レゾンデートル   作:嶌しま

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迷いなく進んでいく研究員ことトオルさんの後を追い、噴水広場から五分も経過しない内にコトブキマンションへと辿り着く。ゲームではいつでも簡単に入れたマンションだが、流石にそんなこともなくトオルさんが持っていたカードキーによって入口のロックを解除された後、私たちはともにエレベーターへと乗り込んだ。他の住人に出くわすことも一切なく、エレベーターが目的の階まできて停止すると難なく扉が開く。無機質な廊下には全く同じ見た目の扉がずらっと並んでいたが、そこでもトオルさんが先に進み、一番奥に当たる部屋の前まできてから漸く彼は立ち止まる。

 

 

「ここ、ですか?」

「そうです。別の鍵があるので、もう少々お待ちください」

 

 

玄関で使ったものとはまた別に、おそらく各部屋専用と思われるカードキーも懐から取り出したトオルさんによって部屋の扉が開く。どうぞ、と声をかけられながら恐る恐る私も足を踏み入れると、てっきりトオルさん自身の部屋と思っていたそこは淡い色遣いで統一されていて驚いた。

 

 

「……もしかして、ニナさん、のお部屋?」

「察しが良いですね。まあ、こういう色合いで男というのは珍しいかもしれませんが」

 

 

リビングの白いソファに座るよう私に促したトオルさんは、一人だけその先にある部屋にも入ったもののすぐさま戻ってくる。しかし、その両手にはあるものが抱えられていた。

 

 

「ポケモンのタマゴ……?」

「ええ。これが、あの広場ですぐに事情を説明できなかった要因の一つでもあります」

「あの……今更ですが、私、セツナっていいます。すみません、ちゃんと自己紹介もしていなくて」

「それを言うならこちらこそです。仮に不審者として通報されてもおかしくなかったところを、お嬢さん……いえ、折角お名前を教えてくださったのならばセツナさん、とお呼びするのが適切ですね。ともかく、セツナさんは私を信じてここまでついてきてくださった。それだけで、私にとっては十分なことでしたから」

 

 

テーブルを挟んで向かいのソファに腰掛けたトオルさんは、別室から持ってきたタマゴを隣に置くと不意に深呼吸する。その間も、タマゴはぴくりとも動かない。

 

 

「……さて。前置きもこの辺りにして、早速本題をお話させていただきましょう」

「はい」

「まず、セツナさんも気になっていると思われるので先に伝えておきますが、私とこの部屋の所有者だったニナは学生時代に縁がありまして、彼女は私の後輩でした。ポケモンの研究者をともに志した同士……ああ、お恥ずかしながら、私は何年か留年した過去がありましてね。年齢こそ離れていましたが、彼女は特に私が目をかけていた後輩だったんです。

いつだって、彼女はポケモンに対する愛情が深く、フィールドワークにも積極的に出かけていく、とにかく元気がとりえの後輩でした。ホウエン地方のオダマキ博士をご存知でしょうか?まさしく、彼のように一度ポケモンと聞けば西にも東にも躊躇わず向かっていくという点で、とりあえず大人しい学生ではなかったですね。それでしょっちゅう無茶もしていましたし。もう少し落ち着きを持てと色んな人から注意されても、彼女はまた懲りずにフィールドワークに向かうんです。だってそこにポケモンがいるから!なんて、」

 

 

大人のくせに笑っちゃいますよね、と微笑むトオルさんは懐かしいものを見るように部屋の棚に飾られている写真を見つめる。そこには確かに、私と似た顔で白衣を着ている女性の眩しい笑顔が映っていた。写真のニナさんは私と全く異なる髪色をしていたが、それにしても他人の空似と呼ぶには何となく私自身と顔のつくりが一緒に思えて不思議な気持ちだ。これなら、トオルさんが私と彼女を間違えて呼びかけたのも分かるような気がした。

 

 

「私が彼女より先に学校を卒業し……ノモセのサファリゾーンで研究者として勤務するようになってからも、彼女との交流は暫く続いていました。しょっちゅうフィールドワークに行って周囲を心配させてしまう難点こそありましたが、彼女は同年代の中でもずば抜けて優秀だったんです。だから学業についてはさほど心配していなくて。当然、彼女も卒業したら私と同じようにいずれ研究者として活躍するようになるだろうと思っていましたから」

「トオルさんにとってニナさんは、自慢の後輩だったんですね」

「……はい。余り多用すると陳腐に聞こえるかもしれませんが、私にとって彼女は紛れもなく、かけがえのない存在でした。ああ、別に恋愛感情ではなくてですね。まるでお転婆な妹が出来たような、そういう意味合いでです」

「それで、そのニナさんは今どちらに?」

 

 

彼女の所在を尋ねると、トオルさんはそこで一旦口を噤んでしまう。よほど言い辛いのだろうか、眉間に皺を寄せながらも、やがて彼は噛み締めるように言葉を紡いだ。

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