レゾンデートル   作:嶌しま

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Chapter.3 利口な子供の見解
017


トオルさんによって昼食をご馳走になり、その片付けも手伝ってから一段落着いた頃。部屋の整理を続けるべく、もう少しマンションに残るつもりだというトオルさんに一旦別れを告げてから、私はコトブキマンションを後にした。託されたタマゴは鞄の中で大事に包まれていることを確認し、改めてこれからどうするべきか――即ち、このままトレーナーズスクールに一人で向かうか、それともポケッチカンパニーから見にいくか考えていると、ふと聞き覚えのある声に呼び止められる。

 

 

「セツナさん!こんにちは」

「お姉ちゃん、一日振りだね!」

「ああ、……こんにちは、コウキ君。それにヒカリも、一緒だったんだね」

 

 

原作ではともに主人公だったコウキ君とヒカリが並んで佇んでいる光景に一瞬だけ懐かしさを覚えつつ、私からも声をかければ二人とも嬉しそうな顔でこちらに駆け寄ってくる。

 

 

「えへへ。今朝ポッチャマと家を出発して、マサゴタウンに行ったんだけど。博士の研究所でコウキ君にも会ってね、それからここまで一緒についてきてもらったの!」

「僕の持っているポケッチ、数日前からちょっと調子が悪くて……。折角だからポケッチカンパニーで詳しく見てもらおうと思って、元々コトブキシティに寄る予定だったんです」

 

 

にこにこと微笑みながら何気なく私に抱き着いてきたヒカリを見下ろすと、彼女が腰に着けているボールホルダーには既に三つのボールが並んでいた。このことからポッチャマ以外の二体については、おそらくコウキ君にレクチャーを受けながら捕獲したのだろうと予想する。その二体がどんなポケモンなのかはまだ会ったことがないので分からないが、いずれにしてもこれから是非ヒカリと仲良くしてほしいな、と心の中で願っておいた。

 

 

「そうなんだ。じゃあ、二人ともさっきコトブキシティに着いたばかりって感じ?」

「うん!ところでお姉ちゃん、もうトレーナーズスクールには行った?」

「ううん、まだだよ。今から行こうかとは思っていたんだけど、特に急ぎでもないからポケッチカンパニーの方も寄り道してみようかなって考えて、迷っていたところ」

「あ、それなら……セツナさんが良かったら、折角ですし三人で行ってみませんか?一人で行動するのもありですけれど、スクールで勉強していくのなら僕も多少はアドバイス出来ることがあるかもしれません」

「それいいねー!あたしは賛成!ね、お姉ちゃんはどう?」

 

 

ヒカリの頭を撫でながら質問に答えていると、コウキ君から思わぬ提案を受けたが特に断る必要もなかったので、私もヒカリ同様頷きながら言葉を続ける。

 

 

「うん、私もいいよ。そうすると……先にポケッチカンパニーに行っておいた方がいいかな?もしコウキ君のポケッチに修理が必要で時間がかかるなら、スクールでその時間潰しが出来るかもしれないし」

「そうですね。お二人には恐縮ですが、そうしてもらえると僕もありがたいです」

「……コウキ君ってさあ、すっごく丁寧な口調だよね。ジュンとは大違い。あたしやお姉ちゃんには、もっと砕けた話し方してもいいんだよ?」

「砕けた話し方、ですか……」

「うん!ま、無理強いはしないけどね。とりあえず、皆でポケッチカンパニー行こっか!」

 

 

戸惑いを隠せないコウキ君を他所に、ヒカリは私から離れると意気揚々とポケッチカンパニーに向かって早足で歩き出す。まるでスキップしているかのような足並みに思わず笑って見守っていると、一度振り返ったヒカリは早くおいでよ、と言いながら更に先へと進んでいった。そんな彼女につられて、私とコウキ君もゆっくり後を追うように歩き出す。

 

 

「そういえば……すっかり遅くなってしまったけれど、今日はヒカリと一緒に来てくれてありがとう。コウキ君」

「あ、いえ、お礼を言われるようなことでは!僕は本当にヒカリちゃんについてきただけで、その。これといって、たいしたこともしていませんし……」

「それでも、フタバタウンから出て始めの一歩を踏み出すのは、きっとあの子にとってとても勇気がいることだったと思うから。今までは私やジュンもすぐ近くにいたけれど、これからはあの子だけの旅が始まっていく。その始まりに、ほんの少しの時間だけでもコウキ君が一緒にいてくれたことは、あの子にとって少なからず助けになったはずだよ」

 

 

だからありがとう、ともう一度感謝の思いを込めてお礼を言うと、私と視線が合ったコウキ君は僅かに目を見開いた後でゆっくりと俯いてしまった。そんな彼の様子に、もしかして何か気に障ることを言ってしまっただろうか、と若干不安を感じていると一つ溜め息を吐いた彼が再びこちらに顔を向けてくる。

 

 

「……そういう、セツナさんもこれから旅をしていくんでしたよね?」

「うん。皆よりずっとスタートが遅いだろうけれど、私は後悔してないよ」

「すごく失礼なことを聞きますが、セツナさんって今、おいくつでしたっけ」

「?十五歳、ってところかな。それがどうかした?」

「……、……何というか。仮に僕も、セツナさんと同じ年齢になったところでそこまで落ち着けないだろうなあ、って思いました」

「そうかな?ジュンに比べたら、コウキ君も十分落ち着いている方だと思うけど」

「二人ともおっそーい!早く来ないと、このまま置いてっちゃうんだからね!」

「あら、それは大変。コウキ君、ちょっとだけ急ぎましょうか」

「あっ、はい!」

 

 

一向に追いつく気配がない私とコウキ君に焦れたのか、再び振り返ったヒカリからそんな風に呼びかけられたので今度は駆け足で彼女の後を追いかける。ヒカリは勿論、私自身の旅もここから漸く、始まったばかりだった。


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