レゾンデートル   作:嶌しま

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Chapter.5 ある光芒の一生
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――可哀想に。君は、真実を知ってしまったのだね?

――そうなるくらいならばいっそのこと、知らない方が君のためだったかもしれないな。

――真実とは、……否、現実とはそういう一面も持っているものだ。知れば知るほど容易に傷つけられることもあり、逆に無知であるがゆえに平穏を保てることもある。

 

――……さて。君はこれから、どうしたい?

――分からない、か。それも答の一つではあるだろう。だが、私から見てこのままでははっきり言って君が持たない。

 

――××はともかく、××の崩壊はそれこそあっという間に訪れる。

――現に私は、この目で何度も見てきたからよく知っている。そういう、哀れなものたちが辿る末路を。或いは君も×××から見ていたのかもしれない。たとえ、意識には残らずとも。

――そうなれば、君は君ですらなくなってしまう。××が××た君は×××るのだ、永遠に。

 

――××がこれまで君にとって××の全てにも等しかったなら、×××た今となっては誰であろうと君の救いには成り得ない。残念ながら、この私であろうともそれは覆せない。

――理由はどうあれ、××は君を、そして××も深く××ていた、と私は思う。

――しかしながらこのまま君を……私の××であった××諸共、結果として×××××た××に明け渡すのは、実に危険極まりないことだとも思われる。

――ゆえに私は、君と××を引き離すことを強く望む。このまま一生再会しないでほしいくらいだが、……まあ、これに関して××には私から釘を刺しておけば済む話か。

 

――先程も言ったが、私では今の君を救えない。

――だが、これからそういった存在と新たに出会える可能性も決して零ではない。

――探しなさい。君を誰より××てくれるものを、そして君自身の××××となる命を。

――忘れること、そして思い出さないことは罪ではない。今の君にとってはどちらも必要なことに過ぎないのだ。だからこそ、私は……。

 

 

 

 

「あれは……誰の声、だったんだろう。全く覚えがないんだけど」

 

 

花畑を後にしてソノオタウンのポケモンセンターでもう一泊した翌日、奇妙な夢から目覚めた私は朝から一人首を傾げていた。不思議と夢に出てきた相手の姿を認識出来なかったことも気にかかるが、それ以上にこれまで聞き覚えのない声であったにもかかわらず、相手の口振りがまるで私についてよく知っているようなものだったことも引っかかる。

 

 

(忘れることと思い出さないことが必要って、どういう意味?)

 

 

気になることは多々あるものの、誰とも分からない相手と夢で交わした会話を一からじっくりと思い出す、なんて作業が寝起きの頭で上手くいくわけもなく。最初の数分は粘っていたが、その内潔く諦めた私は気分転換にテレビでも見てみることにする。

 

 

「……やっぱり、昨日はこっちに泊まっておいて正解だったみたいね」

 

 

205番道路を進んだ先、谷間の発電所からギンガ団の団員たちが何人か逃げていく映像が流れて思わず溜め息が出てくる。昨日花畑に現れた二人は駆けつけたジュンサーさんが連行していったため、おそらく発電所を占拠している団員にも何らかの対処がされるだろうと予想して敢えてもう一泊していくことを決めたわけだが、どうやら夜が明けない内に発電所付近は大分慌ただしいことになっていたようだ。しかし、一日経った今では向こうも漸く落ち着いたらしく、これから付近を通行する分には何ら問題ないとも報じられていたので安堵する。明日には雨が降るようなので、なるべく早めにハクタイの森を抜けてハクタイシティまで到達出来たら理想的なところだけれど、あの森はベテランのトレーナーであっても容易に迷う場所と聞いているので無理は禁物だ。一応、昨日の内に野宿の準備もある程度整えておいたので大丈夫だとは思うが、念のため持ち物の確認をしていると布団からごそごそと動く音が聞こえてきたためそちらに視線を向けてみる。すると、まだ眠い様子の彼女とちょうど目が合い、自然と笑みが零れていた。

 

 

「おはよう、コリンク。まだ眠いならそこで寝ていていいよ?」

『んー……大丈夫、起きる』

 

 

昨日花畑で出会い、私と一緒に外の世界を見てみたい、と宣言してきたコリンクは布団から姿を現すと、覚束ない足取りで私の膝に凭れかかりそのまま目を閉じてしまう。起きると言ったにもかかわらず、完全に寝る体勢になった彼女に突っ込むべきか少し迷ったが、元より急ぎの旅ではないので結局何も言わず目の前の小さな頭を優しく撫でるだけにしておいた。ふと、彼女と同じような体格だったリオルのことを思い出して今頃どうしているだろうかと考えてみたが、ゲンさんや彼のルカリオと一緒ならばきっと大丈夫だろう、と今は信じておくことにする。いつか私も、こうてつじまに訪れる機会があって再び彼らと出会えたならば、そのときに元気なリオルの姿を見ることが出来れば嬉しいものだ。

 

 

「……これから先、あなたも生まれてきたらもっと賑やかになるのかな?」

 

 

鞄の中で未だ沈黙を保つタマゴを眺めながら、いつかの遠い未来を想像する。たとえ今朝の夢で聞いた声から可哀想だと言われようとも、私は何となく自分が真実から目を逸らすことはしないのだろう、と予感していた。


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