ひなたぼっこの研究者 作:たんぽぽ
二年生の夏休みの水曜日の書店。これが何を意味するかを知っている人は、たぶんこの世界にはいないだろう。
『サイン会
ギルデロイ・ロックハート 自伝『私はマジックだ』
本日午後12:30〜4:30』
フローリシュ・アンド・ブロッツ書店内の上階の窓に掛かっている大きな横断幕を見て、私はため息をついた。あんなのの授業を一年間受けるなんて耐えられない。耐えられないから、点数を稼ぎまくってやろう。
指定の教科書をかき集めてきてレジのカウンターの上に積み上げると、書店員は何も見ることなくすらすらと値段を述べた。全部同じだからかと思いきや、地味に一年生から七年生までのセットの値段を覚えているらしい。すごいな。
財布からガリオン金貨を取り出し、支払いを済ませると、ちょうどハリーが傍迷惑なサイン会を開いているロックハートに引きずられて写真を撮られていた。
私を見つけたハリーが、口パクで何やら伝えてくる。
(た、す、け、て)
残念ながら私にはハリーは助けられない。けれど、日刊預言者新聞に載ってしまうことを防ぐことなら出来る。
素早くカメラマンに近付き、飴玉サイズの氷をカメラの中に仕込む。こんな時のために、数時間後に溶け始める氷を用意しておいたのさ。たぶん、カメラマンがオフィスに帰った頃にはカメラは壊れてしまっているだろう。あとで日刊預言者新聞にふくろう便で弁償しよう、そうしよう。
「お久しぶりです、ロン、ハーマイオニー。何をしているのですか?」
「あら、リズ! あなたもロックハートさんのサインをもらいに来たのね?」
「残念ながら私は流行に流されるような人間ではありませんのでサインはもらいません」
「さすがリズ。僕のママもロックハートにお熱なんだぜ?」
「ロン! やめなさい」
ウキウキしているハーマイオニーと赤毛の女性を呆れるように見たロンが言うと、赤毛の女性がロンの頭を軽くはたく。
「あ、ママ、この子がリズだよ」
「こんにちは。ロンからよく話は聞いてるわ。あなたはハッフルパフなのよね?」
「はい。ウィーズリー一族は代々グリフィンドールのようですが、ハッフルパフも家庭的でいいところですよ。———こちらはロンの妹さんですか?」
若干わざとらしかったかもしれないが、ジニーに話を持っていく。
「そうよ。ジニー、挨拶なさい」
「ジ、ジニー・ウィーズリーです。その……リズさん、私、スリザリンになっちゃったらどうしよう」
魔法族の子供の一番の悩み、『スリザリンになったらどうしよう』。初対面の私に相談してしまうほど、今のジニーは切羽詰まっているのだろう。……そうか?
自分の結論に疑問を持ってしまった私は、それを解決すべくジニーに問いかけた。
「どうして私に聞いたのですか?」
「……ロンが、リズの勘はよく当たるって言ってたから……」
なるほど。そういうことか。
私はそれっぽく見せるために、少しの間目を瞑る。そして、目を開くとジニーに微笑みかけた。
「大丈夫。私の勘が当たっているなら、あなたはグリフィンドールになります」
そうそう原作から外れた性格の持ち主ではないだろうし。
明らかにほっとしているジニーの向こう側から、ふと思い出したようにウィーズリー夫人が問いかけてくる。
「リズちゃん、そういえばご両親はどうしたの?」
「両親は十一年前に亡くなっています」
「! ご、ごめんなさい、思い出させてしまって……」
慌てた様子のウィーズリー夫人に向かって微笑む。
「大丈夫です。私が生まれたばかりのことですし、誰かに殺されたわけでもないので。名前を言われても『ああ、あの人か』程度にしか思いませんし」
「そ、そう、それならいいのだけれど……」
「気にするならママ、」
「リズをうちに招待したらどうだい?」
そっくりな二人の声を聞き、私は後ろを振り返る。
「お久しぶりです、フレッジョ。今日もいい悪戯日和ですね」
「「そうだな、リズ。ロックハートにクソ爆弾ぶちまけてくるか」」
「フレッド! ジョージ!」
「「冗談さ、ママ」」
君達以心伝心? それとも開心術掛けあってるの?
素朴な疑問が湧いてきたが、ウィーズリー夫人が向き直ってきたので考えるのをやめる。
「あの二人の言う通り、うちに来ないかしら? 少し狭いけど、楽しく過ごせると思うわ」
「良いんですか? ご迷惑なんじゃ……」
内心行く気満々だが、形だけ遠慮してみせる。
「そんなことないさ! おいでよ、リズ」
ロンがそう言ってくれたので、私は誘いに乗った。
「……では、お言葉に甘えて」
*
「有名人のハリー・ポッター。ちょっと書店に行っただけで一面大見出し記事かい?」
「これって皮肉なんでしょうか、事実を言っているだけなんでしょうか」
「コイツのことだから皮肉に決まってんだろ」
私の呟きにロンが返す。
「おや、ウィーズリー、君がこの店にいるなんて驚いたよ。君の両親はこれから数ヶ月飲まず食わずかい?」
ロンの顔がさっと赤くなる。
ここまででお分かりだろうが、嫌味なマルフォイくんのご登場である。地味に見るのは初めてかもしれない。ちょっと前髪が後退しつつある金髪オールバックなフォイくん。よし、覚えた。
「それで君は、ハッフルパフのリズ・フォーリーかい? 成績が優秀ならスリザリンに来るべきだった」
「何だと!」
「まあまあ、ロン、落ち着いて。えーと、あなたはスリザリン生なんですか?」
「「「は?」」」
初対面なんだから相手のことを知っているのは不味いだろうと思い、知らないふりをしてみせたのだが……だめだったらしい。
「マルフォイのことを知らないのか!?」
「スリザリンの嫌味な野郎だよ!」
「今のにハリーを当てはめるとしたら、グリフィンドールの眼鏡な野郎になりますね」
「それじゃ悪口になってないだろう!?」
「スリザリンという単語が悪口だというのは初耳です。あのマクゴナガル先生が堂々と悪口を言っていたとは……!」
「そういう意味じゃないよ!」
知ってる。ちょっとボケてみた。
「えーと、マルフォイさん? これからよろしくお願いします」
「リズ、マルフォイに挨拶する必要なんてないよ」
ハリーまでそれを言うか。
「スリザリンだからですか?」
「うん」
残念ながら、私の敬愛するスネイプ先生はスリザリン出身だ。よって反撃タイムスタート。
「私はグリフィンドールの大半の方々とは違い、スリザリンというだけで相手のことを決めつけたりはしません。グリフィンドールに色々な性格の方がいるのと同様、あなた方が敵視しているスリザリン生も十人十色。自称闇の帝王に下った者がどうたらこうたらとあなた達は言うでしょうが、それならグリフィンドール出身のシリウス・ブラックはどうなのかという話になります。ですから、私は寮に囚われず、本人の性格を重視して人付き合いをします」
はい論破。
ルシウス・マルフォイとアーサー・ウィーズリーがかち合って大人気ない喧嘩を見せてくれたが、私はハッフルパフらしく中立の立場を貫いた。