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「……、ごめんね。私では、きっとあなたを育てきれない」
「こんなはずじゃあ、なかったのに」
「後悔しても、もう遅い、けど……」
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「……私に、どうしろと言うんだ」
「君がいなくなってしまったら、もう質問することも出来ないじゃないか」
「育てる才能はからっきしだって……君の方が、私以上によく知っていたはずだろうに」
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――さむくて、つめたい。だれもいない。
いつかきこえたはずのこえも、いつからかきこえなくなってしまった。
のぞまれていない?だからこのまま、きえてしまうの?
ああ、……いやだなあ。
これがかんじょうなのだとしたら、くるしくて、かなしいよ。
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「いつ会えるかは分からないけれど、この子もこれから私たちと一緒に旅していくことになったから。ふたりとも、宜しくね」
『うん!弟かな、妹かなあ?どっちにしても楽しみだね!』
『ああ。そう、だな……』
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……?
だれだろう、こえがきこえるのはひさしぶり。
みえないけれど、そとからやさしくふれられているのはわかる。
たのしそうなこえ。それに、ぬくもりをかんじる。
ああ、だけどまだ――あうためにはたりない。
いきるためのちからが、たりていない。
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「今更だけど、何の相談もなしに決めちゃってごめんね?でも、どうしてもこの子に会ってみたいって、私もそう思ったから……」
『ああ、構わないさ。俺も気長に待つとしよう』
「どんな子だろうね?私は元気ならそれで充分なんだけど」
『……、あの男も似たようなことを言っていたが、希望のタイプとかはないのか?』
「?うん。そういうのは、無事に生まれてからゆっくり知っていけばいいことだと思うし」
『そうか、……くくっ、』
「えっ、何でそこで笑うの?」
『いや、何でも?』
「本当かなあ……」
『……仮に、だが。このタマゴからベトベターやドガースが生まれてきたら、お前はそれでも受け入れるのか?』
「ん?うーん、そうだね……まあ多少びっくりはしちゃうかもしれないけれど、そのときは頑張って私が慣れるよ。だって、そうだとしてもタマゴの子は何も悪くないでしょう?」
『そう、だな……セツナ、』
「なあに?」
『……、やっぱり、何でもない』
「えー、ここまできて?逆に気になるよ!」
『……なあ、聞こえているか?焦らなくてもいいから、頑張れよ。俺もセツナも、ヒコザルだって、お前に会うのが楽しみなんだ』
「……、」
『何だ、そんなに見てどうした?』
「ゲッコウガ、お父さんっぽい……」
『……、じゃあ、セツナが母親だな』
「いいのかなあ。私人間だし、結婚すらまだなんだけども」
『そこを気にするのか……?』
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ああ、あたたかい。
たゆたうように、まもられるように、なんどもやさしくなでられている。
ふたつきこえてくるこえのやわらかさに、どうしようもなくみたされる。
おとうさんとおかあさんがいたら、こんなかんじなのかな?
……そうだったら、うれしいな。
いまはまだ、あえないけれど。
いつかかならずうまれてくるから――ふたりにあいに、うまれてくるから。
だからどうか、あとすこしだけまっていて。
あとすこしだけ、……ねむらせて。
【手持ち?紹介その3】ポケモンのタマゴ
Chapter.2から登場。
コトブキシティにて、とある男性から託されたタマゴ。
特殊な事情により親のポケモンが不明であるため、どんなポケモンが生まれてくるのかはまだ誰にも分からない。
しかし外の様子が分かるのか、セツナの手に渡ってからはごく稀に揺れることもある模様。
【タマゴに関する補足】
初代~第4世代までのポケモンで、not伝説のポケモンです。
のんびりと、彼or彼女の誕生もお待ちいただけたら嬉しいです。