コリンクが目覚めるのを待ってから朝食を摂り、持ち物の確認も終えた私は相変わらず花の香りに包まれているソノオタウンを出発して205番道路へと向かう。その途中、通りがかった谷間の発電所付近では小さな女の子と“ふうせんポケモン”ことフワンテが遊んでいるらしい光景を垣間見て思わず微笑ましくなったが、隣で歩いていたコリンクも興味を持ったのか一緒に遊びたそうにしていたので、少しだけ彼女たちに接触させてもらうことになった。昨日まで発電所がギンガ団に占拠されていたこともあり、本当は疲れているのではないかと危惧していた私の予想に反して女の子はむしろ声をかけられたことに喜び、ポケモン図鑑にフワンテの姿を写すことにも快く許可してくれたので助かったのはここだけの話としておきたい。別れ際、名残惜しそうに手を振ってくれた彼女とフワンテにこちらも勿論手を振り返し、更に205番道路へ進んだ先で何人かのトレーナーとのバトルも経て、ハクタイの森入口に辿り着いたのは昼になる手前のことであった。
『花畑と違って、この森、何だかひんやりするね……』
「そうだね。コリンクは大丈夫?寒くない?」
『わたしは平気よ、ありがとう。でも、辺り一面同じような木がたくさんあるから、なるべく迷わないように気をつけて進まないとね』
木漏れ日が射す森の中はコリンクが言うとおり、周囲を木に覆われている上叢もよく生い茂っている、まさに緑に満ちた場所となっていた。迷いやすいとはいえ出口以外の場所は行き止まりになっている箇所も多く、その場合は一度通った道を戻りさえすれば時間がかかっても進めそうな印象があったのだが、実際目に見える景色にほとんど変化がないので簡単に方向感覚が狂いそうなところが森の怖い一面でもある。入口から見て左側にある、表面が苔に覆われた岩をちらりと見ながらとりあえず出口を目指して歩いてみようかと考えていると、後ろから微かに靴音が聴こえてきたためその場で振り返る。そうしてそこにいた人物を見て内心で驚く一方、私は同時に納得してもいた。なぜならば、ゲームでこの森に訪れた際、私も彼女にはお世話になったものだから。
「まあ、良かった。ちょうど人が居てくれて助かったわ」
「……こんにちは。見たところ、あなたもこの森を進む予定ですか?」
「そんなところね。出口まで行くつもりで来たんだけれど、ニュースじゃギンガ団、なんて怪しい人たちがうろついているって聞いていたから実は一人で進むのも心細くて……私、モミって言うの。良かったら、あなたも私と一緒に行かない?」
「構いませんよ。私はセツナです、宜しくお願いします」
「セツナさんね。ええ、こちらこそ宜しく」
緑の長い髪を軽やかに揺らした彼女は、にこやかに挨拶すると早速私の隣に並ぶ。
(……本当は、ここで彼女と出会うのはヒカリの方だったんだろうけれど、到達のタイミングでこうなったのかな?)
おそらく私の後にこの森を通るであろうヒカリは一人で大丈夫だろうか、と気になったが、ヒカリがどうしているかはハクタイシティのポケモンセンターに到着してからアヤコさんにそれとなく聞いてみることを決めてまずは森を進むことに集中する。昨日と比べて雲の量が多くなってきていることから、やはり明日には雨が降り出すと見ておいた方が良い気はする。とはいえ、今後の進行速度は隣にいる彼女の歩行ペースにもよるので、私たちが出口に着くまでどれくらいの時間がかかるのか定かではないが……さて、どうなることだろうか。
「うーん……入口からここまで、約二時間。やっと半分ってところかしら。ねえセツナさん、ちょっとこの辺りで休憩しない?」
「そうですね。私、ポフィン持っているんですけれど、良かったらモミさんたちも一緒にどうですか?お口に合うといいんですが」
「わあ、嬉しい!私もね、この森を抜けるまでどれくらいかかるか分からなかったから、ちょっと多めにサンドイッチをつくっておいたの。セツナさんも摘んでくれると嬉しいわ」
「……何だか、こうしているとちょっとしたピクニック気分ですね」
「うふふ、そうね。ソノオタウンの花畑と比べたらこっちはとても静かだけれど、空気が綺麗で目にも優しい分、私はここでゆっくりするのもありだと思うわ」
……結論から言うと、モミさんは私から見てとても優秀なトレーナーだった。彼女のパートナーであるラッキーが色々とベテランで頼もしかったのも理由の一つだが、彼女自身迷いやすい森の中にあっても常に冷静であり、叢から野生のポケモンが出てきそうな気配があればそれとなくこちらも気に掛けていてくれた点では何度助けられたことか分からない。そんな先輩トレーナーである彼女となるべく慎重に進んできたおかげか、入口からこれまで特に大きな問題が起こることもなく、私たちは至って順調に出口へと向かっていた。
しかしながら、流石に二時間も歩き続けていればその分体力も減ってくるものである。それに野生のポケモンとのバトルを極力避けていても、森の中には普通にバトル目的のトレーナーたちも紛れ込んでいたのでポケモンたちにもちょうど休息が必要な頃合ではないだろうか。そう判断した私はモミさんからの提案を快諾し、軽食の準備をするに当たって最初から外に出ていたコリンクだけでなくモウカザルとゲッコウガもボールから出してみる。すると、やはり珍しかったのかモミさんはゲッコウガの方を不思議そうに眺めていた。
「この辺りでは余り見かけないポケモンね。もしかして、別の地方の子かしら?」
「まあ、そんなところです。ちなみに彼はカロス地方で“しのびポケモン”のゲッコウガ、と呼ばれていますね」
「へえ、そうなんだ……何だか彼、セツナさんとぴったり雰囲気が合っているわね」
「……そう見えます?」
「ああ、別に他の子たちが合わないとか、そういう話じゃないのよ?ただ、何となく……あんなに穏やかな目をしているのは、きっとあなたと一緒だからだと考えたら、それはとっても素敵なことだなあと思ったの。私がかつてこの子とめぐり逢えたのと同じように、ね」
そう言って、微笑むモミさんのすぐ傍には同じく嬉しそうに頷いているラッキーがいて、私はどこかこそばゆい気持ちになる。同時にモミさんからそんな風に言われたゲッコウガも照れくさそうにしていた姿を、モウカザルとコリンクが揃って微笑ましそうに見ていた。