今回はお試し版です。
追記:智代との対話を少し変えました。
―――この学校は好きですか?
4月。
僕が通う光坂高校への桜が咲き誇る坂道の途中、道で立ち止まっている女性がそんなことを言っていた。僕は気にも止めず足を進める。
しかし、一緒に通学していた友人の岡崎は彼女に視線を向け、足を止めていた。結構ギリギリな時間のため、ここで止まっていたら遅刻するのは避けられない。
「おい岡崎! ってだめだこりゃ。聞こえちゃいねぇ」
体を揺すり、目の前で手を動かしても岡崎の視線は奪われたまま。優しい親友なら岡崎が元に戻るまで待ってあげるのだろう。僕はそんなことはないので、岡崎を置いて一人で再び坂道を登り始める。
別に遅刻しても良いんだけどさ。ただ何となく
◆
そんな何処まで賑やかになれるのか分からない華の高校2年生も、僕が教室に入ると一瞬だけ静かになる。気にしないで話を続ければいいのに、なんて思いながら席に向かい鞄を下ろす。
席は教室の左下隅。岡崎と同じ場所、いわゆる主人公席と呼ばれる場所だ。隣の人も岡崎と同じで春原みたいなだったら面白いのだが、そこまで旨い話はない。窓を開けてぼんやり空を眺める。僅かな風が教室に入って前髪を揺らす。
遅刻ギリギリだったこともあって、すぐに担任がやって来て朝のHRを始める。その時間は短く、必要なことを行ってすぐに教室から出ていく。それぞれはまた会話に戻ったり、一限目の準備をしている。
僕は後者を見習って鞄を机の上に乗せ、一限目に使う教科書を探して取り出す。
これにかかる時間はほんの少しで、教師が来るまで暇になる。適当に教科書をパラパラ捲る。その時間は内容を知っていながらも、授業を受けなければならないことを痛感する時間であってとても嫌いだ。
書かれていることを流し見ていると、気が付けば教科書の半分まで捲っていた。教師が入ってきて、それに引き続いてチャイムが鳴る。
そして今日も僕は時間を浪費する。
◆
去年僕は、出席日数が足りないながらも全国模試でそこそこの点数を取っていた。勿論サボり魔の岡崎と春原は受けてないが、そのイマイチ模試事情を知らない二人ですら目玉が飛びでるくらいの点数をとったのだ。
つまり何が言いたいかというと、分かっている授業を聞くというのはとても退屈だということを伝えたい。ましてや、去年のこの時期はまだ真面目に学校にきていた為、教師が変わっても同じ話をされるのはとても飽きる。
今年度になってからずっと、一応ペンを左手に持ちながらも、朝と同じように外を眺める。教師も僕が言い返すのを恐れてか、それともただ単にもう見捨てられているのか、僕に注意することはない。
そんな風にしてる内に、午前の時間はようやく終わりを迎えた。昼ごはんを食べるべく教室を出て行くクラスメートに紛れて、ポケットに2つ折りの財布を入れた僕も教室を出る。
向かうは一階の資料室。そこには昔から付き合いのある1つ下の
資料室の前に着き適当にドアをノックする。
「開いてますよ」
彼女の柔らかい声で返事が帰ってきたので、失礼するよの一声もなしにドアを開けて資料室に入る。こんなに無遠慮な事をするのは彼女しかいないからだ。ましてや、彼女の方からこうしてくれと言われた。
中に入ると有紀寧の後ろ姿が見える。やはり、制服にエプロンと言うのはどこかくすぐられる。栗色のロングヘアーから一本飛び出しているアホ毛がピコピコと揺れていている。
何も言わずに座ると、有紀寧も準備が終わったらしく飲み物を持って僕の向かいに座る。
「こんにちわ、青葉さん」
「今日もお世話になるよ」
トロンと少しタレ目な感じの目をニッコリさせ、先ほど入れていたアイスコーヒーを差し出して来る。アイスコーヒーにはストローがさしてあり、アイスコーヒーの色からするに既にミルクなどが入れられているようだ。
「これってこの前僕があげたやつ?」
教科書を入れるかばんとは別の手提げから何かを取り出している有紀寧に尋ねる。有紀寧は手提げから弁当を2つ出すと、僕の質問に答える。
「そうですよ。お家で練習してきて、ようやく納得出来るように作れましたので」
「そんな。普通に入れてくれればそれだけでいいのに」
「それはいけません。青葉先輩には美味しいものを飲んでいただきたいのですから」
そんなにキラキラした顔で言われると恥ずかしくてモノも言えない。悔しい。
有紀寧との付き合いはかれこれ5年近いものとなる。昔からこの街に住んでいた僕は、有紀寧の兄の和人と仲は良くなかったが交流を持っていた。
それからあれこれあって有紀寧に気にかけて生活を送るようになった。と言っても最近では、僕の方が気にかけられ面倒を見られている気もする。
「どうかしましたか?」
弁当とスプーンを差し出して来た有紀寧は首を傾げ、上目遣いでこちらを見ていた。
「有紀寧のことを少し考えていただけ」
有紀寧は顔を
有紀寧から弁当とスプーンを受け取る。既に弁当の包みのリボン結びが外されていた。細かい所まで気が配られていて、有紀寧がいい奥さんになることは間違いがない。
いや、あいつらがいる限り難しいかな……。
「「いただきます」」
二人声を合わせいただきますを言って、弁当を食べ始める。中身はオムライス、弁当のためケチャップライスの上に卵を乗せたものになるが。
ご丁寧にケチャップでハートが書かれていて気恥ずかしさを覚えるが、せっかく作ってもらった上にそんなことをしては失礼なのでありがたくいただく。
スプーンを入れただけで卵がふわふわで、ご飯はベチャ付いてもいなく変にパラパラしていない事がわかる。一口大に取り口に運ぶ。
トマトの酸味と甘みが程よく合わさっていて美味しい。ケチャップライスには細かく切られた野菜が混じっていて、食感が単調にならなく食指が止まらない。
◆
有紀寧のオムライスを食べながら雑談をする。廊下を歩いているとものを押し付ける幽霊がいるとか、同学年にとても強い女子生徒がいるだとか。そんな話を有紀寧からされ話を広げていく。僕の方から話せることはないので、これが僕らの基本形だ。
オムライスを食べ終え、アイスコーヒーを飲んでいたら校庭の方からバイクの重低音が鳴り響いた。
「何だ?」
「何でしょうか? わたしの知り合いにこんな事をする方はいませんし」
「だよな。ちょっと見てくるよ」
上着を有紀寧に預けて校庭の方に駆けていく。
校庭には時代錯誤なヤンキーが三人いた。僕や有紀寧の知り合いではないことが確認できたので、御三人方には退場してもらおうと校庭に入る。
すると、僕と同じタイミングで入ってきた娘が一人。グレー髪に黒いカチューシャを付けている娘だった。
彼女は僕に気がつくとこちらに寄って来た。
「ここは危ないぞ。私がやるからお前は離れていろ」
もしかすると彼女が有紀寧の言っていた女子生徒だろうか。制服には僕と同じ赤色のワッペンが付けられているので、彼女は僕と同じ二年生だ。彼女も僕のワッペンを見ている。
「たとえ君が強いとしても、君一人に任せたら僕が弱いみたいじゃないか。僕が男の子であるために、それはなんとしても避けなくちゃならない」
「面白いなお前。名前は何て言う」
「伏見、そういう君は」
「お前があの伏見か……? いや、すまない。私は坂上智代だ」
なんて言ったって僕らは握手までしてるんだから。あまりしたくは無かったのだが、求められたら流石にした。握手を終えると坂上は少し顔をしかめる。
「お前の噂は聞いているから別に構わないと思ったが。大丈夫なのか?」
「僕はこっちでやるからさ」
視線を脚に向ける。喧嘩はもっぱら脚を使ったほうが拳を使うよりもダメージを与えやすい。
「私と同じか」
「これは偶然だね。それで、どっちがどっちをやるか決めるかな。ジャンケン? それともあみだくじ?」
「そんなことをしてる暇はないのではないか?」
「そこの男ォォォォ!! 無視してんじゃねェェよ!!」
煽りには成功っと。正当防衛を盾にして停学を防ぎたいがために坂上と不良の前でコントまがいの事をした介があった。坂上と握手をしたのは悪手だったが、握手だけにねって。
「売られた喧嘩は定価で買う24時間営業店ですので、坂上は残りの奴をお願い」
「わかった」
瞬時のやり取りで意思疎通を終える。彼女とは友人としてではなく、戦友としてのほうが上手くやっていけそうな気がする。
「死ねェェェェ!!!!」
以下にも頭の悪そうな言葉遣いをしながらバイクを僕に向けて走らせる。後ろでは鈍器を地面に当て、如何にもコレで殺してやると言った顔をしている。
僕のやることは単純で、ただ
僕の膝は吸い込まれるように運転手の顔に打ち込まれる。
運転手は気を失って倒れる。バイクも制御を失って揺れる。後ろに乗っていた男が鈍器を振り下ろすが、バランスん崩して空振り。
そこに僕のシュートが決まる。そこそこに威力を抑えているため、頭がボールのように飛んでいくことはない。いや、冗談なんだけどね。
無事に悪漢を懲らしめることに成功した僕は目線を隣に向ける。戦闘中にちらっと坂上の方を見たが、心配する必要がないほど強かった。なんで相手に空中でコンボを決められるのだろう。
「中々やるな」
「そういう君こそ。僕が出てきたのが無粋だったみたいだ」
再び握手をして、それ以上言葉をかわさないで校舎へと歩みをすすめる。なんかカッコイイ感じがする。
でも、その理由はただ話す内容がないからなんだけどね。
◆
無事坂上と協力してやって来た他校生徒にお引き取りいただいた(強制)僕は、有紀寧に預けた上着を取りに資料室へと向かった。
その途中で、岡崎が今朝通学路の坂で見かけた女の子と花壇に座って話をしていた。アホ毛がつむじあたりから二本生えている。どっかで見た気がする。
それが誰なのか考えていると岡崎が僕に気がついたようで、こちらに手を振っている。友達に手を振られて行かないほど淡白ではないので花壇の方に歩く。
「よっ!」
「朝はよくも置いて行ってくれたな!!」
「ははは! そのおかげでそんなに可愛い娘と仲良く出来たんだから、むしろ感謝してほしいな」
お遊びで軽く首が絞められる。
隣に座っていた娘は最初は驚き心配していたが、僕らがただじゃれあっているだけだと分かると表情も元に戻り、むしろ最初より柔らかいものになった。
岡崎は僕にこのまま続けても時間の無駄になると気づいたらしく首絞めが緩まる。
「こちらの娘は?」
「コイツは古河渚。クラスはB組だ」
「ど、どうも! 古河渚です!!」
古河……。あぁ秋生さんの一人娘か。あのアホ毛も遺伝したのかな。顔は早苗さん似だ。
「僕は伏見青葉。これからどんな付き合いになるのか分からないけど、一応よろしくね」
「そうだ古河。コイツもお前と同じだから、何かコツを聞けばいいんじゃないか?」
「そうでしたか。ワッペンの色が2年生のものなのにどうして岡崎くんと友達なのか、という疑問が晴れました」
はて。一体どこが古河さんと僕が同じなのだろうか。
秋生さんに好かれている点では同じなにがする。しかし、それを岡崎が知っているわけでもないし。それなら、なんだろう? 与えられたヒントはワッペンの色。
というか、僕には喧嘩が強い以外に特筆すべきことなんか一つしかないじゃないか。
「もしかして古河って一つ上?」
「は、はい」
ダブり仲間ということね。
「それで、僕に聞きたいことって何かな?」
「ほら、古河」
「あの、伏見さんはどのようにお友達をつくりましたか?」
僕はどれくらい友達がいるだろう。まずは岡崎と春原。この二人とは同時期に何かしらの問題を起こして、誰かの手引によって引き合わされた。けれどそれのお陰で僕らはこうして仲良くバカをやっている。
あとは藤林姉妹。姉の方は岡崎と春原経由で絡まれた。基本僕は二人と違って問題児ではないので、二人と一緒の扱いを受けて憤慨したことを覚えている。妹は去年同じクラスだった。
けれどそういうのじゃないだろう。なんたってダブった上での質問だ。今は先輩の友達のことを言っても意味がないはずだ。
「答えづらかったら大丈夫です」
あれこれ考えているうちに時間が経ったらしく、僕が言い出しづらいのではと古河が気を使ってくれた。
「ごめんごめん。残念ながら僕も2年生になってできた友達は一人しかいなくて」
「では! その方とどのようにお友達になったのかを!!」
花壇から立ってグイグイ来る。
「さっきの喧嘩で仲良くなったんだけど、参考になる?」
「それは参考に出来なさそうです……」
「お前とよくいる子はどうなんだ?」
「有紀寧のことだよね。彼女は昔馴染みで仲良くしてるから、コレもまた古河の参考にならなそうだし」
「むむむ。どうしましょう」
僕のようなあまり周りの人の事を気にしない人種なら友達の有無をそこまで気にしないが、古河の様な人なら気になるのだろうか。
「でも、もう一人出来てるでしょ?」
「「え?」」
僕の声に二人して反応する。しかもその言葉は一緒だった。
「二人はもう友達って言っていいんじゃないかな。今朝有っただけならともかく、こうやってお昼を一緒に食べて、相談して解決しようとして。これだけじゃ足りない?」
僕の声に二人は顔を見合わせ「そうだ」と呟いたあと二人して笑った。もうすでに結構なとこまで仲良くなってるよね。
そんな二人を見ていると昼休みの終わりのチャイムが鳴った。有紀寧に上着を預けたままだったことを思い出し、二人に別れを告げ資料室から二年の教室へ繋がる廊下へ向かい有紀寧を探しに行く。
実際のところは有紀寧が資料室の前で僕を待っていたので、僕は少しばかり無駄なことをしただけに終わったのだけどね。
◆
「いいか坊主。秋生は君たちとやる時は完璧にナメ腐っている」
「えー! 兄ちゃんそれってホント?」
つまらない高校の授業を終えた僕は公園で、球児を目指す少年たちに野球を教えていた。打席に立つ大人気ない打者に対して、可愛らしく怒っている少年にアドバイスをする。
「だからこの前教えた必殺技を使え」
「いいの? 兄ちゃん」
「今まで誰にも見せてないんだろ?」
「うん! 言われた通リ隠れて練習してたから」
「ならOKだ! ちゃんと捕ってやるから思いっきり投げろ」
「わかった!!」
置いていたグローブを取って、コーチからキャッチャーへと気持ちを変える。
「何を言いやがった」
「アンタの顔を驚きに染めるようなこと」
「けっ! 相変わらず可愛くねぇな」
バッターボックスに立つのは、今日の内二回も出会った古河渚の父親の古河秋生だ。タバコを咥え、バットを構える。
先ほどアドバイスした少年が球を投げる。
その速度は遅く、秋生はニヤリと笑う。
「おらぁ!!」
威勢の良い声とともにバットを振るう。
その後に聞こえたのはバットを空振る音とボールがキャッチャーミットに収まる音だった。
「おぅ、どうした?」
「お前子供になんてもん教えてんだ」
「それは後々。あとツーストライク取ってからでも良いっしょ」
「二度とそんな口を叩けないようにしてやる」
そんなフラグを立てた秋生は見事に三振し、少年たちのリベンジは見事に達成された。
そんな感じで僕と秋生の露骨すぎる演技に騙された少年たちは、日が沈み始める頃に三々五々それぞれの家に帰って行った。
残された僕達年上二人は公園のベンチでだべっていた。
「今日も早苗さんのパンがうまい」
バリバリと普通パンの中として不似合いなせんべいが入ったせんべいパンを食べる。早苗さんのパンがこの時間に売れ残っているときは低下の半分で売ってくれるので、とても財布に優しい。
僕の発言に秋生はあり得ないものを見る目で僕の方を見てくる。
「前から馬鹿だと思ってたが、頭だけじゃなくて舌まで馬鹿だったか」
「今早苗さんがいなくて良かったですね」
「はっ! また早苗を傷つけるところだった」
この商店街名物を見れるのでそれでもいいのだけれど。
「そういえば娘さんに会いましたよ。渚……さんでしたよね」
「遂に出会ったか! けどお前高2だよな? 何か接点あったのか?」
「無事進級できた友達が話をしていて、その流れで知りました」
「その友達は男か?」
血走った目で僕の方を掴んでくる。
怖いのでやめてください。
「ま、まぁ」
「クソッ! 俺の娘がどこの骨かしらないやつと話をするなんて」
「僕はいいんですか?」
「お前はアレだ、俺の野球仲間だから問題ない」
随分とセキュリティーが低いことで。そんなんでいいのか親馬鹿、改め馬鹿親よ。
「腕の方はどうだ?」
さっきまでのギャグ調の話は終わりを迎えたようで、秋生のトーンが下がっている。ここで僕が場を濁そうとしてテンションを上げて話をすれば、何気に優しい秋生は何事もなかったかのように別の話をするだろう。
「利き手を移すことはもう完璧です。けど、完治は無理って言われました」
「そうか」
小さく一言だけ言ってタバコの煙を吐き出す。
秋生との付き合いは結構幼い頃からの物である。だからって事もあるが、秋生がもう一人の父親のように思える時がある。実際にこの人が父親だったら大変だろうけど。
「っと! そろそろ客が来そうな気配がするから俺は店に戻るぜ。お前も夜になる前に家に帰れよ」
「分かってる」
「可愛くねぇな」
「男子高校生に可愛さなんか求めるなよ」
そりゃそうだとガハガハ笑う秋生を尻目に僕は自分の手を見つめる。
7000字とかが読みやすいんですかね?