と人格に問題があった。冗談でもあの人と似てるとか言われたくない。
耳を塞ぎごろごろ転がる私を見下ろし、仇は取ったとばかりのドヤ顔ウルフ。おのれ。
◇
そしてお昼休み。
普段は教室でお弁当だが、今日は校庭にシート広げてクラス毎に摂る。お弁当の内容も少し豪勢で、それも特別な一日を演出している。
「……先生、先生の提督って」
「おいひい」
「教えていただけませんか?」
え、その話引っ張るの?
足柄と私のやり取りを聞いていたのか、大和が膝の上にお弁当を載せながら訊ねてくる。
聞かなかった振りをしてみたがダメなようだ。じ、と真面目に聞かれると答えないわけにはいかない。
私の現役時代についての話は秘密ではないが、進んでしたい話でもない。大和のように特別重い話ではないのだが、戦場の話だ。これからそこへ向かう彼女等には興味の尽きないことだとは思うが、楽しい話でもない。
「うーん、優秀な人、ですね」
それはもうとびきり。艦娘運用についてまだ日が浅い状況、戦況も今よりずっと悪い時期だった。
しかしあの人はそれを難なく戦い切った。人格がアレだが。
一人も沈めることはなかったし、私達は飢えたこともなかった。燃料だけ入れて弾薬なしで出撃させられたことはあったが。
厳しいことは常だったが、何時でも私達のことを考えていてくれていたように思う。七割方どう私達を弄るかに偏っていた気もするが。
「……私も、そんな提督の所だと、いいな」
どこか、遠くを見るように呟く大和。
『前』の提督の記憶が引っかかっているのだろうか。思い出したようではないが、自身で理解せずとも提督というキーワードが心に引っかき傷を残しているのかもしれない。
「ふん。どんなクソ提督の下でも戦うだけ、よ」
骨付きのフライドチキンを食い千切りながら、吐き捨てるように曙。
とても、心の強い娘だ。不安で仕方ないはずなのに。艦娘にとって提督とは命を預ける存在だ。
どんな理不尽な命令であろうと、どんな不可能と思える命令であろうと。
未だ見ぬ提督が、命を預けるに足ることを願うのは当然なのに。
「いい人の所に着任できるよう、私達も最善を尽くします。それに」
選択肢は一つではないということ。
まずそもそも艦娘として兵役に就き、戦うことを選ばないという道。そして着任した先の提督が、信頼に値しないのなら転属を願うこともできる。
彼女達、学園を卒業する艦娘が着任する先。
それは鎮守府と私達学園側の協議によって決定する。決定権としては向こうが強いが、それでもこちらへの配慮はしなければならない。様々な思惑の上で設立されたこの学園、軍内部へある程度融通が利く程度の力は持っているのだ。
少なくともこの学園の卒業者が着任する鎮守府は、最低限『まとも』な所になる。なるように、する。
「先生、もっと色々聞きたいです」
「現役の頃、どんな艦だったのですか?」
磯風と浜風の質問攻め。
建造組としてそれなりに働けた私はその、少しは話せる自慢が多い方だ。饒舌になりたがる自尊心を押さえつつ、現役時代のエピソードを話していく。
まだ見ぬ前線。そこでの日々。
夢見る生徒達の輝く瞳は、眩し過ぎた。
◇
『次の競技は綱引きです』
昼休みを終え、午後の競技。
体育祭の代表的なそれである綱引きだ。うちのクラスからは大和が出ることになっている。
「が、がんばりますっ……!」
本人はやる気満々。騎馬戦で自身の体格から不参戦であったことからやる気は満ち溢れている。
とはいえ。
「……六対一はやり過ぎなような気もするけれど」
「ううん、大和ならこれでも少し不安なんですけれどね」
そう、うちのクラスからは大和。ただ一人だ。
対するは駆逐艦の艦娘六人。その戦力差に矢矧先輩が疑問を持つのも無理はない。
が。
「不安?」
「やり過ぎないか、が不安です」
大型艦の艦娘、その出力というか文字通りの力は規格外だ。
数の差を振り切る圧倒的な力。
かつての軍が夢見て妄信することも無理がない、力の象徴。私もその力、万能感を知っている。
『競技参加者は開始位置へ移動して下さい』
アナウンスに従い、大和と相手の駆逐艦達が綱の元へと移動する。
大人と子供ほどの体格差のある彼女等。
しかし、あまりにも数の差があり過ぎる。子供の姿とはいえ駆逐艦、その艦娘。成人女性と比べてもその膂力は段違いの差がある。それが、六人。
『では、互いに綱を握って下さい』
大和と駆逐艦達が綱を握る。
極太の綱が浮き上がり、綱引きの準備が整った。
「やり過ぎる……?」
私の言葉に、先輩が不思議そうに尋ねる。
『では……はじめ!』
どん。
競技開始の空砲が打ち鳴らされる。
先輩の疑問は、すぐに解消された。
「……サビキ釣り、ですね」
開始と同時、六人の駆逐艦娘は宙へと舞い上がった。
大和、不安的中ありがとう。
最強の戦艦、その膂力によって『釣り上げられた』六人。大和には今度しっかり自身の力について教え込まないと。
幸い擦り傷だけで済んだ駆逐艦達だったが、大和の恐ろしさは全校に鳴り響くこととなった。
大和が番長の名を拝命するまで、そう時間はかからなかった。南無三。