レゾンデートル   作:嶌しま

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013~016にかけて、主人公以外のオリキャラが2人ほど登場致します。
苦手な方はご注意ください。
とはいえ、彼らに関して016以降からの登場予定は暫くありません。


013

翌日、旅立った昨日に比べるとやや遅めに起きた私たちは、ポケモンセンターで軽い朝食を済ませてから早速コトブキシティを探索することにした。たくさん眠った分朝から元気いっぱいなヒコザルに対し、なぜかゲッコウガは眠そうに目を擦っていたのでひとまずボールに戻っていても大丈夫だと伝えたところ、素直にそうすると答えられたために今私の隣にはヒコザルだけがいる。生まれてからナエトルやポッチャマと一緒に研究所で育ってきたヒコザルにとっては目に映る全てが興味深いらしく、周辺をきょろきょろと見渡している様子は実に微笑ましい。通りがかった人からも、時折笑顔を向けられていた。

 

 

「ヒコザル、転ばないように気をつけてね」

『うん!ところでセツナ、どこから行くの?』

「そうだね……まずは、テレビ局にでも行ってみようかな」

 

 

コトブキシティの主要な施設として、その他にはトレーナーズスクールにポケッチカンパニー、GTSなどもあるけれど、私は敢えてテレビ局から行ってみることにした。スクールには今まで通ったことこそないものの、この世界では十歳を迎えて保護者の同意も得られれば即座にトレーナーズカードを発行することが可能となる。出自不明の私でも、アヤコさんとこのシステムのおかげでトレーナーと名乗ることが出来るのだから内心ほっとしたのはここだけの話だ。スクールにも通う子どもたちは将来エリートトレーナー、つまりはジムリーダーやそこに属するトレーナーを目指している場合が多いとも聞いていたので、一度見学するだけでも得られるものはあるだろう。しかしながら、私たちは昨日この町に到着したばかりであること、それからゲッコウガが眠そうにしていたこともあり、バトルに関する施設はとりあえず後回しにすることにしたのだ。

 

 

テレビ局に着くと、毎日行っているというコトブキくじを引きにいって見事外れたり、ポケモンとの記念写真を撮影出来るコーナーがあったのでヒコザルとツーショットをとってみたり、はたまた一般向けに開放されたテレビ局のスタジオを見学してみたり、と予想以上に楽しい時間を満喫出来たおかげでゆうに一時間近くは経過していた。お昼を食べるにもまだ早すぎるので、テレビ局を出た私とヒコザルはコトブキシティの噴水広場で一旦休んでいくことにする。ゲームでは限定的だったが、実際の町の中ではあらゆる場所に自販機が設置されていたのでサイコソーダとミックスオレを一本ずつ購入してから、ヒコザルと一緒に広場のベンチに腰掛ける。お昼前という微妙な時間帯の所為か、広場にいる人はまばらで皆それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。

 

 

「ヒコザル、どっちにする?」

『ぼくから選んでいいの?』

「どうぞ。飲みたい方を選んでいいよ」

『ありがとう!じゃあ、ぼく、これにする!』

 

 

ヒコザルが指差したミックスオレの缶を手に取り、蓋を開けてから差し出せばにこにこと笑顔になったヒコザルが嬉しそうにジュースを飲む。私もそんなヒコザルを見て微笑みながら、残ったサイコソーダの蓋を開けて飲んでみると口の中にしゅわしゅわと甘い炭酸の味が広がっていった。今頃ボールの中で休んでいるゲッコウガには、後で直接何が飲みたいか聞いてみようと思いながら、暫くヒコザルと穏やかな時間を過ごす。この後に行くならポケッチカンパニーか、それともトレーナーズスクールか。GTSは正直用が無いので早々に除外してジュースを飲みながら悩んでいると、すぐ真後ろから何かが落ちる音が聞こえた。

 

 

「……、ニナ?」

「え?」

 

 

振り向けば、なぜか私を見てとても驚いた顔をしている男の人が自分の鞄を落としていた。呼ばれた名前にも全く聞き覚えがないので私自身困惑しつつ、飲み干した缶はそのままに落とした鞄を拾いにいけば、途端に申し訳なさそうになった彼から謝られる。

 

 

「す、すみません。お嬢さんが、私の知り合いと随分よく似ていたもので……」

「いえ、お気になさらず。鞄は大丈夫そうですか?」

「ええ、ありがとうございます」

「そうですか。それなら良かった」

「……、」

「あの……、何か?」

 

 

鞄を受け取ってもなお、私をじっと見つめ続ける彼にどこかで会ったことがあるのだろうかと首を傾げるも、残念ながらやはり心当たりがない。もしかすると私自身が忘れているだけという可能性もあったが、現時点では覚えがないのでどうしたものかと少々気まずい沈黙が流れる。しかし、そんな空気を破ったのは彼の方からだった。

 

 

「……お嬢さん。突然で本当に申し訳ないんですが、この後、少しお時間はありますか?」

「え?えっと、」

「あっ、申し遅れました。私、ノモセシティのサファリゾーンに所属している研究員のトオルと申します」

 

 

困惑する私を見て咳払いをしながら、トオルと名乗った彼は懐から名刺を取り出して私に差し出す。それを受け取ってみると、確かに名刺には彼が言ったとおりの地名と一緒に住所や電話番号まで添えられていて、彼が決して嘘をついているわけではないことが分かった。

 

 

「いつもはノモセにいるんですが、ちょっとした事情があってこの町に来ていまして」

「そうなんですか……もしかして、その事情と何か関係が?」

「その通りです。ただ、ここで説明するのはどうにも難しく……もしお嬢さんの了承が得られるならば、そこのコトブキマンションまで着いてきていただきたいんです。いきなり声をかけてきて正直怪しい、と思われるのも当然だと、自覚はしております。ですが、それでもどうか信じていただきたいのです」

 

 

言葉だけ受け取れば、確かに彼自身が言うとおり見ず知らずの他人から突然話がしたいと誘われるのは不自然極まりないことだろう。けれども彼が私を見つめる目にはどこにもそういった疚しさが見当たらず、それどころかむしろ切羽詰まっているような印象を受けた。ちょうど次の行き先を決めかねていたし、万一何かあればヒコザルやゲッコウガに助けを求めることだって出来る。そう判断した私は、私と同じように戸惑った表情をしていたヒコザルを抱き寄せると彼に了承の返事を伝える。果たして、何の話があるというのか。内心どきどきしながら、私は出会ったばかりの彼とともにコトブキマンションへとついていった。


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