レゾンデートル   作:嶌しま

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彼女の第一印象を敢えて答えるとするならば、子どもらしくない子、といったところだろうか。本人は旅に出たばかりだと教えてくれたけれども、そういったトレーナーになりたての子どもたちというのは今まで私が見てきた限り総じてテンションの上がっている子が多かったような気がする。勿論、初めて自分のポケモンを手にしたことに歓喜して、未だ見ぬ未来に希望を持つ彼らの姿そのものは私自身好ましいものだと思っている。昨日私がクロガネジムを訪ねた際に見かけたあの金髪の少年も、言葉を交わす機会はなかったがおそらくそんなトレーナーの一人だったのだろう。

対して私が出会った彼女――セツナ、と名乗った少女も初めての旅に全く高揚していなかったわけではなかったのだろうが、昨夜落ち着いた物腰でリオルに接していた辺り、精神面は大人に近い子なのかもしれないという感想を抱いていた。私やルカリオに対しても、未だ完全に心を開けずにいるあのリオルが自分から近付いていった彼女。そんな彼女が宣言していたとおり、昼前にポケモンセンターまで戻ってくると、それまで私の隣に座っていたリオルは勢いよく彼女の足元まで駆けていく。よほど彼女の傍が落ち着くのだろうか、早速セツナの足元に抱きついていたリオルを見て私は少しだけ苦笑いを浮かべてしまった。

 

 

「おかえりセツナ。早速だけど、一旦回復してから行くかい?」

「いえ、調子が良いらしいのでこのままジムに向かって大丈夫みたいです。ゲンさんの方は行けそうですか?」

「ああ、私は大丈夫だよ。それにしても……すっかり、リオルは君のことが気に入ったみたいだね。ちょっとびっくりしているよ」

「私も驚いていますよ。でも、理由が分からなくても、こうして関わろうとしてくれることは嬉しいと思います」

 

 

そんな会話を交わしてポケモンセンターから出てみると、リオルは一旦彼女の足元から離れたが、私たちと歩きながらも時々セツナの方を見上げていて。その視線に気付いたセツナがリオルを見れば、今度は尻尾を立てたリオルが慌てて私の足元へ隠れるように逃げてしまった。……仲良くなりたいものの、向こうから近付かれることに関しては強い抵抗を感じているのだろうか。最も、リオル自身から何も聞けていないのでこの考えは単なる私の想像に過ぎなかったが。ひとまず今の私に出来るのはリオルが嫌がらない範囲で見守ること、そして彼女とヒョウタがこれから繰り広げるであろうバトルを観戦することくらいだろう。

 

 

 

 

久し振りに訪れたクロガネジム内は他に挑戦者がいなかったこともあり、とても静かなものだった。しかし、着いたばかりのときとは異なり、セツナとジムリーダーのヒョウタが今まさに対峙しているフィールドは既に緊迫した空気で満ちている。バトル前に私から声をかけられたヒョウタは私がいることについてとても驚いていたが、挑戦者であるセツナもいることに気付くと早くも頭を切り替えたようで、その対応の素早さは実に見事なものだったと言わざるをえない。むしろ、私がバトルの観客ということで彼のやる気も一層強くなったような気がするが……彼女自身はそんなヒョウタを見ても、気圧されていないらしい。

 

 

「君が現在所持しているポケモンの数は二体、で間違いないかい?」

「そうです」

「なら、挑戦者の君に合わせて今回は僕も二体のポケモンでバトルさせてもらうよ!念のためにルール確認だけど、バトル中の回復薬は使用不可、挑戦者側はポケモンの入れ替えが可能だけど……そうだね、今回は入れ替えに関して四回までの制限を設けようか。あと、ポケモンの使用するわざは最大四つまで可能という制限がある。もし審判に四つ以上使用していると判断されたら反則負けになるから、そこは注意してね。ここまでで何か質問は?」

「いいえ、ありません」

「いい返事だ。さてと……君のトレーナーとしての実力、そして君と一緒に立ち向かうポケモンの強さ、見せてもらうよ!」

 

 

ヒョウタがフィールドに向かってボールを投げた直後、セツナも自身のホルダーからあるボールを取るとヒョウタと同じように投げる。ヒョウタが一体目として繰り出してきたポケモンは“いわへびポケモン”と呼ばれるイワークで、その巨体はジムの天井にも届きそうなほど逞しくなった姿を堂々と見せつけていた。旅に出たばかりのトレーナー、もとい手持ちポケモンが幼ければ尚更、あの巨体を前に恐怖を感じてしまうこともあるのかもしれない。対して彼女のボールから現れたのはどこか蛙にも似た姿をとったポケモンで、イワークを見ても怯むどころかただ冷静に観察しているかのように佇んでいただけだった。

 

 

(あのポケモン、私も初めて見るな……他の地方のポケモンだろうか?)

 

 

私と同じく、ヒョウタもセツナが出してきたポケモンを見て少なからず驚いていたようだったが、その動揺も抑えてすぐさまイワークに指示を出す。

 

 

「イワーク、『ステルスロック』だ!」

 

 

ヒョウタの指示を聞いたイワークが、フィールド上にあった岩を次々と浮かせていく。『ステルスロック』とは相手がポケモンを交換する度、出てきたポケモンにダメージを負わせるわざであり、少なくとも私はこのわざを受けた相手側がポケモンの入れ替えについて慎重にならざるをえないものだと認識している。ルール上挑戦者側の入れ替えを可能としていたが、一番最初からこのわざを指示してきた辺り今のヒョウタはかなり気合が入っているに違いない。しかし、次々と浮く岩を見てもなお、当の彼女たちは未だ動じていないようだ。

 

 

「ゲッコウガ、『ちょうはつ』」

 

 

イワークが次の行動に移る前に、今度は彼女がゲッコウガと呼んだポケモンに対して指示を出す。『ちょうはつ』を受けたイワークはあからさまに怒りを露わにし、地面に向けて自身の尾を激しくぶつけるように暴れたが、それによってフィールドが揺れても彼女のポケモンは一切狼狽えていない。

 

 

「おっと……そうきたか、だったら『いわおとし』!」

「次は『みずしゅりけん』で」

 

 

『ちょうはつ』の効果により、攻撃技しか出せなくなったイワークにヒョウタは『いわおとし』を指示するが、それより早くゲッコウガがイワークに攻撃を仕掛けるため走り出す。『みずしゅりけん』、という名前のとおりどこからか手裏剣に似た形状をとったものを出現させたゲッコウガは、瞬く間に連続してイワークにわざをぶつけていく。おそらくあれは水タイプのわざだったのだろう、巨体であるがために避けきれなかったイワークは真正面から自分の苦手なタイプのわざを受けたことで、力なく地面に横たわってしまった。

 

 

「イワーク!」

「……イワーク、戦闘不能。ジムリーダー、次のポケモンをお願いします」

 

 

審判のトレーナーがイワークに近寄るが、誰がどう見ても戦意喪失状態になっていたイワークを前にバトルの続行は不可能だと判断し、ヒョウタに次のポケモンを出すよう告げる。その言葉を受けたヒョウタは厳しい表情でイワークを自分のボールに戻すと、続いて二体目のポケモンをフィールドに繰り出した。化石から復元されることもあるそのポケモンの名前は、ズガイドス。攻撃力に関して言えばイワークよりも非常に高いポケモンだが、一方でヒョウタと対峙しているセツナにはポケモンを入れ替える動作が見られない。

 

 

「イワークは倒れてしまったけれど……僕はまだ、諦めていないよ。次のポケモンも、同じように倒せるとは限らない!」

「そうですね、バトルはいつだって不確定。だからこそ私は、彼と一緒に勝つことを信じます。それがトレーナーの私に出来る、唯一のことだから」

「……ふふ、良い目をしているね!君もまた自分が勝つことを諦めていない。ならば尚更、僕だって負けていられないな……行くよズガイドス、『ずつき』だ!」

 

 

ヒョウタの指示を聞いたズガイドスが猛々しく咆哮を上げ、フィールドに佇んでいたゲッコウガに向かって勢いよく『ずつき』を繰り出すべく走っていく。だがその前に、セツナもまたゲッコウガに対して新たなわざを指示していた。

 

 

「ゲッコウガ、そのまま『えんまく』!」

 

 

真っ直ぐ走ってきていたズガイドスに向けて、容赦なく『えんまく』が命中したためにズガイドスの周囲には薄く靄がかかり、その隙にゲッコウガがズガイドスの『ずつき』を回避する。意図せずわざが不発に終わってしまったことと相手の姿が見えない苛立ちから、ズガイドスは低く唸り声を上げて必死に辺りを警戒しているが、その原因たる靄が晴れないためになかなか見つけきれないようだ。

 

 

「くっ、まだ晴れないか……ズガイドス、攻撃は相手が見えてからでいい!『きあいだめ』だ!」

「いいえ、ここで一気に決める!続けて『みずのはどう』!」

 

 

『ちょうはつ』の効果がなくなったことも頭の隅で計算していたのか、ヒョウタはズガイドスに変化わざを指示するが、それよりも早く『えんまく』の中から飛び出してきたゲッコウガがズガイドスに向けて『みずのはどう』を繰り出す。『えんまく』に代わり、周囲の空間を包むように現れた水滴の数々によってつくりだされた光景はどこか幻想的でもあったが、岩タイプであるズガイドスにとっては同時に末恐ろしい光景でもあったのだろう。ヒョウタが避けろ、と思わず声を張り上げるも、そんな余裕すら残っていなかったズガイドスはあえなく『みずのはどう』を受け、先ほどのイワークと同様に倒れ込んでしまった。

 

 

「ズガイドス、戦闘不能!よって、今回のバトルは挑戦者セツナが勝利したものと致します」

「ま、まさか、そんな……鍛えてきたポケモンたちが!」

 

 

呆然と呟くヒョウタとは裏腹に、ズガイドスも続けて倒したゲッコウガはセツナの方へ振り返ると、ボールに戻るでもなくそのまま彼女の元へと歩いていく。そして彼女の真正面で立ち止まると、騒然としている周囲をまるで気にすることもなく目を細めながら彼女の頭を撫でていた。撫でられた彼女は驚いたものの、その内満面の笑みを浮かべて自分もゲッコウガの頭を撫でようと試みる。……こうして彼らを観察してみると、最早二人だけの世界に足を踏み入れているような気もするのは私だけだろうか。

 

 

(イワークもズガイドスも、あのヒョウタがこれまで心血注いで鍛えてきたポケモンたちだ。勿論体力だって十分にあった、にもかかわらずこうして難なく倒されていったのは……それほどまでに、あのポケモンの攻撃力がずば抜けて高かった、ということか)

 

 

ゲッコウガの攻撃力、もといあの素早さにも目を見張ったが、何といってもヒョウタとそのポケモンたち相手に最後まで動じることなく、わざを指示していたセツナにはどこか初心者と思えないものがあった。だが、私はそれについて彼女に勘繰るのを止めておこうと思う。今はただ、ポケモントレーナーとして見事ヒョウタとのジム戦に勝利した彼女のことを純粋に祝いたい。そして倒されはしたものの、全力で彼女とのジム戦に臨んだヒョウタも労わるべく、私はバトルを終えた彼らの元へ駆け寄る。

 

 

『……、』

 

 

――そのとき、私とともにセツナのジム戦を黙って見ていたリオルが実はその顔を歪めていたことを、彼女の傍に在ったゲッコウガだけが気付いていたことも知らずに。




以上、ジム戦に関してはゲンさん視点からお送りしました。
最後の一文がどことなく不穏な感じですが、主人公になぜか引っついてくるリオルの背景等はまた後日描写予定です。
そして作者もどっちかというとライトユーザーであることをここで宣言しておきます(´・ω・`)
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