洋館の散策、及びそこであの子と遭遇した結果、私が考えていた『ある予測』は概ね合っていたことが分かった。
即ち、ギンガ団のボスこと『アカギ』と『ロトム』というポケモンとの間には、かつて前者の人格や思考に影響を及ぼすほどの関係性があったのではないか、ということ。
そして、後者は洋館のテレビに潜んでいたあの子と見てほぼ間違いない、ということだ。
それらを知った上で、昨夜の私はあの子を【捕獲しない】ことを選択した。
仮に説得でも試みていたなら、僅かながら私についてきた可能性はあったかもしれない。
しかし、少なくとも原作の登場人物であるヒカリやジュンたちと異なり、私は本来世界に存在していなかったはずの者だ。
旅の最中、一組織のボスであるアカギと運良く遭遇する機会があるとも限らない。
それにアカギという人物は、少なくとも自分の目で見たもの以外をすんなりと信じるような、そういう生易しい人間ではなかったように思う。
ならば、こちらが捕獲したあの子を見せたとして、敵意と警戒を抱かれるだけではないか?
そういった考えと、あくまでもあの場所で待っていたいと願うあの子自身の意志を尊重したかったがために、話を終えた私はあの子と別れ、そのままハクタイシティへと向かった。
……いずれ辿り着く結末は、私がかつて知ったものと然して変わらないかもしれない。
しかし、そこに至るまでの経緯を知らずにいるのと自ら知ろうとするのでは、意味合いが全く異なってくる。
ただ恐れているだけではいけない。
好奇心と向上心あってこそ、人とは前に進めるものだ、と××も言っていたのだから。
(……、あれ?)
××、とは――果たして、誰のことだっただろうか?
残念ながら、一瞬頭を過ぎったその存在について今の私では何一つ、思い出せそうもない。
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『好奇心と向上心あってこそ、人とは前に進めるものだ』
遠い昔、この私にわざわざそんなことを言ってきた者がいた。
私はその発言に対し、自分が何と言ったかまでは覚えていない。
それどころか、碌に返事もせずその場を立ち去った可能性の方がずっと有り得そうだ。
私の知る限り、かつての奴は単に凡庸な人間だった。
夢だの、未来だの、そういった余りに不確定なものについて日々期待しながら息をしている――その辺を探せばすぐにでも見つかりそうな、ごくありふれたタイプの人間だった。
だから自身の×と巡り逢った末に×も成し、当然の如く平穏な××を築いてみせた。
……しかし、それこそ凡庸だったはずの奴が××に至る引き金となったのは、何とも皮肉な話だ。
「いつか貴様が生み出したあの××××が立ち塞がろうとも。私は決して、立ち止まらない」
“感情の神”と称されたポケモンが棲む湖で見かけた、とある光景を今だからこそ思い出す。
白髪の娘と、寄り添っていたのはおそらく他地方に生息する、と思わしきポケモン。
そんな彼らの、まるで互いの心を通わせているかのような場面まで記憶を遡ったところで……思わず、私は自身の拳を固く握っていたことに気付く。
「下らんな。心も、感情も、所詮はまやかしに過ぎないのに」
私が見たあの在り方は、ひたすらに受け入れ難いものでしかなかった。
そして、私がこれから創る新世界においても彼らは不要な異物でしかないと言えよう。
自ら関わるつもりがないのなら、それでも別に構わない。
だが、気付いた時には全てが手遅れとなっているだろう。
そうして彼らの間に芽生えた如何なる情とて、結局は無意味だったと悟るだけのこと。
「心が、感情があらゆる苦痛を齎すがゆえに。早急に、完全な世界を創らなければならぬ」
私はアカギ。
己が理想たる新世界のためならば、たとえ何者が相手になろうとも容赦はしない。
彼女と彼の独白回。
現時点、まともに遭遇さえしていない両者の独白に、なぜか共通して出てきた人物は一体誰だったのか?
伏字の箇所含め、その辺りは今後話が進むにつれて少しずつ明らかになってくる予定です。