レゾンデートル   作:嶌しま

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『あらあらまあまあ、ポケモンさんたちがいっぱいね~。こんにちは!』

『こんにちはー!』

『こっ、こんにちは……?』

『……』

『うふふ。コリンクちゃんとモウカザルちゃんは見たことあるんだけど~……ごめんなさい。そちらのあなたは、何て仰るのかしら?』

『……、ゲッコウガ、だ』

『ふむふむ、ゲッコウガちゃんね。教えてくれてありがとう!この森を出るまでみたいだけど、私もモミちゃんも回復は得意だから、何かあればいつでも教えてくださいね~!』

 

 

モミさんがつくってきたサンドイッチに私が持っていたポフィン、それから森を歩いている最中見つけたきのみなどを食べながら寛いでいると、いつの間にかモミさんのパートナーであるラッキーがゲッコウガたちに話しかけていた。最も、そこからポケモンたちの中で会話が盛り上がっていたのは主にモウカザルとラッキーで、コリンクは会話よりも食事の方に集中し、ゲッコウガに至っては目を閉じた状態で彼なりに休んでいるようだったが。人がそうであるように、ポケモンたちもその性格によってそれぞれ取る行動に差異があることを今更ながら実感していると、ふと隣から憂鬱そうな溜め息が聴こえてくる。

 

 

「モミさん、どうかしたんですか?そのポフィンに何か問題でも……?」

「あっ、ううん!違うの、セツナさんがつくってくれたポフィンはすっごく美味しいのよ?ただ、……ちょっと、ね。思い出しちゃったことがあって」

「……?」

「ほら、あっちの方角。奥の方に、大きい建物が見えるでしょう?」

 

 

言われたとおりモミさんが指差した方向を注視すると、そこにはぽつんと佇んでいる屋敷と思わしき建物があった。一見、何も知らなければ単に立派な屋敷という印象を持つだけで終わっていたかもしれないが、私はこの建物によって彼女が憂鬱になった理由を察する。

 

 

「この先にある洋館……誰も住んでいなくて、今では幽霊屋敷、って呼ばれているの」

「……幽霊、ということは、ゴーストタイプのポケモンも多く潜んでいそうですね」

「それもあるけれど、何でもあそこは本物の幽霊も出るらしい、って一時期噂にもなっていたのよ。で、肝試しの場所としてわざわざあそこに行く命知らずなトレーナーも何人かいたそうだけれど……そういう人たちは皆、なぜか気絶した状態で翌朝館の外に放り出されていた、なんて不思議な話を聞いたことがあってね?まあ、単純に老朽化していて危ないから、今では立ち入るのにハクタイのジムリーダーさんからの許可が必要とされているみたい」

 

 

森の洋館、と呼ばれていたその建物は入ると流れてくるBGMが不穏だったために、かつての私も苦手な場所だったことを少し懐かしく感じながらも、予想通り簡単に入れる場所ではなくなっていることを頭の片隅に入れておく。あくまでも肝試しではなく、個人的に気になっていたことがあるためになるべく行ってみたいと考えていた場所だったが――モミさんの話を信じるとすれば最低限、ハクタイジムでのバトルに勝利しなければ交渉すら難しくなるかもしれないと分かっただけ、私にとっては非常に有難い情報だった。

 

 

「……それでも、ほら。仮に自分から入る機会がなくても、そんな曰く付きの建物もあると思ったら、ね?私とラッキーだけじゃ、この森を進むのは本当に心細かったのよ。とはいえ、ここを通るのが現状私たちにとっての近道でもあったから、最悪誰か通りかかるまで入口で待っていようかとも考えていたんだけれど……こうしてセツナさんたちと行動できて、今では自分のタイミングの良さに感謝したいくらい」

「ああ、そこは私も同意します。ポケモンたちがついてくれてはいるけれど、この森、昼間でも結構薄暗いところですし。もし一人で進むとなると、私もきつかったかもしれません」

 

 

今日は天候も穏やかな方なのでまだましだが、ここで雨が降ってくればより薄暗さも増していただろうことを予想してみると、私にとっても今日彼女とともに行動出来たのは幸いだったに違いない。そんなことを思いながらサンドイッチに加えて、モミさんから保温瓶に入っていた紅茶のお裾分けもいただいていると、それまで沈黙を保っていたゲッコウガが突然立ち上がりなぜか私たちの周囲を警戒しはじめた。

 

 

「ど、どうしたの?」

『……何か、こっちに近付いている』

 

 

言葉が通じずとも、警戒するゲッコウガの様子を見てモミさんの表情が陰るのと怯えたコリンクがモウカザルの背中に勢いよく隠れたのはほぼ同時で、辺りは一気に緊迫した空気に包まれる。近付いている気配とは人間か、ポケモンか。或いはそのどちらでもない存在なのか――モミさんから聞いた幽霊、という可能性も捨て切れずに思わず唾を飲み込んでいると、やがてその正体が私たちの前に揃って姿を現した。

 

 

『お~い、一緒に遊ぼうよ~』

「ちょっ……も、もう、勘弁してえぇ……!!」

 

 

頭にヘアバンドを着け、緑のケープを羽織った女性が涙目で走る後ろを、にやにやと笑っているゴーストが楽しそうに追いかけていく。そんな予想外の光景を見せられて驚く私たちを他所に、この場においても唯一冷静だったゲッコウガは瞬時にとあるわざを繰り出した。

 

 

『ぐふぅっ?!』

『……喧しい。そこで暫く、寝ておけ』

 

 

影を伸ばして相手の背後から攻撃する”かげうち”により、一撃で沈められたゴーストはそのまま気絶してしまったらしく、ぴくりとも動かない。単にゲッコウガ自身わざに込めた威力が強すぎたのだろうか、とりあえずゴーストが瀕死にはなっていないことを心の片隅で祈っていると、その頃膝を突いてしまった彼女に慌ててモミさんが駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか、ナタネさん?!」

「あ、あはは……さ、流石の私も、ゴーストタイプとの追いかけっこは、堪えたよ……」

 

 

モミさんに体を支えてもらいながらも苦笑を浮かべ、肩で息をしている彼女こそ。実は私たちが次に挑もうとしているハクタイシティのジムリーダーことナタネさん、その人なのであった。


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