レゾンデートル   作:嶌しま

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016.5

 

 

「……、ごめんね。私では、きっとあなたを育てきれない」

「こんなはずじゃあ、なかったのに」

「後悔しても、もう遅い、けど……」

 

 

 

 

「……私に、どうしろと言うんだ」

「君がいなくなってしまったら、もう質問することも出来ないじゃないか」

「育てる才能はからっきしだって……君の方が、私以上によく知っていたはずだろうに」

 

 

 

 

――さむくて、つめたい。だれもいない。

いつかきこえたはずのこえも、いつからかきこえなくなってしまった。

のぞまれていない?だからこのまま、きえてしまうの?

ああ、……いやだなあ。

これがかんじょうなのだとしたら、くるしくて、かなしいよ。

 

 

 

 

「いつ会えるかは分からないけれど、この子もこれから私たちと一緒に旅していくことになったから。ふたりとも、宜しくね」

『うん!弟かな、妹かなあ?どっちにしても楽しみだね!』

『ああ。そう、だな……』

 

 

 

 

……?

だれだろう、こえがきこえるのはひさしぶり。

みえないけれど、そとからやさしくふれられているのはわかる。

たのしそうなこえ。それに、ぬくもりをかんじる。

ああ、だけどまだ――あうためにはたりない。

いきるためのちからが、たりていない。

 

 

 

 

「今更だけど、何の相談もなしに決めちゃってごめんね?でも、どうしてもこの子に会ってみたいって、私もそう思ったから……」

『ああ、構わないさ。俺も気長に待つとしよう』

「どんな子だろうね?私は元気ならそれで充分なんだけど」

『……、あの男も似たようなことを言っていたが、希望のタイプとかはないのか?』

「?うん。そういうのは、無事に生まれてからゆっくり知っていけばいいことだと思うし」

『そうか、……くくっ、』

「えっ、何でそこで笑うの?」

『いや、何でも?』

「本当かなあ……」

『……仮に、だが。このタマゴからベトベターやドガースが生まれてきたら、お前はそれでも受け入れるのか?』

「ん?うーん、そうだね……まあ多少びっくりはしちゃうかもしれないけれど、そのときは頑張って私が慣れるよ。だって、そうだとしてもタマゴの子は何も悪くないでしょう?」

『そう、だな……セツナ、』

「なあに?」

『……、やっぱり、何でもない』

「えー、ここまできて?逆に気になるよ!」

『……なあ、聞こえているか?焦らなくてもいいから、頑張れよ。俺もセツナも、ヒコザルだって、お前に会うのが楽しみなんだ』

「……、」

『何だ、そんなに見てどうした?』

「ゲッコウガ、お父さんっぽい……」

『……、じゃあ、セツナが母親だな』

「いいのかなあ。私人間だし、結婚すらまだなんだけども」

『そこを気にするのか……?』

 

 

 

 

ああ、あたたかい。

たゆたうように、まもられるように、なんどもやさしくなでられている。

ふたつきこえてくるこえのやわらかさに、どうしようもなくみたされる。

おとうさんとおかあさんがいたら、こんなかんじなのかな?

……そうだったら、うれしいな。

 

 

いまはまだ、あえないけれど。

いつかかならずうまれてくるから――ふたりにあいに、うまれてくるから。

だからどうか、あとすこしだけまっていて。

あとすこしだけ、……ねむらせて。




【手持ち?紹介その3】ポケモンのタマゴ

Chapter.2から登場。
コトブキシティにて、とある男性から託されたタマゴ。
特殊な事情により親のポケモンが不明であるため、どんなポケモンが生まれてくるのかはまだ誰にも分からない。
しかし外の様子が分かるのか、セツナの手に渡ってからはごく稀に揺れることもある模様。

【タマゴに関する補足】
初代~第4世代までのポケモンで、not伝説のポケモンです。
のんびりと、彼or彼女の誕生もお待ちいただけたら嬉しいです。

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