ひなたぼっこの研究者 作:たんぽぽ
杖、OK。守護霊の呪文を入れた氷の球体、OK。チョコレート、OK。寒さ対策のマント、OK。
ホグワーツ特急に乗り込む準備は出来た。
「リズ、どうしてホグワーツ特急に乗る前にそんなに険しい顔をしてるの?」
「険しいですか? 無表情だと思ったんですけど」
「どっちにしろ怖いよ」
そうロンに言われてしまったので、私は仕方なく表情を和らげた。吸魂鬼が近寄ってくる可能性があるのだから、思わず私が顔をしかめてしまうのも仕方ないだろう。……そうだねロン、君はそんな未来が来るとは微塵も思ってないよね。
吸魂鬼に備えて辺りの気配を探っていたら、私はいつの間にかみんなと一緒にルーピン先生のいるコンパートメントに座っていた。
「……あれ、いつここに来たんだっけ」
「リズ、どうかした?」
ジニーが心配そうに聞いてくるが、私は誤魔化した。
吸魂鬼が来ないかが気になって始終上の空だった私は、シリウス・ブラックについてハリーが何か言っているのを聞き逃したが、たぶん大丈夫だ。ハリーは(原作知識の)期待を裏切らない。きっと原作通りのことを話しているだろう。
「あ」
少しだけ寒気がした。
来る。奴が、来る。
ポケットの中の杖を握り締めた瞬間、今度はかなりの冷気がコンパートメントを満たした。
「何なの、これ……」
コンパートメントの扉がゆっくり開かれ、吸魂鬼が顔を覗かせた瞬間、恐怖が私を襲った。あの時のことを。つらかった時のことを。
「『エクスペクト・パトローナム』っ!!!」
練習した時、最終的にスムーズに出せるようになったはずの守護霊が、霞となって出てくる。焦ってしまう上に、手がかじかみ始めて杖を力強く握れない。
「リズ!」
ハリーの声で我に返り、私はポケットから氷を取り出すと、全て投げつけた。
今の私の状態を示しているのか、全て霞の状態で出てくる。
「『エクスペクト・パトローナム』!! お願い、出て! 『エクスペクト・パトローナム』!!!」
吸魂鬼が少しずつ迫ってくる。杖を必死に振っても霞しか出ない。
恐怖で心が一杯になったその時。
「『エクスペクト・パトローナム』」
初めて聴く、低い声が背後からした。振り返るとルーピン先生が杖を構えていて、その杖先から出た霞が勢いよく吸魂鬼を追い出す。
歯を鳴らしながらハーマイオニーが扉を閉めると、ようやく室温が戻って来た。
私はかじかむ手で包装を破り取ると、板チョコを割って全員に配った。
「よく対処法を知ってるね」
ルーピン先生の言葉には、
「そんなことより、もっと早く対処して欲しかったです」
素っ気なく返す。初対面の新人教師に言うことではないが、紛れもない本音だ。
「私は車掌と話してくる。板チョコをちゃんと食べておくんだ。いいね」
渡された板チョコを持って震えている一同を見てルーピン先生は言うと、コンパートメントを出て行った。
守護霊の劣化版とも言える霞のお陰で気絶はしなかったようだが、ハリーは真っ青だった。
「大丈夫ですか?」
「ああ。……でも、何か悲鳴のようなものが……。いや、何でもない」
やはり防ぎきれなかったか。
「そんなことより、リズは大丈夫なのか?」
ロンの問いに、首を傾げる。
「どういう意味ですか?」
「君、ハリーに負けず劣らず真っ青だよ」
「不可抗力、ですから」
私はそれだけ答えると、マントに包まってチョコをかじった。