「それにしても、びっくりしたよ。一緒にいたリオルがいきなり姿を消したかと思ったら、まさかセツナのところに行っていたなんてね」
「人見知り……ってことですか?」
「うーん、厳密にはそれとも少し違うんだけれど。まあ、今はそういうことにしておこうか」
博物館でお互い衝撃的な出会い方をした私たちは、博物館を出てからもなぜか一緒にポケモンセンター内の簡易食堂で夕飯を食べていた。相変わらず自分から一言も喋らないリオルが私にひっついていたこともあるが、何よりゲンと名乗った彼自身、私そのものに対して興味を示したことがその要因として挙げられる。館内で見せた驚きの表情とは打って変わり、今では穏やかな笑顔を浮かべている彼はゲームで知っている通り悪い人ではないのだろう。それでもほぼ初対面にもかかわらず、こうしてただにこにこされていると逆に底が見えなくて不安になってくるのは果たして私だけだろうか。
『……ゲン様、距離が近すぎて彼女が不安がっているようです。全てとは言わずとも、まずは手短に我々の事情からお伝えしてみてはいかがでしょうか』
「おや、そうなのかい?すまないね、つい私ばかり舞い上がってしまったようだ」
「あ、いえ。こちらこそ……何だか、気を遣わせてすみません」
「はは、セツナが謝ることはないよ。とはいえ、きっと混乱しているだろうからルカリオの助言通り、もう一度自己紹介しておこうか」
一度咳払いをした彼は、そこで真剣な眼差しを見せながら私に再び話しかける。
「改めて、私の名前はゲン。普段はここから遠く離れたこうてつじまで彼、ルカリオと一緒に修行している一介のポケモントレーナーなんだけれど……君にくっついているそのリオルは、正確にいうと、私のポケモンではないんだ」
「……?でも、博物館では連れている、って言っていましたよね?」
「まあ、そうだね。言葉通り連れてはいるよ?でも、私はまだその子を捕獲すらしていない。私がかつて、道端でぼろぼろになっていたその子を勝手に拾ったんだ。近くには、派手に壊されたモンスターボールが転がっていたことから……おそらくは他のトレーナーの手持ちだったと予想はしているが。セツナももう知っているだろう?リオルは自ら声を出さない。私だけではない、当然ルカリオもこれまでたくさんリオルに話しかけてはくれたが、私たちは今まで一度も、その子の鳴き声すら聞いたことがないんだ……」
周囲にまばらながらも他に人がいることを考慮してか、少しだけ声を潜めたゲンさんの声音に隠しきれない悲しみが混じる。リオルはそんな彼の感情を近くにいて察したのだろうか、それまでただひっついていた足元からよじ登ってくると私の胸元に抱き着き、そのまま顔を埋めてしまった。もしかすると振り払われるだろうか、と思いながらもゆっくり小さな背中に手を添えてみると、一瞬だけ震えたものの大人しく尻尾を振りはじめる。理由は全く分からないが、どうやら私が触れてくるのもこの子にとっては問題のないことらしい。
「自分から逃げようとしない辺り、……私たちのことは多少なりとも認めてくれているようだけれどね。それでも、まだ完全に心を開いてくれたわけではない。そんなリオルが、今日この町に来たばかりの君に自分から接触しにいった。だからこそ驚いた、というわけさ」
ゲンさんの言葉を聞きながらも、変わらずリオルに触れていると控え目な館内放送が流れる。それは私に対する呼び出しの放送だったが、ポケモンセンターに預けていたヒコザルとゲッコウガの引き取りが可能になったことを告げるお知らせでもあった。
「おや、君のポケモンを受け取りにいかないとだね。さあリオル、そのままじゃセツナが動けないだろう?そろそろ退いてやりなさい」
『……』
「……、仕方がないね。ルカリオ」
『はい』
行きたいのはやまやまだが、この体勢で立ち上がるのは今のリオルにとって酷な気がしたのでなかなか行動に移せないでいると、そんな私を見かねたゲンさんが溜め息を吐きながらルカリオに声をかける。ゲンさんの言いたいことを一早く察したらしいルカリオは、それまで私に抱き着いていたリオルを剥がすように抱き上げると、そのままもう一度座っていた席に戻っていった。どうやら力関係からして、リオルはルカリオに逆らえないらしい。ただし、ルカリオに抱えられたリオルの眼差しが少し沈んでいるように見えたのは、私の見間違いではなかったように思う。
「私たちはもう少しここにいるよ。もし、セツナの気が向いたら……今度は是非、君自身の話も聞かせてくれると嬉しいな」
とりあえず君のポケモンを迎えに行っておいで、と告げたゲンさんに促されるような形で、後ろ髪を引かれながらも私は一旦食堂から出ていく。そんな私に、リオルは何も言わなかった代わり出会った瞬間と変わらず、ただこちらのことをじっと見つめ続けていた。