ひなたぼっこの研究者   作:たんぽぽ

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第52話 吸魂鬼

 杖、OK。守護霊の呪文を入れた氷の球体、OK。チョコレート、OK。寒さ対策のマント、OK。

 ホグワーツ特急に乗り込む準備は出来た。

 

「リズ、どうしてホグワーツ特急に乗る前にそんなに険しい顔をしてるの?」

「険しいですか? 無表情だと思ったんですけど」

「どっちにしろ怖いよ」

 

 そうロンに言われてしまったので、私は仕方なく表情を和らげた。吸魂鬼が近寄ってくる可能性があるのだから、思わず私が顔をしかめてしまうのも仕方ないだろう。……そうだねロン、君はそんな未来が来るとは微塵も思ってないよね。

 吸魂鬼に備えて辺りの気配を探っていたら、私はいつの間にかみんなと一緒にルーピン先生のいるコンパートメントに座っていた。

 

「……あれ、いつここに来たんだっけ」

「リズ、どうかした?」

 

 ジニーが心配そうに聞いてくるが、私は誤魔化した。

 吸魂鬼が来ないかが気になって始終上の空だった私は、シリウス・ブラックについてハリーが何か言っているのを聞き逃したが、たぶん大丈夫だ。ハリーは(原作知識の)期待を裏切らない。きっと原作通りのことを話しているだろう。

 

「あ」

 

 少しだけ寒気がした。

 来る。奴が、来る。

 ポケットの中の杖を握り締めた瞬間、今度はかなりの冷気がコンパートメントを満たした。

 

「何なの、これ……」

 

 コンパートメントの扉がゆっくり開かれ、吸魂鬼が顔を覗かせた瞬間、恐怖が私を襲った。あの時のことを。つらかった時のことを。

 

「『エクスペクト・パトローナム』っ!!!」

 

 練習した時、最終的にスムーズに出せるようになったはずの守護霊が、霞となって出てくる。焦ってしまう上に、手がかじかみ始めて杖を力強く握れない。

 

「リズ!」

 

 ハリーの声で我に返り、私はポケットから氷を取り出すと、全て投げつけた。

 今の私の状態を示しているのか、全て霞の状態で出てくる。

 

「『エクスペクト・パトローナム』!! お願い、出て! 『エクスペクト・パトローナム』!!!」

 

 吸魂鬼が少しずつ迫ってくる。杖を必死に振っても霞しか出ない。

 恐怖で心が一杯になったその時。

 

「『エクスペクト・パトローナム』」

 

 初めて聴く、低い声が背後からした。振り返るとルーピン先生が杖を構えていて、その杖先から出た霞が勢いよく吸魂鬼を追い出す。

 歯を鳴らしながらハーマイオニーが扉を閉めると、ようやく室温が戻って来た。

 私はかじかむ手で包装を破り取ると、板チョコを割って全員に配った。

 

「よく対処法を知ってるね」

 

 ルーピン先生の言葉には、

 

「そんなことより、もっと早く対処して欲しかったです」

 

 素っ気なく返す。初対面の新人教師に言うことではないが、紛れもない本音だ。

 

「私は車掌と話してくる。板チョコをちゃんと食べておくんだ。いいね」

 

 渡された板チョコを持って震えている一同を見てルーピン先生は言うと、コンパートメントを出て行った。

 守護霊の劣化版とも言える霞のお陰で気絶はしなかったようだが、ハリーは真っ青だった。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ。……でも、何か悲鳴のようなものが……。いや、何でもない」

 

 やはり防ぎきれなかったか。

 

「そんなことより、リズは大丈夫なのか?」

 

 ロンの問いに、首を傾げる。

 

「どういう意味ですか?」

「君、ハリーに負けず劣らず真っ青だよ」

「不可抗力、ですから」

 

 私はそれだけ答えると、マントに包まってチョコをかじった。

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